中央区の闇
中央区は簡易的ではあるが、しっかりとした柵が設けられている。そしてその中に入るには関所を通る必要がある。
馬車が中央区の中に入るためには門番の確認が必要となっている。
門番の指示に従い、馬車が停まるとすぐに確認作業が始まった。俺が武器を持っていることに警戒した門番ではあったが、アレイシアがエルラトラム議長であることを彼らが確認するとすぐに警戒を解いた。
そして、馬車に積まれている他の荷物もある程度確認を終えると門番が道を開けて中央区に入ることができた。
どうやら議長が来ることは彼らも知っていたようだ。思い返せばこの国に入るためにアレイシアがいろいろと書簡などでやり取りをしていたからな。とはいっても、安全が保証できないというのはどういうことなのだろうか。
他国の要人が来るというのに安全を確保していないのは問題があると思うのだがな。まぁこのヴェルガー国内でも王家が色々と問題を起こすこともあるようだし、そういった意味でいえば不可能なのかもしれないな。
関所を抜けてしばらくすると馬車が停まった。どうやら目的地に到着したようだ。
「それにしても随分と建物が多くなったわね」
馬車を降りてすぐにアレイシアがそういった。
以前を俺は知らないのだが、彼女は三年前にここに来たことのあるそうだ。
「見上げるほどでかい建物は議会以外見たことねぇな」
「そうよね。でも、中央区の主要施設は全部議会と同じぐらい大きな建物なのよ?」
「へっ、そんなに大きいのが必要なのか?」
「ヴェルガーって一つの国だけど、今の所世界で一番多い国なの。だからこうして大きな建物がないといけないみたい」
大きな建物ということはそれだけ建築する人間もいる。そして、その建物を利用する人もまた多く必要だということだ。当然ながら、そうやって社会が回っている。
誰かが道具を作り、それを使う誰かがいる。売る人がいて買う人がいる。それが当たり前なのだが、発展が進めばこのような状況にまでなるとはな。正直驚きだ。
「人口が多いってどれぐらいなんだ?」
「去年の情報だと、この中央区だけで七百万人近くの人がいるわね。ほかの町とか村を含めると二千万人近くいるみたいよ」
エルラトラムと比べてかなり人口の差があるな。急激に発展するにはある程度人口が必要だというのは理解できるが、俺にはどうしてそこまでして発展しなければいけないのかわからない。
今は一番の脅威である魔族を最優先に対処しなければいけないだろうにな。
「ここは魔族が一番攻めにくい場所だからね。それにいろんな物資も世界中から集ってくるわけだから発展するのもうなずけるわ」
「そういうもんか?」
「多分、ね。まずは宿を探しましょうか。もう夕方だからね」
空を見上げると薄っすらとオレンジに光っている。背の高い建物が多いため夕日は見れないのだが、これはこれで他にはない異国感が溢れている。今までの港町や村なんかでは特にエルラトラムと変わりはなかったからな。
一日以上かけてここまできたのだ。今まで見たことのなかったものを一つや二つほしいところだ。
それから俺たちは中央区の町中を歩いていく。三年前とは変わっているようだが、道は以前と同じようで迷わずに宿へとたどり着いた。
宿は今まで泊まってきた場所とは比べ物にならないほどに安全性が保たれている。受付は二人体制で行っており、さらには監視カメラなども多く取り付けられている。それに部屋にはしっかりと鍵が付いている。もちろん、フロントにはマスターキーとなるものがあったが、二人体制ということでそう簡単に盗むことはできないだろう。
「今までで一番広い部屋ね」
受付を終え、部屋に入ると今までの小さな宿とは違い大きめの部屋となっていた。一番安い部屋だとしてもここまで広いとなぜか贅沢をした気分だ。
「一番安くてもこんなに広いのか」
「まぁ安いって言っても村のところと比べたら二倍ぐらい違うのだけどね」
なるほど、それだけ物価も高くなっているということか。
ここまで広いと二倍ぐらいの価値は十分にあると言ったところだろうな。それに安全もある程度は担保されている。まぁ妥当といったところだな。
「都会だからかしらねぇが、裕福な人間が集まってるってことなんだろうな」
「……そうよね。以前よりも格差が広がっているのかもね」
「格差?」
「ええ、中央区と他の町とでは全く生活レベルが違うの。ここに住んでいる人たちは当然だけど裕福な人たちよ。でも、中央区に出稼ぎに来ている人たちはここに住んでいる人たちの半分ぐらいの賃金で働いているわ」
「あ? 半分の給料なのにどうしてここまで来るんだ?」
「半分の賃金でも村の人たちにとっては高い給料なのよ」
それが地域格差と行ったものなのだろうか。
それにしても一つ疑問が残る。さきほどの町で聞いた話では政府は地域格差をなくそうとしたと言っていた。
「地域格差をなくすんじゃなかったのか?」
俺がそう彼女に聞くとまたゆっくりと俺の耳元で小さく口を開いた。
「あまり言えないけれど、中央集権化をしようとしたのではないかと思うわ」
「……よくわからねぇ」
「簡単に言えば強い権力を一つに集めようとしたってこと」
「悪いことなのか?」
「場合によるわ。でも、明らかにこの国では悪い方向に向かってるわね。個人の感想だけど経済がある程度発展したのだから、そろそろ分権化の段階に来ていると思うの」
よくわからない単語を彼女は話してくれる。まぁ話の流れからして権力を分散した方がいいということなのだろうな。
「要するに、権力が集まり過ぎだってことか?」
「まぁそういうことよ」
彼女はそういってゆっくりと俺から離れると窓際の椅子へと座った。
「……理由はわからないけれど、私にとってはこの場所は少し居心地が悪いわ」
「俺も似たような感じだな。なんか息が詰まるみてぇだな」
「エレインもきっとそういうのでしょうね」
彼女は少しだけ笑ってそういった。
きっと彼女もエレインに会いたいことだろう。長旅に出たと理解していても感情は簡単には抑えれないものだからな。
「そうは言ってもよ。ここにはいろんなものが集まってんだろ? もしかすると、ここにいるかも知れねぇぜ?」
「え?」
「エレインだって政府を調査してるって話だ。近くにいるかもな」
窓の外を物悲しげに見つめていた彼女は俺の方を見た。
もちろん、本当に彼がいるかはわからない。それでもいる可能性が高いのは確かだろう。それにそう願っているといつかはそうなるかもしれないからな。
期待するのは自由ってものだろ。
「本当に会えたら嬉しいわね」
「おうよ。俺もミリシアからの伝言を伝えてぇわけだしな」
それもあるが、個人的にも伝えたいことがある。
どちらにしろ、エレインに会えたら好都合だってことだ。
こんにちは、結坂有です。
集権主義に走ってしまったヴェルガー中央区ですが、果たして本当にそれは正しいことなのでしょうか。
そして、強い権力を手に入れた政府は一体何を企んでいるのでしょうか。気になることがたくさんありますね。
それでは次回もお楽しみに。
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