隠された情報
私、ラクアは驚いていた。
訓練生がよく来るこの宿なら剣聖エレインの情報を得られると思っていたのだが、まさかその本人がこの宿で泊まっているとは思いもよらなかった。
先ほど、とある訓練生の人を連れて外に立てられている訓練場へと向かっていったのを見たのだが、本当に訓練生を指導しようとしているのだろうか。
「剣聖さん、気になリます?」
「……え、ええ」
外に向かっていく彼をずっと見ていたから宿主が気づいてしまったのだろうか。
まぁどちらにしろ、後で情報を得ようと思っていたところだから気にすることもないだろう。
「あの人はすごいですよ? この前訓練指導をしているところを覗いたのですけど、それはもう普通ではなかったですね」
「どのような訓練を?」
「訓練生の方が目隠しをしていろんなことをしていましたね。音とかで判断しているのかはわからないですけど、真っ直ぐ剣を構えることができていたのは覚えていますよ」
目隠しの状態で真っ直ぐ相手に剣を構えることができるというのはなかなかできることではない。
普通であれば、しっかりと相手を目で見据えて構えるのが普通なのだが、目を隠された状態ではそれができない。彼がこの国に来てまだ数日だ。その数日で訓練生をそこまでの実力まで指導できるのだろうか。もしくはもともとあの訓練生に高い素質でもあったというのだろうか。
「そんなことをできる訓練生は普通いないわよね」
「私の知っている範囲ではいないですよ」
この宿主も昔は訓練生として剣術に励んでいた時期があるそうだ。その中でも見たことがないようだ。それほどの実力があるのなら普通はどこかの門下生のはずだ。
「あの訓練生、一体何者なのかしら」
「わかりませんね。それにしても剣聖がこの国に来たのはやはり何かあるのでしょうか」
「……港で爆発事故が起きたりしていたから何もないってわけではないでしょうね。でも本当に剣聖が関与しているのかは知らないけれど」
すると、彼は考え込んだ。
確かに彼が来た直後に爆発事故が起きたというのはただの偶然ではないはずだ。彼が爆発を起こした張本人ではないにしろ、何か裏で動いていることは間違いない。
そのことに関してはこれから調べていく必要があることだろう。
「そうですよね。ですが、あまり深く関わらない方が吉だと思いますよ」
そう言って宿主は部屋の鍵を机の上に置いた。
それから私は自分の部屋に荷物を置いて窓から訓練場の方を見た。
だが、外の人形などが置いてあるところで訓練していないようだ。ここから見えないとなれば、あの屋内のところで訓練をしているのだろうか。
どのような訓練をしているのかはわからないが、私がどうこう言える立場ではない。少なくとも私がするべきことは彼と話をして何が目的なのかを聞くことだ。
訓練の邪魔になることを覚悟して、私は彼らがいるであろう訓練場へと向かうことにした。
ここの宿の訓練場は自由に出入りできるようになっている。それに彼らが貸し切りしているということも宿主の人は言っていなかった。私がその訓練場へと入ったとしても何も問題ないはずだ。
そして、不安と緊張を強引に抑えつつ私は訓練場の扉を開いた。
すると、そこには目隠しをした訓練生と剣聖であるエレインが木剣で軽く打ち合っている姿があった。何よりもそのエレインの方も目隠しをしているのだ。二人とも見えない状況で戦っているのだ。
「……」
二人のその打ち合いに言葉を失ってしまった。
本当はエレインに声をかけるつもりだったのだが、どうしても自分から話しかけることができなかった。
「あの、どうかしましたか?」
しばらくその様子を眺めていると一人の女性が話しかけてきた。
彼女は確か剣聖の横にいたもう一人の女性だ。新聞にも書かれていたが、彼は従者となる女性を一人連れてきていると書かれていた。おそらく彼女がその従者なのだろう。
「……剣聖エレインに話をしたいことがあるのだけど」
「すみません。今、エレイン様は訓練の指導をされていまして……」
「俺なら別に問題ない」
すると、奥から訓練生の相手をしながらエレインが話しかけてきた。
「え?」
「エレインさん。本当に目隠ししてるのですか?」
訓練生の人がそう疑問を投げかけてるが、私が見たところ彼はしっかりと目隠しをしている。それも透けて外が見えるようなそういった素材ではない。
「それで、なんのようなんだ?」
バッバッ!
木剣が打たれる音を訓練場に響かせながら、エレインは私へと話しかけてくる。
やはり剣聖と呼ばれるだけはある。普通に打ち合っているだけでも話をしながらできるようなことではないのだ。
「……あの爆発事故について何か知っていることはないのかしら」
私は率直にそう聞くことにした。
回りくどい言い方は私も好きではないからだ。
「爆発に関しては俺もよくわかっていない。政府の人間がオラトリアの仕業だと言っていたが、それ以外のことは知らないな」
新聞に書かれてはいなかった情報だ。それだけでも知れたのは十分だろう。
「オラトリアの仕業……それは本当だと思うの?」
「この国に来てまだ四日しか経っていない。そんな俺にわかると思うか?」
「わからないわよね」
「あなたはあの爆発事故に関して調べているのですか?」
すると、横で話を聞いていた彼の従者が話しかけてきた。
「軍の関係者ではあるのだけど、事故に関しては私が独自で調べてるわ」
「そうなんですね」
この女性はまだ私のことを警戒しているようだ。それはエレインも同じなのかもしれない。この国に来てまだ間もないということだ。そんな中で誰かもわからない人から急に話しかけられたら誰でもそうなることだろう。
「ごめんなさい。紹介が遅れたわね。私はラクア・サンガレア、聖剣使いとして登録されているけれど、聖剣は持っていないの」
「憑依型、ですか?」
すると、従者の人はそう質問してきた。もしかすると彼女は憑依型のことを知っているのだろうか。
「ええ、そうよ。知っているの?」
「はい。私も似たようなものですから。エレイン様の従者として付き添っているリーリアと申します」
剣聖の従者ということで彼女もかなりの実力者なのだろう。
すると、エレインは打ち合いをやめて目隠しを取った。
その姿にドキッと胸が脈打つが、表情を変えずに私は彼を見つめた。
「政府関係者ではないんだな?」
「どこまで関係者と呼ぶのかはわからないけれど、少なくとも政府の人間ではないわ」
政府に立場が保障されている身ではあるが、政府の活動には全く関わっていない。
それなら彼も私のことを少しは信用してくれるのだろうか。もしここで彼に警戒でもされたら意味がないからだ。
私としても彼と協力して隠蔽だらけのこの政府をどうにかして変えたいと思っている。剣聖が協力してくれたらそれの夢も叶うことだろう。
「それなら少しは信頼できるかもな」
「本当?」
「ああ、俺もここの政府には疑問を抱いているところだ。まぁ俺としてはどうでもいいことなのだがな」
彼も政府に不信感を抱いているのであれば、もしかすると本当に協力してくれるのかもしれない。
「……あの、どういうことですか?」
「クレアも言っていただろ。色々と怪しいことをしている人たちがいるかもしれないってな」
「はい。ですが、政府と何か関係あるのですか?」
「推測ではあるがな。おそらくここの政府は国を維持するために大きな嘘を吐いている可能性がある」
ここに来て数日、それなのに彼はこの国が怪しいということをもう見抜いているのだろう。
確かに違和感を突き詰めていけばわかることなのかもしれないが、普通は誰も政府に疑いの目を向けることはない。
国民のほとんども政府に対して何も文句は言わない。それは安全を保証しているからだ。その安全という状態がどのようにして維持されているかは誰も見向きもしていない。
「……協力してほしいとは言わないわ。でも一つだけ聞いて欲しいの。この国の政府は神樹を切り倒しているの」
「情報では神樹の寿命だと言われていましたね。確かにそれには不自然な点がいくつもあります。その可能性はありますね」
「そうなのか?」
「はい。神樹に寿命などはありませんので」
リーリアという女性はよく調べているのだろう。
すると、エレインが少し考え込んでから私の目をまっすぐに見た。
私の心の奥底を覗き込むかのようなその目に私は若干惹かれそうになる。そんな状態の私をよそに彼はゆっくりと口を開いた。
「ちょうど俺もここの政府に色々と言いたいことがあるからな。まぁ考えておく」
そう言って彼は水を一杯だけ飲むとまた目隠しをしてクレアという訓練生と打ち合いを始めた。
こんにちは、結坂有です。
これから物語が大きく展開していきそうですね。
果たしてここの政府は一体どんな嘘をついているというのでしょうか。
神樹を切り倒したのには深い理由があるのです。
それでは次回もお楽しみに。
評価やブクマもしてくれると嬉しいです。
Twitterではここで紹介しない情報やたまに呟きなども発信していますので、フォローお願いします。
Twitter→@YuisakaYu




