闇討ち
それなりの規模での襲撃はひとまず落ち着いたと言える。
そして、俺たちの応援は今日までで終わりだ。
日も沈んでおり、そろそろ解散という時刻になる。
「エレイン、あなたが私よりも強いということはわかったわ。だけど、学院の勝負は手を抜くつもりはないからね」
「そのようなことを気にはしていなかったのだが、宣戦布告と受け取っておこう」
セシルが学院での勝負では手を抜かないと言っている。
まぁ彼女と一対一で戦うことになれば、多少は苦戦することになりそうだな。
魔族と違って、知能が高い分対策を組まれてしまっては面倒なことになるからな。
それに今回の件である程度の攻撃パターンは把握されてしまっているだろう。
「勝負はまだまだ先になるだろうがな」
学院一位との勝負は一年の終わりとなるだろう。ミーナをどこまで強くさせるかにもよるが、二年生ではおそらく彼女と組むことになりそうだ。
「いきなり学院底辺と戦うのは周りから見て変だからね」
「ああ、まぁ気長に待つとするよ」
「私も楽しみにしてるわ」
そういうとセシルは帰宅する準備を始めた。
「私は早めに帰るわ。寮はここから遠いからね。エレインたちも早く帰りなさいよ」
「そのつもりだ」
すでに帰ってもいい時間帯だ。
遠征に向かった部隊も帰ってきたと無線で連絡が来ていたからな。交代の部隊も遅れているようだが、そろそろ来ることだろう。
「では、先に失礼するわ」
そう言ってセシルが帰っていった。
門の内側なら魔族にあることもないだろうからな。
「交代の部隊がそろそろ来るそうです。私たちも帰る準備をしましょう」
無線で連絡していたリーリアが俺にそう話しかけてきた。
「そうだな」
外は完全に暗くなっており、視覚は全く機能しない。
「それにしても変な音が聞こえるな」
「虫の音ではないのですか」
先ほどから外で妙な音が聞こえる。
虫の音に似ているが、明らかに違う。魔族のような気配ではないが……
「少し外に出る」
「エレイン様、さすがに危険ではないでしょうか」
「俺なら大丈夫だ」
そう言って俺は警備室を出る。
外に出るとやはり奇妙な音が聞こえる。
「エレイン様」
「リーリアはそこの部屋にいろ」
「……私も同行いたします」
「命令だ。そこで待機」
俺がそういうと、リーリアは少し不安そうな顔をした。
そして、一礼して扉を閉めるのであった。
それから俺は門から離れる。
目を閉じ、視覚以外の感覚に集中する。二体分の動きがある。
しかしそれが人間なのか、魔族なのか動物なのかわからない。それに正確な場所などもわからないのだ。
「一人かよ」
すると俺のすぐ後ろから声が聞こえた。
この声は魔族だ。
「ふっ!」
俺は一瞬にしてイレイラを取り出し、振り上げた戦斧を防ぐ。
「速いな。お前」
「俺の背後を取るとはな」
『わしも気付かんかった。悪いの……』
アンドレイアが念話で話してくる。
彼女にも気付かなかったのだ。人間の俺が気付けるはずもないか。
「キェ!」
すると、草むらからもう一人飛びかかってきた。
「我が主に殺意を向けるなど、身の程を知れ」
アンドレイアが顕現する。
「こいつ、精霊か?」
「ビイェ!」
振り上げた鋭いナイフはアンドレイアによって簡単に防がれる。
加速の能力を持った彼女ならあの程度の速度など簡単に防げるのだ。
「気味の悪い声を上げるな」
「ジェ!」
魔族の連撃を簡単に防いでいく。
あの調子ならすぐに決着は着くだろう。
「相方を見ている場合か?」
「攻撃がないからな」
「余裕振っているのは今のうちだぞ」
男は戦斧を振り上げて俺の方へと攻撃をしてくる。
あれは誘いの一撃だ。受け止めれば防ぐことができない箇所に追撃してくることだろう。
しかし、俺はあえてその振り上げた戦斧を防いだ。
「かかったな!」
「どうだろうな」
膝蹴りをしてきたのだが、それすらも受ける。
「っ……」
魔族の一撃は相当きついものがあるな。
「どうだ、肋骨が折れる痛みは」
「鋭い痛みだな」
「はっ、これで決めてやるよ」
すると目の前の魔族は戦斧を横方向に構えた。
罠にかかったのはお前のほうだ。
受けるために受けた痛みなのだからコントロールできる。
「オラッ!」
「ふっ!」
俺は魔族が大振りになるのを狙ったのだ。
当然、大振りをするのは隙が生じるわけだからそこを狙えば、こちらの攻撃が通るというものだ。
「ガァッ」
魔族の胸元が大きく抉られる。
音速とまではいかないが、かなり高速な剣撃によって大量の血飛沫が地面を濡らした。
「なんて速度だ……」
「言い残すことはそれだけか?」
「まさか人間にもここまでの奴がまだいたとはなっ」
そう言って魔族は倒れた。
「ギャ!」
「気持ち悪いぞ」
奥で戦っているのはアンドレイアと奇声を上げる魔族だ。
彼女は片手で魔族の攻撃を完全に受け切っている。
「キュエ!」
ほんの一瞬に生じた隙をアンドレイアは見逃さなかった。
彼女の剣は魔族の胸を完全に貫いていたのであった。
「全く、わしにきもい相手をさせるとは、どんな仕打ちじゃ」
「助かった。今日は一緒に寝てやってもいい」
先ほどまで不機嫌であったアンドレイあの表情は一瞬にして明るくなった。
今回に関しては完全に彼女の助けがなければ、もう少し苦戦していたことだろう。
あれほどの気配を隠すのがうまい魔族がいるとは思ってもいなかったからな。
ここは感謝として前々から言っていた添い寝というやつをやってやろうではないか。
イレイラもこれぐらいなら許してくれることだろう。
「本当か? これは戦った甲斐があったというものじゃな」
「ああ、まぁ一日だけだがな」
「なんじゃと、ずっとではないのかの?」
一回助けてくれたということだ。一日だけに決まっている。
「当然だろう。まぁ一回につき一日だ」
「毎日のように助けてやってもいいぞ!」
「そんなことはしなくていい。俺が助けて欲しい時だけでいい」
そういうとあからさまに落ち込んだアンドレイアであるが、反論もないのかそのまま剣の中に消えて行った。
警備室に到着すると、リーリアが飛び付いてきた。
「エレイン様、ご無事でしたか」
「問題ないと言っただろ」
「本当に、本当によかったです」
顔を俺の胸に擦り付けるように縋る。
「心配かけたな」
俺はリーリアの頭を撫でてやる。ここは一旦落ち着かせることが必要だからな。
それからすぐに交代の部隊が到着し、俺たちは帰宅することにした。
家に着くとアレイシアが心配そうに出迎えてくれた。
「エレイン! 大丈夫だった?」
「ああ、少し危ない状況にはなったがな」
今回夜に出会った魔族は確かに強かった。
魔族も確かに進化しているということなのだろうか。
「だから行かせたくなかったのに……」
「俺が行ったおかげで門の防衛ができた」
「エレイン様の活躍はすごいものですよ」
続けてリーリアがそう付け加える。
彼女はどこか誇らしげに言っているのだが、一体何が目的なのだろうか。
「それはそれでいいのだけどもね?」
アレイシアが上目遣いをして俺を見つめてくる。
彼女も一体何がしたいのだろうか。
「応援に行った話は夕食に話す」
それからユレイナが作ってくれた夕食を食べながら、昨日と今日のことを詳しく説明するのであった。
それから夕食を食べ終えた俺は自室に戻っていた。
「お主、まだかの?」
部屋に入るなり、すぐに姿を現してベッドの上に寝転がる。
色気を漂わせる猫撫で声を上げながら、ゴロゴロとしている。
「少し待て」
俺は装備している剣などを下ろして、上着をクローゼットに直した。
「早くするのじゃ」
アンドレイアは銀色の髪を揺らしながら、いかがわしい態勢で俺を誘ってくる。
全くこいつには一度教えてやらないとな。
「なっ」
「どうした? これが添い寝というやつだろ」
「そ、添い寝……これが添い寝なのかの」
俺はアンドレイアの体に密着するように押し倒した。
「なんじゃ、欲情しておるのか? このロリコンめ」
「静かにしろ。シングルでは密着しないと入れないだろ」
「バカもの……あっ…どこに手を入れとるのじゃ」
それから色々と体勢を変えたりしてみるが、なかなかしっくりとくる形にはなれなかった。
結局熟睡することはできなかったのであった。
こんにちは、結坂有です。
どうやらエレインが戦った時と比べて魔族は進化しているものもいるようです。
そして、アンドレイアとの関係もこれからどう発展していくのでしょうか。
それでは次回もお楽しみに。




