連邦政府の切り札
私、リーリアは宿の中でエレイン様が帰ってくるのを待っていた。
時間も五時を過ぎ、日が沈み始めている。夕方頃には帰ってくると行っていたが、何かあったのだろうか。もし何かに巻き込まれているのだとしたらすぐに向かったほうがいいだろうか。
「エレインたち、遅いね」
「そうですね。もう日も沈んできました。何かあったのでしょうか」
マナが心配そうに窓の外を見ている。私自身も若干不安ではある。
とはいっても、私たちがどこかに行ってしまうと入れ違ったときに迷惑をかけてしまうことになる。それだけは避けたい。だから、私は彼らが無事に帰ってくることを信じることにした。
「マナさん、エレイン様たちなら大丈夫ですよ」
「……そうだといいけど」
「なにか心配なことでもあるのですか?」
「うーん、関所っていうのかな。あの辺りを超えたところから妙な力みたいなのが感じるの……」
「妙な力?」
「うん、なにか危険なもの」
マナの察知能力はかなり高いものだと今までの旅でわかっていた。おそらく危険なものであるのは間違いないのかもしれない。
ただ、それが一体何なのかはわからないといったところだろうか。マナもまだ子供のためその力がどういったものかわかっていないはずだ。ただ、それだからといって今すぐエレイン様を助けに行く理由にはならない。
「そうなのですね。それは自分に近いなにかではないのですか? ヴェルガー政府はあなたを使って色々と実験をしていたと聞いています」
「どうだろ。違うものだけど、全くの別物ってわけではないと思う」
どういうことだろうか。魔族に近いものなのかはわからないけれど、少なくとも全く関係のないものではないということのようだ。
ただ、本当にそれが危険なものなのかは判断できない。実際にマナは魔族ではあるものの人間としての理性を保っている上に人間として生きていきたいと考えている。もしかすると、中央区には彼女のような人間な他にもいるのだろうか。
そんな事を考えていると私の持っている魔剣が震えてなにかに反応している。
「……ぅぐっ」
その直後、マナの様子が急に変わった。なにか苦しそうに頭を抱えた。
「マナさん、どうかしましたか?」
「うぅ……なにか、来るっ」
「何が来るのですか?」
そう彼女に話しかけた直後、扉が吹き飛ばされた。
「っ!」
「ここにいたのだな」
入ってきたのは一人の男性、そして彼の手には剣を持っている。
「だ、誰ですか?」
「お前は確か俺と同じ精神系の魔剣使いだったな。まぁいい、俺は連邦政府直属の大騎士、ダイナ・アルテリアだ」
三年前の容姿から随分と変わってしまった。あのときはもっと好青年といった印象だったのだが、何が彼を変えてしまったのだろうか。
「アルテリア王家の……一体何のようですか」
「わからないのか? そいつは魔族、人間の敵だ」
「ええ、彼女が魔族なのはわかっています。ですが、彼女は人間になりたいと言っています。その彼女の意志は尊重されるべきだと思います」
そう、彼女は魔族だ。しかし、それでも人間に近い見た目をしており、何よりも人間として生きていきたいという信念がある。
それに、アルテリア王家の大騎士は代々”精神干渉”と呼ばれる精神に関する能力を持ったいわゆる魔剣を持っていると言われている。
「尊重? そもそも魔族にそのような権利があると思うのか?」
「……魔族でも人間として生きたいと言ってもいいと思います」
「お前は知らないと思うがな。警備が厳重になったあとになって、そいつがこの国に侵入してきた。ありえないと思わないか?」
確かにこの国は魔族が侵入するには少し難しい。船を使って入らなければいけない上に、国土を取り囲むように大量の警備隊が監視をしている。
船を使って侵入しようとも、泳いで侵入しようとも難しいはずだ。それなのに彼女だけが国内で捕まったというのはおかしいと思う。
「ええ、私もありえないと思います」
「ふっ、そいつが何らかの手段で人間を誑かしてここに侵入してきたに違いない」
「彼女の精神を一度分析したことがあります。彼女には高い思考能力を持っていないのですよ。不自然ではないですか?」
マナにとっては不本意なのかもしれないが、私は彼女の精神状況を魔剣を使って分析をした。それでわかったのは彼女に高い知能がないということだ。
そんな彼女が巧妙に人間を騙してヴェルガー国内に侵入できるはずがないのだ。
「お前の実力がないだけではないのか?」
「あくまで信じない、ということですか」
「その魔剣の能力が具体的にどのようなものなのかはわからないが、俺は大騎士としての称号を与えられている。少なくとも俺のほうが上のはずだ」
私も彼のことを知っている。それに彼も私のことをある程度知っているはずだ。確かに私にはなんの称号もない。それでも彼よりかは上だと確信している。なぜなら、彼の精神分析はすでに完了しているからだ。
「……それはどうでしょうね。私もエルラトラムでは強いほうだと自負していますので」
「この俺に従わないというのだな」
「ええ、エレイン様のためにも彼女をあなたに引き渡すわけにはいきません」
「ふっ、その剣聖とやらも精神干渉の前では無意味。邪魔であるお前を倒せば、剣聖を倒すのも容易い」
彼はどうやら自分の持っている精神干渉の能力が万能だと勘違いしているようだ。精神支配を得意とする私ですら、彼に勝負を挑んで勝てるとも思っていない。本気で戦ったとしても相討ちが精一杯だ。
「どうやら私の魔剣の能力は知らないのですね」
「知ったところでこの俺の精神干渉に勝てるはずがない」
「……随分と下に見られていたのですね」
私自身、あまり怒りを覚える性格ではないのだが今の発言には少しだけ腹が立ってしまった。三年前、軽く自己紹介したときはもっと礼儀正しく優しそうな人間だと思っていたが、まさかここまで変わってしまうとは……
「事実、下だからな」
「それは私を倒してから言ってくださいっ」
私は一気に駆け出した。
後ろには精神を狂わされ、気を失ってしまったマナがいる。
彼女の自由のためにも、そしてエレイン様のためにも私はここで守らなければいけないのだ。
こんにちは、結坂有です。
リーリアとマナのところにも刺客が向けられたようですね。少し経緯は違うようですが……
これからどういった展開になるのでしょうか。
それでは次回もお楽しみに……
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