ボクの考えること
ボク、リアーナは久しぶりに楽しんでいた。正確にはレイと戦って以来かな。目の前にいるエレインの剣技、レイの技とは全く違う。技量は同じでもその扱い方が違う。ボクの見立てではエレインはどうやら技巧派のようだ。レイは力でもって技を制しているといった感じで双方ともに互角。
もちろん、目の前にいてる彼が本気ではない可能性もあるが、どうだろう。ボクには到底理解できるものではないのかもしれないね。
「ふへへっ、楽しいね」
思わず溢れる声、それに応じるかのようにエレインも笑った。
「リアーナと戦っていると思い出す。あの地下施設での訓練をな」
「レイの力を最大限に引き上げる、それがボクの能力だよ。”超過”という名だけどそれは正しくないかもしれないよ。だってボクの実力は持ち主の技量に基づいているからね」
「そうか? リアーナの持ち主は明らかに力を増しているのだろう。それなら”超過”という能力も間違いではない気がするが?」
ボクは会話をしながら剣を振るう。もちろんボクは本気で振るっている。エレインの持つ大聖剣とボクの魔剣とが交差し、火花が竜巻のように舞う。
ボクたちの戦いは他の人からどう見えているのだろうか。花火のように美しいのだろうか、もしくは恐ろしいのだろうか。普段はそんなことを考えてすらいない。それほどまでに今のボクは興奮しているようだ。
自由奔放なボクの思考や精神は邪魔なものだと思っていた。ボクが堕精霊に堕ちてしまったのもこの自由な精神がきっかけだ。でも、今はそうは思っていない。
なにもかもが解放され、自由となったボクを極限まで引き上げてくれる主を見つけた。そして、強くなったボクより強い存在と今戦っている。どうしてかはわからないが、これまでで一番幸せで楽しい。
「ふははっ、その能力の名に恥じないような……そんなボクになりたいねっ」
ボクは自分の持てる全ての技をエレインにぶつける。壊れることのない人形を無造作に殴りつけるかのように……
◇◇◇
エレインと戦う直前、ボクは保管室の中に閉じ込められていた。厳重に金属で覆われた箱の中にボクはいた。
当然ながら、ボクが出現するためにはある程度の空間が必要だ。しかし、金属の箱の中では自分の体を顕現させる事ができない。
「……困ったな。レイにはあんなふうに言ってしまったけれど、どうすることもできないや」
そんなことでどうするべきか考えてみるも自分自身が顕現できないのなら何もできない。少しはレイの役に立ちたいと思って意地を張ってしまったのがいけなかったのだろうな。
カシャン
すると、なにか鍵のようなものが外れる音が聞こえた。そして剣の周囲の空間が広がるのを感じた。
ボクはとっさに姿を顕現させることにした。どうしてかはわからないけれど、また箱の中に閉じ込められてはもう出られないかもしれないからだ。
「な、なにっ!」
姿を現して周囲を見てみる。
持っていたボクの剣を落として見つめてくる彼女は格式の高そうな服装だ。
「……ボクを出してくれたのかな? それとも別のところに移動させようとしただけかな?」
「ま、魔剣のたぐいなの……?」
「そういったところかな。それで、君はボクの敵? それとも味方なのかな?」
「いいえ、違うわ。私はベイラ・オラトリア、オラトリア王族の次期王女よ」
次期王女? それもオラトリア王族の。
レイの護衛対象のアレイシアって人が言ってたのを思い出した。オラトリア王族は政府に対して反発的な行動をしている一族だった気がする。
「……ますます信用できないなぁ」
「あなたは知らないのだと思うけれど、この国の政府はとんでもないことを企んでいるの。確かに私の父は過激なことばかりしてるわ。それでも協力してほしいの」
「何を言ってるのかな? この国の政府のことなんてボクにまったく関係のない話だね。それに君に協力したところでボクになんの得があるのかな」
そもそもボクをどうしようというのだろうか。
とりあえず、敵ではないかもしれないが、彼女の本心がどうなのかまではわからない。
「レイとアレイシア議長を助けれるわ」
利害が一致するのなら協力してもいいだろう。かといってこのベイラとかいう女性を信用するわけでもない。あくまで主を、レイを助けることだけが目的だ。
「ま、話だけなら聞いてやってもいいけどね」
「本当なの?」
「うん。それで、ボクは何をすればいいのかな?」
すると、彼女は扉を開けて外の様子を伺うとすぐに鍵を閉めた。
「えっと、いろいろとあるのだけど、暴れてほしいの」
「暴れる?」
「ええ、暴れてこの本部を警戒態勢にしてほしい。そうすれば私が裏で動きやすくなるから」
「へぇ、それだけでいいの?」
「そうよ」
やろうとしていたこととほとんど変わりないか。
いまいち彼女の目的がわからないが、そこまで深く考える必要はないか。どうせやることは一緒なんだから問題はない。だが、一応確認しなければいけないことがあるな。
「でも、我が主のレイは殺すなと言ってたんだよね。それでもいいのかな?」
「別に殺さなくてもいいの。注意を引いてほしいってこと。できれば上層の幹部たちが避難するぐらいには暴れてほしいわ」
「なるほど……ほどほどに頑張ってみるよ」
「そう、だったら……っ!」
ボクは鉄の扉を蹴り飛ばした。
金属が裂け、破裂音が本部中に響き渡る。
「ちょっと!」
「暴れればいいんでしょ? なら、問題ないよね」
「そうだけど……」
「じゃ、君も頑張ってね」
ボクはそういって廊下を走り出した。
それと同時に警備員の人たちがボクを囲み始める。
大丈夫。今のボクは最強なんだ。何も怖くはない。
◇◇◇
俺、レイは時期を待っていた。
横の牢屋にはアレイシアがいる。俺が銃弾で気を失ってしまったのは誤算ではあったが、それでも近くに彼女がいるだけでも幸いだったと言えるだろう。まぁ俺一人だけならここから抜け出すことも簡単ではあるものの、アレイシアを一人にさせるわけにはいかない。エルラトラムにとって議長である彼女は最重要人物なのだ。それに俺たちの恩人でもあるからな。
ただ、それよりもリアーナが何かをしてくれるそうなのだが、今の俺にできるのは彼女の活躍を信じるしかない。
「レイ、もしここから抜け出せなければ……」
「あ? 聞きたくねぇな。ぜってぇここから二人で抜け出してやるぜ」
「……大丈夫、なのかしら」
「へっ、心配しなくても大丈夫だ。何があっても守ってやる」
正直言うとそれは無責任な言葉なのかもしれない。でも、俺にはそういうしかなかった。今の彼女は囚われの身で精神的にもかなり疲弊してしまっているはずだ。
「守られてばかりよ」
「そんなことねぇよ。俺たちの居場所を確保してくれたのはアレイシアなんだろ? こうやって生きていけるのもアレイシアのおかげなんだ」
「……」
「だから気にすんな」
「ありがとう」
彼女はか細い声でそう感謝の言葉を口にした。
すると、急に警備員たちの動きが慌ただしくなった。
そして次の瞬間、ジリリリッとベルのような音が響いた。
「何だ?」
「警報、かしら」
「警戒態勢に入るぞっ! 訓練じゃないからなっ!」
どうやら俺たち以外の誰かが脱獄でもしたのだろうか。いや、そもそも俺たち以外に捕まっている人なんていないと思うのだがな。
しばらくすると、牢屋の周辺を警備していた連中がいなくなった。他の場所へと向かったのだろう。それにしても誰ひとりいねぇとはな。
「……向こうに行ったみてぇだな」
「そうね」
「じゃ、早速……」
そう鉄柵を蹴ろうとした瞬間、ヒールを履いた人が走ってくる音が聞こえた。
俺は蹴るのをやめて様子を伺うことにした。すると、走ってきたのは華奢な女性で豪勢な服装をしていた。
「何をしようとしてるの?」
「見てわかんねぇのか?」
「……扉を蹴破ろうとしているのかしら」
「なんか文句あんのか」
俺がそう威圧を込めていうと彼女は小さくため息をついた。
「敵かもしれない人間に脱獄しますってどういう神経してるのよ」
「あ? やろうとしてることを堂々と言って何が悪いんだ?」
「ほんとバカね。とりあえず、牢屋の鍵よ」
そういってその女性はアレイシアに鍵を渡した。
「どうして私に?」
「……流石にこの人に渡すのはね。ちょっと心配というか」
「鍵を折るようなバカじゃねぇっ!」
急に来て失礼な女性だ。まぁでも助けてくれるってのなら何も問題はねぇんだけどな。
「……その服装、オラトリアの人なの?」
「ええ、オラトリア次期王女のベイラよ」
「一つ聞くけれど、これって政府への嫌がらせで行ってるの? もしそうだとしたら助けはいらないわ」
「もちろん嫌がらせよ。でもそれだけじゃない。政府のやろうとしてること、目指している未来への反対なの。逃げるかどうかはアレイシア議長に委ねるから、私は私のすることをするだけ」
そういって女性は足早に地下牢を離れていった。
何が言いたかったのかはわからないが、少なくとも助けてくれたのは感謝しなければな。
それにしても彼女の本当の目的は何なのだろうか。
「レイ、少しだけ面倒なことになるかもしれないけれど大丈夫?」
「へっ、上等だ」
「それはよかった。ここから抜け出しましょうか」
そういってアレイシアはゆっくりと立ち上がり、牢屋の鍵を開けてくれた。
「じゃ、まずはレイの魔剣を取り戻さないとね」
「そうだな」
「私はここで隠れているから……ひゃっ」
近くの棚に隠れようとする彼女を俺は抱き上げた。
「隠れるなんて危険だ。一緒に行くぞ」
「ちょ、ちょっとっ」
そして、俺たちは地下牢を抜け地上階へと駆け抜けた。
こんにちは、結坂有です。
本日2本目となりました。
無事に脱獄することができたレイとアレイシアですが、これからどうやって本部から抜け出すのでしょうか。それとも抜け出さないのでしょうか。
それでは次回もお楽しみに。
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