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門番の仕事は楽ではない

「っ!」


 何が起きたのかはわからないが、僕の目の前が真っ赤になった。

 血なのだろうか。


「嘘だろっ」


 横で歩いていたレイの叫ぶ声が聞こえる。

 そして、彼のその声とともに強烈な気配が背後から聞こえてくる。僕は咄嗟に振り返り迫ってくる気配へと視線を向ける。

 そこにはものすごい形相で僕たちの方へと走ってくる数人の男性がいた。


「レイっ。流石にこれは危険だね」

「あ? 危険どころか人が死んでんだぞ?」

「え?」


 僕の手元を見ると真っ赤に染まっていた。


「気付いてねぇのか? 警備隊の一人が爆発したんだ」

「爆発?」

「理由はしらねぇけどな。あいつらだろ!」


 僕は全く気づいていなかった。

 ミリシアの言っていたことだけに集中していたからだろうか。まぁどちらにしろ今が緊急事態なのには変わりない。それに議会の人間が殺されたんだ。

 僕たち小さき盾が動くに十分な理由だ。


「そうだろうね。相手が聖剣使いなら……」


 グジャッ!


 生々しい音とともに霧状になった血肉が空気を漂う。


「あぐあぁぁ!」


 警備隊の一人の腕がなくなっていた。斬り落とされたわけではない。腕自体が爆発したような感じだ。


「っ! レイっ、動きを止めずに戦おう」

「へっ、狙われたら爆発だからなっ」


 そういうと彼は剣を引き抜いて走り出した。

 そのとてつもない速度で移動する様は地下施設での共闘を思い出す。


「……これは僕も頑張らないといけないね」


 彼だけに負担をかけるのもよくはない。僕も小さき盾の一員なのだ。戦わないわけにはいかないだろう。


   ◆◆◆


 私、ミリシアはユウナの個室へと戻っていた。

 ミーナも自分の部屋に戻っていったようだ。彼女自身も一人で考えたいこともあるだろう。これ以上、私たちから話しかけるのは野暮ではある。

 彼女の人生なのだ。自分の意思で踏み出さなければいけない。


「はぁ、それにしてもユウナがミーナの相談に乗ってたなんて不思議ね」

「え? そうですか?」

「何か話しかけるきっかけでもあったの?」


 そう私が言うとユウナは少しだけ考えた。


「なんでですかね。私にもわからないです。ただ、ずっとこの部屋から見てて頑張ってるなと思っただけですね」


 別に深い理由がなくても体が勝手に動いてしまうことだってある。

 全ての行動に理由があるというわけではないのだ。


「まぁ理由なんてそこまで重要じゃないわけだしね」

「……ただ、ミーナさんが訓練をしているとき、なぜか辛そうな顔をしていたのです。どこか放って置けなかったのですかね」


 どちらにしろ、いろんな要因があってミーナと話しかけることになったということのようだ。そのおかげで彼女は一歩前進することができたようだからいい方向に向かって良かったと言えるだろう。


「この前、エレインと彼女が話していた時も少し辛そうだったわ。彼女自身も何か葛藤でもあったのかもね」


 ナリアがそう言った。

 他人のことはよくわからない。それでも何か良い方向へと向かうのだとしたらその方がいいに決まっている。


「それよりもミーナさんのパートナーが気になります。今までリハビリを一緒にしていたみたいですが、最近は全く顔を出していないと言っていました。どうしてでしょうか……」

「パートナー?」

「確か、フィンって人だったかしら。セシルが言っていたような気がするわ」

「どうして気になるの?」

「今まで来ていたのに急に来なくなるなんて変ではないですか?」


 パートナーとして学院生活を共にしていたとして、私だったら毎日のようにお見舞いに行きたいぐらいだ。

 しかし、とある時点でぱったり来なくなってしまうということはきっと何かがあったということに違いない。


「それっていつぐらいから?」

「えっと、少なくとも私が話しかける前からだから……一週間以上はここに来ていないと思います」


 一週間以上、ちょうど議会で事件が起きた時と同じだ。

 思い過ごしだといいのだが、何かの事件に巻き込まれているのは間違いないだろう。

 そう考えると急に嫌な予感がした。


「ミリシアさん?」

「……思い違いだといいけれど、すぐに議会に向かった方がいいわね」

「どうして?」

「調査しなければいけないわ。それに誰かが議会に来ているかもしれないし……」


 色々と考えてみたが、どれも可能性でしかない。実際にその場所へと向かわないとわからないからだ。

 こんなところで考えているだけでは何も起きない。すでにレイとアレクが向かっていることだ。


「ナリア、あとは任せていいかしら」

「別にいいけど、どうしたの?」

「うまく説明できないのだけど、嫌な予感がするのよね」

「そう、わかったわ」


 それから私は急いで議会の方へと向かった。

 この医療施設から議会までは全力で走って一〇分ほどだ。

 議会の方へと近づいていくにつれ、次第に妙な気配も強まっていく。魔族でも堕精霊と言ったものでもない。ナリアに近い気配がする。


「魔の気配を持った人たち……なのかしら」


 確実な予想ではないのかもしれないけれど、魔族側に協力する人間がいるということは確かなようだ。今までの証拠からもそれはわかることだ。

 しかし、この国への入国は厳しいものになったと言っていた。それなら得体の知らない人がこの国に入ることはできない。

 もしかすると……。

 そんな推測を並べながら走っていくと剣が交わる音が聞こえてくる。


「誰かが、戦っているのね」


 私はさらに走るペースを早め、議会の方へと走っていく。


   ◆◆◆


 僕、アレクは人と戦っていた。

 いや、正確には人ではないのかもしれない。魔族の持つ魔の気配と人の気配の両方を持つ妙な存在。ナリアと同じものが彼らから感じる。


「くそっ。こいつら死ぬ気だぜ?」

「そうみたいだねっ」


 僕は動きを止めずに彼らと戦っていた。理由は彼らが空気を使って攻撃してきているという点だ。おそらくだが、急激な気圧変化を利用して操っていると思われるが、どういった理屈で攻撃しているのかはわからない。まぁよくわからない攻撃とはいえ対処できないわけではない。

 ただ、誰がその攻撃をしているのかはわからない。

 六人ほどと戦っているが、誰かが聖剣を持っているような様子ではない。彼らは普通の剣を持っているだけだ。


「ふっ!」


 僕は聖剣の能力を使って彼らの剣を粉砕する。

 しかし、彼らは剣がなくなったとしても今度は拳で殴りかかってくる。

 人を傷つけないというのが信条ではあったのだが、彼らはそんなことでは動きを止めることはない。


「仕方ねぇ! これならどうだっ!」


 すると、レイは強烈な蹴りを男の一人に与えた。


「うっぐ!」


 その強烈な衝撃は彼の内臓を大きく損傷したことだろう。それぐらい容赦のない一撃だったのだが、彼はそれでも立ち上がってレイへと殴りかかってくる。


「ふざけんなよ!」


 武器を失い、致命的な一撃を喰らったのにも関わらず彼らはものすごい形相で僕たちへと襲いかかってくる。

 とは言っても彼らの攻撃は洗練されているものではなく、簡単に避けられるものだ。

 これ以上は時間の問題だろう。どちらかが死ぬまで彼らは襲い続けるのかもしれない。


「……やはり侵入していたのだな」


 すると、議会の方から一人の男性が出てきた。彼は元聖騎士団団長のブラドだ。

 そう言って彼は魔剣へと手を伸ばすと彼の影が六つの線となって狂気に満ちた敵へと伸びていく。

 そして、そこから影の分身が出現すると同時に男たちを一刀両断した。


「なっ。殺していいのかよ!」

「死人に口無しというだろう。彼らはもう死んでいる」

「あ?」


 確かにレイの蹴りを受けたのにも関わらず立ち上がって攻撃を仕掛けてきたのは不自然だ。それに苦しんでいる様子でもなかった。

 特殊な訓練を受けている僕でもあの一撃をまともに受ければすぐに動くことはできない。


「かつて死者を操る魔剣があったと聞いている。本当かどうかは知らないがな」

「その噂話を信じろというのかい?」


 僕は彼にそう質問した。


「信じろとは言わない。事実、彼らは死者も同然だった。そうだろ」

「答えになってないね。ブラドさんは僕たちに何を求めているのかな」

「気にする必要はない。そのうちわかることだ」


 そう言って彼は何も答えを言わずにまた議会の方へと戻っていった。

 理由の有無に関わらず情報は開示して欲しいものだ。僕たちも独自に調査をしているということもある。

 いつかわかることなのかもしれないけれど、教えてくれてもいいものだと思う。

 そんなことを考えているとミリシアが走ってきた。


「な、何があったの」


 二つに両断された死体を見ながら、彼女はそう僕に質問してきた。

こんにちは、結坂有です。


死者を操ることのできる魔剣、もしそんなものが存在していたらとんでもないことになりそうですね。

本当にそんな魔剣が存在するのでしょうか。それともまた別の存在なのでしょうか。

気になることが増えてきましたね。


それでは次回もお楽しみに。



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

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