秘匿組織の正体
俺、エレインはリーリアやラクアたちとともにアレイシアたちを尾行していた。当然ながら、彼女たちには気付かれないよう細心の注意を払っている。少しでもレイに気付かてしまうと彼女たちの行動に支障が起きていしまうかも知れないからな。まぁそれは俺の考えすぎなのかも知れないが、猛暑の中、俺たちは商業地を進んでいた。
「エレイン様、マナさんが疲れてしまっているようです」
「そうか。確かにこの暑さでは確かに酷かもしれないな」
「……だ、大丈夫、だから」
「マナさん、無理はなさらないでください」
そもそも俺たちはまとまって行動するのは間違っていたかも知れないな。まぁ俺がアレイシアたちに気付かなければ、こうして尾行していなかったのだ。俺の行動にみんなを巻き込むわけにはいかないだろう。
「マナ、近くのカフェで休むといい」
「私は……」
「先程からかなり汗を流しているみたいだからな。リーリアとクレアと一緒にカフェでゆっくりしててくれるか?」
「うぅ……わかった」
それにマナは俺たちと違ってフードで全身を覆い隠している。素性を隠すためとはいえ、フードの中はひどく蒸れてしまっていることだろう。
彼女は強い体力を持っているが、蒸れるようなこの暑さは彼女の体力を激しく消耗させるはずだからな。
「リーリア、頼めるか?」
「はい。エレイン様はこのまま尾行を続けるのですか」
「ああ、嫌な予感がするからな」
「……わかリました。気をつけてくださいね」
彼女も本心では俺と一緒に付いてきたいところなのだろうが、今は複数人で動いているため、集団としての行動をしなければいけない。
それから俺とラクアとでアレイシアたちの尾行を始めた。
リーリアとクレアがいればこの前のような問題は起きないことだろう。それにここは村の人が多くいる商業地、こんなところで大きな戦いを起こすとは考えにくい。
「……エレイン、本当にこの道であっているの?」
「ああ」
「商業地から離れてるわよ」
確かに先程の店が並んでいたような場所からは少し離れているとはいえ、距離にするとそこまで離れているわけではない。一般の人でも走れば五分ほどで通りに出ることができるだろうからな。
ただ、こんなところに何かがあるというのは考えにくい。商業地に建てられていた地図を見たのだが、この辺りには特になにかがあるような記載はなかった。あの地図がどこまで正確なのかはわからないがな。
「それでもアレイシアとレイはここにいるのは確かだ。なにかがあるのだろうな」
「それに足音なんて、私たち以外聞こえないわけだし……ひゃっあぅ!」
俺は咄嗟にラクアの口を手で抑えて近くの木陰へと隠れた。
理由は得体の知れない気配を感じ取ったからだ。
少しでも意識をそらしていれば見逃しそうなほどに薄い気配ではあるのだが、明らかにアレイシアたちではない謎の気配だ。
「んぅ……」
「悪いが、もう少し我慢してくれ」
「……」
薄れていく気配を確認した俺はラクアの方へと視線を向ける。すると、彼女は顔を真赤にして目を閉じていた。まぁ謎の気配はどうやら俺たちに気づいていないようで俺たちに近づくどころかアレイシアたちの方へと向かっていった。
「もう大丈夫だ」
俺はそう言って彼女を解放すると、真っ赤な顔のままゆっくりと身だしなみを整え始めて口を開いた。
「……な、何かあったの?」
「ああ、よくわからない気配がしてな」
「私には何も感じなかったけれど」
「普通だと感じないような薄い気配だ。かなりの実力者なのだろう」
当然だが、あれほどに気配が薄い人とは今まで出会ったことがない。以前、聖騎士団の応援で俺とセシルを監視していたゴースト型の魔族に近いものを感じたがどうなのだろうか。
魔の力を感じたわけでもないから、完全に魔族というわけではないはずだが実際のところはよくわからないな。
気がかりなのはアレイシアたちの方へと向かっていったことだ。あの様子だと明らかに戦いが起きる事になることだろう。まぁそこはレイに頑張ってもらうとして、俺たちには俺達の仕事をすることにしよう。
「……エレインがそこまで言うのならそうなのね」
「ただ、それよりも俺たちがするべきことがあるようだがな」
「え?」
「あの建物がどうやらアレイシアが探していたもののようだな」
そう言って俺が指差した。
森林の中ということで外から見えないように木々に覆い隠されているような場所だ。こうして森の中に入ってみないとわからない。
「ここ……マナがいてた場所に似てるわね」
「ああ、おそらくは秘匿組織と言われるやつの施設なのかも知れないな」
「どんな場所なのかはよくわからないけれど、怪しいことをしているっていうのは明らかだからね」
ラクアのいうように秘匿組織の正体は魔族化を進めようとしていた政府高官が裏で設立した組織だ。政治資金を横流ししたりして活動費を集めていたようだが、今はそんなことはどうでもいい。
人間を魔族化させるという目的自体が許されるようなものではない。エルラトラムの剣聖としてだけでなく人間としても、ここは少し働かないといけないことだろう。
「どうするの? このまま入るの?」
「この鉄柵ぐらいなら斬ることもできそうだ」
「……こんな太いものが斬れるの?」
俺は聖剣イレイラを引き抜いて軽くその鉄柵を斬ってみる。当然ながら、この聖剣は”追加”と呼ばれる強力な能力を持っているためにこれぐらいの太さであれば簡単に斬ることが出来る。
「わかってたことだけど、異常だわ」
「褒め言葉か?」
「ええ、そうよ」
若干ムッとした表情の彼女はそう言って俺の後ろに張り付くように歩いてきた。幸いにも大きな音がなったわけではないため施設の連中に気付かれるようなことはなかった。
それから俺たちは施設の敷地内で息を潜めて進んでいく。しかし、施設の中へと通じるような扉が見当たらないためにすぐ侵入はできそうにない状況だ。
そんな事を考えているとラクアが小声で俺の耳元で話しかけてきた。
「……出入り口が見当たらないってことは逆に言えば外に出れないってことよね」
「そうなるな」
「マナが外に出れたのって彼女が壁を破壊したから出れたけれど、普通なら不可能ってことかしら」
確かに出入り口がないということは入ることも出ることもできないということだ。この施設の中で何が行われているかは実際に壁を破壊してみないとわからない。
「ラクア、もし……」
「気にしないで。私はエレインに付いていくわ」
どうやら彼女の覚悟が決まっているようだ。もう何も話す必要はないだろう。
それから俺は魔剣の方を引き抜き、大きく振りかぶった。
こんにちは、結坂有です。
先日は更新できず、申し訳ございません。
本日の七時ごろにはまた更新できると思いますので、楽しみにしていただけると嬉しいです。
太い鉄柵をいとも簡単に斬って中に入っていったエレインとラクア、これからどういった展開になっていくのでしょうか。
激しい戦闘が始まりそうな予感です。
それでは次回もお楽しみに……
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