次なる戦いに向けて
何らかの洗脳を受けた村人たちを撃破した俺たちは一気に山を駆け下りた。もちろん、アレイシアは足が不自由なため、俺が背負っている。
急な坂道でも俺は速度を落とさずに駆け下りる。
「……っ!」
彼女が必死に俺の背中へと抱きつく。
まぁこの速度で坂を駆け下りるなんて今までしてこなかったのかもしれねぇな。エレインを運んだときと同じぐらいの速度ではあるが、そんなに俺の走る速度が速いのだろうか。俺としては少し遅いぐらいだがな。
「とりあえず、このまま降りていけばいいんだな?」
「……うんっ」
振り落とされまいと必死に俺の背中へ抱きつきながら彼女がそういった。まぁ俺が彼女を落とすなんてへまはしない。とはいえ、自分で制御できないものに身を預けるのは少し怖いのだろうな。
そう思えば、俺も確かに恐怖を覚えるかもしれない。
そして、山の麓へとたどり着く。
そこには先程と同じく道標が立っており、目的地である次の町の名前が刻まれていた。
「どうやら方角はあっていたようだな」
「……ええ、そうみたいね」
全力でしがみついていたために少し疲弊しているのか彼女は呼吸を整えながらそういった。
「俺が吹き飛ばした村人以外にもいたと思うが、追ってきてはいないみてぇだ。このまま次の町にいくか?」
「そうね。行きましょう」
山の中ほどに坂が急なわけではないが、杖をついている彼女にとってはまだ安心できないだろうな。
俺はそんな彼女と速度を合わせながらゆっくりと次の町へと向かった。
山を降りてから一時間ほど歩くと町が見えてきた。
道中誰かに襲われるかとも思ったが、妙な気配すら感じなかった。まぁ何事もなく町に入れたのは幸いだったな。
「お昼休憩を挟んで、馬車で中央区に行きましょう」
「ここでは寝泊まりしねぇのか?」
「ええ、ここから中央区へは夜も馬車を出しているそうよ」
港町から馬車が出る時間はそこまで多くはなかったと記憶しているが、どうやらこの町では多く馬車が運行しているようだ。
港町ではエルラトラムと比較して商店街の規模以外はそこまで発展していないようだった。しかし、中央区に近いこの町では案外同等なのかもしれないな。
「思っていたよりも田舎だと思っていたが、馬車の数はエルラトラムと変わりねぇって感じだな」
「そうね。エルラトラムも運行量は多くしている方だけどね」
「怪しい政府だとは思うが、内政はそれなりにしっかりしているのかもな」
「……本当にしっかりしていたらいいのだけどね。昼食にしましょうか」
それから近くの食事処に入り、昼食を取ることにした。
ヴェルガーの郷土料理というものは政府が発足したときになくなってしまったそうだ。地域格差をなるべくなくそうと各地の特産品を規制したせいでそういった郷土料理店の多くは潰れてしまったそうだ。
まぁそういったことも考慮した上で苦渋の決断だったとは思うが、他にも方法はなかったのだろうか。
それにそこまで強引に地域格差をなくそうとしたのも不自然を覚える。とはいっても、俺には知識がねぇからな。ミリシアとかだったらもう少し考察できるのかもしれねぇな。
「郷土料理とかはなくても食材の質が高いから料理は美味しいわね」
「エルラトラムにも似たような料理があるが、確かに美味しいな」
俺たちが食べているのは十種類の豊富な野菜をふんだんに使った野菜炒めだ。シンプルな料理上に素材の質が試されるのだが、それでも野菜独自の旨味を十分に引き出している。素材の味をうまく引き出す料理人の腕と食材の質が高いからこそ、ここまで美味しい物が作れるのだろうな。
「そういえば、中央区はここよりも大きいのか?」
「何度か来たことがあるのだけど、かなり発展した都会よ。それに中央区と入ってもかなり広いからね。エルラトラムとは違った雰囲気があるわ。私もここに来たのはもう三年ぐらい前だからね。少しは変わってるだろうけど」
「そうなのか? エルラトラムもかなり変わったって聞くからな。確かに変わってるかもしれねぇな」
彼女が言うように中央区が都会というのならそれなりに変化のある場所なのかもしれないな。だとしたら、三年前でかなり印象は変わるだろう。
それから昼食を食べ終えると俺たちはすぐに馬車へと乗り込んだ。馬車は港町で乗ったものと同じもので集団で乗り込んで出発するものではない。行き先が中央区となっている馬車に乗り、賃金を渡すとすぐに馬車は出発した。
御者が敵ではないかと心配にはなるが、しっかりと中央区の方角へと進んでいることからおそらく敵ではないだろう。
「見える? あそこが中央区よ」
しばらく馬車に揺られているとアレイシアが話しかけてきた。
そう言って彼女は窓の外を指差した。その窓の外を見てみると今までの風景とはまた違った建物が見えてきた。先程の町で見かけた建物はどれも一階建てであったのだが、中央区の方は三階建、いや四階建ての建物が多い。
エルラトラムでも階層の多い建物はいくつかあるのだが、あのように密集して立ち並んでいるわけではない。あのように四階建て相当の建物がいくつもあるというのは圧巻だな。
「建物が大きすぎねぇか?」
「そうね。あそこまで多くはなかったと思うけれど、三年でかなり増えたわね」
「エルラトラムとは全く違うんだな」
港町でもかなり発展している場所だと思ったが、あの中央区と呼ばれる場所は文字通り都市と言っても過言ではないだろう。
ここと比べてエルラトラムでも都市ではあるのだが、予算の多くは防衛費に割り当てられているようでここまで急速に発展はしていない。
「予算のほとんどを魔族からの防衛費に当ててるからね。それは仕方ないわ」
確かに彼女の言うように防衛費を無視すればエルラトラムも発展していたのかもしれない。ただ、もしそんなことをしたのなら壁が崩れてしまうだろうな。
高い費用をかけてまでも壁を維持しなければ、市民の安全は保証できないのだ。
「安全を維持するにはそれぐらい費用を割り当てねぇと無理だってことだな。それに国内の発展がすべてじゃねぇ。エルラトラムには独自の良さがあるだろ?」
「ええ、そうね。発展だけが全てじゃないからね」
まぁこの国は魔族からの攻撃がほとんどないと聞いている。それなら発展させて経済力を上げることで国としての国力を得るのは問題ないと思っている。
実際にそれで貿易ができてるんだからな。
ただ、この国の裏で一体何が起きているのかは全く予想できないのだがな。
それからしばらく馬車に乗っていると中央区へと着いた。
こんにちは、結坂有です。
今回は戦闘シーンはありませんでしたが、これからはシリアスな展開が多くなりそうです。
それにしても、エレインは今頃何をしているのでしょうか。
それでは次回もお楽しみに。
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