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新たな味方とともに……

 俺、エレインは妙な気配を感じた。

 今は家にいるわけだが、何かと奥の場所で音が鳴り響いているように聞こえる。


「エレイン様、どうかされましたか?」

「遠くの方で音が聞こえる気がするんだが……聞こえないか?」

「私は聞こえませんけれど……」


 リーリアにはどうやら聞こえていないようだ。

 確かに俺も薄っすらと聞こえる程度ではっきりと耳に入っているわけではない。かなりの大音量ではあると思うのだが、ほとんどの人には聞こえていないのだろう。

 それにしても、俺がここに帰ってきてから半日は経っており、外も暗くなっている。それなのにアレイシアもアレクやミリシアたちも帰ってきていない。議会での仕事がまだ残っているのだろうか。

 ラクアは今は地下の部屋で荷物の整理をしているためリビングにはいない。


「エレインって五感鋭いわよね。普通の人じゃ聞こえない音も聞こえるみたいだし、見えるみたいだし」

「少し鍛えればできると思うのだがな」

「……どんなトレーニングをすればいいのやら」


 ただ、このサイレンのような音が何を意味しているのかは全くわからないが、少なくともいい意味ではないはずだ。


「まぁ個の音が不自然なのには変わりないからな」

「……どうされるのですか?」

「少しだけ見に行くか」

「危険ではないですか?」

「別に防壁から外に出るつもりはない。ほんの少しだけ国外の様子を見たくてな」


 かなり遠くではあるのだが、すぐに何かが起きるということではないだろう。ただ、少しだけ様子を見るだけだ。


「私もご一緒します」

「じゃ、私も行くわ」

「そうか。わかった」


 リーリアとカインはどうやら一緒に来るようだ。まぁ別に何かをするというわけでもないだろうし、問題はないだろう。

 流石にラクアに何も言わずに出ていくわけにもいかないため、少しだけ声をかけてから俺たちは家を出た。


 それから俺たちはその音のなる方角へと向かった。もちろん、音は防壁のさらに奥から鳴り響いているようだが、外に出る予定はない。

 そして、俺たちは防壁へと登って外の様子を見た。

 想像していたように辺りは真っ暗でほとんど見えていない。しかし、かすかにだが遠くに丘のようなものが見える。その奥からサイレンが響いているのだろう。


「……ここまで来ると聞こえてきますね」

「え? 嘘、聞こえるの?」

「はい。薄っすらとですがサイレンのような音が聞こえます」

「この音が不自然だと思ってここまで来たのだが、特に何も変化はないようだな」


 脳内で地図を広げてみてもこの先には人間の住む国はなく、魔族の領地が広がっていたはずだ。魔族側でも人間のような道具を使って意思疎通をしているのだろう。


「にしても真っ暗ね。これじゃどこに何がいるのかわからないわ」


 確かにカインの言うように見下ろしてみても外は完全に暗闇になってしまっている。誰かが下にいたとしてそれに気付くのはなかなか難しい。

 そう、下を眺めていると妙な視線を感じた。そして、かすかにだが魔族の気配もする。

 気配を隠すのが得意な魔族なのか、それともまた別の意図があるのかはわからない。ただ、俺はその正体が気になった。


「……エレイン様?」

「防壁の外には出ないと言ったが、守れそうにない」

「え?」


 俺は一気に防壁から飛び降りた。


「ちょっ、エレインっ!」

「近くの門を開けておいてくれないかっ」


 俺はそれだけ言って暗闇を走った。

 暗闇の中から俺の方をじっと見つめる何者かがいたのは確かだ。当然ながら、防壁の上も明かりがあるわけではないため、俺たちを視認するのは困難なはずだ。それなのにはっきりと俺を見つめる何かがいたのは確かだ。

 その正体を探るためにはほんの少しだけ外に出なければいけないことだろう。


 それからしばらく走ると何者かの足音が聞こえた。歩幅は人間に近く、そして重たい音が聞こえる。背は高くないように思えるが、どうだろうか。足音だけではなかなか判断が難しい。

 そして、明らかに足音が近くなってきた。いきなり攻撃することもできるとはいえ、すぐに攻撃するのは愚策だ。

 まずは威嚇としてイレイラの斬撃を飛ばすことにした。


「ふっ」


 バスッと地面が弾ける音が聞こえた。

 攻撃はその正体に当てるつもりがなかったために威嚇に成功したと言っていいだろう。

 それと同時に足音も止まった。

 すると、俺の目の前に背の高い何者かが現れた。


「……エレイン、か」


 声の正体はブラドだった。

 連れ去られたと言われていた人がどうしてここにいるのだろうか。


「あの人は信頼していいの?」


 そして、もう一人の女性の声が聞こえてきた。

 シルエットではよくわからなかったが、どうやら背負っている様子でもある。


「エレイン、攻撃はしなくていい。こいつは魔族だが、敵ではない」

「……そうか。わかった」


 暗闇の中でブラドがそう言った。しかし、すぐに俺はその言葉を信用せず、警戒しながら進んでいった。

 すると、そこには赤と緑のオッドアイの女性がブラドを背負って立っていた。


「まさかとは思うが、防壁の上から俺たちに気付いたのか?」

「ああ、視認はできなかったがな」

「まったく、お前のその第六感とも言える能力には驚かされる」


 別に第六感と言えるほど大層なものではないのだが、まぁそのことは置いておくか。それよりも彼を背負っている魔族の女性が気になる。


「その魔族は?」

「俺を助け出してくれた魔族の女だ」

「……ルクラリズ・アーデクルトよ」


 魔族に名前があるというのは初めて知ったが、確かに存在しないと不便なのには変わりないだろう。


「魔族に名前があるんだな」

「名前って言っても見た目で作られたみたいなものよ。上位種はだいたい見た目と体の形で名前がつけられているわ。ルクラリズっていうのが私の見た目で、アーデクルトは人型のって意味よ」


 人間のように親の名前を引き継ぐという概念がないようだ。思い返してみれば、上位種のほとんどは神を喰らったことで進化した魔族だと剣神が言っていたな。その考えで行くと見た目などで名前をつけるのは当然と言えるか。


「ルクラリズって名前はその髪色から付けられたのか?」

「ええ、よくわかったわね」

「宝石のようにきれいだと思ってな」

「……口説いてるわけ?」

「そういうわけではないがな」


 言われてみるとそう聞こえても仕方のないことなのかもしれないな。

 まぁ俺としては信頼できるかできないかが大きな分かれ道だが、彼女は魔族だ。信頼に関しては未知数と言える。味方のフリをしていても重要な場面で裏切ったりなんて可能性としてはあるわけだからな。


「まぁ、私より強くないと好きになれないから……」

「それはいいとして、防壁の中には入れそうなのか」

「ああ、門は開けてくれていると思う」

「そうか。早く中に入らせてくれないか」


 そういうブラドはどこか苦しそうにしていた。背負っているためよくわからないが、怪我をしているのだろう。それなら早く治療しないといけない。


 それから、近くの門へと行くとすでに門は開いていて中にすぐに入ることができた。

 一応、ルクラリズの容姿については今は怪しまれるわけにはいかないため、ブラドの持っていたローブで目立つ巻角を隠した。


「っ! ブラドさんっ」


 門をくぐるとすぐに警備隊の人が走ってきた。


「俺は大丈夫だ。議会への報告を頼む」

「は、はいっ。ですが、その人は……」


 すると、リーリアたちもやってきた。


「門も私たちが閉めておきますので、早く連絡をお願いします」

「リーリアさん……わかりましたっ」


 どうやらここにいた警備隊は聖騎士団の一員だったようでリーリアのことを知っていたようだ。

 そして、彼らは一礼だけして議会の方へと走っていった。


「カイン、すぐに治療できるか」

「ええ、できるわ」


 ルクラリズが近くのベンチへとブラドを寝かせると、すぐに治療が始まった。彼女がちょうど聖剣を持っていたのが幸いだったな。


「エレイン様、そのお方は?」

「ルクラリズというらしい」

「魔族……なのですか?」


 明らかな敵意をリーリアがルクラリズに向ける。

 その言葉を聞いてカインも一瞬だけこちらに向いたが、すぐに治療へと集中し始めた。

 そのリーリアの言葉に一瞬戸惑いを顔に出したが、すぐにルクラリズはリーリアの目を真っ直ぐ見つめながら被っていたローブを脱いだ。


「ええ、私は魔族よ。見ての通り、角が生えているわ」

「……そうですか。ではどうしてここにいるのですか?」


 まだ敵意を向けたままのリーリアがさらに彼女へと言及する。


「エルラトラムは人間の国、それは知っているわ。もちろん、素直に私を信用してほしいなんてわがままは言わない。けれど、少しでも力になれたらと思って……」

「それはどうしてですか?」

「それは……私が”人間”だと思っているからよ」


 自らを魔族だと自覚しているが、感情は人間だとそう言いたいようだ。確かに話していて魔族のような感じはしない。ただ、魔の気配を漂わしているのは事実だ。

 とは言っても魔の気配を放つ人間だっている。ナリアやマナだって同じことだからな。


「それを証明できますか?」


 さらに強くリーリアはそう質問した。これでどう彼女が反応するのかだ。自分を魔族ではないと証明するのは難しいが……。

 そう思っているとルクラリズは急に自分の巻角を右手で握り込み、体を一気に回転させるように力むと彼女の髪が真っ赤に染まった。


「っ!」

「……これで、どう?」


 そう言ってルクラリズはもぎ取った巻角をリーリアに見せた。


「そうですか。本当に人間になりたいのですね」

「当然よ。体は人間そのものだけど、これだけは違うから」


 俺はローブを丸めて彼女の角のあった部分に押し当てた。


「そこまでするとは思っていなかったが、その覚悟は受け取った」


 そう彼女に言うと「信じてもらえて嬉しいわ」と俺を見つめながら言った。

 ここまで出血するということはそれほどに大事な部分だったと想像ができる。どういった体の構造をしているのかはわからないが、重要な部分を自ら断ったというのはかなりの覚悟がいるはずだ。

 それなら少しぐらい信用しても問題はないだろうな。

こんにちは、結坂有です。


朝方の投稿となっていますが、どうでしょうか。

しばらくこのままの更新となりますので、よろしくお願いします。


新たにルクラリズという女性が仲間に加わりましたね。

これからの展開はどうなっていくのでしょうか。大きく事態は変わっていきそうです。


それでは次回もお楽しみに……



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

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