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二人の戦い方

 俺、レイは魔の力を内に宿した男と戦っている。


「くっ!」

「その程度、ですかね? エルラトラム議会の男はみな、弱いのですね」

「てめぇ、ふざけたこと言ってると……」


 この男はどう考えても人間ではない。そもそも魔の力を宿している時点でおかしい。人間だと思っていてはすぐに足をすくわれてしまいそうだ。


「レイっ!」

「なっ」


 相手の武器はダガーという小さい剣ではあるのだが、それでも自らの身体能力にものを言わせて強烈な一撃を俺に浴びせてくる。もちろん、それらの衝撃は今までに感じたことのないほどのもの、明らかに人間ではない力だ。


「ほう、これでもダメですか」

「不意打ちとはとんでもねぇやつだな、てめぇは」

「ですが、いつまでもその調子だと、すぐに疲れ果ててしまうでしょうね。この私を倒すには実力不足に見えますけどね」

「あ? なめた口聞いてると痛い目を見るぜ?」


 そう言ってみるが、目の前の男は余裕の笑みを浮かべてくる。確かにこの状況では誰がどうみても相手に軍配が上がっていることだろう。

 事実、俺自身の能力だけでは圧勝することは不可能だ。


「そんな馬鹿げたこと、寝言は……っ!」


 俺は全身に力を込めて、ゆっくりと一歩前へと踏み出す。

 相手の攻撃を弾くのではなく、受け流していく。


「アレイシア、もう我慢の限界だ。別に構わねぇよなっ」

「……ええ、思う存分暴れてっ」


 その言葉を待っていた。

 俺は自身の力を超える力で剣を振り上げ、相手を体ごと弾き飛ばした。


「ば、馬鹿なっ!」


 そう思うのは当然だろう。

 今まで魔剣の能力をほとんど使っていなかったのだからな。しかし、これからは違う。

 この魔剣の能力の唯一の弊害、手加減をすることができないということだ。

 俺の持っているこの魔剣リアーナの能力は”超過”というものだ。文字通り、自身の能力を超える力を手にすることができる。そう、自身の本気以上の能力を引き出すということは、手加減していては能力を発揮できない。

 しかし、アレイシアは暴れろと言った。つまりは無駄にいろんな事を考える必要はないってこと、思う存分に剣を振るえるってことだ。


「痛い目を見るって言っただろ?」

「……所詮は小手先の技術、その程度で……あぐぁっ!」

「ゆっくり喋るやつは嫌いなんだよ」


 俺は一気に彼との距離を縮めて太い刀身で腹部を貫く。

 かなりの距離はあったが、そんなことは関係ない。いくら離れていようとも相手の意識外で移動すればなんら難しいことではない。

 これはエレインから教えてくれた技術だ。人間はすべてを見ているようでいて、そうではない。ほんの少しだけの変化は気付きにくいものなのだ。


「くっ……ふざけるのもいい加減にしなさいっ」


 そう言うと彼は俺の魔剣を握り、力尽くで引き抜いた。大量の鮮血が地面を染めるが、それでも彼は平然と立っている。

 そうだ。彼はもう人間ではない。あの程度の傷では死ぬことはないということだ。


「どっちがふざけてると思うんだ? 人間を捨て、魔族に命を売ったバカが言える立場か?」

「その時点で、あなたの負けなのですよ。人間の力なんてものは脆すぎるのです。今、この私が受けた傷、もちろん普通であれば致命傷でしょう。こうして立つこともままならないはずですね」

「当たり前だろ」


 そう話している彼の傷は今も出血している。流れ出る鮮血は見ているだけで痛々しいものだ。だが、それでも彼は平然と、それでいて何事もなく立っている。

 出血量が多くなれば、脳に血液が回らなくなりまともに話すことすらできなくなるものだ。


「人間の力に加え、更に強力な魔の力を宿すことでより強力な存在へと近づけるのですよ。このようにねっ」


 そう言って彼は一気に加速して、俺へとその小さいダガーで斬りかかってきた。

 とんでもなく速い攻撃だが、何も怖がる必要はない。エレインとアレクから教えてもらった技術はそれよりももっと強いのだからな。


「はっ!」


 剣を下段に構えた俺はそのまま一気に振り上げる。


 ギャシャンッ!


 金属が弾ける音と骨が砕ける音、肉がちぎれる音が同時に響き渡ると空気が赤く染まった。


「……」


 男は話すことすらできない。

 なぜなら、彼の体の前半分が失われているからだ。この男は自分に何が起きたのかは理解できずに死んだことだろう。


「アレイシア、大丈夫か?」

「……ええ、大丈夫よ」


 人間の体が弾け飛ぶ瞬間を目にしてしまったのだ。さぞショックを受けたことだろうが、彼女は口元に手を抑えただけですぐに視線をそらした。

 そして、その直後。

 ドゴォンッと岩が砕けるような音が聞こえた。


「何かしら」

「へっ、この様子だとあいつが来たってことだな」

「え?」

「楽しみはこれからってことかよ」


 俺はアレイシアを抱き上げるとその音の鳴った場所へと駆け出した。


   ◆◆◆


 俺、エレインは魔剣で施設の壁を破壊した。


「えっ、ちょっと!」

「なんだ」

「なに平気な顔して壁壊してるのよ」

「問題でもあるか?」

「問題も何も、大問題でしょ」


 もうすでに俺たちは施設の敷地内へと侵入している。それなら何も怖がる必要はないだろう。それにこの建物の中に入るために壁を壊すのが何がいけないのだろうか。壁を壊さなければ入れないのだから仕方ない。


「入れないのなら無理やり入るだけだ」

「……エレインと一緒にいたら命がいくらあっても無意味だわ」

「無理に付いてこなくてもいい」

「もう、行くわよ、私も一緒に」


 無理してまで付いて来なくてもいいのだが、それでも彼女は俺と一緒に来るそうだ。

 まぁクレアやマナと違って彼女は一人でもかなりの実力を持っている。一人で逃げ出すことぐらい造作も無いだろう。


「な、何者だっ!」


 粉塵の中から誰かがこちらへと走ってきた。声からして人間には違いないのだが、なぜか俺には人間のように感じなかった。人間ではない、また別のなにかだ。


「この施設で何をしているのか、少し気になっただけだ」

「……気になっただけで壁を壊したのか?」

「ああ」

「不審者め……捕らえろっ」


 すると、俺の周囲から複数の男が取り囲んできた。

 気配がまったくなかったが、もう遅い。俺を倒すまで気配を殺しておくべきだったな。


「ふっ」


 俺はイレイラを引き抜くと周囲に取り囲んでいた男の足が半分に切断された。


「っ! ぁああぐぅぁ!」

「い、一体何が……」

「それで、この施設で何をしている?」

「教えるわけがないだろ。あんたら不審者にこの国の崇高なる目的を教えるわけがないっ」

「崇高なる目的、ね」


 すると、俺の背後から一人の女性の声が聞こえた。

 もう何度も聞き慣れた、凛々しくも美しい透き通った声。アレイシアだ。


「なっ」

「人間を魔族化させる目的のどこが崇高なのか逆に教えてほしいわね」


 振り返ってみると彼女はレイに抱えられてここに来たそうだ。

 確かに足が不自由な彼女が一気にここまで走ってこれるわけがないからな。


「へっ、やはりエレインも来てたんだなっ」

「やり方は違えど目的は同じだからな。いずれ合流すると思っていた」

「こうなるってわかってたのか?」

「いや、正直に言うと何も考えていなかった」

「エレインにしちゃ珍しいな……」


 何が珍しいのかはわからないが、彼にとってはそうらしい。


「それで? この施設は何だ?」

「お、教えるわけが……っ!」


 俺が攻撃するよりも速くレイが男の口の中へと剣を突き立てていた。


「かぁあっ」

「別に脅してるわけじゃねぇ。ただの気まぐれだ」


 そう彼が言うとゆっくりと傷を付けないように剣を離した。

 すると、男はやっと話す気になったのか小さくため息をついて口を開いた。


「……村人を洗脳して、魔の力と適合する人間をっ」


 そういった直後、彼の頭部は半分に斬り裂かれていった。


「えっ!」

「余計なことを……。何を人間ごときに手間取ってやがる」


 この施設の中から感じていた違和感の正体、それは目の前の魔族だったのだろう。


「あれが、魔族……」

「ああ、見るのは始めてか?」

「そう、ね。写真だけでしか見たことがないわ」

「一言に魔族と言っても人間と同じくそれぞれ特徴が違うものだ」


 目の前の魔族は明らかに人間ではない。隆々とした大きな四肢に真っ赤な皮膚、空想上の鬼を連想させるような鋭い角を持っている。

 そして、その禍々しく光る目は人に恐怖を植え付けるのに最適なことだろう。

 ただ、一つ気になったのは男の顔を半分に斬った方法だ。魔族はどうみても剣などを持っているわけではない。もしかすると、あの魔族の指から生えている鋭い爪が武器なのだろうか。


「……あれが魔族、私も戦うわ」

「いや、あれはおそらく上位種だ。初めてにしては荷が重いだろう」

「どういうこと?」

「練習台にしては面倒だってことだぜ」


 俺が言おうとしたことをレイが代わりに言った。それも相手を煽るような言い方でだ。


「誰だ? 俺様のことを馬鹿にした奴はっ!」


 空気が震えるほどの強烈な語気で魔族が話しかけてきた。


「別に馬鹿にしたわけじゃねぇよ。少なくとも練習用の人形よりかは実力があるってことだ。褒めてやってんだぜ?」

「確かに褒めているように聞こえるな」

「……カカシと同類にしやがって、ふざけてんのかっ!」


 俺もレイに便乗して言ってみたのだが、案の定、相手は怒ってしまったようだ。

 まぁ怒らせることが目的だったからな。


「へっ、怒り始めたなっ」

「ちょっと、なに魔族を怒らせてるのよっ」

「いいのよ。彼らに任せてて」

「……そ、そうね」


 ドンドンと壁を殴りつけて自分の空間を広げる。確かに狭い場所で戦うのは少し面倒だしな。空間が広くなるのなら好きにやらせるか。


「お前らを粉々にしてやるからなっ」

「やれるもんならやってみろよっ!」

「ガアァア!」


 その直後、壊れた壁の一部を剥がしてレイへと投げ飛ばした。

 しかし、その程度の攻撃で彼が怯むわけもなく魔剣で難なく砕いてその攻撃を防いだ。


「ものに頼ってるだけじゃ、意味ねぇんだぜ?」

「どこまでも俺様のことを馬鹿にしやがって……絶対に許さないっ」


 十分に空間が広くなったと同時に魔族が勢いよく攻撃を仕掛けてくる。

 その体躯に反さず、大胆で凶暴な攻撃だ。ただ、それだけでなくその繊細で鋭い爪は触れるだけで斬り裂かれてしまいそうなほどだ。

 近づくのにも苦労することだろう。


「へっ、ただ暴れてるだけに見えるが、それがあんたの戦い方なのか?」

「魔族を、魔族を馬鹿にするなよ。少なくともお前ら人間には到底不可能な技を見せてやるからなっ」

「ま、見せられたところで興味はねぇけどな」

「ガァア!」


 すると、魔族が猛烈な勢いで突進してくる。

 空気と地面が大きく揺れ、その凄まじい力を見せつけてくる。

 これは流石に人間では不可能な芸当かもしれないな。だが、それは何の意味はない。

 強烈過ぎる力は目に見えてわかる強さだ。ただ、それが勝敗を決めるわけではなく、力を効率よく使う技術も勝つためには必要な要素だ。そのことを目の前にいる頭の悪い魔族はどうやら理解していないようだ。

 上位種だからといって全ての魔族が賢いわけではないのだろう。


 ギャシャン!


 突撃してきた魔族の腕を俺は魔剣で防ぐ。


「レイっ」

「助かるぜっ」


 そう言って俺の頭上をレイが飛び上がる。

 勢いよく回転し、その力を維持したまま鋭くも強烈な斬撃を魔族へと与える。


「ギャガァア!」

「いつぶりだろうな」

「知らねぇし、どうでもいいだろ? そんなもん」

「ああ、そうだな」


 レイの強烈な一撃を喰らった目の前の魔族は大きく体勢を崩して怯んでいる。

 彼との共闘はミリシアやアレクとは違い、大胆なものだ。しかし、それが必ずしも悪いわけではなく、やり方によっては良い方へと傾くことだってある。

 そう、今のようにな。


「畳み掛けるか」

「へっ、いいぜ」


 俺とレイは駆け出す。


「「ふっ!」」


 同じタイミング、同じ太刀筋、同じ姿勢で魔族の両腕を俺たちは斬り落とす。


「ガァアア!」

「悪いが、終わりだぜ」


 そして、またタイミングを合わせて魔族の上半身と下半身を攻撃する。


 ズギャンッ!


 最後の一撃を喰らった魔族は完全に力尽きその大きな体躯を自らの血溜まりへ沈めた。


「懐かしいな。四角に斬る連携技わよ」

「そうだな」


 俺たちが行った連携技は確かに複雑なものだ。

 同時に魔族の両腕を斬り落とし、そして一人が首を、もう一人が足を斬り離す技だ。少しでもタイミングがずれると四角くきれいに斬ることができない。


「……ほんと、この二人って何者なのよ」

「ふふっ、これが剣聖なのよ」


 そんな俺たちを見ながらラクアとアレイシアはそういった。

こんにちは、本日二回目の結坂有です。


激しい戦い、いかがだったでしょうか。

多めの文字数と鳴ってしまいましたが、かなり激しくなっていたと思います。

これからもエレインとレイの連携、見てみたいものですね。


それでは次回もお楽しみに。



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