剣聖として最初の試練
俺、エレインは深夜になる頃に家に到着した。もちろんアレイシアやナリアたちも一緒に家に連れてきた。
家に上がり、リビングへと向かうとそこにはミリシアとレイ、それからセシルとカインが何かを話しながら椅子に座っていた。俺を含め五人がその話の輪に入るのだ。当然だが、リビングに入ると一気に賑やかになった。
やはり人が多いと自然と賑やかになるようだ。
「はぁ、やっとゆっくりできる」
そう言って真っ先に椅子に座るアレイシアは大きく背伸びをしてリラックスモードに入った。
長い時間業務と緊急事態に巻き込まれたのだ。いつもよりひどく疲れたことだろう。
そんな彼女をミリシアが少し申し訳なさそうな表情をして口を開いた。
「疲れてるところ申し訳ないのだけど、議会の方で話して欲しいことがあるの」
「話? 軽くなら聞くよ」
すると、アレイシアは最後の業務だと思い切りゆっくりと顔を上げてミリシアの方を向く。
その話というのはどうやらこの家に襲撃してきた人たちの待遇について議会で話をしてほしいとのことだった。
俺たちがいない間に誰かがこの家を襲撃してきたようで、ミリシアとレイが難なく取り押さえることに成功した。二人の襲撃者と変装を得意とする能力を使う女性がいたようだが、襲撃者の方はすでに聖騎士団の方へと引き渡したようで、今この家の地下部屋で女性の方を軟禁しているとのことだ。
後で議会に引き渡し、今後の彼女の対応について検討してほしいとのことだった。ミリシア曰く、彼女はどうやら被害者のようなもので対応さえ良ければうまく仲間に引き入れることも可能だろうとのことらしい。
「うーん、ユレイナ。どう思う?」
うまく頭が回っていないのかメイドであるユレイナに話を回す。
「ミリシアさん、本当に信頼できるのでしょうか」
確かに彼女の見立てであれば、本当に被害者なのかもしれない。捕らえられている女性がどういう人物なのかはわからないが、生半可な演技でミリシアを騙すことはできない。
「そうね。すぐには信頼できないわね。だから当面の間は私が監督しておくわ」
「……それなら大丈夫そうですね」
まぁその条件なら全く問題はないだろうな。
問題を起こすようなことをすればすぐに対処することができるはずだ。
「じゃ、また後日議会で話してみるわ。多分すぐに決まると思うけど……」
そうアレイシアが言うのも無理はないだろう。
実際に俺たちの印象は学院に入っていた頃のそれとは全く違うものとなっている。それも当然のことで崩壊したとはいえ、俺たちは敵国の人間だ。簡単に俺たちを信用することはできないのだ。
しかし、今までの魔族侵攻の阻止を含め今回の件で俺たちの印象はかなり良くなっているようだ。それはシェルター内に入った時に向けられた視線からある程度察することができた。
あのシェルター内にいた多くの議員は俺たちに対して強く感謝の意を示していたからだ。
「小さき盾の印象もかなり上がっていることですしね。全く問題ないと思いますよ」
そのことについてはユレイナも同感だったようだ。
「エレイン、議会の方はどうだったの?」
すると、セシルとカインが俺の方を向いてそう聞いてきた。
この家でも襲撃があったとのことだ。議会の方も何らかの事件が起きたと予想するのは無理もない。
それから俺とアレクは議会で起きたことを簡単に彼女たちに話すことにした。
俺たちの話を聞いた後、ミリシアは少し深刻そうな表情をした。
「今日の出来事は私たちにとっても大きな事件ね」
「ったく、なんで敵が魔族だけじゃねぇんだよっ」
ミリシアの言葉にレイがそう吐き捨てるように言った。
彼もかなり怒っているようだ。
「確かに生徒が殺されたのも、ユウナが重傷を負ったのも全て人の仕業だった。魔族ではなく人間と戦うってことになるのだけど、問題はそれだけじゃないわ」
「あ? それ以外何があるってんだ」
「僕たちは実力だけで戦うのなら確かに最強だろうね。でも、聖剣の能力で策に嵌められた場合はすぐに死ぬかもしれないってことだね」
そう、今日起きた一連の事件をまとめるとそこになる。
相手が人間だからと気を抜いていると聖剣という手痛い攻撃を真っ向から喰らうことになるだろう。そうなれば、即死は免れたとしても致命傷となる攻撃を受けることになる。
「……ま、考えたところでしょうがないよね。ただここでの共通認識は常に気を付けることよ。本当は殺すということは良くないのかもしれないけれど、自分の身を守るためなら相手が人間でも容赦しないってことを約束してくれる?」
ミリシアは俺を含めてみんなにそう言った。
自分の命を狙う人間はまだ少なからず残っている。その人間が聖剣使いだった場合は非常に厄介だ。自分の身を守るためには相手を殺す必要が出てくることになるだろう。
「そうだね。最優先に考えることは生き残ることだしね」
「おうよ」
アレクとレイはそう言ってミリシアの言葉に賛同した。
もちろんだが、俺も彼女に向けて小さく頷くと彼女は一気に体の緊張を解いて椅子に座った。
「堅苦しい話は終わりっ。もう今日は疲れた……」
先程の真剣な眼差しとは打って変わって今は可愛らしい表情をしている。彼女のそういった一面を見るのはいつ振りだろうか。最後に見たのは確か、最終試験の日だったような気がする。
「それより、エレインはもうお風呂に入ったの?」
ミリシアの話が終わり、しばらくするとアレイシアがそう話しかけてきた。
「入ったのだがな。シェルターを斬り破った時にだいぶ汚れてしまった」
「そう、それじゃ……」
「エレイン様、私が背中を流しますね」
「ちょっとどういうこと?」
背もたれに大きくもたれていたミリシアが一気に前のめりになり、リーリアの方へと睨みつける。
「ご主人であるエレイン様のお背中を流すのはメイドである私の勤めです」
「そ、そんなことないわよね!」
すると、ミリシアは同じくメイドであるユレイナに質問を投げかけた。
「……僭越ながら、私もアレイシア様の美しい肌を隅々まで丁寧に洗っています」
「なんか言い方が変っ!」
ユレイナの発言に戸惑いを隠せずアレイシアが声を出した。
「それではエレイン様、私はお風呂の準備をしてきます」
「話は終わってないわよっ」
そう言ってミリシアは風呂場へと向かうリーリアを追いかけていった。
「ねぇエレイン」
「なんだ」
その様子を見ていると横からセシルが話しかけてきた。
「エレインのパートナーって私、よね?」
「確かにそうだな」
学院という場だけの関係ではなく、こうして個人的な環境でも常に一緒にいるわけだ。パートナーという関係は今も変わっていない。
「だったら、お風呂も一緒に……」
「な、何言ってるのっ」
そんなセシルの発言に顔を真っ赤にしてカインが引き止める。
そして、別の方を向くとユレイナが着替えを持ってきてアレイシアへと渡していた。
「アレイシア様、私たちもそろそろ準備をいたしましょう」
「へ?」
「準備ですよ」
「な、なんの準備?」
「お風呂に決まっているではないですか」
そう言って彼女に渡した服を見てみると肌が透けて見えるほどに薄い生地の大人びた服装であった。
「この服はどこで……」
「私の私物ですよ」
どこでどうやって手に入れたのかは知らないが、ユレイナはその服をアレイシアに着させたいようだ。
当然ながら、大人びた魅力のあるアレイシアがあの服を着ても何ら問題はないのかもしれない。
「さてと。レイ、ナリア、僕たちは地下部屋でシャワーを浴びようか」
「へっ、エレイン。頑張れよ」
「……節度は守ってね」
そう言って三人は俺を置いていくかのように地下部屋へと向かっていった。
「では、エレイン様。お風呂に入りましょう」
湯を温め直してくれたのかリーリアがそう言って風呂場から戻ってきた。
「リーリア、聞いてるの?」
「何をですか」
「惚けないでよっ!」
今から始まるのはおそらくカオスそのものだろう。
どうやら俺は今、最難関の試練へと挑もうとしているのかもしれない。果たして俺は無事に剣聖として過ごしていけるのだろうか。
そんな俺の不安をよそにリーリアとセシルは俺を風呂場へと引っ張っていく。同じくアレイシアはユレイナに連れられて俺と同じく風呂場へとやってくる。
そして、カインは俺から少し離れた場所から顔を赤くしてついて来ている。
ずっと反対していたのはミリシアだけであったが、その意志も風呂場に入るまでであった。
こんにちは、結坂有です。
今回は今までのまとめとなる回でした。
予告というほどではありませんが、次回は翌日から始まります。
エレインと一緒に入ってしまった女性たちの反応にも注目ですね。
それでは次回もお楽しみに。
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