爆発と出会い
私、クレアは走った。
強烈な爆発音に恐怖を感じながらも私は港の方へと向かった。
そして、港の近く近づくにつれ焦げ臭い匂いが漂ってくる。人だかりの奥の方を見てみる強烈な爆発が起きたのか大きく地面が黒焦げになっている場所があった。どうやらあの場所で何かがあったのだろうか。
「……何が起きたの」
誰にも聞かれないぐらい小さな声が自然と出てしまった。それほどに悲惨な状況が目の前で繰り広げられていたのだ。
「け、怪我人はいなのか!」
私の後ろの方から警備隊の人たちがやってくる。不思議なことに数の少ないためこの近くには警備隊がいなかったようだ。
運が良かったのか怪我人らしき人はいないようだ。しかし、それでもこの焦げた臭いと凄惨な爆発現場は恐ろしいものであった。
「どけっ! 訓練生っ」
私がその現場をじっくりと眺めていると一人の大柄な男性が私を突き飛ばした。
「なんですかっ」
後ろからの強い衝撃で私はバランスを崩しそのまま倒れてしまう。
「訓練生がでしゃばんじゃねぇぞ?」
「ただ現場を確認したかっただけで……」
「うるせぇ! その野次馬根性みてぇのが気に喰わないって言ってんだ」
声を荒げるようにその男性は言った。
どうしてこの人はこんなにも声を荒げているのだろうか。怒られていることではなく、彼が怒っている理由について気になる。
「なんでそこまで怒っているのですか?」
「お前には関係ないだろ。さっさと失せろっ」
そう私を突き放すようにその男は言った。
気になるとは言っても本人が話す気になれないのなら聞き出すことも困難だ。それに私はまだ訓練生。何かできるという立場でもない。
それにこの男性は聖剣使いではないようだが、それなりに軍の上層部の人なのだろう。その証拠に軍服ではない服に勲章のようなものをぶら下げている。不恰好ではあるものの、それが彼のやり方なのだと自分の中で勝手に解釈してみることにした。
軍関係者に真っ向から話せるほど、自分の立場は高くない。
「そこをどいてくれるか」
諦めて引き返そうと思っていたところ、一人の男性がメイドを引き連れて現場へとやってきた。
「あ? ……あぁっ!」
やってきた男性を彼は振り返って確認すると呆気に駆られたように情けない声をあげた。
「ここで爆発が起きたのか?」
「そ、そうですっ」
急に姿勢を正してさっきまでの横暴な態度は全くなくなった。この男性は一体何者なのだろうか。
胸元には見慣れないバッジのようなものを身につけている。もしかすると国の高い地位の人なのかもしれない。
大柄な男がそういうとメイドに人が爆発の起きた中心の方へとゆっくり歩いていった。
「あ、あの……」
ここで何も聞かなければわからないままだ。そう思った私は見慣れないバッジを身につけた彼に話しかけることにした。
「どうした」
「っ! す、すみませんっ。このバカ訓練生が失礼なことをっ」
「別に気にしてない。それで何か用か?」
すると、彼は何も気にしてないと表情を変えずに私を見つめてくる。
彼の目はとても綺麗でつい見惚れそうになるが、まずは彼が何者なのかをはっきりさせなければいけない。
とは言ってもあの大柄な男がここまでへりくだるほどの地位の人だ。自分から名乗るのが礼儀だろう。
「私は訓練生のクレアと言います。失礼ですが、名前を聞かせてくれますか?」
「ばかっ。初めて”剣聖”の称号を得た人だぞっ」
「もう話はそこまで広まっているのだな。エルラトラムから剣聖という称号を初めて与えられたエレインだ」
すると、エレインという人は真っ直ぐ私を見ながら自己紹介をした。
その変わった二振りの剣はおそらく聖剣なのだろう。白銀の美しい刀に黒光りした奇妙な機械仕掛けの組み込まれた大きな直剣はとても印象に残る。
そして何よりも彼の容姿がとても整っているということだ。爆発地点を調査をしているメイドの人もそうなのだが、美男美女とは彼らのことを言うのだろう。
「どうかしたか?」
「あ、いえ……なんでもありません」
しばらく沈黙が続くと彼はそう質問してきた。
見惚れていたなんて言えるはずもなく、私はなんでもないと答えることにした。
すると、奥からメイドの人が戻ってきて彼に話しかけた。
「エレイン様、爆発なのですが火薬で間違いないみたいです」
「音からしてそうだろうな」
「誰かが混乱を演出しようとした、ということですか?」
「わからないが、誰かが意図的に爆発させたのだろうな」
音だけで火薬の爆発だと判断できたという時点で驚きを隠せないでいた。しかし、混乱を演出したというのはどういうことなのだろうか。
いつの間にか私の横に立っていた大男は急に焦り始める。
「何か知っている様子だな」
その様子をエレインは見逃さずにそう彼に話しかける。
「お、おそらくは王家の一族オラトリアの仕業だと思われますっ」
このヴェルガーという国は複数の王国が一つとなってできた国だ。もともと戦争を繰り返していたという歴史があったが、魔族という共通の敵ができたということで一つの大きな国としてお互いに発展しようとなった経緯がある。
もちろん、戦争をしていたということから王家の間で亀裂が走ることもしばしばあった。その中でもオラトリア一族はいまだに大騎士を持っていないということから連邦政府に対して威圧的な態度を取ったり、事件を起こしたりとしていた。
どうやら今回もまたオラトリアの仕業のようだ。
「そうなのですね」
すると、美女であるメイドの一人がそう返事をした。
「リーリア、知っているのか?」
「ある程度の事情は昔と変わっていないようです。あとでゆっくりと説明いたします」
「ああ」
この人は海外から来た人なのだ。それだとしたらこの国の情勢についてそこまで知らないのは納得できる。
それよりも彼らはここにやってきて早々何らかの事件に巻き込まれてしまった。それも剣聖と呼ばれる名誉も実力もある人たちだ。
この国は他の国と比べて魔族の侵攻がほとんどなく平和な場所と言われている。少なくとも彼らにとってこの国の評判は良くないものだろう。
「それにしても、不吉ですね。平和な場所に来たと思っていたのですが……」
リーリアというメイドの人は私の横で頭を下げている大男に向かってそう言った。やはりこの人たちはこの事件について怒っているのだろうか。
「も、ももも申し訳ございませんっ」
「そこまで焦らなくてもいい。問題なのはこの事件を引き起こした奴らが悪い」
私の横で頭を全力で下げている大男はどうやら軍関係者というわけではなく、政府の関係者のようだ。どうりで軍服を着ていないわけだ。
そんなことを考えていると彼は私の方をぎっと睨みつけ同じく頭を下げるよう目で訴えかけてくる。
「……ヴェルガーという国は内乱状態なのですか?」
「いえ、我々政府側も王家の方々とは親睦を深めておりますっ」
そんな見え見えな嘘をついてでもそう言わざるを得ないのだろう。連邦政府側としても平和な国という国外からの評判が下がれば、国民の政府に対する信頼も崩れてしまうことだ。それだけは彼としても避けたいことなのだろう。
「まぁそれならいいのだがな。俺たちはこの国の内政についてとやかく言う筋合いはないわけだしな」
「そうですね。それではカフェの方へと向かいましょうか」
そう言ってエレインたちはこの爆発現場から離れた。
それと同時に大男は大きくため息をついた。
「……ったく訓練生ってのは礼儀がなってねぇな」
すると彼はそう吐き捨てるように言うと私から離れていった。
これでこの一件は片付いたかのように思えたが、私としてはこのまま何も起きずに済むはずがないと思っている。
前にも似たような爆発が起きた時もそうだ。
この後、誰かがきっと殺される事になる。
逡巡した私はこの現場から離れて先程のエレインたちの向かったカフェへと全力で走った。
こんにちは、結坂有です。
更新が遅れてしまい申し訳ございません。
まだ戦闘が起きていませんが、次回からは少し激しめな戦闘が起きます。
それでは次回もお楽しみに。
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