連邦政府幹部の崩壊
俺、エレインは連邦政府の、いやすでに魔族と成り果ててしまった幹部と対峙していた。後ろにはオラトリア王族次期王女であるベイラがいる。この魔族らを倒したら詳しく話を聞くことにしようか。
今するべきことはとりあえず、目の前にいる魔族をどうにかすることだ。
「エレインっ、どう倒す?」
「好きにすればいい」
「へっ、なら俺はあのデカブツをやるぜ」
「ああ」
そう俺が返事をするとレイはかつてギトリス長官と呼ばれていた巨大な魔族へと走り出した。
その大きな体に見合うように力も強大化した彼を相手にするのは確かにレイの方が都合いいだろう。俺はもう一人のデライト将軍に化けていた魔族へと対象を移す。大聖剣となったイレイラを引き抜き、攻撃態勢を取る。
「人間ごときが聖剣を手に入れたからと言って勝てると思っているのですか?」
「当然だが、聖剣を手にしたからと言って勝てるとは思っていない。その使い手の実力次第だな」
「ふははっ、実力と言ってもたかが人間です。この魔族の力には到底及ぶはずがないのですよ」
「それはどうかなっ」
俺もデライト将軍に化けた魔族へと走り出した。もちろん、将軍自身は聖剣を持っていたそうだが、目の前の魔族に殺されたのか今は持っていないようだ。その点だけは俺の方が優勢といった状況だ。しかし、肉体としては彼ら魔族と比べるとかなり脆弱だ。
「ふっ」
聖剣で魔族へと斬りつける。だが、相手もかなりの手練のようでそう簡単には攻撃を喰らわない。
「弱い人間が聖剣やらでいくら強化したところで、魔族のこの強靭な肉体には敵わないのですよっ」
「っ!」
それなりに素早い動きで剣を捌いていたのだが、それを容易く強靭な腕で刀身を掴んだ。相手の肉体は鋼鉄のように硬く斬るには少しだけ工夫が必要だ。
「そんな剣捌きでは到底魔族には勝てないですよ。下位の連中を多く殺した程度であまり調子に乗らないでほしいですね」
「なるほど、少なくともあいつらよりかは強いということか?」
「ええ、それはもちろんです。下位の魔族はむしろ捨て駒のような存在、我々上位種が自由に伸び伸びと生きるためのいわば犠牲といった連中ですよ」
下位の魔族を捨て駒のように使って人間に圧力をかける。そうすれば上位の魔族はその分楽に生活ができるといった戦略のようだ。
まぁそれもそれで一つのやり方ではあるが、そう長くは続かない戦略でもあるか。
「あんたら上位の魔族に扱き使われる下位がどう思っているのか知っているのか?」
「知る必要はないでしょう。彼らは考えもなければ意志もない、ただ我々上位種に操られるだけの存在なのですから」
「そうか。悪いが、そのやり方を続けている限りは人間には勝てない」
「そんな戯言を……」
俺は大きく一歩を踏み出し、相手の懐へと入り込む。すると、相手は俺の動きを止めようと掴んでいる腕が緩む。その一瞬の隙を突いてイレイラを引き抜く。
「なっ!」
「魔族も当然ながら強い。しかし、人間もまた知恵を磨くことで強くなっていく」
そして、俺は相手の腹部を斬り裂こうとイレイラで斬りかかる。だが、それも強靭な脚力を持った相手は一瞬にして距離を取った。
「馬鹿なことを……いくら知恵や技術を身に着けたところで人間と魔族との体格差は変えられません」
「さぁ、どうかな」
俺はイレイラを一度納刀し、姿勢を低くして居合の構えを取る。地下施設で訓練をしていた時に一度だけ使ったことのある技で、その技は俺の持つ技術のすべてが凝縮されていると言っていいものだ。こいつを倒すには丁度いいだろう。
「そんな居合の構え……。人間同士が戦い築き上げられた技術など、我々上位種の脅威にならないのですよ」
人間の構えを多少は知っているようだが、俺がやろうとしている技は居合とは全く違ったものだ。そもそも考えからして違うからな。まぁそんなことはどうでもいい。
彼が言い切った直後、俺は地面を蹴る。
周囲の景色が線状に伸びていき、俺はその中で重みのないイレイラを思うがままに斬り裂いていく。もちろん、聖剣や魔剣の能力を使っているわけでもない。すべて俺の持っている技術だ。
『迅雷耳を掩うに及ばず……といった感じゃの』
『”疾走掩襲”ご主人様の記憶の中だけでしたが、実際に見てみるととんでもない技術ですね』
疾走掩襲という名はクロノスが付けてくれたものだ。この技は相手の不意を狙って急速に接近し、俺が持てる最速の斬撃を相手に複数斬り込む技だ。
当然ながら、強靭な肉体を持っていようとも高速かつ強烈な斬撃までは防ぐことができないだろう。
「ぅがぁ!」
振り返って相手を見てみる。斬り落とすことができたのは両腕だけであった。首も狙ってみたのだが、流石に聖剣の力を使わないと斬り落とすことができなかったようだ。それ以外は深く斬り裂かれた傷が腹部から背部にかけて無数に広がっている。どれもあいてにとっては致命傷だっただろう。
「に、人間業ではないなっ!」
「……俺はこれでも人間のつもりだ」
「不可能……あれほどの加速、あれほどの速さで剣を捌けるはずなど……」
最後まで言い切ることなく、彼は力尽きてしまった。
「きゃっ」
ベイラが声を上げる。
振り向いて彼女の方を見てみると、先程の巨大な魔族がさらに大きさを増してレイを踏み潰そうとしている。
「てめぇ、どこまでデカくなりやがんだっ!」
「天井が壊れるわよっ」
少し目を離した間にとんでもなく大きくなってしまったようだ。
「レイっ、大丈夫そうか?」
「こいつ、動き回ってやがるから急所を狙えねぇ」
彼の言うようにこの巨大な魔族の急所は大きく肥大化した肉によって狙いづらくなっている。そのうえ、妙に機敏な動きから狙うのは容易ではない。
それに彼の魔剣はあくまでレイ自身の能力を最大限に強化するものだ。もちろん、それだけでも十分強力なのには変わりないが、相手があまりにも巨大すぎる。
「動きは俺が止める」
「……あんま無理はすんなよ」
「ああ、わかっている」
相手の動きを止めるのは俺の魔剣の能力を使えば問題ない。それにこいつには高い知能を持っているようには思えない。
俺は魔剣を引き抜き、巨大な魔族へと走り込む。
そして、魔剣を巨大な肉塊へと突き刺すとジリジリと動いていた歯車が止まり始める。
『時は枷となりて……』
そうクロノスがつぶやくように言うと相手の動きが緩やかになってきた。
「レイっ」
「わかってるぜっ」
すると、俺の上を彼が飛び越え巨大な魔族の首へと飛びかかる。
「オラァ!」
彼の強力な一撃が魔族の頭部を両断した。その攻撃は致命傷となったのか巨大な魔族は黒く腐ってしまった血液を撒き散らしながらくずおれていった。
「くそっ、最後の最後まできたねぇ奴だなっ」
「……それにしても魔族化と呼ばれるものはここまで酷いものなのだな」
俺も天界で一度だけ魔族に変化しかけていた時があった。あのときは自我がはっきりしているうちに自分でそれらのもとを断ち切ったのだが、もしそうしなければなければこのギトリス長官のように理性を失っていたのかもしれないな。それに完全に俺の中にある魔族の力は断ち切れていないことだろう。実際に魔族であるマナが俺のことを同じだと言っていた。
それらのことに関してもベイラという女性から話を聞くことができるはずだ。
「まったくよ。中央区の王族や貴族たちにも魔族化を進めようとしていたの」
「へっ、どこまでもふざけたやつだな」
「仕方ないわ。彼自身もこんな醜い姿になるなんて想像していなかったみたいだからね」
「理性がなくなることもわかっていなかったかもな」
とりあえずは政府本部の魔族は制圧できた。先に避難させていたアレイシアたちも無事なことだろう。
このベイラという女性からはいろいろと聞きたいこともあるからな。
「ベイラといったな。聞きたいことがあるのだが、問題はないか?」
「……拒否できる立場ではないからね。いいわよ」
「ならアレイシアのところに行くか」
それから俺たちは一階の正面エントランスを少し進んだ場所にある待合室へと向かった。
こんにちは、結坂有です。
徐々にヴェルガー連邦政府の闇が暴かれようとしていますね。
彼らは一体何を企んでいたのでしょうか。そして、それらは本当に解決したのでしょうか。
それでは次回もお楽しみに。
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