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覚悟していたこと

 私、クレアは小屋から出てきた三人と対峙していた。エレインさんのためにも私はここで彼らを止めなければいけないのだ。

 エレインさんは脇道から出て来た五人の方へと走って行ったのを見ただけでそれ以降のことは見ていない。


「へっ、女一人で俺ら三人を止めれると思ってんのか?」

「わかりませんっ。ですが、少しでも時間稼ぎにはなると思っています」


 私は木剣を構えてそう言った。

 もちろん私なんかがこのような弱々しい木剣で彼らを止めれるかは不安だ。しかし、それでも私にはそれをやらなければいけないのだ。あの剣聖という称号を持ったエレインさんに認められるためにここは頑張らなければいけない。

 ここでやらなければ、今で必死に訓練を続けてきた意味がないのだ。


「お前はおもちゃの剣、俺らは本物の剣。どっちが強いんだろうなっ!」


 そう言って目の前の男の一人が私の方へと走ってくる。

 自分自身高い実力を持っているわけではないが、今までの訓練生とは違い彼らの動きは単調だ。これなら私でもなんとか対処することができるかもしれない。

 そう思った私は一気に駆け出した。


「はっ」


 私の突撃に彼らは一瞬驚いた表情をしたが、それでも私は止まらない。訓練生になる前に一度だけ講習に行ったことがある。そこではこの国における基本剣術を教えてくれた。

 その時にこの国では古くから”勢いのある剣は盾をも貫く”という言葉がある。要するに怖がっていては相手に攻撃を与えることすらできないということだ。


「やる気みてぇだなっ」


 私の今までで最も速い剣速で迫ってきた男に斬りかかる。とは言っても相手は本物の剣を持っている。私のような木剣では簡単に防がれてしまう。

 だから、私は相手が私に対して攻撃を仕掛ける前に私から追撃をたたみかける。そうすれば、彼らは攻撃をすることができないことだろう。正直言ってここまで私の思い通りになっているのが怖いぐらいだ。

 素早い剣先も若干震えているがよくわかる。初めての実戦に恐怖を抱いてしまっている自分がいるのだ。

 それでも私は剣聖に認められるためにも頑張る必要がある。震える体を気持ちだけで突き動かして相手にさらなる追撃を加えていく。


「はっ!」


 震える剣先を必死に押さえつけながら私は男の剣を弾きあげる。


「……っ! てめぇ!」


 目の前にいる相手は武器を持っていない。これなら私でも勝てる。

 そう思い一歩踏み出した瞬間……


「くっ!」


 男の腕が剣先を擦り抜けて私の首元へと掴みかかる。


「少しは強ぇやつなのかもしれねぇがな。お前と俺とでは経験してきた数が違うんだっ!」


 そう言って男は力強く私の首を締め上げる。


「っ!」


 私はどうすることもできず、木剣を落としてしまった。

 実戦では剣術だけがものを言うわけではない。彼のように体術を使ってくる相手もいることだろう。それを未熟な私が思慮せずに突撃したせいで彼の体術の間合いに入ってしまったということのようだ。

 私がこの三人を止めるどころか、一人すら倒すこともできなかった。力のない私には一度に三人を相手にするなんて不可能なことだったのかもしれない。


「よく頑張ったな。クレア」


 そう意識が遠退く寸前、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「なっ!」

「いい動きだった。あとは俺に任せろ」

「……」


 声を出したいけれど、首を締め上げられているため私は言葉を発することができない。


「へっ、剣聖ってのは伊達じゃねぇな?」


 すると、エレインさんを見た男たちは一気に彼へと攻撃を仕掛けようとした。

 一人は私を拘束しているが、二人は何もしていない。その二人が同時に彼へと向かった。


「……っ!」


 彼ら三人組が剣術だけでなく体術も使ってくるということを私は知っている。なんとしてもそのことをエレインさんに伝えなくては。

 首を締め上げれられる強烈な苦しみの中、もう一度エレインさんの方へと視線を向ける。


「うがっ!」


 男の悲鳴とともに三等分に斬られた剣が宙を舞う。


「嘘だろっ」

「俺の命を狙うにしては数が少なすぎる」

 エレインさんがそういうと共にもう一人の男も剣をあっさりと破壊されてしまう。

「剣がないのなら帰るんだな。あとこれ以上俺に敵意を向けないことだ」

「……」


 男の一人がアイコンタクトを取り始める。そして、エレインさんを挟み込むように二人の男が配置についた。

 私に仕掛けたと同じように彼らは体術で攻撃を仕掛けるようだ。対するエレインさんはもう剣を納刀している。


「余裕ぶってんじゃねぇ!」


 すると、エレインさんの背後から一人の男が襲いかかる。


「ばがっ!」


 瞬きをする間もなく、男は飛ばされていた。


「武器を失って体術で挑んでくるというのは悪くない判断だが、俺も体術は心得ているつもりだ」

「っ! て、撤退!」


 私の首を掴んでいた男がそういうと一斉に彼らは逃げ始めた。


   ◆◆◆


 俺、エレインは相手を撃退することに成功した。

 クレアの首を掴み上げていた男がどうやらリーダーだったのか彼の一声で全員が撤退を開始したのだ。

 まぁ誰がリーダーであれ、あの人数では俺を倒すことはできない。


「クレア、大丈夫か?」


 俺はしゃがみ込んでいる彼女へと近づいた。


「……は、はいっ」


 呼吸に支障は出ていないようではあるが、決して短くはない時間首を締め付けられていたのだ。

 かなり辛かったことだろう。


「すまない。援護が遅れてしまった」

「違いますっ。私がすぐに捕まってしまったのが悪いのです」


 そう言って彼女は俺の言葉を首を振って否定した。

 そうとは言っても木剣と本物の剣とでは明らかに不利な状況だ。そんな状況下でも彼女は恐怖に打ち勝ち、彼らへと突撃した。

 実力がもっとあれば彼女でもあの三人は撃退することができたことだろう。ただ、彼女に足りなかったのは実力と経験だ。

 それを俺が引き上げることができれば彼女はより強くなるはずだ。


「男に与えた攻撃は六回。そのうち二回は強い攻撃だ。あの短期間でよくあれほどの技を繰り出せたものだ」

「……ほ、ほめているのですか?」

「ああ、当然だ。あの連撃はあの男も捌ききれなかったようだからな」


 彼女の熾烈な攻撃に男は押し込まれていた。誰がなんと言おうと剣術面ではクレアの方が上だったということだ。

 あの三人組はクレアに対して下劣な視線を向けていた。確かに彼女はその燃えるような美しい赤髪と透き通るように綺麗な瞳、そしてそのしっかりと引き締まった体は男の欲情を引き立てるものがあっただろう。

 彼女をどのようにしたかったのかはわからないが、良からぬことを考えていたのかもしれないな。


「ですが、私は油断してしまいました」


 すると、クレアはそう言って大きく俯いた。

 一瞬でも勝てると確信してしまったことがどうしても許せないのだろう。相手が体術を使ってくるなんて想像すらできていなかったのだからな。


「そこまで悔やむ必要はありません。誰でも失敗はするものですよ。最初から失敗をしない人なんてほんのごく一握りの人だけですから」


 そう言ってリーリアはクレアの方へと近寄っていく。


「クレアさんはよく頑張りました。たった一人で三人に立ち向かうというのは学生の頃の私ではできませんから」

「……そうなのですか?」

「はい。学生の頃の私は臆病でしたから。そんな私よりもクレアさんは素質があると思いますよ」


 そうリーリアの言葉にクレアは意外な顔を浮かべながらも聞き入っていた。

 この調子であればクレアは精神的にも強くなれることだろう。

 俺としても彼女が強くなるのは嬉しいと思う。より強い人間が多くなれば魔族を全滅させるのも容易になるからな。


「ありがとうございます。私、絶対に強くなってみせますっ」

「ああ、その覚悟があるのなら全く問題はない」


 恐怖に打ち勝つ強さを持っているというのはやはり素質がある。

 そして、何よりも彼女には流派と呼ばれるものが存在していないという点だ。指導する分には教えやすい弟子でもある。


「厄介な人たちと出会ってしまいましたが、お店に急ぎましょうか」


 そう言ってリーリアがそういうとクレアは立ち上がって「はいっ」と返事をした。

こんにちは、結坂有です。


ヴェルガーに入国できたエレインたちですが、早速命を狙われてしまいました。

しかし、彼らはそれを難なく撃退することができ、さらにはクレアという新しい仲間も迎え入れることとなりました。


これからはこの国で色々と調査する回となります。


それでは次回もお楽しみに。


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