ちょっとした意地
私、ミリシアはアレクと一緒にパベリ方面の商店街を抜けた。
レイガスが一体何をしたかったのかはまだわからないままだ。とりあえず、聖騎士団の何人かを暗殺したと言っていたが、その真相はまだわからないままだ。
もし暗殺が気づかれていたとすれば聖騎士団団長のアドリスはおそらく黙っていないことだろう。当然ながら、躍起になって暗殺した人を探していることだろう。しかし、もしそうではなければ、本当にパベリの関所へと大多数を向かわせているのだとしたらそれはまだ気づかれていないということだ。
「……っ!」
そんな事を考えていると私の横でアレクが腹部を手で抑えながら膝を突いた。
「アレク?」
「……大丈夫だよ。先に行こうか」
そう言いながら、彼は膝を震わせながら立ち上がる。明らかに無理をしている証だ。
レイガスとの戦いで彼は腹部を斬り裂かれた。その傷がまだ響いているのだろう。
「ちょっと、傷を見せて」
「気にするほどのことでもないよ。内臓には達していない」
「それでも見せて」
彼のズボンは半分ほど血で赤黒く染まっている。相当量の血液を出しているのは見てわかる。
私が強くそう言うと、彼は強烈な痛みを堪えながら、近くのベンチへと腰を下ろした。
「……そう、だね。このままだと歩けそうにない」
「見せてくれるのね」
「頼むよ」
そう言って彼は上着のボタンを外した。
私もしゃがみ込み、彼の傷を見てみる。確かに内臓には達していないように見えるが、完全に腹膜が露出している。そして、何よりも傷が側腹部からへそのあたりまで一気に斬り裂かれている。この状態ではかなりの出血したことだろう。
本人は大丈夫だと言っているが、この状態では議会まで歩いて向かうことは不可能だ。
「……とりあえず止血しないとね」
私はスカートを半分ほどレイピアで切り離し、うまく加工して包帯を作る。
「かなりきつく縛るからこれを噛んでて」
そう言ってハンカチを彼に咥えさせて私はスカートの布で作った包帯で彼の腹部を巻いた。
「くっ!」
傷口を強く縛ると一気に出血するが、それでも私は強くそれを押さえつける。少しでも緩みがあればそこからまた出血するからだ。
「っしょ。これで大丈夫だと思うけれど……」
「ありがとう。でも、まだ痛むけどね」
「そうよね。無理はしない方がいいわ」
そんなことをしていると聖騎士団の人たちが急ぎ足でやってきた。
「あっ……お疲れ様ですっ」
聖騎士団の一人がそう言って私たちへと近づいてくる。
「怪我したのですか?」
「ええ、大きな傷ですぐに歩けそうにないみたい」
「僕が油断したせいだね」
油断も何も、攻撃する素振りがなかったのだから仕方ないことだろう。ただ、相手が未熟だったためにすぐ殺すことができなかっただけだ。
「治癒師を連れてきましょうか」
「そうしてくれると助かるわ」
止血しているものの完全に傷がふさがったわけではない。治癒師がいるのならちょうどよかったと言える。
すると、聖騎士団の一人はすぐに治癒師を連れてきてくれた。
「おまたせしましたっ」
「側腹部からへそにかけての切り傷、腹膜近くまで斬られているけれど内臓までは損傷していないわ」
「……了解です」
そう言って治癒師は聖剣を振り、アレクの怪我を治療していく。
それを見ながら、私は聖騎士団の一人に質問してみた。
「これからパベリの関所に?」
「はいっ」
「……暗殺者がいたって話は聞いたことがある?」
「いえ、ありません。暗殺者がいたのですか」
どうやらそういった話は聞いていないようだ。ここに向かった人がたまたま聞かされていない可能性もあるが、あの聖騎士団の数から察するに団長は暗殺に気づいていないようだ。
「そう、今の話は忘れてくれる?」
「わ、わかりました」
すると、その聖騎士団の一人は私の下半身へと視線が一瞬向く。
「……」
「あぁっ! すみませんっ!」
「謝る必要はないわ」
アレクの止血に使ったために私のスカートはミニスカートに近いぐらいの短さになっており、太ももが大胆に露出している。
「……男の人って露出が多いほうが好きなのかしら?」
「そ、そうだと思いますっ」
「そう、なのね。変なことを聞いたわね」
「そんな、とんでもないです」
首を横に振りながらも耳を赤くしながらそう言っている。
「じゃ回れ右して向こうに行ってくれるかしら」
「は、はいっ!」
そういって彼は振り向いて離れていった。
それに比べて治癒師のほうは安心できる。なぜならその人は女性だからだ。
すると、アレクの傷は見た目では傷がないぐらいまで回復した。
「今できる治療だとこれが限界ですね」
「十分だよ。ありがとう」
「っ! は、はいっ」
その言葉になぜか赤面する治癒師ではあるが、どうしてなのだろう。彼はただ感謝しただけに過ぎない。それのどこに恥ずかしさなどの感情が湧くのだろうか。
いや、よくよく考えてみるとエレインにあのようなことを言われたら私も顔を赤くするのかもしれない。そう考えると恋愛感情というものは意味もなく邪魔してくるのだなと感じた。
「それじゃ、あなたは聖騎士団と一緒に向かったほうがいいわ」
「あ、はい。そうしますっ」
すると、彼女はフードで頭を隠して聖騎士団の方へと小走りに向かっていった。
あの数いれば魔族からの攻撃を防ぐことはできそうだ。聖騎士団も弱いわけではない。関所にいる魔族に関しては彼らに任せても問題ないだろう。
「……さっきのやり取り見てたよ」
「やっぱり気になるの?」
「どうだろうね。気になる人は気になるのかもしれないね」
「その、アレクはそういった感情とかないわけ?」
常日頃から男女別け隔てなく平等に接している彼には感情がわかないのだろうか。
「うーん、表には出してないけれど僕にも感情がないわけではないからね。意識することはたまにあるよ」
「へー、そうなんだ」
「エレインも表には出してないだけで、そういった感情はあるはずだよ? レイはよくわからないけれど」
確かにレイは良くも悪くも感情と言動がはっきりと別れているように思える。
人間の心理として言動は感情に偏りやすいと言われているが、彼に関してはそうではないのかもしれない。いや、もはや感情的になりすぎているだけなのかもしれないけれど……。
それよりエレインにも似たような感情があるのだとしたら、もし露出の多いほうが好きなのだとしたら、私はもう少し努力したほうがいいのだろうか。
彼の周りにはちょうど露出の多い服装をした女性は少ない。それに私はスリムな体型で運動もしていることもありスタイルは良いと思っている。それなら少しぐらい……。
「ミリシア?」
「あ、ううん。大丈夫よ。早く議会に行きましょうか」
「そうだね。早く向かった方が良いね」
私たちが議会へと向かう理由、それはこの攻撃が魔族側の策略の一つだということ、単なる攻撃ではないということを伝えるためだ。
あのパベリ方面の関所を攻撃してきた魔族はあくまで陽動でそれ以外に目を向けるべきだ。だから、私たちは聖騎士団に関所を任せて、小さき盾として私たちはもう一つの大きな攻撃を防ぐ。それが私たちがするべきことなのだ。
こんにちは、結坂有です。
先日は更新お休みとなりましたが、本日は二本投稿となります。
次回は夕方頃ですので、お楽しみに……
評価やブクマもしてくれると嬉しいです。
Twitterではここで紹介しない情報やたまにつぶやきなども発信していますので、フォローお願いします。
Twitter→@YuisakaYu




