力ある者の反逆
俺、エレインは商店街の中をラクアと一緒に警戒しながら歩いていた。
当然ながら商店街にはたくさんの市民がいるため、俺たちを監視している連中が襲ってくる可能性はかなり低い。しかし、クレアの言っていたことが本当なのだとすれば、連中は市民など関係なく俺たちを攻撃してくるのかもしれない。
「二人だけで本当に大丈夫なの?」
「怖いのか?」
「……別に怖くはないわ。でも、対複数戦が危険なのは誰でも想像できるでしょ?」
ラクアの言うように対複数戦では予想外の出来事が起きることだってあり得るだろう。実際に彼らが聖剣を持っているんは間違いないようだからな。
ただ、それにしてもエルラトラムの連中よりかは強くはないはずだ。もし強い聖剣を持っていれば、すぐに聖騎士団などに所属していることだろうからな。いたとしても数人でその多くは聖騎士団に匹敵しない人たちだろう。それなら別に対処できる。
「把握できない連中もいるのかもしれないが、少なくとも相手は聖騎士団より弱いはずだ。何も問題視するほどのことではない」
「聖騎士団の人と戦ったことがあるの?」
「まぁ一度だけ命を狙われたことがあったな」
「……どんな人生を歩んだらそんなことになるのよ」
彼女の言うように普通ではありえないような人生を歩んでいることには間違いないだろうな。普通の人間なら、学院を卒業して聖騎士団に入団か軍に所属するかのどちらかを選択することになるだろうが、俺の場合は特殊過ぎたようだ。
「それにしても商店街で何か買う予定だったの?」
「いや、情報を集めることを優先していただけだ。何か買おうと思って来たわけではない」
「情報を集めるため?」
本当は話すべきではないかもしれないが、ラクアは信頼できる人間だ。それは彼女の目を見ればわかる。
そして何よりも彼女自身、ここの政府に疑問を抱いているようだからな。
「エルラトラムとヴェルガーは停戦しているとはいえ、戦争中だったのだろ?」
「ええ、そうね」
「俺がここに来る前、エルラトラムでヴェルガーの大騎士が暴れたんだ」
「……本当なの?」
初耳だったのか彼女は目を丸くして驚いた。
確かにこの国ではそのような情報を流しているとは思えないからな。
「そうだな。議会に直接攻撃を仕掛けたりしていた」
「大騎士ってとんでもない能力を持った聖剣使いよね?」
「ああ、エルラトラムの四大騎士はそれぞれ自然現象を操ることのできる人たちだったな。流石にその人たちよりかは劣るのかもしれないが、高い実力者だったとは聞いている」
直接、俺が対処したわけではないからな。刺客としてやってきた大騎士を倒したのはルカやティリアたちが対処、拘束しているようだ。
「やっぱり政府は何か隠しているってわけね」
「そのようだな。この町を見ているだけでもよくわかる」
全ての情報が公開されているとして、もし戦争が始まったとなれば市民が緊張状態になるはずだ。しかし、商店街で歩いている人たちを見てもそのようなことを考えている様子はない。
「まぁこの国でどのようなことが起きているのかはわからないからな。調査も含めて俺がここに来たってことだ」
「急に剣聖がこの国に来るって何かおかしいと思っていたけど、そういう事情があったのね」
市民の多くは俺のことを剣聖だとは思っていないようだ。もしかするとそれすらも隠されているというのだろうか。
どちらにしろ、俺たちのことを剣聖だと気付いている人はそこまで多くはないということだ。
それから俺たちは商店街を歩き回っていたのだが、特に監視している連中が行動を起こしてくることはなかった。
しかし、問題が起きたのは商店街から離れた直後であった。
「よう、剣聖さん」
俺たちが商店街から出てくるのを見計らっていたかのように男が現れてきた。手には聖剣を持っており、引き抜いていないものの俺たちに攻撃を仕掛ける意思が見て取れる。
「何か用でもあるのか?」
「俺もつい最近聖剣使いになったばかりでよ。少し腕試ししたいと思ってな」
「腕試しなら他のところでやってくれるか?」
すると、男は急に怒りを露わにして俺へと詰め寄ってくる。
「びびってんのか?」
「自分がどれほどの実力を持っているのか知らないようだな。少なくともお前一人では張り合えない」
「てめぇ! 剣を交える前からほざいてんじゃねぇ!」
そう言って男は剣を引き抜いて俺へと攻撃を仕掛けてくる。
「っ!」
横にいるラクアはその血気溢れる男に気圧する。
しかしその直後、男の持っている剣が二つに斬り落とされた。
「なっ」
「言っただろ。お前一人では相手にならない」
「……いつの間に剣を引き抜いたんだ?」
「見えていないのなら教える必要もないな。少なくともエルラトラムの学院生なら見落とさないのだがな」
そう俺が煽るように言うと男は顔を真っ赤にして叫び始めた。
「クソが!」
男は斬られた剣を捨ててラクアの方へと殴りかかっていく。俺には勝ち目がないと他の人を狙うつもりのようだ。
いや、他の連中が俺を見張っているということは奇襲を仕掛けようとしているようだ。俺はあえて彼女を助けないでおいた。
「助けねぇのか? 女に嫌われるぜ?」
「それは無力化してから言うべきだな」
「はっ」
ラクアが男の強烈な拳を軽く避け、無防備となった腹部へと蹴りを入れた。
「ぅがぁっ!」
予想外の一撃に男は俺たちから距離を取った。
「てめぇ、何者なんだ!」
「私はラクア。知らない人が多いようだけど、精霊に憑依されている人間と言えばわかるかしら」
「……っ! 噂の女か!」
本当にいるのかは知られていないが、噂としては広まっているということなのだろうか。
商店街を歩いているときに彼女は外にあまり出歩かないと言っていた。ほとんどを部屋の中で過ごしていたらしいからな。
当然ながら、彼女の存在を知っているのはごく一部のようだ。
「剣聖と噂の女、全くふざけてやがるなっ!」
すると、男は腕を上方へと振り上げた。どうやらそれが合図だったのか一気に俺たちの周囲を囲むように男たちが集まってきた。
「まぁいい。いくらお前らでも十五人の包囲には逃げられねぇだろ?」
「そもそも逃げるつもりはないのだがな」
「あ?」
「何度も言ったが、その程度の数では俺を捕らえることなんてできない」
「戯れ言を言いやがって……やれ!」
俺は剣を引き抜き、男たちを一人一人確実に倒していった。
そして、すぐに俺たちへと攻撃ができないように腕や足などを折っておくこともした。
まぁ彼らは運が良かった方だろう。少なくともここに来ていたのが俺でなく、レイだったとしたら手足の何本か失っていたはずだからな。
こんにちは、結坂有です。
数時間後にはもう一本も更新できると思いますので、お楽しみに。
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