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深淵の果て

 俺、エレインとラクア、クレアとで宿に戻った。帰ると予定していた夕暮れはとっくに過ぎてしまい、夜になってしまった。

 リーリアには色々と心配をかけてしまったことだろう。

 そう思い、階段を登って自分の部屋へと向かう。


「エレイン様、お待ちしておりました」


 すると、そういってリーリアが俺たちを呼び止めた。


「ああ、遅くなってすまない」

「いえ、待つことには慣れていますから。それに私たちのところにも襲撃があったのです」

「大丈夫だったのか?」


 俺がそう聞くと彼女は少しだけ顔を赤くしてうつむきながら口を開いた。

 なにかまずいことでも言ったのだろうか。


「大丈夫です。私の心配をしてくださり、嬉しい限りです」

「普通はそうすると思うのだがな……」

「それで、部屋はどうなったのかしら」

「はい。その一件で扉が完全に破壊されてしまったので部屋を変えることになりました。こちらです」


 そういって彼女が案内した部屋へと向かう。

 部屋の中にはすでにマナが眠っていた。襲撃があったと聞いたがよほど疲れているのだろうか。

 部屋は前の場所と広さは変わりないが、ベッドの数が少ない場所であった。ベッドが一つない分、荷物の置き場には困らないとはいえ、これではどうやって五人が寝るべきだろうか。


「……本当に失礼かもしれませんが、こうなってしまった以上は仕方ないです。私とエレイン様は一緒のベッドとして……」

「私とクレアは一緒、ということかしら?」

「そう、なりますね」


 リーリアがそういうとラクアは小さくため息をついた。

 その反応を見てクレアが若干焦り始める。


「わ、私は全然床で大丈夫ですっ」

「そんなに焦らなくても大丈夫よ。ただ、ちょっと不満があっただけよ」

「やっぱり私は……」

「一緒に寝ましょ」


 そうラクアがクレアの発言を遮るようにそういった。

 クレアは俺に対してかなり心を開いている様子ではあるのだが、まだラクアとは打ち解けていない。気の強いラクアと二人きりだと全く話していないそうだからな。

 彼女たちには仲良くなって貰う必要があるが、そのことはゆっくり考えるとしよう。


「わかった、それでいい。それよりマナになにかあったのか?」

「はい。襲撃してきた人が精神干渉系の魔剣使いでして、マナさんは眠らされてしまいました。精神の方は私の方で分析しましたが、特に異常はなかったです」

「そうか。その連中は例の秘匿組織の連中か?」

「そうではないと思います。ただ、私たちがこの中央区に来たときからマナさんを尾行されていたようです」


 慣れない環境のせいなのか、それとも精神干渉系の魔剣の影響かは知らないがここに入ってから尾行されていたとは気づかなかった。

 今後はもう少し警戒を強めるほうが良さそうだな。


「尾行か。警戒が甘かったのかもな」

「……わかりませんが、これからは気を付けなければいけませんね」


 それから俺たちは宿の食堂で夕食を取り、それぞれうまく交代しながらシャワーを浴びて寝ることにした。


   ◆◆◆


 俺、レイとアレイシアはベイラというオラトリア王族の中で次の王女の屋敷へと向かった。

 この屋敷は中央区の中にある、いわば別荘のひとつなのだそうだ。しかし、そうだとしてもかなりの豪邸でここにほとんど住んでいないというのが驚きだ。家政婦を雇っているようで家の隅々まできれいに掃除されている。

 本当に住んでいないというのがもったいないと思う。


「……それで話というのは?」


 この屋敷の中で一番大きな部屋である食堂へと入るとすぐにアレイシアが口を開いた。

 その重々しい雰囲気とは違い、家政婦の人たちは夕食の準備を始めている。俺の目の前に豪勢かつ美味そうな料理が並んでいく。


「ええ、もちろんこの国の闇に関してよ」

「闇、そう聞くと魔族化以外にもとんでもないことが起きているってことかしら」

「その認識で間違いないわ。具体的にいうと、市民の洗脳に関してよ」


 思い返してみれば、村を出るときにそこの村民に追いかけ回されたのを思い出した。確かに彼らに意志があるようには思えなかったし、アレイシアの話によると実際に洗脳といった事実も噂としてはあるようだ。

 そして今、この国のかなり地位の高いであろうベイラという女性から洗脳されているという言葉が出た。やはり噂は本当なのだろうか。


「実際に調査したわけではないけれど、そういった噂が私の耳にも入っているわ。本当に洗脳されている人が多いの?」

「貧困の人たち、いわば低層の人ね。その人たちを対象に洗脳されているわ。これは事実なの」

「証拠は?」

「直接的な証拠はないけれど、簡単に説明するわ。貧困などに苦しんでいる人たちを対象に政府が食料などの生存に必要な物資を支給したの。無償でね。当然だけど、貧困層の人たちはそれを手に入れようと集まるよね」


 食料というのは人間が生きていく上で絶対的に必要なことだ。俺たちが入った村も特に田園などがあったわけでもなく食料を自給自足できるような場所ではなかった。つまりは他から仕入れないといけない場所だった。


「そうね。生きるためだからね」

「実はその食料の中にいくつか薬が仕込まれていたの。主に水の中にね」


 水、食料の中で最も重要となるものだ。

 水分補給以外にも料理や食材を育てるのにも必要になる。そういったものに薬や毒が仕込まれていたとすればもうどうすることもできない。


「薬ね。どういったものなのかしら」

「脳に影響を与えるものだわ。特に前頭葉に作用するものよ」

「そう……。でもそういう薬物って急に摂取したりすれば死人とか出ると思うのだけど?」


 確かに直接脳に作用する薬物で、洗脳が簡単にできるようにまで強力だとすれば当然ながら薬物に弱い人だとすれば脳死してしまうことだってあるだろう。


「ええ、だから政府は継続的にそれを行ったの。一年に六回ほどね。それが二年ぐらい続いたから十回以上は行われているわ」

「調べればわかるかしら?」

「配給に関しては政府の資料にも新聞にも載っているわ」


 なるほど、少ない薬量で徐々に脳の働きを奪っていくという考えのようだ。確かにその方が合理的だな。

 しかし、実際にそれを行ったとして政府になんの利益があるのだろうか。


「そんなことをして、政府になんの利益があんだ?」

「利益、ね。わかりやすく一から説明するわ。まず、低資産の貧困層である人が人口の半分以上を占めているの。裕福に暮らしているのは中央区やその周辺、港町といった場所だけよ。それで、連邦政府っていうのは王族の支持ももちろんだけど国民からの支持が大きいの」


 それは理解できる。政府は王族から統治権を集め、さらには国民からの支持ということで更に強力な権力をもっている。もちろん、統治権を持っていたからと言ってもそれを実行するためには国民から集まる支持という権力が必要となる。

 国を大きく変えるには統治権の他に無理やり実行できるほどの権力が前提となる。


「当然ながら、人間の魔族化なんてものは多くの国民が反対するわ。でもそれを押し通すには大多数の賛成がいるの。そのために人口の半分以上を占めている低層の人たちを洗脳するのよ」

「へっ、結局は権力がほしいだけか」

「……それを行おうとした長官はもういないわ。今もそれがこの国の脅威となるとは思えない」

「実行しようとする長官は死んだからね。でも、洗脳された村民たちはどうかしら。人口の半分以上が魔族化を支持するとすればいくら政府でも対処できないわ」

「つまりは国が分断するかもしれないってことかしら」

「そうよ。その動きは実際に起きているわ」


 そういって彼女はとある資料を取り出して、アレイシアへと渡した。

 内容まではわからないが、どうやら何かの報告書のようだ。


「私たちに仕える一族から情報を集めてもらったの。その報告書に書かれているように政府とは関係のない秘匿組織なる存在がいるわ。それも魔族化が正当だと洗脳された人たちが集まっているみたいよ」

「これは他の王家も知ってるのかしら」

「一部は知ってると思うわ。政府が不正をしているのではないかと疑っている王家も少ないけれど存在するからね」


 その言葉を聞きながらアレイシアはその資料を読み進めていく。


「……レイ、食べたいのなら食べていいわよ」

「ええ、たくさん食べて」

「食べたそうに見えるのか?」

「あら、じゃ食べたくないのかしら?」

「別にそうはいってねぇだろ。まぁ食えるときに食うがな」


 俺は目の前に出された料理へと視線を向ける。

 先程食料の中に薬物が入っているなんて話をしていたからあまり食欲はそそられないが、自身の体力をつけるためには食べるしかない。

 それにベイラも俺たちを洗脳させようだなんて思っていないことだからな。俺はそのまま料理を食べることにした。

 比べるのは失礼かもしれないが、味は非常に美味しいもので中央区の宿で食べた料理と遜色ない、いやこっちの方が美味しいとすら感じる。それほどまでに美味しいものであった。

こんにちは、結坂有です。


少し前の長官や将軍の考えていたことが非常に緻密に計画されていたものだったようですね。

果たして、無事にそれらを阻止することができるのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに……



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

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