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暗闇のその先へ

 俺、ブラドはアドリスとともに連絡通路を進んでいた。この連絡通路は過去の王国時代の頃のもので現在は使われていなかったものだ。

 もちろん、文献を調べたら出てくるかもしれないが、隠されていたこともあり忘れ去られていた通路のようだ。これらのような王国時代から残っている地下通路は他にもあるようだ。ただ、なぜか防壁の外につながっているこの連絡通路は早い段階で開拓し、聖騎士団や議会の管理下に置く必要があるだろう。そして、場合によっては完全封鎖することも考えるべきだ。

 ただ、それよりもこの中で見つかった死体のほうが気になる。

 まず一つは骨格や内臓などがまったくない皮だけになってしまった死体だ。状態を見ても腐敗している様子はなく、内側から破られたような状態だ。一度だけ、俺が経験したものと近い状況を考えるなら、セシルの父であり、俺の部下でもあった副団長の死だ。彼は戦死したわけではなく、正確に言えば魔族に変わり果てようとしていたのだ。


「……さっきの魔族以外はいてなさそうだね」

「そうみたいだな」


 以前ここに来たときは魔族で溢れかえっていたと記憶しているが、今回はさきほどの一体だけでほかは全く見かけない。気配すら感じない。


「それにしてもただの連絡通路にしては妙に広大な気がするけどね」

「昔、どのような使われ方をしていたのかは全くわからないな」


 不思議なのはしっかりと通路にはなっているが、通路から横にそれるとそこには昔ベッドとして使われていた骨組みがあったり、倉庫のように棚が設置されていたりと連絡通路以外にも使用されていた形跡がある。

 もしかすると、一時的な兵舎としての機能もあったのかもしれないな。

 もう今となってはそれを調べることはできなさそうだが。


「先に進むかい? それとも戻るか?」

「いや、外は聖騎士団や小さき盾に任せることにしよう」

「中隊規模ほどの人数がいれば確かに防衛はできそうだね」

「今、俺たちがするべきことはこの地下通路の先を確かめることだ」


 どのような状況にしろ、この通路を放置することはできない。完全封鎖するべきなのか、それとも管理下に置くかそのどちらかを選ばなければいけないだろう。

 そのためにはこの通路がエルラトラムにとって有益になるのかどうかだが、その点はこの通路がどこにつながっているの確かめてから考えることにしよう。


「……そうだね。外の状態も気になるところだけど、僕たちにはやらないといけないことかもしれないね」


 どうやらアドリスも理解してくれたようだ。

 それから俺たちはそのまま通路の先へと向かっていく。

 ところどころ、それた場所にある空間を警戒しながら先へと進んでいく。そして、進むにつれて魔の気配が強まっていく。


「アドリス、感じるか?」

「ああ、強そうな気配がするね」


 彼も魔の気配を感じ取っているようだ。とんでもなく強力な魔族がいるか、魔族の群れでもいるのだろうか。

 更に警戒を強めてゆっくりと先へと進んでいく。すでに地下通路に入ってから一時間以上経過している。それほどに長いこの地下連絡通路は確実に防壁の外に出ていることだろう。それにこの先から魔族の気配が強くする。

 戦闘になることを覚悟して進んで行くことにした。


「っ!」


 すると、俺よりも少し前を歩いていたアドリスが急に片腕で合図を出して立ち止まった。


「……どうした」

「僕の聖剣が震えているんだ」


 聖剣が震える、それは精霊がなにかの合図を出しているという証拠だ。しかし、精霊の泉以外でこうして聖剣が震えることは聞いたことも見たこともない。

 精霊があまり表立って行動してしまうと精霊の掟に違反してしまうからだ。


「何かあったのか……」


 アドリスに近づくと俺の持っている二本の聖剣もカタカタと震え始める。魔剣の方は変わらないようだが、これ以上進むのは危険だと訴えかけているのだろうか。


「ブラド、どうする? 聖剣が震えるというのは尋常じゃない」

「そうだが……」


 これ以上進むのは危険。それは聖剣が震えているという時点でわかっている。しかし、俺たちにはこの先を調べる必要があるのもまた事実だ。


「コノケハイ、ニンゲン……」


 すると、人間とは似つかない音で言葉を発する何者かが少し離れた場所からゆっくりと歩いてきた。


「っ!」

「トオスナ、ソレガメイレイ……」


 そう言ってその魔族は巨大な鉄の棒を強く地面に叩きつけた。

 とてつもなく強力なその一撃は火花を撒き散らす。


「明らかに普通の魔族ではないことは確かなようだな」

「……そうだね。これほどの魔族はあまり見かけないね」


 そして、先程からずっと聖剣が震えているのが気になる。今まで魔族の拠点を何度も攻撃してきたこともあったが、聖剣が震えて警告してくることは今までなかった。

 剣に宿っている精霊がどう思っているのかはわからないが、行けるところまで立ち向かうのが筋というものだろう。


「オレヲ、オコラセルナ」

「悪いが、俺たちもここを通らないと行けないんだ。調査のためにな」

「……」


 俺がそう目の前の魔族に言ってみるが、俺の言葉をうまく聞き取ることができなかったのか魔族は無言のままだった。

 何度か話をする魔族と出会ってきた。そのどれも強力な力を持ったやつが多かったな。それなら目の前の魔族も強いということなのだろうか。どちらにしろ、俺たちはこいつを倒して前に進むだけだ。


「理解できないのか?」

「……」

「どうやらバカみたいだね」


 彼らしくはないが、目の前の魔族を煽るように彼はそういった。


「ッ! オレガ、バカダトッ!」

「ふっ、事実だな」

「コロスッ! コロスゥッ!」


 そう言って魔族は手に持っている巨大な鉄の棒を振り回す。

 壁や天井が削れていることから強烈な力で振り回しているのだろう。しかし、ただ振り回しているだけでは俺たちに勝つことはできない。


「アドリス、行くぞ」

「ああ、そうだねっ」


 俺とアドリスとは長年の仲だ。遡れば学院生時代から知っている仲だからな。連携して戦うのは何度も経験し、互いに研鑽してきた。


「クルナッ!」

「はっ」


 俺は震える聖剣を引き抜き、魔族へと攻撃を仕掛ける。


 カチィン!


 確実に聖剣が魔族の肉を捉えたはずなのになぜか刃筋は肉を斬り裂くことはなく、逆に俺の持っている聖剣が二つに折れてしまったのだ。


「っ!」

「ブラドっ! 離れろっ」


 俺の持っている聖剣が折れるなんてどのような肉体をしているのだろうか。とりあえず、今はこいつから距離を取るほうがいいな。

 崩れてしまった態勢を瞬時に持ち直し、俺は魔族から距離を取った。


「ヨワイ、ヨワイッ!」


 ガンガンッと天井や壁を振り回している鉄の棒で削りながら、俺たちの方へと突撃してくる。

 当然ながら、そんな稚拙な攻撃を簡単に喰らうことはない。しかし、こちらとしても聖剣の刃が通らない以上こいつを倒すことはできないのは事実だ。


「ふっ!」

「ムダッ!」


 アドリスの攻撃は魔族の肉を斬り裂くことはなかった。

 刃は折れなかったものの、それでも聖剣で斬れないとなるとこれからどう攻撃を仕掛けるべきだろうか。


「っと、厳しいね」


 彼は再び魔族から距離を取ってそうつぶやいた。

 確かにこのままでは厳しいな。


「仕方ない。狭い空間だがやるしかなさそうだ」

「……そうみたいだね」


 どうやら俺がやろうとしていることを長年付き合っている彼はすぐに理解できたようだ。

 今まで一人で戦うことが多かったが、こうして協力して一体の魔族と戦うのは久しくやっていなかったからな。楽しいわけではないが、自然と胸が高鳴るのを感じつつ、俺は魔剣へと手を伸ばした。

こんにちは、結坂有です。


夜遅くの更新になってしまいました……


地下連絡通路で遭遇した魔族、そして、震える聖剣。

気になることが増えてきましたが、これからどういった進展になるのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに……



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

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