交差する状況
一〇人ほどで俺たちを取り囲んできた彼らではあるが、一体何がしたかったのかは不明だ。まぁ俺を殺そうとしていたのは間違いない。
「エレイン様、大丈夫ですか?」
「ああ、それよりも一体なんだったんだ?」
理由はともかく、彼らは俺たちの命を狙ってきた。もちろん、それ相応の対処をするべきなのだろうが、俺には少し気になることがあった。
それは彼らが聖剣を持っていなかったということだ。剣聖であるということは知っていたのだから、当然ながらそれに見合う力を持っていなければいけない。最低でも俺と同じ聖剣を持ってい流必要があるはずだ。それなのに彼らは一体どうして俺たちを狙ったのだろうか。
「……聖剣の気配がなかったのですが、何がしたかったのでしょうか」
少なくともカフェで俺たちを狙ってきた人たちとはまた違った勢力ということなのだろうか。どちらにしろ、この場所で俺たちが平穏に過ごすということは難しいのかもしれない。
「私にもわかりません。あのような人たちは初めて見ます」
まぁあのような人たちを普段から見るということはほとんどないだろうからな。
「今日はとりあえず宿屋に向かうとするか」
俺は警戒を緩めずに周囲の気配を感じ取りながら街中を進んでいく。この街中は建物が多いのだが、人が外に出歩いているということはない。だからあのように武器を持って俺たちを襲おうとしたとしてもすぐに通報が入らなかったということのようだ。
それから街道を抜けてしばらくすると、小さな宿屋が見えた。
「エレインさん、あの場所です」
「あそこがおすすめの場所なのか?」
「はい。あの宿屋では訓練用に裏庭も使っていいとされています。ですので、訓練生がよく使う宿屋でもありますよ」
そうどこか楽しそうに宿屋を指さした。
確かに見たところ訓練用の施設のようなものも見える。どうやら彼女の言っていたことは本当のようだ。
「そうか。それならクレアの訓練も見ることができるな」
「……恥ずかしいのですが、そうなりますね」
そう頬を赤く染めながら彼女はそういった。普段訓練などは人に見せることはしないのだろう。いや、そもそも指導を受けるということ自体が初めてなのかもしれない。どこかの門下生となったことがないらしいからな。
「エレイン様、本当にご指導なされるのですか?」
「短期間だけだそれなら問題ないはずだが?」
「……確かにそうですけど」
俺がそう言うとリーリアは少しだけムッとした。
どうしてそんなに怒っているのかはわからないが、とりあえずはこのままあの宿屋に向かうことにしよう。
可能な限り広い範囲を気配を放って調べてみたのだが、幸いなことに俺たちを付けているような人は見当たらなかった。
宿屋に入ると少し広めのエントランスに受付が立っていた。部屋は全部で一〇部屋となっておりかなりの人数を宿泊させることができるそうだ。
それに食堂もついており、どこか学院を思い出させるものとなっている。
「結構しっかりしていますね」
「そうだな。人里離れた場所ではあるが、訓練生などに需要があるのだろうな」
「はいっ。エレインさんの言う通りです。ここの宿屋を経営している人は元々訓練生だったのです。それでこのような宿屋を作ったそうですよ」
そう言ってクレアは楽しそうに宿屋の説明をした。
確かに訓練生のことを思って作ったのだとしたら納得できるな。
「クレアはここに泊まったことがあるのか?」
「何度かあります。ここに引っ越そうと思ったのもこの宿屋のおかげです」
リーリアが受付を済ませている間、俺はクレアがこの町に来た経緯を聞いてみることにした。
どうやら彼女はもともとこの町の出身ではないそうで、本当はもっと中央に近い場所に住んでいたそうだ。それからしばらく訓練生として旅をしていたところ、この宿屋を見つけてこの港町に惹かれていったそうだ。
まぁよくある話ではあるのだが、少し興味深い話を聞いた。
「最初ここに来るまでは少し怖かったんですよね」
「怖かった?」
「はい。この国はいくつかの王国が一つになってできたということは知っていますよね」
「ああ」
「この港町はかつて野蛮な王国として有名だったオラトリアで、何かあればすぐに戦争をするような国だったのです」
確かにそういった歴史がある以上、怖いと思うのは仕方のないことだろう。実際に彼女はそのオラトリアという国の実情を知っている年齢ではないにしろ、そんな歴史があると聞けば誰でも怖いと思うのは当たり前のことだろう。
「ですが、実際にここに来てみればみんな楽しそうに生活していますし、何よりも食事が美味しいです。他の場所にはない温かい生活がここにはあるのです」
そんな歴史を踏まえてもここの生活の豊かさは別格だと彼女は言いたいようだ。
「なるほど、聞いていたほどに野蛮な場所ではないということなんだな?」
「そうですね。そうだと思っていたのですが……」
今日の一連の事件から怪しいと考え始めたということだろうか。
「すまないな。俺がこんなところに来なければもっと平和だったかもな」
「いえ、そんなことはないですよ。エレインさんが来なくてもオラトリア王家は妙なことをしていたと思います」
そう言って彼女は俺が来たことに不満はないそうだ。まぁ不満だったらこうして宿屋を紹介することなどないか。
すると、リーリアが受付から鍵を受け取って戻ってきた。
「エレイン様、部屋を一つお借りしてきました」
「わかった」
「……二人で一つの部屋、ですか?」
リーリアがそういうとクレアが少し動揺したようにそう言った。
「何か問題でもあるのか?」
「い、いえ、二人はどういった関係なのかなと思っただけです」
「別にリーリアはただのメイドだ」
「それでも男女が一緒の部屋というのは少しいかがわしいような気もしますけれど……」
クレアがそういうと途端にリーリアの頬が赤く染まり始める。
「あ、あの……エレイン様。決してそのようなことは考えておりません」
「それはわかっている」
顔が暑くなったのか彼女は顔を冷ますように手で仰いだ。
「いかがわしい関係ではない、ということですか?」
「ああ」
「……どこか納得いきませんが、そういうことだと思っておきます。私も家は近くにありますけどここで泊まることにします」
そう言って彼女は不服そうな表情をしながら受付の方へと向かった。
まぁ変な誤解が生まれる前に否定できて良かったかもしれない。とは言ってもクレアとこれからどれだけ長い時間共に過ごすのかは知らないが、妙な誤解は避けておくに越したことはないだろう。
◆◆◆
私、ミリシアは小さき盾としてある行動に出ていた。
それはエルラトラムに潜入しているかもしれないヴェルガーからの刺客の調査についてだ。
当然だが、すぐにその存在が見つかるというわけではなく今は単なる様子見を兼ねている。
「にしてもよ。こうしてどこかで食べるってのは初めての経験だな」
「そうだね。いつもは地下部屋で食事をしているからね」
「でもこれは任務なのよ。気を抜かないでよ?」
そう、私たちはエルラトラムのとあるレストランへに入っていた。
この場所はエルラトラムの中でもかなり人気のある場所でかなりの人数がこの場所を訪れている。この場所で私たちは情報を集めることにしていたのだ。
人に聞いて回るのも良かったのだが、それだと私たちが探し回っていると気付かれてしまうことがある。であれば、そもそも人に聞くよりも自分たちの足で情報を得る方がよっぽど安全だろう。
そう考えた私たちはまず人の多く集まるこの場所へと向かったのだ。
「うん。十分注意はしているよ」
「へっ、俺たち周りからどう見えてるんだろうな」
「どうって?」
「少なくともカップルには見えねぇだろうな」
珍しくレイが他人からの視線を気にしている。まぁそれに関しては私が注意してほしいと言ったからそうしているのだろうと思うのだけどね。
でも、彼がそういうのも無理はない。
先ほどからこのレストランに入ってくる人たちはどれもカップルばかりであったのだ。入る前から若干の気まずさを感じながらもここに滞在しているのだ。食事を食べるペースも遅くしている。
確かに周りからどうみられているのだろうか。
「まぁ家族でもここに来る人がいるってユレイナさんも言っていたことだしね。そこまで気にする必要もないのかもしれないよ」
「そうか? ミリシアとエレインの二人だったら自然だったかもしれないだろ?」
「ちょっと、冗談はよしてよ……」
レイがそう言った途端、私の耳が熱くなるのを感じた。
今は周りのことに集中しなければいけないのにどうしてエレインのことを考えてしまうのだろうか。
いいや、考えたらだめなのだ。
すると、アレクが小さく息を吐くと表情を変えて口を開いた。
「さてと、そろそろだね」
「……そのようね」
「待ってたぜ」
そして、私たちは新しくレストランに入ってくる二人組に注目するのであった。
こんにちは、結坂有です。
本日二本目の投稿となります。
エルラトラムの方でも激しい戦闘が始まりそうな予感ですね。
果たして小さき盾たちは一体何を調査しているのでしょうか。気になりますね。
それでは次回もお楽しみに。
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