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人としての感情

 私は初めて外に出た。真っ白な世界からの脱出。腕が痛くなったけれど、なんとか壁を壊すことができた。

 初めて外に出た感想は……空気が違った。匂いが違った。

 写真では見たことがあったのだけど、私が出た場所はどうやら山と呼ばれる場所のようだ。木が多く、自分の縄張りを作るには十分であった。

 長いこと部屋に閉じ込められていたためにあまり運動ができていなかった。最低限の動作しかしていない。それでも木を倒すことぐらいならできる。私は木を倒して自分の居場所を作ることにした。


 それから十数分後。

 何者かが縄張りを超えて侵入してきた。最初は人間と思った。

 でも、彼らを見た途端、私は確信した。この人と私は同じなのだ。


   ◆◆◆


 非常に人間に近い姿の少女を山の中で見つけた俺、エレインは彼女から事情を聞くことにした。

 彼女からは強い魔の力を感じる。それは邪神ヒューハデリックと戦った時に感じたものと同じものだ。

 ただ彼女には俺たち人間に対しての敵意や殺意が少ない。いや、俺にだけだろうか。

 どちらにしろ、彼女は魔族ではあるものの今のところは敵ではないということだ。それに体が人間である以上人間として生きていくことだって可能なはずだ。まぁ感覚の鋭い人間に対しては怪しまれるだろうがな。

 ナリアの件もある。魔の力を持っているからと言っても全てが人間の敵というわけではないし、魔族というわけでもない。


「それで、同じというのはどういうことだ?」

「……私と同じ」


 彼女はそう言って具体的なことを言わなかった。


「理由はわからないが、どうしてこんなところにいたんだ?」

「捕まってたの。人間……敵に捕まって色々実験させられてた」

「実験?」


 彼女から敵意がなくなるとリーリアも警戒を解いた。そして、どのような実験をしたのか聞き出すことにした。

 具体的には知能テストのようなものを受けていたようではあるが、それ以外にも筋力検査や身体能力の検査などを行なっていたらしい。

 ただ一つだけ気になることがあった。


「自分が魔族だということをずっと聞かされていたのか?」

「うん。何回も何回も」


 いわゆる洗脳のようなものだろうか。

 少なくとも彼女は魔族なのかもしれないが、人間として生きていくことも可能だ。それに俺たちに対して強い敵意のようなものはない。十分に味方として利用することもできたはずだ。


「……もしかしてですが、自分が人間だと言ったりしてましたか?」


 リーリアがそう聞くと彼女は少し考え込んでからゆっくりと口を開いた。


「言ってた、と思う。でもその記憶はないの」


 長年の洗脳によって捕まえられた時の記憶が曖昧なのは仕方のないことだ。当然ながら、人間側からすれば魔族を人間として認めるのには抵抗があることだろう。

 ナリアの時だって最初は議会から怪しい目で見られていたことだしな。

 しかし、そこまでして魔族に仕立て上げるというのはなかなかに理解できない。


「エレイン様、ナリアさんと同じような人なのでしょうか」

「いや、アンドレイアとクロノスが魔族だと断言していた。ナリアとは少し違うのだろうな」

「……?」


 少女は頭の上に疑問符を浮かべて俺の方を向いた。


「人間として生きていきたいか?」


 俺は彼女にそう質問した。もしそれで魔族として生きていくと決意すれば、俺は容赦無く殺す必要がある。

 しかし、本当に人間として生きていきたいと思うのなら俺は人間として扱う。


「……人間、怖いけど人間になりたい」


 少しの迷いは見えたもののその決意は本物のようだ。


「どうして人間になりたいのですか?」

「私と同じ人がいた、から」


 理由としてはよくわからないのだが、まぁその辺りのことはゆっくり調べていけばいいだけの話だ。

 とりあえず、彼女は人間として生きていく。ということは何か名前が必要になるな。


『マナという名前はどうでしょうか』

『いや、地下で過ごしていたのじゃろ? アンダーグラウンドがいい』


 名前が必要だと思ったと同時にクロノスとアンドレイアがそう呟くように俺に語りかけてきた。

 仕方ない。名前を考えるのは苦手だからな。ここは彼女たちの案を採用することにするか。


「それならこれからマナ・アンダーグラウンドという名前はどうだ?」

「うんっ」


 それから俺とリーリアの名前を教えるとマナの緊張も次第に解れてきた。


「エレイン……リーリア……」


 そう言って何度も俺たちの名前を覚えようとする。

 記憶力に関してはそこまで悪くはないと思うのだが、どうしてだろうか。まぁそのことについては聞かない方がいいのかもしれないな。


「エレイン様、マナさんは人間として扱うのですよね」

「ああ、そのつもりだ」

「ですが、この国では彼女は敵という認識のようです。特に政府関係者には気付かれないようにするべきですね」


 確かに彼女はこの国の政府機関に捕らえられていたと言っていた。彼らはマナのことを魔族だと決め付け、洗脳しようとした。つまりは彼女の敵ということになる。


「そうだな」


 ただ、幸いなことに彼女の存在は秘密にされていたようで。一般人が彼女のことを魔族だとは思っていないようだ。

 しかし、その神秘的な容姿は人を惹きつけるには十分ではあるのだがな。


 それから彼女を連れて俺たちは宿へと戻った。

 今の時間は早朝のため、宿主は外の掃除をしていた。彼に事情を話すと快くマナも泊めてくれることとなった。

 まぁ俺が剣聖だからということもあってか俺たちのことをかなり信頼してくれているようだ。

 そして、自分の部屋へと戻るとマナはベッドを見つめた。


「ベッド……」

「どうかしたのか?」

「ベッドで寝たい」


 どうやら捕らえられた時に写真で見たことがあったようでベッドに対して憧れのようなものがあったそうだ。


「それなら今夜私と一緒に寝ましょうか」

「うんっ」


 その満面の笑みを浮かべるマナを見ているとただの少女のように見える。しかし、注意しなければいけない。彼女はナリアとは違って完全な魔族なのだ。

こんにちは、結坂有です。


マナという新しい登場人物は一体何者なのでしょうか。

そして、これから政府がどのように動き出すのか、気になりますね。


それでは次回もお楽しみに。



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