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双子の剣士

 私たちはそのまま議会へと向かっていた。パベリからの攻撃は聖騎士団に任せるとして、私たちは他の方面からの攻撃を警戒することにした。何度も話したが、パベリの攻撃は自然発生的なものではなく誰かの意図のもと起きているものだと考えている。

 ということはパベリの攻撃は陽動と見ていいだろう。それにあれ程の数であれば、聖騎士団中隊規模で十分対処できることだろう。そんな事を考えていた私とアレクはすぐにでも議会に向かって私たちの考える作戦を伝える必要がある。無線も有線通信装置も、ましてや飛脚なる人物もいない状況下では自分たちの足で議会に向かうしか連絡を伝える手段がない。


「ミリシア、少し待ってくれないか?」

「ん? まだ痛むの?」

「いや、そうじゃないんだが、感じないか?」


 すでに学院を過ぎ、私たちがよく知る市街地へと近づいていた。私にはまだ何も感じないのだけど、アレクには何かを感じ取ったようだ。おそらくそれは私たちの考える最悪な状況と言わざるを得ないようなもののように思う。

 私は息を飲み込み、警戒を強めながら口を開いた。


「もしかして魔族の攻撃、だったりする?」

「まだわからないね。でもこの気配は魔の力で間違いないようだね」


 一縷の願いを言えるのなら、ナリアのような人類に味方する人だったら良いのだが、アレクの表情からしてそうではないだろうな。

 本当に彼の気配が正しいのだとしたら、もう市街地に魔族が侵入してきていることになる。そうであれば、大虐殺……。いや、そんなことはまだ起きていないはず。それなら私たちはすぐにでもこの市街地を防衛しなければいけない。議会への報告は遅れるものの、市民の命が最優先だ。小さき盾として任務を全うするとしよう。


「……それだと間違いなく魔族が侵入してきているってことね。ならすぐにでも探しましょう。魔族一体でも聖剣を持っていない市民からすれば脅威以外何者でもないからね」

「そうだね。僕の傷もかなり癒えて来ているからね。十分戦えるよ」


 先程治癒師に回復してもらった直後だ。まだ若干傷みが残っているようだけど、アレク自身はそこまで気にしていないようだ。

 それから私たちは急いで市街地へと走っていく。すると、真っ先に教え子である人と出会った。


「あれ?」

「あ、ミリシア先生!」


 彼は確か私の教え子のウェグナーだったはずだ。どうして彼がここにいるのだろう。それも聖剣を装備して周囲を警戒していたように思える。


「ここで何をしていたの? もしかして、魔族が来ているとか?」

「はいっ。この周辺にはまだいないみたいですけど、どこからか現れた魔族が市街地を襲ってきたみたいですっ」

「なるほど、それはかなり危険な状況だね」

「危険、ですか?」


 ウェグナーは事の全容をまだ知らないのだから仕方ないだろう。だが、事実を正直に彼らに伝えると逆に混乱を招くことがあるかもしれない。それなら隠しておくべきだ。

 私はアレクにすべてを話さないようにと目で訴えかけると彼は小さくうなずいてくれた。


「いや、僕たちが来たからには大丈夫だから。それで、他の学院生もここに来ているのかな?」

「え? あ、はいっ。みんな悲鳴のあった方へと向かっていきましたね。僕や他の人たちはこの辺をまだ警備している途中です」


 そういってウェグナーは悲鳴があったであろう方角を指差した。

 あの方向はパベリとは反対方向の場所となっている。ちょうど、あの場所には関所と言った場所はなく、侵入するにしてもどうやって侵入したというのだろうか。侵入の経路は今は考えないとして、どれほどの魔族が侵入したのかにも気になる。

 考えているだけではどうすることもできないため、とりあえずは悲鳴のあった方角へと向かったほうが良いだろう。


「ミリシア、僕たちも行こうか」

「そうね。どうなっているのかわからないことだし」

「うん。教えてくれてありがとう」


 そういってアレクは方角を教えてくれたウェグナーに感謝すると、すぐに歩き始めた。私も彼に頭を下げて感謝を伝える。


「待ってください。ミリシア先生っ」


 すると、彼は私を引き止めた。


「どうかしたの?」

「あの、自分の勘違いかもしれないのですけど、この攻撃が不自然な感じがするのです」

「不自然?」

「はい。パベリ方面から魔族が来るとセシルが言っていたのですけど、実際は反対方向みたいでした。彼女の情報が間違っているのか、それとも……」


 そういう彼の指摘は勘違いでもなんでもない。事実から導き出した誰もが思う不自然な点なのだ。しかし、彼が詮索をするのは間違っている。彼には彼の役目、この市街地を守るという大きな役割がある。彼にはその仕事に集中してほしいところだ。


「深読みはしない方がいいわ。自分たちは自分たちのできることをする、それだけなのよ」

「……はいっ。わかりました」


 私はそう忠告すると彼は大きく返事をして私の言葉を受け入れてくれた。

 彼も含め多くの教え子は本当に優秀だ。当然ながら、私たちの実力を目の当たりにしたのだから尊敬しても普通のことなのかもしれない。それでも反抗することなく素直に受け入れてくれる人は悪い言い方だが、扱いやすいと言えるだろう。


「じゃ、気をつけてね」


 そう言い残して私はアレクの後を追った。


 それから私たちはウェグナーの示してくれた方角へと走っていく。

 すると、次第に剣戟の音が聞こえてくる。それもかなり激しいものだ。戦闘が激化していることを音からして物語っている。


「……先程までは聞こえてこなかったけど、ここまで来たらかなり聞こえてくるね」

「そうね。学院生の安否が気になるわ。手分けして探しましょう」

「ああ、ミリシアも気をつけて」

「うん、お互い様にね」


 そういって私たちは手分けをして生徒たちを探すことにした。

 私はひときわ響く剣戟の音の方へと向かう。音からしてかなり膠着状態だと言える。

 走る速度をさらに速め、その音のする方へと走る。


「せいやっ!」


 剣戟に合わせて女性の声が聞こえてくる。その声は気迫に満ちており、力がこもっていた。


「はっ」


 そして、もう一人の女性の声も聞こえてくる。それに面白いのが二人の女声はうまく連動している。

 まだはっきりと聞き取ることはできないが、それでも確実に強い連携をしているのがその声からよく分かる。この声は二人とも私の、私たちの教え子でもない。

 私は魔族にさとられないように足音を潜めて近づいていく。私が来たことで二人の連携を邪魔したくないからだ。しかし、もし危険な状況だったとすれば魔族を闇討ちすることも可能だ。


 キャリィィン!


 心地よくも鋭い金属音が響く。


「はぁあ!」

「ゥグラァ!」


 更に強い女性の声が聞こえたその直後、魔族が咆哮する。うまく攻撃が入ったのだろうか。私はこっそりと顔をのぞかせて様子を確認する。

 正直言うと魔族の数は少ない。その状態で一体に対して時間をかけ過ぎな感じがするが、まだ魔族の数が少ないようでまぁ問題ないようだ。


「……二人の連携剣術、初めて見るわね」


 二人の立ち位置は独特なもので、互いの援護をするというよりかは長所を組み合わせていると言った様子だ。

 互いの長所は似て非なるもののようで、二人ともに攻撃に特化した技のように思えるがそれでもその性質は違う。

 一人は相手の懐に入っていくような集中型の戦い方、そしてもう一人は全体を視覚ではなく聴覚などで聞き取って攻撃する俯瞰型の戦い方をしている。もちろん、それらの長所を組み合わせれば視野の広い汎用性の高い陣形になることだろう。

 つまりは二人一組の剣術と言える。

 そんな二人の剣術を少し離れた場所から見ていると彼女たちに近づいてくる魔族の気配を感じた。その魔族を対処しようとした瞬間……


「お姉ちゃんっ! 左からっ」

「わかったわっ」


 俯瞰型の一人がそう忠告する。

 すると、もう一人が勢いよく走り出し走り込んできた魔族を斬りつける。そして、その追撃と言ったように二人目が斬りつける。


「ァグゥア!」


 ただ、魔族は一体だけではなく、彼女たちの頭上を巨躯の魔族が飛ぶ。


「っ!」


 私は一気に走り出し、レイピア型の魔剣を引き抜いて飛びかかってきた魔族へと斬り込む。二歩の間に四つの斬撃を繰り出し、巨躯の魔族を倒すことに成功した。

 もちろん、”閃走”という自らが編み出した技術を更に応用した”閃撃(せんげき)”という技で魔族を斬り倒した。


「へ?」


 ほうけたような声を出したのはお姉ちゃんと呼ばれていたほうだ。


「上からの攻撃は気付きにくいわ」

「……あなたは?」

「特殊部隊”小さき盾”所属のミリシアよ」


 自分の自己紹介をすると、彼女たちは目を丸くして驚いた。まぁ学院生からしたら私たちは尊敬に値する人物のため無理もないだろう。


「エ、エレインの知り合いの……」

「そうよ。彼を知ってるの?」

「うん、ちょっと追いつけそうにない空の上の人だけどね」


 どうやら学院でも彼はある程度有名なようだ。確かに実力を隠していても漏れ出ている強者の風格は隠しきれていないのは傍から見てもよく分かる。


「そう、なのね。それでこの他に魔族はいるのかしら?」

「えっと、さっき五体ぐらいの魔族が勢いよく走っていったわ」

「どの方向に?」

「えっと、そこの道を右に行ったはずよ」


 そういって彼女たちは指差した。

 どうやらそこは市街地の中でもそれなりに道幅の広い場所のようで先程のような巨躯の魔族が通ったのだろうと推測できる。

 あの程度の魔族であれば五体だろうと十体だろうとそこまで苦労することはないだろう。


「わかったわ。ありがとう」

「あ、あの……」

「ん?」

「エレインは最近どうしているのか、知ってる?」


 姉ではないほうがそう話しかけてきた。


「今は出張任務中なの。しばらく帰って来れそうにないわね」

「そう、なのね」

「エレインのことが気になるのはわかるけれど、今は魔族と戦わないといけないわ」

「は、はいっ」


 そう忠告すると、彼女は大きく返事をした。

 控えめそうな見た目ではあるが、声ははっきりとしている。おとなしそうに見えるが、騎士の卵であるとも感じられる。彼女たちにはこれからも躍進してほしいものだ。

 私はそんな彼女たちを一瞥してからその五体の魔族が走っていったと思われる道へと向かっていった。その道を進んだところは小さめの広場があったと記憶している。

 おそらくそこで誰かが戦っていることだろう。

 ところで、あの二人の名前を聞くのを忘れてしまった。まぁ今後も話せる機会もある。そのときにでも名前を聞くとしよう。

こんにちは、結坂有です。


本日二本目の投稿となります。

いかがだったでしょうか。双子の剣士、リンネとアレイの躍進はまだまだ止まらないようですね。

現存するエルラトラム最古の流派としてどこまで強くなれるのでしょう。これからの進化にも目が話せませんね。


それでは次回もお楽しみに…



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