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剣聖としての最初の任務

 俺が国外に行くと決まってから数日経った。

 この数日間は俺の周りでは特に変わったことはなかったのだが、四大騎士の人たちが裏で色々と頑張ってくれていたようだ。とは言っても詳しい内容までは俺も流石に知らない。ただ、議会でかなり議論されたとだけアレイシアから聞かされている。

 その辺りのことは議会や諜報部隊の人たちに任せるとしてこれから俺がすることは国外にいる黒幕との接触だ。すぐにできることではないとは自覚している。さらに言えば、数日で終わるような任務だとも思っていない。少なくとも半年以上は見積もっておいた方がいいだろう。

 アレクやミリシアとも何度も話してどういった方法でヴェルガー政府関係者と接触するかを考えていた。

 いろんな方法が考えられるがまずは何か剣聖としての力を示すことだろう。そうすれば、政府の方から自然と接触してくるはずだとのことだ。その考えにはアレイシアも肯いており、どうやら聖騎士団の信用を得る際もそのようなことをしていたようだ。


 そして今日、これからリーリアとともにヴェルガーへと向かうことにする。表向きではまだエルラトラムと停戦状態とのことで自由に出入国できるらしいが、もし戦争状態へと戻ればこの国に戻ることは困難になるだろう。

 ましてや俺が不法に脱出したとなれば、エルラトラムとの関係はさらに激化することも考えられる。国同士の大戦争にならないように俺たちは注意しなければいけないだろうな。


「エレイン、本当に大丈夫?」


 アレイシアが部屋の扉を開けてそういった。


「昨日も言ったが、大丈夫だ」

「そう、しばらく会えないのよね……」

「ああ、とは言っても一年も会えないわけではない。それに早く終われば数ヶ月でここに戻ってこれる」


 アレクとミリシアとで複数のシナリオを想定していた。長く見積もって半年前後、短くて二ヶ月といった試算だ。

 そのことは彼女にも伝えており、納得もしていたの覚えている。


「でもね。心配なのには変わりないのよ?」


 いくら話をして納得していたとしても感情的にはまだ飲み込めていないということだろうか。


「……そこまで心配しなくてもいい。俺としては人を殺したくないのだが、この前もミリシアが言っていたように命の危険があるのなら容赦無く斬り捨てる」

「本当に生きて帰ってこれるの?」

「天界から無事に帰ってこれたぐらいだ。それと比べたら今回は旅行のようなものだろう。それに……」


 そこまで言いかけると魔剣から二人の堕精霊が出現した。


「わしらもおるからの。全く問題ないじゃろ」

「はい。ご主人様を守りたいと思っているのは私たちも同じなのです」

「二人がいるのなら安心できるけれど……これだけは守ってくれる?」


 そう言ってアレイシアは腰を少し曲げて彼女たちと視線の高さを合わせた。


「堕精霊だから自由な存在よね。でも自由には責任が伴うの。エレインを守るためと言って無茶苦茶なことはしないように、ね」

「……わかっておる。二度も同じ失敗はしない」


 確かに他国で兵士を全滅させたとなれば、大問題どころの騒ぎではない。アンドレイアが本気を出せば余裕でできることだろう。


「それならいいわ。あなたたちを信じてみる」

「任せてください」


 クロノスがそう返事をするとアレイシアはゆっくりと俺の方へと向き直った。


「じゃ、気をつけてね」

「ああ、セシルとカインのことも頼む」

「わかってるわよ」


 それから朝食をみんなで食べることにした。ミリシアは数日間話をしていたために落ち着きを取り戻しているようだ。とは言っても残念そうな表情をしているのには変わりないのだがな。

 これから俺は支度を整えて国外へと出発する。馬車はもう手配されているとのことで家の前で馬車を待つことにした。


「エレイン、こっち向いてっ」


 そう言ってミリシアが後ろから走ってきた。


「どうし……」


 振り向くと彼女は走ってきた勢いのまま俺の頬へとキスをした。


「……少しずれちゃったね」

「どういうことだ?」

「わかってるくせに。ま、帰ってくるまでお預けってことね」


 なぜか彼女はそう言って自己完結すると俺の方を両手で軽く叩いた。


「絶対に生きて帰ること、わかった」

「ああ、何度も言った」

「じゃ気をつけてね」


 するとちょうど馬車も到着したようだ。

 横を向くとリーリアが何故か顔を赤くしてムッとしていたが、俺と視線が合うとすぐに馬車の方へと向かって御者の人に話をし始めた。


「待ってくるから」

「早く帰れるように努力はする」

「うんっ」


 俺はみんなから見送られながら馬車へと乗り込んだ。

 ここから馬車で半日ほど移動し、それから船へと乗り込む。ヴェルガー大陸と呼ばれるぐらいだ。この国と陸続きになっているわけではないのだろう。大体丸一日、移動に費やすこととなるが、それに関しては特に問題はない。

 メイドであるリーリアは聖騎士団時代に何度かヴェルガーに向かったことがあると言っていたからな。

 まぁ移動中に何かが起きるということもないだろうが、一応気をつけながら向かうとしよう。


   ◆◆◆


 エレインが馬車に乗り込んで数時間がたった。

 もうエルラトラムの出て船着場へと着いている頃だろうか。

 私、アレイシアはずっと不安で仕方がなかった。

 初めて国外に向かわせたのだ。とんでもなく遠い場所というわけではないが、それでも心配なのには変わりない。停戦中とはいえ、敵対国である場所なのだ。


「アレイシア様、エレイン様のことを考えているのですか?」

「え? うん。そうだけど……」

「彼なら大丈夫ですよ。それにヴェルガーに何度か行ったことのあるリーリアも付いている事ですから」


 確かに彼女がついているのはとても心強い。正直言うと彼女がもしずっと現役だったとすれば私よりも先に十体斬りを達成していたことだろう。それはエレインも認めていることだ。

 それに今は魔剣という聖剣とは違った剣を持っていることから現役時代よりももっと強くなっていることはずだ。

 精神干渉系の能力はそれほどに強力なのだ。今、リーリアは誰よりもエレインのことを知っており、そしてそれと同時に彼の脅威ともなり得るのだ。まぁ本当に敵になることはないとは思うけれどね。


「でも、怖いのよ。エレインが誰かに狙われているかもしれないと思うと……」


 誰だか知らない人に大切な彼が狙われていると思うと不安が爆発する。自分も何かしなければいけないと思っていても何もできない状態がより不安や恐怖を強めている。

 私がそう言うとユレイナは優しく私の後ろから抱きついてきた。


「怖いのは誰でも同じです。私もエレイン様は好きですし、ミリシアさんもセシルさんも彼のことが好きなのですよ」

「そう、だけど」

「好きなのでしたら、好きな人を信じてみてはどうでしょうか」

「信じる?」

「ええ、そうすれば不安もなくなると思います」


 そう言って彼女はゆっくりと離れていった。


「では、紅茶を淹れてきますね」

「……お願いするわ」


 好きな人を信じる。

 それがどういうことなのかは今までわからなかった。でも今ならわかる気がする。

 信じるということは、私の目の届かない場所だとしても彼ならきっと大丈夫だと思えるようになることなのかもしれない。

こんにちは、結坂有です。


次回からはヴェルガーでの話となります。

そして、いきなり激しい戦闘も起きることとなります。果たしてどのような展開になっていくのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに。



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