情報の対価
俺、レイはベイラの屋敷でアレイシアと一緒に朝食を食べていた。
当然ながら、俺たちはまだエルラトラムへと帰ることはできなさそうだ。まぁこの国における問題はまだ完全に解決したわけではないからな。それはそれでいいか。もともとすぐに帰れると思っていなかったし、いまさら気にしたところで意味はないだろう。
「レイ、昨日はぐっすり眠れたの?」
そうアレイシアは聞いてきた。
ぐっすり眠れたと言っていいのかはわからないが、十分に疲れを癒やすことができたのは事実だ。
「まぁな。疲れは取れたぜ」
「そう、それならよかった」
「アレイシアの方はどうなんだ? 夜遅くまで資料とにらめっこしてたんじゃねぇのか?」
窓を開けて夜風を浴びながら資料を読んでいたのが想像できる。
彼女とはもう何日も一緒に過ごしている。当然ながら、議長として責務を果たそうと必死なのは結構なことだ。しかし、それが原因で体調でも崩されると困るのも確かだからな。俺としては程々に休みを取ってほしいところだ。
「大量の書類だったからね。仕方ないわ」
「……頑張るのもいいけどよ。もう少し自分の体も気にした方がいいぜ」
「気にしてるつもりなんだけどね。つい、夜遅くまでやっちゃうのよ」
まぁいいたいことはわからなくはないがな。
俺だって地下訓練施設のとき、一週間ほど寝ないでトレーニングをしていたことがあったからな。エレインに止められるまでやっていただろう。
ただ、止められていなかったらきっとおかしくなっていたのかもしれない。俺の中で良くないものが蠢いていた感じがしてた記憶があるが、まぁ今となってはよくわからないことだしな。
「なんでもそうだけどよ。やり過ぎもよくねぇぜ」
「ええ、わかってるつもりよ」
今のところ、彼女は体調を崩していないようだ。俺が思っている以上に体力があるのかもしれないな。
それからは少し優雅な朝食を堪能することにした。
朝食を食べ終えると、何かの仕事をしたあとのベイラが食堂へと入ってきた。
家政婦と思われる人が食器を片付け始め、そして彼女はまた新たな資料を持ってきて椅子に座った。
昨日、アレイシアに渡したものよりかは量は少ないものの、それでも重要そうな書類だということはその封筒から感じ取れる。
「それで、今日は何の資料を?」
アレイシアはベイラに向き直るとそう凛々しい表情でそういった。
先ほどとは違い、真剣モードになった彼女はどこかかっこいいとすら思える。彼女たちの会話に理解が追いつくかわからないが、俺も話を聞いておくことにするか。
「秘匿の組織がいるって話は昨日の話でわかってくれたわよね。それでその追加の情報が、この資料になるの」
そう言ってベイラは封筒の一つをアレイシアへと滑らせた。
そして、彼女はその封筒を丁寧に開くと中から大量の数字とグラフ、補足の説明文が書かれた書類が数枚出てきた。
「これは……決算報告書?」
「ええ、税金を政府がどのように使ったかが書かれているの。それは一般人に向けて発表されているものよりも詳細な情報が載っているわ」
「なるほどね。これのどこが不自然なの?」
「不自然なところはないわ。ただ、それは上辺だけよ」
すると、ベイラは二枚目の資料を見るように促す。
その二枚目の資料はさきほどの数字が大量に書かれたものとは違い、文字の多いものだった。
なにかの説明を一覧にして書かれているようだが、具体的に何が書かれているのかは理解できなかった。
「活動報告書の一部、ね」
「そうよ。それらと見比べてみたらわかるけど……変だとは思わない?」
ベイラは目で訴えかけてくる。
「……活動の内容を読んでみたけれど、会議がメインのようね。先程の報告書に書かれていた額の資金を使ったにしては不自然ね」
要するに特に資金をたくさん使うような活動をあまりしていないのにも関わらず、先程の資料には大量の金額が使われていたようだ。消費した金額と活動内容が一致していない。片方だけの情報では見えてこない不自然な点があったようだ。
「あくまでこれは政府の活動内容、政府外組織や軍の活動のことは一切書かれていないわ」
「軍の場合なんかは予算に組み込まれているわね。去年や一昨年とほとんど金額は変わっていない」
「軍の活動は軍上層部が決めることだからね。だから、政府は深く関わったりしないわ。けれど……」
「この協力金なんかは変よね」
そう言ってアレイシアは俺にもわかるように数字のたくさん書かれた資料の一部を指差した。
確かに今までの話をまとめてみたらこの金額は膨大すぎる気がする。
「ええ、それらの金額を合計すると軍の予算と同じになるわ」
「……怪しい金の流れがあるってことか」
「まぁそんなところね」
協力金などで政府以外の組織に資金を送るときはなにかの活動をするということだ。公的事業でいえば、道路や水道などの整備がそれに当たる。それらは大きな災害が起きない限りは大きな予算の変化はないはずだ。しかし、この資料では去年の同じ時期と比べて三倍近くも膨れ上がっている。大胆な公共事業を展開したわけでもないために不自然すぎる金の流れだ。
しかし、それにしても妙な空気感が漂っているな。
「秘匿組織への資金援助、その可能性が高いわ」
「そうかもしれないわね。でも、これほどの膨大な資金を一体何に使うの?」
「主に洗脳活動に使っていると思うわ。例えば……」
「なぁ、こんなところでそんなこと話していいのか?」
今俺たちがいる場所は一般的な食堂、そして先程まで家政婦のような人がいたのだ。
俺の予想では誰かが俺たちの会話を盗み聞きしている可能性が高いと思うがな。
「レイ?」
「さっきの家政婦、昨日の人とは違うみたいだが大丈夫なのか?」
「……この家では日に日に雇う人を変えているわ」
確かにそれは情報を隠す上では必要なことなのかもしれないが、万が一の可能性もある。例えば、スパイのような人間が家政婦として仕事を探したりしていたら……
ドンッ!
食堂のすぐ外の場所から扉を急に開けたような音が聞こえた。
「え?」
「ちっ、やっぱり聞かれてたかっ」
俺は自分の魔剣を手にとって走り出した。
当然ながら、俺の走る速度は小さき盾の中で一番速い。まぁ超短距離ならミリシアの方が速いのだがな。
「くっ……」
食堂から出てしばらく走っていくと先程の食べ終えた食器を片付けた家政婦の人がいた。やはりあいつが俺たちの会話情報を盗み聞きしていたみてぇだな。
なら早く捕まえねぇといけないな。
「待てよっ!」
「っ!」
彼女は急に迫ってくる俺に動揺したのか、足を絡ませて地面に転げた。
しかし、うまく受け身を取った彼女はすぐにナイフを取り出して、臨戦態勢に入った。少しは武術の心得があるのかもしれねぇが、俺には通用しねぇな。
「うそっ」
「残念だったなっ!」
俺はナイフの攻撃を瞬時に避けると、そのナイフを蹴り上げた。
そして、魔剣で彼女のスカートを突き刺して動きを止めることにした。
こんにちは、結坂有です。
前の長官はどうやら政府の資金をその秘匿組織へと流していたみたいですね。
ところで、秘匿組織というのは一体どういった活動をしているのでしょうか。もう少し詳細がわかるといいですね。
それでは次回もお楽しみに……
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