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夜明けとともに

 結局のところお風呂はゆっくりと入ることができなかった。

 そもそもこの家の風呂は同時に何人も入るような大浴場というわけでもないのだ。こんなことになるのなら後から入ればよかったと今は後悔しているが、後から入るといってもおそらく彼女たちも時間を変えて俺と一緒に入りたがるだろう。

 風呂から上がるとミリシアは顔を真っ赤にして今にものぼせそうな表情をしながら素早く服を着替えてすぐに地下部屋へと向かった。

 そして、アレイシアは肌が透けそうな……いや、透けている服をユレイナに半分強制的に着させられている。


「エレイン様にアピールするチャンスですっ」

「えぇ……」


 恥ずかしそうな、嫌そうな表情をしているアレイシアだったが、ユレイナにそう言われるとすぐに俺の方へと真っ直ぐ向いた。


「ど、どうかな」


 必死にアピールをしようとしているのが頬を赤くした表情でわかる。

 俺も何か言わなければいけないのだろうが、こういった時にどう発言すればいいのかを知らない。


「……似合っていると思う」


 これ以外の誉め言葉を絞り出すことができなかった。

 しかし、アレイシアは目を丸くした。そんなに俺の言葉が意外だったのだろうか。


「エレイン様はやはりこういった服装が好みなのですよ」


 ユレイナがアレイシアにそう話しかける。

 別に好みというわけではない。多少刺激の強い服装ではあるが、美しい容姿の彼女にはよく似合っていると思っただけだ。

 まぁこの服で外に出歩くことはできないだろうな。

 しかし、今はそのことを口にする必要はない。アレイシアは俺のその言葉にうれしく思っているようだからな。


 それから色々とあって自室へと戻ることにした。

 もちろん、セシルも一緒にやってきた。


「さっきアレイシアに向かって言ったの、本気なの?」

「ああ、引き締まった体をしているからな。あのような露出の多い服でも十分似合うと思っただけだ」

「……じゃ私もあのような服を着れば褒めてもらえるのかしら」

「セシルにはまだ早すぎると思うがな」

「何よ、その言い方」


 むっと頬を膨らませた彼女は俺を睨みつけた。

 アレイシアは十分に大人びているが、まだ幼顔の残る彼女にはあの服はまだ早いように感じる。

 まぁどちらにしろ刺激が強いからあまり見たくはないがな。

 年齢が上がったとはいえ、まだ性欲旺盛の年頃ということもあり理性を保つので精一杯と言ったところだ。肉体的には疲れないが、精神的にはかなり疲れる。


「まぁあと三年もすれば似合うと思うがな」

「じゃ、その日まで待っててよね」


 そう言って彼女は顔を赤くして俺から視線を逸らした。

 何を考えているのかはわからないが、機嫌が戻ったのは間違いないか。


「ああ、とりあえず今日は寝る」

「そうね。疲れたことだろうし」


 そして、俺たちは同じベッドで眠ることにした。その時、部屋の外でカインが耳を立てているということは言うまでもないだろう。


 翌日、夜が明けてまだまもない頃。

 俺はとある気配に目が覚めた。殺意を持っているわけでも何か悪意があるわけでもない。

 俺はセシルを起こさないようにベッドから起き上がり、聖剣イレイラを左手に携えて部屋を出ることにした。

 ちゃんとした装備ではないが、特に戦闘が起きることもないだろう。

 リビングの方へと向かうとそこにはカインが椅子に座って休憩していた。


「カインか、もう起きたのか?」

「……エレインこそ、聖剣を持って起きてきたの?」


 そう言って俺へと質問で返してきた。

 まぁいつもならしっかりと身だしなみを整えてから部屋を出るのだがな。


「妙な気配を感じてな。急いで部屋を出てきただけだ」

「そう、私はただあまり寝なくてもいい体質なだけよ」


 いわゆるショートスリーパーというものだろうか。

 短い時間でもしっかりと睡眠が取れるという特殊な体質のことだ。そういえば、レイも似たような体質だったと記憶している。


「なるほどな」

「妙な気配って私?」

「そうではないと思うがな」


 家の外へと注意を向けてみるが、変わった様子はない。どこかで潜んでいるか、もう離れたかのどちらかだろう。

 別に緊急というわけでもないため、俺も椅子に座ることにした。


「水、いる?」

「ああ」


 そう言ってカインは飲みかけのコップに水を注いで俺へと渡そうとする。しかし、その手は一瞬だけ戸惑いを見せていた。


「どうかしたか?」

「……な、何も気にしてないからね」


 すると、俺から視線を逸らしてコップを手渡した。

 なんのことだかわからないが、寝起きの喉を潤すことにした。


「そういえば、気配ってどういった感じなの?」

「悪意は見られなかったが、怪しいものだったな」

「ふーん、そういった気配って寝ててもわかるの?」

「ある程度はな」


 正確な位置までは把握できないとはいえ、感じることはできる。


「本当に寝れてるの?」

「これでもしっかりと寝れている。まぁ特殊な訓練を受けてきたからと言えばわかるか」

「……そんな訓練、聞いたことない」


 確かにそうだろうな。あの帝国が極秘で行っていたぐらいだ。他国にこういったことを身につけさせる訓練など公開するはずがない。


「普通はこんな訓練はしなくて十分だからな」

「そう、それならあまり詮索しない方がいいわね」


 俺のことをある程度察してくれたのか彼女はそれ以上質問することはなかった。


「……それより、調べなくてもいいの?」

「何をだ?」

「気配の正体よ」

「実害がないからな。わざわざ調べる必要もないだろう」


 そういうと彼女は意外そうな表情をして視線を逸らした。


「強いと余裕が出ていいわね」


 嫉妬まじりにそうカインはいった。

 彼女自身に戦闘力はそこまでないのは知っているし、それは彼女も自覚していることだろう。しかし、それでもティリアから訓練を受けていたのには理由があるようだ。

 魔族を倒すといった明確な理由ではないかもしれないが、それでも自分も強くなりたいのは間違いないだろう。


「カインも小さき盾と共に訓練をすればもっと強くなれるかもしれない」

「私なんかが参加していいの?」

「全く問題ないだろう。それに彼らも快く引き受けてくれることだろうしな」

「もし引き受けてくれなかったら?」

「その時は俺が責任を取る」


 そういうと彼女は顔を真っ赤にして俯いた。


「どうした?」

「……それなら今度、聞いてみるわ」


 まぁ俺が彼女の面倒を見るのもいいのだがな。今は剣聖としての役割を果たさなければいけない。


「エレイン様、おはようございます」


 すると、奥からリーリアが起きてきた。俺とは違ってしっかりと身だしなみを整えてから来ているということはこれから朝食の準備をするということだろうか。


「おはよう。これから朝食を作るのか?」

「ええ、ユレイナさんはアレイシア様を起こしに向かいました」

「そうか。俺も着替えてくる」


 それから俺も身だしなみを整えてセシルを起こすことにした。


   ◆◆◆


 私、ルカはエレインの家の近くにいた。

 別に用があってここに来たわけではないのだけど、妙な力を感じてここに来た。


「ふむ、気にし過ぎだろうか……っ!」


 すると、視界の端で誰かが走っていくのが見えた。

 やはり誰かがここにいたのは間違いない。

 私はその走る人影を追いかけることにした。そして、隠し持っていた無線でマフィに連絡を取る。


「マフィ、回り込めるか」

「……やってみる」


 そう言って彼女は無線を切った。

 明確な場所を示さなくても彼女には風を使って私たちの動きを把握することができる。簡単な指示だけでも彼女ならしっかりと動いてくれる。

 そして、しばらく走り続けていると一気に風の動きが変わった。


「くっ!」


 目の前で男が突風に突き飛ばされていた。


「やはりな」


 その男を見て私は確信した。


「ヴェルガー二人目の大騎士」

「近づいたらどうなるか、わかっているのか?」


 そう言って彼は剣を引き抜いた。

 おそらく誰かに呪いをかけているのだろうか。まぁどちらにしろ彼が呪いを発動するには剣に埋め込まれた宝珠に触れる必要がある。それさえ触れさせなければ全く問題はない。


「やってみろ」

「なっ! 本当に殺すぞっ」


 そう言って鍔に埋め込まれた宝珠へと手を伸ばした瞬間、彼の足元が一瞬にして凍った。


「がっ!」

「ふふっ、エルラトラムの大騎士を怒らせるとどうなるか。思い知れ」


 私はそう言って大聖剣を顕現させると、彼の指を全て焼き落とした。

こんにちは、結坂有です。


ヴェルガー大陸の二人目が見つかりましたね。

そして、もう一人はどこで何をしているのでしょうか。

それよりも大騎士であるルカを怒らせると容赦は全くないようですね。


それでは次回もお楽しみに。



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