得られたのは強さではなく…
私、セシルは学院寮へと向かって志願する人を集めることにした。当然ながら多くの人は詳しい内容を話すと賛同してくれた。
魔族が攻め込んできているかもしれないとなれば彼らもやる気になるようだ。それに彼ら自身も自分たちがなにかできないのかと考えていたようでもあった。私がエレインの家でずっと考えていたように生徒の多くも同じことを考えていたらしい。
「セシルっ」
そう呼びかけてきたのはリンネであった。
彼女はフェレントバーン晴天流剣術の正当後継者で学院でも妹のアレイとともに低い順位から徐々に上位へと駆け上がっていたのを覚えている。
それに彼女たちの剣術は個人の技量ではなく二人で共闘するような剣術のようで今は二人一緒に訓練をしているのだそうだ。
「どうしたの?」
「私もアレイもこの招集には参加するつもりだけど、セシルはどう思ってるのかなって」
「どう思ってるって、この国を守るために私も戦わな……」
「そうじゃなくって、本当に魔族が来ると思ってるの?」
私の答えを遮るようにそう聞きたいことを伝えてきた。
確かに私自身も大規模な魔族が攻め込んでくるとは思っていない。それにミリシアの説明にもあったようにいくら魔族だとしても数が少なくなった今すぐに攻撃が起きるとは考えていない。
「大規模な魔族の攻撃ではないと思ってるわ。それでも何者かが攻め込んできているのは確かなの」
「……そうなんだね。でも、このタイミングで攻め込んでくるのかな?」
「というと?」
「先の戦いで魔族は多大な損害を出した、それは事実でしょ? それに私たちはそう簡単に崩せないってわかってるはずだし」
魔族側は確かに先の戦いで攻撃してきた大隊は全滅した。そしてなによりも私たちを完全に潰すことができなかった。その二つを踏まえると魔族がエルラトラムに攻撃する可能性はかなり低いと考えている。
「でも、実際に関所が燃やされているの。パベリ方面のね」
「え? そうなの?」
関所が燃やされているというのは確かにこの学院寮からは見えない。当然だけど、彼女や他の生徒たちも気づいていないのは仕方ないことだろう。
「そうよ。魔族かどうかわからないとはいえ、誰かが攻撃してきているのは確かなの」
「それが小規模なものであっても?」
「小規模でも攻撃は攻撃、私たちが守るのは当然だと考えているわ」
「そうなのね。わかったわ」
そのことを彼女に説明するとどうやら納得したようでそれ以上話をすることはなかった。
「あの、ちょっといいかしら」
「え? ミーナ?」
すると、少し離れた場所からミーナが話しかけてきた。確か退院したとは聞いていたが、もう剣を持てる状態まで戻ったのだろうか。今の彼女の背中にはあの巨大な聖剣があった。
「……そうよ。何か変?」
「変じゃないけれど、剣を持って大丈夫なの?」
「ええ、怪我自体はだいぶ前に治っていたわけだし、今まで自主練をしてただけよ」
以前の話では感覚がまだ掴めていないと言っていた。エレインにどうしたらいいのか聞いていたが、それでも具体的な解決にはならなかったみたいだけど。
「本当に大丈夫、なのね?」
「大丈夫よ。いつまでも昔のままではだめだって思ったから」
「そうなのね」
言われてみれば、今までの彼女は亡き父の思想に縛られていた。それはエレインから聞いた話で私もそう思っていた。
父の無念を晴らすために彼女は腕を磨いていたみたいだけど、これからは自分のために戦わなければいけないと決意したのだろう。それはいいことだと思う。
「それで、一つ聞きたいのだけど」
「何?」
「パベリから魔族が来ているかもしれないって話だけど、攻撃を受けているのはそこだけなのかしら?」
「そこだけ?」
「他にも攻撃を受けていたり、侵入してきたりしていないのかしら」
その話はユレイナからはなにも聞いていない。
それにもし攻撃があったとしてもすぐに聖騎士団の方が動くはずだ。そうならば私にも情報が入ってくるだろう。
「……どうしてそう思うの?」
「前の攻撃がそうだったからよ」
思い返してみれば、複数の場所から魔族が攻め込んできたために前線の防壁が突破されたと聞いている。つまりは、今回も別方向からの攻撃があるのかもしれない。
「確かに言われてみれば他からの攻撃もあるかもしれないわね」
「そのあたりは聖騎士団がやってくれてるの?」
「わからないわ。カイン、議会に連絡してくれる?」
「わかった」
「人使い荒くてごめんね」
「いいわよ」
私がそういうとカインはすぐに議会の方へと走っていった。ここから議会まではそこまで遠くはないためすぐに話ができるはずだ。
「……聞きたかったことはそれだけよ。私はフィンと一緒に市街地を回るわ」
「そう、助かるわ」
「学院寮を守ることができなかったからね。でも今は違うわ」
そういって彼女はフィンと合流して市街地の方へと向かった。
今思い返してみたら、私も随分変わったと思う。学院入学当時は仲間なんて必要ないと思っていた。ともに成長するなんて想像できなかったからだ。
でも、今は仲間も増えて、こうして学院寮を動かせるぐらいまでは私も人脈が増えたのもそうだ。それが私の意図に反してそうなっている。もしかして、エレインがそうなるよう図っているのだろうか。
いや、それは考えすぎかもしれない。
◆◆◆
俺、ブラドはアドリスとともにあの場所へと向かっていた。
先ほど議会からパベリ方面から何者かが攻撃を受けているとの報告を受けた。当然ながら、聖騎士団は要請通り中隊程度の人員を派遣した。だが、俺とアドリスは別の場所へと向かっていた。
「やはりここも攻撃されているのか」
「……そうみたいだね」
ここ一帯を警備していた聖騎士団十人が何者かに暗殺されている。それも鋭利な刃物のようなものでだ。これは明らかに人間が、聖剣や魔剣などで攻撃をしたということになる。
「だが、魔族が侵入しているというわけではなさそうだ」
「もしくはもう出ていってしまったか、だね」
「……どちらにしろ、この周辺も警戒しなければな」
幸いにもこの周辺には人が住んでいるような市街地はない。あったとしてもここから数キロほど離れた場所だ。
とりあえず、一旦は連絡通路に入って確認してみるか。
こんにちは、結坂有です。
本日2本目の投稿となりますが、次回からは激しい戦闘シーンが続く予定となっています。
それでは次回もお楽しみに。
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