剣聖は調査に出る
俺、エレインはリーリア、クレア、ラクア、マナと一緒に中央区へと向かっていた。ここ数日は政府の情報を集めるためにいろいろと裏で動いていたからな。とはいってもそれほど難しいことはしておらず、政府の管轄している施設へと見学と称して調査していたのだ。
ある程度調べていると不自然な点が見えてきた。
このヴェルガーは中央区を文字通り中心として同心円状に格差が広まっているということだ。この政府は集権主義であると言うことはラクアから聞いていた。ただ、彼女も中央区を中心に格差が広がっているということまで走らなかったようだ。今までの彼女は中央区がとても裕福だという認識だった。
「エレインさん、ここに来るのは初めてなのです」
「中央区の出身ではないのか?」
「はいっ。ですが、中央区と言っても端の方です。ここまで都会ではないのですよ」
確か、中央区はかなり広い地区を指すのだったな。その中でも端の方となれば町村とそこまで大差ないのだろう。
「そうなのか。ラクアはどこから来たんだ?」
「私はもともと中央区出身だったのだけれど、自分の身に精霊が宿ってからは軍の駐屯地に住むことになったの。だから、ここにはほとんど来たことがないわ」
「なるほどな」
それからしばらく歩いていくと中央区の関所に着いた。
「私はほんとうに入れる、の?」
マナは心配そうに俺を見つめてくる。
確かに彼女は魔の気配を身にまとっているが、一見すると人間だ。それに門番の連中が政府の詳しい情報まで知っているとは思えない。それにこんな場所でずっと警備をしているのだとすれば、魔の気配に鈍感なはずだ。おそらく突破することは不可能ではないだろう。
「問題はないはずだ。それにあそこはただの関所だから危険がないと判断すれば通してくれるだろう」
「エレイン様の言う通りですよ」
その点に関してはリーリアも同意のようだ。
そして、案の定俺たちは簡単な持ち物検査をしただけで通してくれた。
まぁ俺が剣聖だということで彼らは羨望の眼差し俺たちを見ていたからな。改めてエルラトラムでの称号というのは世界に大きな希望をもたらしているのは間違いないようだ。
「無事に通れたわね」
「まぁなにか問題があったとしても対処する方法はあった」
「え? そうなんですか?」
「少し強引だがな」
その時は力で持って彼らを説得する必要があったが、その必要がなかったから良かったと言えるだろう。
「……あまり詮索してはいけないわよ」
「そう、みたいですね」
ラクアの言葉にクレアはそう言った。
それから中央区を歩いていく。中央区の更に中心部となるこの場所はビルと呼ばれるような四階建ての背の高い建物が並んでいる。当然だが、このような建物群はエルラトラムでも見たことがない。
それにしても空の見える範囲が狭いというのはなかなか慣れないな。空気感などは過ごす時間とともに馴染んでくるが、こうした視覚的な違和感はなかなか馴染まないものだ。
「違和感、ありますよね」
「ああ、リーリアは来たことがあるのか?」
「はい。アレイシア様と一緒に何度か来たことがあります。最後にここに来たのは三年ほど前ですね。その時はここまで建物は多くなかったと思います」
つまりは三年で印象が変わるぐらいには建物が増えたということなのだろうか。それだとしたらかなりの発展速度だとは思うが、どうなのだろうか。
「三年前でしたらちょうど連邦政府長官が変わったときでしたよね? そのときには中央区から出ていたから詳しくはわからないのですけど」
「今の長官はギトリス長官ね。もともとオラトリア王族と関わりがあって敵対していたと聞いているわ」
「敵対関係?」
「ええ、でもどういった関係だったかはわからないわ」
どういった関係があったのかはわからないようだが、それでも関わりがあったというだけでも情報としては十分だ。ただ、それだけだと政府の不正などを暴くにしては全く証拠として役に立たないがな。
「それにしてもオラトリア王族と関わりのある人物をトップにするというのは不自然に思うが?」
「そうなの。だから当時はいろいろと裏があるのではないかと噂が広まったけれど、今はそういった話は全く聞かないわね」
「確かにそんな話もありましたね」
どうやら国民の間でもそれらは問題があると思っていたそうだが、権力をうまく使ったのかそういった話は今はなくなっているらしい。
リーリアの話によると一部の貧困地区は金銭などを提供する代わりにそこの住民たちを洗脳しているという話があるそうだ。クレアには話していないが、ラクアに確認してみると確かにそのような計画がいくつかあるとのことだ。
ここの政府は一体何を企んでいるのかはまだわからない。しかし、とんでもないことをやろうとしているのは間違いないようだ。
それから適当な場所で昼食を取って宿を探すことにした。
他の地区と比べて二倍近くする金額ではあるが、受付などの対応は非常に良心的でそれ相応の価値はあるのだろうと感じた。
手持ちの金額は殆どないが、請求をエルラトラムにあるフラドレッド家に送ることである程度高い買い物もここで行うことができる。当然だが、エルラトラムの名家でもあるフラドレッド一族は膨大な資金を持っている。
「エレイン様、一番高い部屋はどこも埋まっているようでして、仕方なく小さい部屋をお願いしました」
俺とリーリアだけなら一番小さい部屋でも問題なかったのだが、今は協力者としてラクアやクレア、そして保護しているマナもいる。
「そうか。五人は入れるのか?」
「四人部屋と書いてありますが、問題はないと思います」
「どういうことだ?」
「私とエレイン様とで一つのベッドに入れば問題はないと思います」
「……マナと一緒に寝るのはできないのか?」
今までは一人一つのベッドでは宿に泊まることができた。しかし、今回は運が悪かったのか四人部屋しか借りることができなかった。ベッドで寝るということを前提で考えるとすれば一つのベッドに二人入ることになる。それはわかるのだが、わざわざ俺とリーリアとで寝る必要はないのではないだろうか。
「本人の前では言いづらいのですが、彼女の正体は魔族です。それに寝相も悪いということでして……」
つまりはゆっくりと寝ることができないということのようだ。確かに魔族であるマナに蹴られでもすれば嫌でも目が覚めてしまうことだろう。
「そうか、それなら仕方ないな」
俺がそう彼女の申し出を受け入れるとラクアとクレアから変な視線を感じたが、特に何かを言うわけでもなく二人はただため息をつくだけであった。
その四人部屋へと入ると思った以上に狭い場所であった。まぁ当然だが五人が入るように設計されていないからな。
「とりあえず、寝る場所は確保できたって感じね」
「ああ、安全性も高そうだ」
部屋にはそれなりに頑丈そうな鍵をかけることができる。もちろん、聖剣などを使えば簡単に突破されるのは間違いないが、全く効果がないということはないだろう。
「それにベッドもふかふか」
「そうですね。これだとぐっすり眠れると思いますよ」
「うんっ」
まっさきにベッドに向かったマナは嬉しそうにしている。心地の良い睡眠を得るのは体の成長に必要だからな。
「リーリア、そのままマナを見ててくれるか?」
「はい。どこか行かれるのですか」
「ああ、少し調べたいことがあるからな」
「わかりました。すぐに戻ってこられますか?」
「夕方には帰ってくる」
今の時刻はちょうど一時を指している。
あまり遠くに行くつもりはないが、夕方には帰れるようにした方がいいか。
「はい。では待っています」
「ねぇ、私もついて行ってもいいかしら」
「大丈夫だ。クレアも来るか?」
「いいのですか?」
「全く問題ない」
「では、一緒に行かせてもらいますっ」
そういって彼女は木剣を携えて俺の横へと歩いてきた。
「マナのことは頼んだ」
「はい。お気をつけていってらっしゃいませ」
リーリアはマナがもし危険な行動に走った場合でもすぐに対処することができるはずだ。マナの精神状態の分析を終えているからな。それにマナを狙う政府関係者が来たとしても彼女の実力なら十分戦えるはずだ。
それから俺たちは宿を出た。
こんにちは、結坂有です。
エレインも裏で色々と調査していたみたいですね。そして、中央区へとやってきた彼ですが、これから何をするのでしょうか。
ただの調査だけでは終わりそうにない展開ですね。
それでは次回もお楽しみに。
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