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真実の追及

 私、リーリアはヴェルガー政府の大騎士であるダイナという男と戦っていた。当然ながら、ここは宿のため派手な戦いはしていないものの、それでも一太刀喰らえば致命傷になることは間違いない。

 それに、彼も私も同じ精神系統の魔剣だ。そのためエレイン様のようなとてつもなく強力な技は引き出せない。

 そもそも、彼はマナを取り戻しに来たと言っていた。私を殺すことが目的ではないのだろう。


「ダイナさん、私たちはただマナさんを助けたいだけなのです」

「ふざけるなっ、魔族を庇護するなど言語道断っ。お前は人類の敵なのか?」


 ダイナの攻撃の勢いが増していく。

 しかし、私の視界には彼の行動のすべてが予測され、線となって映し出されている。その上、私はエレイン様から少しばかり指導を受けている。彼の動きから身を守ることは容易なことだ。

 もしマナを傷つけようものならそれもすぐに阻止することもできる。

 ただ、予想できないことが起きればその時点で私の守備は崩れてしまう。例えば彼を援護するような人が来るといったことだ。そうなる前に私は彼をなんとかして説得する必要があるのだ。


「人類の敵は確かに魔族で間違いないです。ですが、彼女はそんな魔族でありながらも人間として生きていきたいと考えているのですよ」

「それが間違っていると言っているのだ。魔族ごときが人として生きるなど不可能だっ」

「くっ……でしたら、あなたはどうなんですか? あなたの体が魔族に成り果てたとしても人間として生きていくのでしょう?」

「一体何のことを言っている」


 私がそういうと彼の動きが止まった。

 もしかすると、魔族化のことを彼も少しは知っているのだろうか。そうだとすれば、私たちの集めてきた資料を見せれば理解してくれるはずだ。

 私たちが何日も国内を歩き回って集めたヴェルガー政府の信じられない計画の証拠に彼もきっと言葉を失うだろう。


「まずはここから東の方へと進んだところに森林地帯があります。その場所では密かに人間の魔族化の研究が行われていたようです」


 私は彼の動きを警戒しながら、鞄の中からとある資料を取り出して彼に見せた。


「っ! これは……」

「その研究所から盗み出してきた資料です。その写真に写っているのはマナさんで間違いないですね。彼女は人間から魔族に作り変えられたのですよ」

「こんな……人間が魔族になるのは可能なのか」

「ええ、私も剣聖であられるエレイン様と同行して初めて知りました。特定の人間は魔族に適合するようでその中でも理性を失い、魔の力に飲み込まれてしまった場合は魔族に成り果てるのです」


 私がそう丁寧に天界で経験したことを踏まえて説明した。

 天界で自らの身体が魔の力に侵食されていく感覚は思い出しただけでも気分が悪くなってしまう。それほどに強力で、恐ろしいものなのだ。

 その資料を剣を収めてじっくりと読み込んでいく。当然だが、その書類には政府の長官であるギトリスのサインが入っている。もしかすると、ギトリス長官がなにか企んでいたのかもしれない。

 まぁそのことに関しても後日、エレイン様と一緒に本部へと足を運んで説明をしてもらうつもりだ。


「……その資料を見て、どう思いましたか? このヴェルガーを統括している連邦政府は裏でそのような恐ろしい計画を立てているのです」

「あの、政府機関がこのようなことを?」

「そうです。私たちがエルラトラムからここに来たのもこの国には裏があると思ったからなのです」


 当初はエルラトラムに攻め込んできた二人の大騎士について調査を始めたのだが、進めていくうちにこのような目を覆いたくなるような真実が見えてきた。今となってはこの国は知らないうちに魔族が統治しているのではないかとも考えられる。

 どちらにしろ、この国は人間の国ではなくなる寸前だったのかもしれない。


「……さっきの発言、もし俺が魔族に成り果てたとしても人間として生きていくのか、だったな」

「はい。あなたは人間として強い意志を持っていますよね」

「ああ、そう自負しているつもりだ。だが……」


 彼はマナの方を向いて少し考え込んだ。

 彼の中でも少しばかり葛藤しているのだろう。自分をマナに置き換えたとき、自分はどう感じるか想像しているようだ。もちろん、このことに関してはマナには伝えていない。もともと人間だったと知れば、それこそまだ少女である彼女の精神が崩壊してしまうかもしれない。


「少し考えてみたが、本当に人間だったとすれば人間として扱ってやるのは当然だな」

「そうですよね」

「まだ、俺自身は魔族化に関して信じているわけではないからな。この件に関しては政府に直接言及しなければいけない」

「ええ、私たちもその予定でした」

「……そうなのか」


 そういって彼は資料をめくって読み進めていく。


「ここに書いている秘匿の組織とは一体なにか、知っているのか?」


 すると、資料の最後の方に書かれていたギトリス長官が設立した秘匿の組織のことを彼が聞いてきた。

 そのことに関してはまだ私たちも調査ができていない現状だ。ただ、ラクアが個人的にあの施設に乗り込んだ際に話をしたことがあるそうだが、その時の記憶をあまり覚えていないそうで結局はわからないままだ。


「いえ、その組織に関しては全くわかっていません。研究所の中にいた人たちはその組織とは何も関係ない人たちだったので……」

「そうか。この組織に関しては俺も少しは心当たりがあるからな。とりあえず、今は許しておいてやる」


 それからは彼から何か攻撃を仕掛けることはなく、マナを精神干渉を解くと宿を出ていった。

 ちょうど、蹴破られてしまった扉はどうすることもできないため、宿の人に別の部屋を借りることにした。

 扉を蹴破ったのはダイナで彼がそれらのことを対処してくれたが、別に蹴破る必要はなかったのではないかと今更ながら思った。


   ◆◆◆


 俺、エレインは待合室へと向かった。

 とりあえず、魔族に変貌してしまったギトリス長官のこととデライト将軍に化けていた魔族に関しての説明をした。

 まぁ長官と将軍が突如としていなくなったとしても政府には副長官と呼ばれる人がいるようで、その人が後任として仕事を引き継ぐそうだ。そのあたりに関しては俺としても問題視していないが、一番の問題はこれからこの国がどういった道を進んでいくかだ。ただ、そのことはアレイシア含め俺たちが関与するべきところではないがな。


「……それにしてもよ。久しぶりに見たぜ? あの走りながら斬り込んでいく技、一歩のうちに何回斬りつけてんだ?」

「大体八回ぐらいだな」

「へっ、地下施設のときから何一つ変わってねぇな」

「いや、あのときは一歩の間に五回しか斬っていない」


 俺がそういうとレイは小さくため息をついて呆れたように口を開いた。


「ったく、お前には驚かされてばっかだな」

「け、剣聖とは名ばかりだと思っていたけれど、こんなに強い人だったとは想像していなかったわ」


 俺たちの会話を聞いていたベイラがそうつぶやいた。


「そ、そうなんですよっ。エレインさんは強いのです」

「そもそも、エレインが特別すぎると思うのだけどもね」


 アレイシアを避難させてくれていたクレアとラクアもそう話に入ってきた。

 確かに聖剣と魔剣の両方を持っているのは特別なのかもしれないな。ただ、俺の持っている技術に関しては少しきつい訓練をすれば手に入れることのできるものではある。そこまで特別だということではないような気がするがな。


「……エレインは自分を特別だとは思ってないのよ。自覚がないだけなんだけどね」

「そのとおりだぜ」


 アレイシアとレイもそういってまた俺のことを特別扱いする。

 彼女はともかく、レイも同じ意見とは意外だった。俺からすれば彼が特別に見えるからだ。


「ともかく、一旦俺は宿に戻ることにするが、アレイシアたちはどうするんだ?」


 俺がそう彼女に問いかけるとベイラが彼女の方を向いて口を開いた。


「あの、オラトリアの屋敷に泊まってほしいわ。いろいろと話しをしなければいけないことがあるからね」

「……そう、わかったわ。エレイン、久しぶりに会えて嬉しいのだけど、仕事をしないといけないわ」

「そうか。レイ、アレイシアの護衛は任せた」

「おうよ」


 そういって俺たちは宿に戻ることにした。

 アレイシアやベイラと話して改めてこの国は闇が深いと思った。人間を魔族化する、それだけでも大問題なのだが、それ以上にもっととんでもないことを企んでいたのではないか、それも長官が死んでしまった今も続いているのではないか。

 施設から盗み出した資料にも秘匿組織の存在が書かれてあったからな。今後も警戒しなければいけないのは確かなようだ。

こんにちは、結坂有です。


物語はまた新たな展開に進んでいきそうですね。この国の政府機関はこれでなんとか正しい道に進むことになりそうですけれど、まだまだ解決しなければいけない問題も多く残っているようです。


それでは次回もお楽しみに……



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