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慌ただしい連邦政府本部

 俺、エレインは中央区のラクア、クレアの二人と歩いていた。もちろん調査のためでもあるのだが、それ以外にも理由があった。


「エレイン、なにか探しているの?」


 中央区の中がどのような街並みなのかを調べる目的の他に俺は違和感を抱いていた。町並みとは関係のない特異なその違和感をすぐに調査したほうがいいと思ったのだ。


「なにか気になることでもあるのですか?」


 隠していたわけでもないため、勘の鋭い彼女たちも俺の行動に不自然さを覚えたのかもしれないな。ここは正直に伝えるべきだな。


「ここに来てから違和感があってな。それが消える前に調べておきたかったんだ」

「違和感?」

「ああ、誰かに呼ばれているような気がしてな」


 精霊とかといったテレパシーのたぐいではないが、俺を呼ぶような感覚がする。

 それが一体何を意味するのかは不明だ。

 アンドレイアやクロノスには感じられないようでただ単に俺の勘違いという可能性もある。


「……私には何も感じられないけれど?」

「まぁ勘違いかもしれないがな。調べてみないとわからないだろう」

「そうですね。別に早めに調べても何も支障ありませんしね」


 いずれは中央区を詳しく調べあげ、連邦政府の不正を調べようとしていたところだ。早いに越したことはない。それにこの違和感の正体もいずれわかることだろう。

 それからもしばらく中央区を歩き回ったのだが、特に変わった様子もなく時刻は三時過ぎとなった。


「それで、ある程度歩き回ったのだけどどうするの?」

「いろんなところを探しましたけれど、なにも怪しいものはなかったですね」

「そうだな。俺の勘違いなのかもしれないな」

「……連邦政府本部、外観だけでも見ていく?」


 そういえば、今俺たちがいるところから本部の場所はかなり近かった気がするな。後で証拠を集めて追求する場所でもある。夕方まで少し時間があるため、外観を見るだけなら大丈夫だろう。


「ああ、せっかくここまで来たからな」


 そして、数分歩くと連邦政府本部が見えてきた。巨大な建物の本部には豪勢な居住空間が広がっているのだそうだ。王家の代表となる人たちが殆どの時間をあの本部で住むことになっているそうだ。

 まれに出張などでヴェルガーのどこかへと向かうこともあるそうだが、一年の八割以上はあの本部で仕事をしているらしい。

 中の様子まではわからないとはいえ、その話を聞くだけでも内部は快適な空間となっていることは確かなようだ。一見するとゆるそうな警備もよくよく見てみるとかなり厳重にしている。本部の周囲を死角なく監視できる塔があるため、そう簡単に侵入することは不可能だ。


「……侵入しようだなんて考えてない?」

「いや、無計画にそのようなことをしようとは考えていない」

「つまりは計画的にやろうとしているということですね」


 まぁ侵入するべきなのかはさておき、少しだけ不審な点も見えてきた。

 確かに外から見ているとただ巨大な建物だとしか思えないが、警備をしている人たちの様子を見ていると何かを警戒しているようにも見える。理由はともあれ、内部でなにかが起きているというのは間違いない。


『この感覚、明らかにリアーナの力ですね』

『ふむ、あの場所にいるのじゃろうか?』


 すると、魔剣からアンドレイアとクロノスが話しかけてきた。

 リアーナというのはレイの持っている魔剣の堕精霊のことだ。しかしそれにしても、どうして彼の堕精霊がこんなところにいるのだろうか。


「行ってみるしかないか」

「え? さっきは行かないって……」

「侵入はしない。正面から入ればいいだけだ」


 何も忍び込む必要はない。今の俺には剣聖という称号を持っている。それがどのような効力を持っているのかは今までの旅で散々理解してきた。おそらくあそこにいる警備隊の人たちも信用してくれることだろう。

 ただ、政府関係者が俺たちのことをどう思っているのかが気になる。敵対的な考えを持っているのだとすれば本部の中に入れてくれるようなことはしてくれないだろう。まぁ入れなかったときはその時で考えればいいだけだ。今はリアーナを見つけ出すところから始めるか。

 そして、俺たちは本部へと向かうことにした。

 本部の正面に近づき、警備の人と話をすることにした。


「……剣聖様っ!」


 どうやら彼らは俺のことを知っていたようで、すぐに警戒を解いて話しかけてきた。


「本部の中に入りたいのだが無理そうか」

「えっと、なんの要件でしょうか?」


 要件がないと中には入れないか。当然といえば当然か。いくら剣聖だからといってなんの用事もなく入ることはできないということのようだな。こういったときにはリーリアがなんとか交渉してくれるのだが、残念なことに今は彼女はいない。


「要件は言わなければいけないのか」

「そ、その……一応上の方に許可をしなければいけないので」


 多少威圧的な態度で聞いてみたが、入らせてくれないようだ。まぁまともな要件を考えていない以上無計画過ぎたと言うことだ。

 そんな事を考えているとラクアが後ろから話しかけてきた。


「私のこと、覚えているかしら」

「え、あっ、精霊を体内に宿しているっていう……」

「そうよ。私のことでゼライト将軍に話したいことがあるの」


 ラクアは軍の上層の方ではかなり名が知られているようではある。そして、体内に精霊を宿しているという特殊な存在でもあるからな。確かにそれで要件があるといえば納得できるところもあるだろう。


「話したいことと言われましても……今は警戒態っ」

「バカっ、そこまで話すなっ」


 警備員の一人が話していた人を肘で突いて注意する。

 予想していたようにどうあら本部の中は警戒態勢に入っているようだ。薄々気づいていたもののそれでも確信はなかったのだがな。

 それにしても外を警備している人は焦っている様子もなく、ただ見張りを多くして警備を強めているようにしか思えない。もしかすると本部の中で何かが起きているのかもしれないな。


「なるほど、警戒態勢だから入れないということか?」

「……本部の内部状況に関してはいくら剣聖様とはいえ、話すことができません」

「一応私も軍の関係者よ。それでも中に入ることができないのかしら?」

「内部の状況に関しては話すことも入れることもできないのでして……」


 上からそう命令されているのだろうな。それならば一介の警備員ではどうすることもできないか。

 これ以上話していても無意味だな。

 そう思った直後……。


「ほっ」


 少女のような軽快な声が聞こえた直後、警備員の一人が吹き飛ばされた。


「なっ!」

「クレア、下がっていた方がいい」

「は、はいっ」


 この強烈な気配は明らかに堕精霊で間違いない。そしてなによりも気配がレイのそれに近い。

 吹き飛ばされた警備員を見てみると動くことのできないほどの怪我を負っているのは確かだが、無作為に殺しているといった印象はない。


「こ、ここまで来たのかっ!」

「地下牢の最深部だって話なのに……」


 どういうことなのかは全くわからないが、リアーナがここにいるということはレイも近くにいるということなのだろうか。


「……あれ? レイのお友達の?」


 すると、リアーナは俺に気づいたのか近づいてくる。


「こ、このっ!」


 当然ながら、彼女を止めようとして警備員の一人が突撃する。しかし、それを彼女は軽くいなし、蹴り飛ばした。


「弱い……。これじゃ腕試しにもならないなぁ」


 ただ、これ以上暴れさせるのも問題になるか。死人はまだ出ていないようだが、何かが起きてからでは遅いからな。


「一つ聞く、レイはどうした?」

「どこかに捕まちゃったみたい。でもどこにいるんだろうね。結構探し回ったのだけど、ボクだと見つけられなかった」


 彼が捕まったというのは信じられないのだが、リアーナがそういうのだから本当なのだろう。ここでそんな嘘をつく必要なないのだからな。


「なるほど、それで暴れていたということか?」

「そういうこと。混乱を起こせばなにかわかるかなって」

「まぁ間違いではないが、これ以上は問題になる」

「ふーん、ボクを止めるんだ」

「できないこともないだろう」


 俺がそう言うと彼女は不敵に笑い始めた。


「ふははっ。無意味な戦いだとわかってるけれど、興味が湧いてきたよ」

「ラクア、クレア。レイという人物を探してきてくれないか?」

「別にいいけれど、大丈夫なの?」


 ラクアにもリアーナがどれほどの強さなのか直感で気づいたはずだ。とてつもない力を持っているのは間違いないのだからな。

 それでも彼女はただ腕試しをしたいと言っている。もちろん、俺もリアーナも殺し合いをするつもりはない。それに、ここで彼女と戦うことでレイの脱出も考えることができるからな。


「問題ない。少なくとも死ぬようなことはない」

「……わかった。いきましょ」

「はいっ」


 そういって二人は本部の中へと走っていった。

 当然ながら、周りの警備員の人は彼女たちを止めるようなことはしない。それよりも対処しなければいけない存在がいるからな。

 しかし、人の数が多ければ俺としても動きづらくなるのは間違いない。


「警備員は職員たちを避難させることに集中してほしい。彼女は俺が対処する」

「で、ですが……」

「緊急事態、なんだろ。こういう戦いは俺の方がなれている」

「ふはっ、言う通りにしたら? そうでないと本当に死んじゃうかもね」


 リアーナも俺のやりたいことを察してくれたのかそういって警備員を脅し始める。


「っ! ひ、避難経路の確保に急げっ」


 そういって警備員の人たちが一斉にここから離れて各自の仕事を始めた。


「二人っきりだね」

「ああ、そうだな」

「何を考えているのか、わかるよ? でもね。そういった演出だとしても、君が戦いたくないとしてもボク的には本気で戦いたいかな」

「別に本気で挑んできても構わない」

「ふふっ、やっぱり彼の親友なんだね」


 そういって彼女は一斉に俺へと駆け出した。その勢いはレイのそれと全く同等、いや速度で言えば少しだけ速い気もする。

 まぁどちらにしろ、ここで”激しい戦い”を演出するのには変わりない。その混乱に乗じてレイが脱出できるのなら問題ないとも言える。

 それに、運が良ければ……もしものことは考えるだけ無駄か。今はリアーナとの戦いを楽しむべきだな。

こんにちは、結坂有です。


先日は更新をお休みでしたが、これからはもう少し安定すると思います。


それでは次回もお楽しみに。



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

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