敵対勢力との接触
宿に襲ってくるような連中はいなかったようで、夜は比較的安全であった。まぁ港町ということもあってかそれなりに治安が良いということなのだろうか。商店街を見て回ったときもその規模の大きさに関して驚くところはあったが、特に治安が悪いといった感じではなかった。
エルラトラム聖騎士団ほど強力な部隊がいないとはいえ、それなりにしっかりとした軍などは存在しているからな。治安が良くて当然なのかもな。
それから寝て翌朝になり、すぐに出発の準備を始める。ここから中央まではかなりの距離があるそうで、馬車で数日はかかると言われている。ヴェルガーはエルラトラムの何倍もの国土を持っているためすぐに中央へとたどり着くことはない。
「さてと、行きましょうか」
「ああ、俺は準備できてるぜ」
まぁ俺の荷物は魔剣と着替え分ぐらいだからな。アレイシアのようにたくさんの荷物を持っているわけではない。
「あ、レイの荷物は少ないんだったわね」
「そうだぜ。アレイシアのその荷物は何が入ってるんだ?」
「もちろん着替えとかだけど、ヴェルガー政府に訴えるための資料とか入っているわ」
ヴェルガーの政府に文句を言いにここまで来たのだ。そのための根拠となる資料などをその大きな鞄の中に入れているのだろう。
アレイシア本人の命も守らないといけないが、彼女の持っている情報もまた守る必要があるだろう。誰かに盗まれたり破壊されたりしないように気をつけなければな。
「なるほどな。重要な資料ってことか」
「そうよ。でも、私が大切に持っているから盗まれる心配はないわ」
「へっ、相手はいつ襲ってくるかわからねぇからな。その鞄も守ることにするぜ」
「うん。ありがと」
俺がそう言うと彼女は嬉しそうに返事をした。まぁ守らないほうがおかしいからな。彼女の護衛とはいえ、本来の目的はヴェルガー政府に文句を言いに来たのだ。俺のミスで本来の目的が果たせないのならなんの意味もねぇからな。
そして、俺たちは朝日が登り始めたと同時に宿を出た。
まだ薄暗い商店街を俺たちは歩いていく。まだ店が開く直前のため人はほとんどいないのだが、それでも店の従業員などが歩き回っていた。
学院の生徒に指導をしていたころもこの時間帯にエルラトラムの商店街を歩いたことがあったのだが、その時もここと同じく店員が歩いていたな。そういった市民の生活に関してはどこも同じようなものなのかもしれないな。
商店街を抜けて馬車乗り場に向かう。
「ここまで行きたいのだけれど……」
そういって深くフードをかぶったアレイシアが御者にそう聞いた。
もちろん、彼は彼女がまさかエルラトラム議長だとは思っていないようで普通の対応をする。
「ああ、そこなら半日ぐらいで着くな」
「ならお願いするわ」
「おうっ」
荷台に俺たちが乗ると、御者は御者台に座り馬車を動かすのであった。
それから半日程度で目的地の村へとたどり着く。この場所は村ということで先ほどの港町のように発展しているわけではない。しかし、それでも市民の様子を見るととても幸せそうな暮らしをしていることが見て取れる。
やはり、このヴェルガーという国は治安がとても良いのだろう。エルラトラムは治安が良いというよりかは魔族の攻撃が多いからな。市民にどう情報が回っているのかはわからないが、ここまで平和を体現してはいない。
「……魔族の攻撃の心配がないって平和なのね」
「へっ、そうみたいだな」
すると、御者の人が振り向いて話しかけてきた。
「あんたら、他の国の人なのか?」
「ええ、エルラトラムから来たわ」
そうアレイシアが答える。
「あの国の人なのか。そりゃ大変な場所から来たんだな」
「大変な場所?」
「あんたらも知ってるだろ。この国は魔族の攻撃が少ない。だから平和な生活ができるってことだ」
「そうね。でも、エルラトラムも聖騎士団を持っているからかなり防衛はしっかりしているわ」
彼女がそう答えるが、彼は首を傾げながら口を開いた。
「それも何年守れるかだな。聖剣をたくさん持ってるからって言っても魔族はとんでもねぇ数だ。俺には聖騎士団がどれほど強いのか知らないが、そういった意味では大変な国だと思うぜ」
確かに彼の言うようにいずれ数に押し負ける可能性があると思っている人は多いだろう。俺が指導していた生徒たちも似たようなことを話していたからな。もしかすると、エルラトラム国民も似たような考えを持っていることだろう。
ただ、実情を知っている俺からすれば、魔族の数はそこまで脅威ではないということを知っている。一番の脅威なのは知能を持った上位の魔族が攻め込んできたときだ。
実際に俺も知能を持った魔族に苦戦した覚えがあるからな。奴らがもし本格的に攻撃を開始したとなればエルラトラムは手痛い損害を負うことになるだろう。
「そうかもしれないわね。数の暴力は確かに防ぎようがないのかもしれないわ」
アレイシアは議長であるということを隠してそう答えた。まぁ彼女も数がそれほど脅威になっていないということは知っているはずだからな。
まぁ他国民の一意見として取り入れるのは問題ないか。
「どういったことか、エルラトラムの連中は剣聖様をこっちに滞在させているみたいだが、実際のところ何を考えているのかは俺たちにはわからないのだけどな」
そういって彼は高笑いをした。
何も知らない国民からすればそういった反応になるのかもしれないな。
「もしかして、エレインのことかしら?」
「ああ、新聞でかなり有名になってるんだ」
そういって彼は新聞に乗っている表紙を指差した。
そこには確かに剣聖であるエレインの文字が書かれていた。写真はないもののどうやら港町の近くの宿にいるらしい。
「元気そうにしてるのね」
「あんたら、剣聖様の知り合いなのか?」
「俺の幼馴染だぜ」
「そりゃ驚いた。だから剣を持ってるんだな」
どうやら納得してくれたようだ。
まぁ幼馴染というかともに訓練をしてきた仲というか、まぁ知り合いなのには変わりない。
アレイシアはその新聞を受け取ると見入るように新聞を読んでいた。自分の家族のようなものだからな。当然ながらエレインの現状の書かれている新聞が気になるのは普通ことだろう。
それからしばらくすると馬車が停まった。
「着いたぜ」
「もう着いたのね」
「この村は他と比べてかなり治安のいい場所だが、盗賊がいるって話もあるからな。気をつけろよ」
「ええ、わかったわ」
代金を渡すと馬車はすぐに移動を開始した。どうやら別の荷物を他の村に運びに行くようだ。
「レイ、まずは宿を探しましょうか」
「そうだな」
村の中を歩いて宿を見つける。事前に宿の名前を調べていたようですぐに見つけることができた。
村には商店街のようなものはないが、露店がいくつもありそこで昼食や夕食などを食べることができるそうだ。まずは宿にチェックインをするところからだな。
「っ!」
宿の入り口から急に数人の男女が飛び出してきた。
俺はとっさにアレイシアを抱き寄せ、飛び出してきた連中にぶつからないように守る。
「急に飛び出してきてあぶねぇだろっ」
「……悪かったな」
そういってその集団は俺たちから離れていった。その時、一人の男が大きく舌打ちをした。
「なんだ? あいつら」
「村の治安はよくてもやはり旅人の中にはマナーの悪い人もいるのね」
「……マナーが悪いとか言う話でもねぇ気がするがな」
殺意や悪意のようなものは感じられなかった。もしかすると、暗殺者集団がまた俺たちを狙っているのかもしれないな。しかし、そんな連中がいるとしてどうしてこの場所がわかったのだろうか。
アレイシアの行き先が書かれている地図は彼女しか持っていないため、どこかで情報が漏れたと言うことも考えられない。理由はわからないが、これからの道中も気をつけなければいけないな。
まぁ俺としては戦うことになんの問題もないのだがな。
こんにちは、結坂有です。
夕方頃に更新予定でしたが、少し加筆しての更新となりました。
これからは激しめの戦闘が多くなると思います。
レイとアレイシアの旅はどのようなものになるのでしょうか。気になりますね。
それでは次回もお楽しみに。
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