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それぞれの意地

 私、ミリシアはアレクとカインとともに議会へと向かっていた。

 当然ながら、手荷物検査などなくすんなりと中へと入れるようにまで私たちの顔は知られている。

 そして、向かった先は議長室だ。


「失礼するわ」


 そういって私が扉を開くと中ではユレイナとユウナが積まれた資料とにらめっこしていた。ユレイナに関しては議長代理ということで資料を眺めていて違和感ないのだが、ユウナが資料を眺めているのはどうしても違和感があった。

 いや、今はそのことよりも重大なことを報告しなければいけない。


「あっ、ミリシアさん、それにアレクさんとカインさんまで」

「どうかしましたか?」

「つい一時間ほど前に家に襲撃があったわ」

「どういうことですか?」

「副団長の姿をした魔族らしい存在が確認されたのは知ってるわよね。その人がセシルを連れ去っていったのよ」


 すっかり忘れていたのは私の落ち度ではあるが、それにしてもあまりにも行動が早すぎる。以前確認されてから五日しか経っていないのだから。


「……ですが、防壁の警備はしっかりと機能していたはずです」

「うまくすり抜けられたようね。見た目は人間そのものらしいし、そもそも魔の気配が薄いみたいだからね」


 副団長の面影を残したまま、そして魔の気配は殆ど感じられなかったと言っていた。それは限りなく人間に近いということを意味している。敵対勢力である魔族とは一見しただけではわからないことだろう。


「そうなのですね。それ以外の被害は確認されていませんか?」

「気を失っていてどこに行ったのかもわからないから」

「わかりました。小さき盾は活動を一旦休止していただきます」


 すると、ユレイナが淡々とそう口にした。


「え?」

「そうね。その方が良さそうね」

「だって、セシルが連れて行かれたのよ?」

「さっきも言ったけれど、今は二次被害を増やさないことが先決なの。セシルがそう簡単に死ぬとは考えられないし、おそらくはどこかで拘束されているはずよ」


 議会に来るまでに詳しい内容をカインから聞いていた。それで私たちはすぐにセシルを助けに行かないことを決意したのだ。

 もちろん、すぐに助けたい気持ちは山々ではあるとはいえ、感情だけで動いてしまっては逆に相手に動きを読まれてしまう。

 そうなれば、助けに行くどころか私たちが殺されたり捕まったりすることだろう。


「……そうだけど」

「それに僕たち小さき盾は万全な状態だとは言えないからね。エレインもいなければ、レイもいない」

「わかったわ」


 カインはなんとか納得してくれた。感情ではまだ助けたい気持ちでいっぱいのことだろうが、今は自軍の戦力をこれ以上失わないことを優先して考えるべきだ。


「エレインたちですが、明日の朝には帰ってくるそうですよ」

「え、本当なの?」

「はい、先ほど手紙が届きましたので」


 一ヶ月以上は会えないかもしれないと覚悟していたのだが、意外と早くに帰ってくるみたいだ。もともと早くて半月、長くて半年ということだった。予定が早まるのは普通のことだろう。


「そうなのね。カイン、意外と早くに私たちは活動できそうよ」

「……嬉しいけれど、今すぐにでも動いてほしいのが本心だわ」


 まぁそれはそうだろう。

 それから私たちはこれからエルラトラムがするべきことを話し合った。もちろん、副団長らしき存在を見つけ出すことはほぼ不可能に近い。大量の人間が毎日出入りしているこの国で全てを調査することなどできないからだ。

 この国としてしばらくの間は裏で別の組織が動いていないかを調べることぐらいだろう。おそらく彼が侵入できたのも何者かが手配した可能性がある。

 そんなことをユレイナたちと話し合うことにした。


   ◆◆◆


 私、ミーナとフィンは学生寮で訓練をしていた。


「ミーナ……戦い方が随分変わったんだな」

「そう、かしら?」

「ああ、何があったのかしらねぇが以前よりも攻撃的になってる気がするぜ?」


 確かに以前と比べれば私の戦い方は変わっていることだろう。それは自分でも理解している。しかし、それが相手からわかるものなのかはわからない。私の中では大きな変化ではあったが、形だけを見てみるとそこまで大きく変わっているようには思えないからだ。


「攻撃的?」

「前までは受身の姿勢だっただろ? 今はそうじゃねぇ。相手に攻撃させようと誘っているみてぇだ」

「……それはあるかもしれないわね。実際に型をほんの少しだけ変えただけだから」

「へっ、構えにもいろいろあるからな。一見同じように見えても本質は全く違ってくることだってある」


 彼の言うように同じ形をしていても意味が全く違う構えだって存在するのもまた事実だ。

 ただ、それを他人からみてわかるものなのだろうか。


「そうだけど、そんなに私ってわかりやすい?」

「あ? ずっと一緒に訓練をしてんだ。それぐらいわかるだろ」


 私が思っている以上に彼は私のことを見ているようだ。

 彼とはかなり訓練をしている時間が長い。それもエレインとしていたよりももっと長い時間をフィンと過ごしている気がする。

 思い返してみれば、最初は本当に彼と対等な訓練ができるか不安だったが、エレインの訓練よりかは簡単だったと記憶している。


「まぁそうなのかもしれないわね」

「当然だろ」


 確かに彼の言うように一緒に訓練をしていれば、互いのわからないところも見えてくるものだ。

 私自身も彼の知らないような構えの癖などもよく知っている。それとほとんど似たようなものだろう。


「訓練の続き、するか?」


 すると、水を一杯飲んだ彼はそう私に話しかけてきた。


「ええ、互いに剣を高めましょう」

「おうよ」


 そう言って彼は訓練用の木剣を手にした。


   ◆◆◆


 私、リンネはアレイと一緒に訓練をしている。

 私たちの戦い方は古くから全く変わっていない。変えようともしていないのだから当然ではあるが、私としてはこのままではこれ以上強くなれないのではないかとも思っている。

 そもそもこの剣術は私たちに合ったものではない気がする。


「お姉ちゃん、どうかしたの?」

「え? なんでもないわ」

「もしかして、私たちの剣術のことについて?」

「まぁそんなところ、かな」


 アレイはもう私の考えることなんて全てお見通しなのだろう。

 こうして戦っていてもよくわかる。私が次にどう攻撃するのか、どう防御するのかも読まれることが多いからだ。


「でも、私たちが剣術を別のものに変えてしまったら現存する最古の剣術ではなくなっちゃうよ?」

「……やっぱり古いものには変わりないわけで、新しい考えを取り込まないとこれから先に繋がらないと思うの」


 事実、私たちの剣術は古くから存在していて由緒正しいものだと評価されているものの、剣術評価では中の下だ。

 私たちの剣術から派生して進化したものの方が今の時代には合っているのだろう。


「お姉ちゃんは強くなりたいのよね?」

「もちろん」

「私も、強くなりたい。だから……」


 そう言ってアレイは剣を収めて私の目を真っ直ぐ見つめて言葉を続ける。


「一緒に強くなろ?」

「当然よ。目標はエレインを超えることっ」

「ふふっ、それは無理でしょ」

「最初から無理って言わないの」


 とは言ってみたものの、実際は無理に等しいだろう。彼の本気はどれほどのものなのかは理解できない。それに何十人も相手にして一切攻撃を受けないなんて私には到底不可能な領域なのかもしれない。

 それでもほんの少しでも、一歩だけでも彼に近づくことができればそれはそれで良いことのはずだ。


「じゃ、お姉ちゃん。行くよっ」

「え?」

「はっ」


 すると、今までよりも更に力強くアレイが走り込んできた。攻撃するような構えではないのにも関わらずだ。

 でも、彼女の表情はどこか明るいように感じた。


 ガシャンッ!


 木剣同士が交わる。

 今の私たちができること、それは互いに互いを高め合うことだ。そのためにも訓練は楽しまなければいけない。そして、その先にある新しい世界を二人で見てみたいと私はそう思ったのであった。

こんにちは、結坂有です。


そろそろこの章もも終わりに近づいてきました。

それぞれ想いは違えど向かう場所は同じなようです。ミーナやリンネたちの活躍に今後期待ですね。


それでは次回もお楽しみに……



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