動き出す陰謀
魔族であるが、人として生きていきた。そんなマナの願いを叶えるためには彼女の管理を俺がしなければいけない。
もちろん、人類に危険を及ぼす可能性があるのだとすれば、早急に処分しなければいけないからだ。まぁそうは言っても彼女自身に知能があるためにそのようなことが起きることはないだろう。突発的に何かが起きない限りはな。
「エレイン様、マナさんをどうするおつもりなのですか?」
「これから人間として生きてもらう。当然だが、俺の管理できる中でだがな」
「そうですか。わかりました」
リーリアもナリアという魔の力を若干持っている人間がいるということは知っている。それに自分も魔族化しかけていた経緯もあることから人間でも魔族になり得るということは十分に知っている。
俺もそうなのだが、リーリアも魔族に対して少しずつ認識が変わってきている。魔族だからといってその全てが敵というわけではないということなのだ。
「そろそろクレアが起き出す頃だな」
「はい。訓練の準備ですね」
「ああ、頼む」
俺がそう言うとリーリアは訓練場の方へと向かって準備を始めた。今日はそこまでハードな訓練はさせないつもりだ。昨日にあのようなことがあったからな。
ただ、何もさせないよりかは体の感覚がまだ新鮮なうちにしっかりと体に覚えさせる必要があるのもまた事実だ。
「訓練?」
先ほどリーリアと一緒にシャワーを浴びてまだ濡れている髪をいじりながらマナがそう聞いてくる。
「とある事情でこの国に来たんだ。マナに関係のないことだから気にするな」
「……その訓練は見てもいいの?」
「問題はないが、興味でもあるのか?」
「格闘技とか、本で読んでてちょっと興味ある」
どういった生活を牢屋で過ごしていたのかはわからないが、興味があるというのはいいことだ。
どのような人生を歩むのかは本人が決めるべきでもあるからな。それに自分の身は自分で守れるようになっておくのも必要ではある。
「そうか。それなら見ても構わない」
俺がそう言うと彼女は嬉しそうに笑った。
こう接している分には普通の少女のようにも感じる。しかし、どういった素性なのかは全くわからない。少しずつ知っていかなければいけないな。
扉の前で誰かが立っているようなのだが、特にノックをするような気配はなく、しばらくしてから俺は部屋を出るとそこにはクレアではなく、ラクアが立っていた。予想外といえば予想外だ。
「っ!」
「どうかしたか?」
「な、なんでもないわ」
「俺の気のせいでなければ、三分ほど扉の前で立っていたと思うのだが……」
「……気のせいよ」
顔を赤くしながら、彼女はそう呟くように言った。
理由はどうであれ、俺に何か用があってここに立っていたことは確かだろうな。その用件を聞こうとしたのだが、彼女が奥の部屋にいるマナに視線を移した。
「あれ、女の子?」
「少し事情があってな」
「彼女から嫌な気配がするのだけど?」
ラクアは体に精霊を宿していると言っていたな。確かに魔の力には敏感になっているのかもしれない。
ここは正直に伝える方がいいか。いずれラクアにも教えていかなければいけないことだからな。
「気付いていると思うが、彼女は魔族だ」
「……敵なの?」
「いや。彼女としては人間として生きていきたいそうだ。一部の人間以外には敵意はない」
「そう、私も噂程度しか聞いたことがなかったけれど本当にいたのね」
特に束縛されるような生活ではないみたいだが、彼女は軍の施設で暮らしていた。もちろん、そういった政府や軍の情報は入ってくるのだろう。
それに彼女は政府に関して強い不信感を抱いているからな。そういった情報には詳しそうだ。
「どういう噂なんだ?」
「魔族化した人間の子供。政府側としては魔族として仕立て上げる予定だったみたいだけどなかなか本人が魔族だと認めないから拘束してたそうよ」
なるほど、それで洗脳まがいなことをしていたということなのか。
「まぁその噂は本当のようだな」
俺はマナの方を向きながらそう答えた。
彼女は俺たちを見ながら首を傾げている。まだ純粋な心を持っている人に対してそのようなことをしていたとなれば、許されることではない。
魔族化した人間の子供、しかし元は人間なのだ。今は魔族なのかもしれないが、本人は人間として生きたいと思っている。それなら人間として生きてもいいのではないだろうか。
「別に私は彼女を差別したりしないわ。見た目も噂通り人間の少女のように見えるし」
「そうしてくれるとありがたい」
ラクアは真実を知った上で彼女を人間扱いした。悪い場合のことを考えていたがそれは杞憂だったようだな。
「エレインさん?」
そうラクアと話しているとクレアがやってきた。隣の部屋ではないため、少し離れた場所からきたようだ。
「そろそろ訓練の時間だな」
「はい。準備運動はしてきましたっ」
「別に今日はそこまでハードなことはしない予定だ」
「そ、そうなんですか?」
どこかがっくりした様子の彼女ではあったが、少なくともまだ昨日の精神的疲労はまだ残っているはずだ。
それにあと数日で訓練が終わるというわけでもないからな。
「焦る必要もないだろう。ゆっくりと実力を上げていけば問題ない」
「……私からしても十分実力は高い方だと思うし、気にしなくてもいいわよ」
ラクアもそう言ってクレアの実力を評価する。
まぁクレアに足りないものといえば、聖剣なのだがな。それも今後なんとかして手に入れることになるはずだ。
それから俺たちは訓練場へと向かった。ラクアは別の用事があると言って宿を出たが、今日中には戻ってくるそうだ。
訓練場に着くと以前と比べて見学者が多くなったように思う。しかし、それは別に気にしないことにした。それにクレア自身、今は目隠しをしている。周囲にいる人間の目など気にしていないだろうしな。
ただ、少し気になったのはマナが俺たちの訓練の様子を分析するかのように見ていたのだ。それが彼女にとってどのような影響になるのかはわからないが、少し気になった点ではあった。
◆◆◆
私、ラクアはエレインがマナを見つけた山へと向かった。
彼にはどこに向かうかは伝えていないが、きっと察しが付いていることだろう。
山を調査してみると彼の言っていたように木々が倒されていた。これほどの力は私でも無理だ。いや、どう考えても人間の力ではない。
中には根っこの部分から大きく倒されているものもあった。
そんな荒れた山の中をゆっくりと進んでいくと人工的な建物が見えた。
「どうしてこんなところに?」
軍の施設とも思えないようなそんな建物をしている。当然ながら、こんなところに刑務所のようなものがあるとは地図にもない。
私はその建物を観察するために周囲を見て回ることにした。
警備員のような人は見当たらないが、建物の一部が大きく破損していたところがあった。内側から強力な力で破壊されたかのようだ。おそらくマナが捕らえられていたのはここの施設なのだろう。
そう確信した私はゆっくりとその建物へと近づいていく。
「っ!」
建物に近づくにつれ、別の人間の気配が強くなった。
「そこにいるのは誰だ?」
警備隊に見つかったとは思わないが、何者かから声をかけられた。
振り向いてみても誰もいない。
「あなたこそ、誰なの?」
「侵入者のお前に答える義理などない」
「悪いけれど、私も話すつもりはないわ」
すると、しばらくしてから建物から人が出てきた。
手には聖剣を持っている。聖剣使いがこんなところにいるなんて信じられない。いったい彼らは何者なのだろうか。
「この建物を外部に漏らしでもすればどうなるかわかっているのか?」
「ええ、もちろん教えるつもりよ」
「……仕方ない。貴様が何者なのかは知らないが、知ってしまった以上は逃すことはできないな」
そう言って男は剣を構えて突撃してきた。
「っ!」
彼らの実力は非常に高く、私の知っている軍人よりも数段は強い。
一人の剣を私は寸前で避けるが、ただでさえ相手は身体能力が高い。私も精霊を体内に宿しているため身体能力は高くなっているとはいえ、特殊な能力を持っているわけではない。
このままではいずれ押し切られてしまうかもしれない。
「今の一撃を避けるとは、普通ではないな?」
「どうでしょうね」
「なんとしてもここは阻止しなければな」
すると、彼らの持っている聖剣が光り始めた。
そして次の瞬間、周囲の風が一気に動き始め私を取り囲むように流れ込んでくる。
「ぅぐっ」
強烈な痛みが足に走る。
斬られたわけでもないようだが、なぜか痛みを感じる。
「今だっ」
男の一人がそういうと周囲から一気に走り込んできた。
全く気配がなかったのにどうしてこんなに人がいるのだろうか。状況が把握できず、足の痛みにも耐えられず私はなす術もなく捕らえられてしまった。いくら精霊を宿しているとしてもその能力が使えなければただの人間と変わりない。一人でこんなところに来てしまったのがいけなかったのだろうか。
「しかし、綺麗な顔してとんでもねぇ実力者だな?」
「何者かは知らないが、あいつが逃げたのと何か関係があるのかもな」
彼らはそう言って私を奥の部屋へと連れて行く。
刑務所のような外見とは裏腹に建物の中はきれいに整備されていた。刑務所でも綺麗な場所はあるのかもしれないが、ここは清潔な病院のような印象を受ける。
それから私は厳重そうな扉の付いた小部屋に入れられた。
今この個室には腕と足を拘束された私と一人の男だけだ。
「おい。お前は何か知ってるのか?」
「……」
そう男が話しかけてくるが、私は無視することにした。あいつとはマナのことだろう。彼女がここを脱出したことに私は何も関係ないため、何かを言う必要はないだろう。
「にしても綺麗な顔だな?」
すると、男は私の顔を覗き込むように見つめてくる。
「ここってよ。カメラもねぇし、外から誰かが覗くこともできねぇ。つまりは密室だってことだ」
「……それがどうしたの?」
「俺は政府の雇われだけどよ。一般人なんだ。少しぐらい遊んでもいいだろ?」
「っ!」
「なぁ。いいだろ?」
そう言って男は私を押し倒した。硬く冷たい床が背中を凍らせるような感覚だ。長らく感じてこなかった恐怖が込み上げてくる。
つまりこの男はこの私を見て欲情したというのだろうか。とはいっても手足を拘束された私にはどうすることもできない。
捕まってしまったのは私の落ち度だ。受け入れるしかないのだろうか。こんな清潔感のない心の薄汚れた男に貞操を奪われるのは嫌だ。
そう思った途端、体の内側から何かが溢れ出てくるような感覚に陥った。どうしてだろうか。体の重さが無くなったように、何もかもが軽く感じたのであった。
こんにちは、結坂有です。
覚醒していなかった力が覚醒してしまったようですね。
そして、所々見えてくるヴェルガー政府の陰謀…
果たしてこの国は大丈夫なのでしょうか。とても危険なことをしているのは間違いないようですね。
それでは次回もお楽しみに。
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