敵対国の狙い
私、ルカを含めた大騎士はヴェルガー大陸を管轄していた大騎士を捕らえていた。
彼の名前はシェイドだ。私も何度か彼とは対峙したことがあるのだが、それはただ単に大騎士としての交流を深めていただけだ。
その時は好青年と行った印象だったと記憶している。
「それで? 俺たちを攻撃して何を企んでやがる?」
この場所はハーエルの屋敷だ。
屋敷の一つの部屋をティリアの持つ聖剣の力で分厚い氷で覆い、簡易的だが特殊な牢屋へと作り替えた。
当然ながら、頑丈な部屋を施錠しただけでは彼の持つ大聖剣の能力で簡単に突破されてしまう。だからティリアの強力な氷で覆うことにしたのだ。
そして、その中で私とハーエルとでシェイドを尋問していた。
「……」
このやりとりは一時間ほど続いているのだが、彼は決して口を開こうとはしない。大騎士たるもの、この程度の尋問で吐くとは考えられないがな。
とはいえ、暴力的なハーエルの尋問に彼の体力はかなり疲弊しているようでぐったりと椅子に座っている。
「ハーエル、やり方を変えようか」
「あ?」
「こいつの心臓に向けて電撃を放て」
「そんなことしたら死ぬんじゃねぇのか?」
私はシェイドの髪を掴み上げて彼の顔を見てみた。
表情に生気はないものの目の色は変わっていない。まだ彼の心は完全に折れていないようだ。
「死なない程度に心臓を刺激しろ」
「俺に加減ができるとでも思ってるのか?」
「お前の渾身の一撃でも耐えたぐらいだ。多少加減を誤ったとしても死ぬことはない」
当然だが、心臓に強烈な電撃を与えれば生物である以上即死する。
しかし、私を含め大聖剣に認められた大騎士は自らの生命力を一部聖剣に託している。そのため致命的な一撃を喰らった程度では本質的にすぐ死ぬことはない。
「確かにそうだな。こいつも大騎士だったな」
「……」
まぁこの程度の尋問でも口を割ることはないだろうが、試す分には問題ない。
そして、バチバチと電撃がシェイドの胸へと走る。その強烈な電撃は神経を刺激し、さらには心臓へと命中する。
「っうがぁ!」
信じられないような痛みが走ったはずだ。幸いなことにうまく加減ができたようで致命級の電撃は走らなかったようだが、それでも耐え難い痛みだったのには変わりないはずだ。
「吐く気になったか?」
私は椅子から崩れ落ちそうになる彼の髪をまた掴み上げて無理やり座らせる。
「……この僕から話すことはないね」
「てめぇ、関係のない人を殺しておいて何も言うことはねぇだと?」
「ないね」
強調するように彼はそういった。
当然ながら、ハーエルの怒りは爆発している。私自身も大切な教え子を殺した罪は大きいと考えている。
私たちのいるこのエルラトラムという国は魔族以外とも戦争をしていた。その国は広大な大陸を持っているためヴェルガー大陸と呼ばれることもある。国とは言っても複数の王国が一つになってできた連邦国のため、国内でも考えの違う地域がある。
そんな巨大な国とどうして戦争することになったのかというと、彼らはエルラトラムに対して莫大な数の聖剣を輸出するよう要請した。もちろん、そんな数の聖剣を物理的に生産することができないため断った。
すると、ヴェルガー大陸は聖騎士団の本隊を常駐してほしいと要請。これも当然ながら断ると今度は戦力で我々エルラトラムに攻撃を仕掛けてきた。
単にヴェルガー大陸の連中はエルラトラムの独占する聖剣生産力に嫉妬したということだ。
自らの国家が優秀であると国民に示さなければいけない。そのためにも魔族に十分に対抗できる政府だとして認められたかったのだろう。
「てめぇらヴェルガー大陸の連中が考えることはわかってるんだぜ?」
「なんのことかな」
「とぼけるな。大聖剣クラスの聖剣を三本譲渡して停戦したはずだ」
強力な聖剣を譲渡するのはかなり手痛い損失だが、いつまでも人間同士が戦ってばかりでは魔族に勝てるわけがない。だから停戦しようとヴェルガー大陸の政府に要請したのだ。
「大騎士ってことはそのことも当然ながら知ってんだろ?」
以前、交流目的で彼と会ったときはそのことについて話していたことをしっかりと覚えている。我々エルラトラムとヴェルガーとの戦争は停戦状態だということは知っているはずだ。
「……いつまでも停戦状態が続くなんてことはないよ」
「あ? 少し力を持ったからといって調子に乗んなよ?」
「どっちのことかな? 僕たちはあくまで魔族への対抗力が欲しいだけ、それを何度も断ったのはエルラトラムの方だ」
「ふざけんなよ。俺たちエルラトラムだって自衛する権利はあるだろ」
「自衛するにしては聖剣を他の国の何十倍も保有しているよね? 小国だって言うのにそんな数は必要ないよ」
国の大きさで言えばヴェルガー大陸と比べてエルラトラムは小規模だ。それなのに大量の聖剣を保有しているのはおかしいということのようだ。
しかし、エルラトラム国内には神樹がある。世界で最後となったその神樹を魔族は常に狙っているのだ。そのため、他の国よりも魔族の大規模な侵攻が起きる可能性が高い。だからエルラトラムは大量の聖剣を保有し、剣士を育成しているのだ。
「こっちの事情もよく知らねぇくせにベラベラ話してんじゃねぇよ!」
当然ながらハーエルは彼に対して怒りをぶつける。
とは言っても、問題はシェイドではないのもまた事実だ。彼はあくまでヴェルガー政府の命令に従っただけなのだからな。
「もういいだろう。しばらくお前の聖剣は私たちが預かることにする」
「……」
「ティリアの氷壁は特殊だ。寒さで凍え死ぬこともない。しばらくはそこで大人しくしてろ」
私はそう言ってハーエルと共にこの部屋を後にした。
氷壁をノックして外にいるティリアに出口を作ってもらい、外へと出る。
外の空気は中と比べて新鮮に感じた。まぁ密閉した状態では空気も悪くなることだろう。あの状態で何日も居続ければ精神的にもかなり疲弊するはずだ。
「どうだった?」
ティリアと共に外で待機していたマフィが私たちにそう話しかけてきた。
「どうもこうもあいつ、好き勝手言いやがってよ!」
「ハーエルには聞いてない」
「あ?」
一歩前に出ようとするハーエルを私は腕で制止させた。
ここで喧嘩したところで意味はないからな。
「この一件はシェイドの一存で起こしたわけではなさそうだ」
「……ヴェルガー大陸の連中?」
「ああ」
「戦争状態に戻るのかしら」
すると、ティリアは私たちが出てきた出口をまた氷壁で閉しながらそういった。
「今のところはわからないがな。可能性としては高いだろう」
「嫌ね」
「嫌と言っても起きる時は起きる」
人間同士の戦争ほど無意味で醜いものはない。
魔族という強大な敵が存在しているのだから人間同士手を取り合って立ち向かわなければいけないのだからな。
しかし、人それぞれ思想は違うように国家間でもなかなか相容れないことの方が多い。だからこうして戦争という事態に陥ってしまうのだ。
「それはいいとして、これからどうするの?」
「議会と連携して私たちも行動に出るしかない」
「そうだぜ? 俺たちの力を解放すればあんな国一瞬で滅ぼしてやるよっ」
「……恐ろしい人たち」
まぁそうするのは最終手段だ。
「とりあえず、議会と話をしてから決める。今回の件はかなり深刻なことになりそうだからな」
「そうね。その方がいいと思うわ。できれば、なるべく穏便な解決が望ましいけれど」
そう平和的なことをティリアが言っているという矛盾はさておき、国家間の戦争を激化させるのは良くないからな。本当に一国が滅びてしまうのは人類としても良くはない。
ここは大規模な戦争以外の方法で解決することが求められる。
議会からもそう言われることだろうな。
「……ふと思ったのだけど」
そう言ってマフィが私たちを見ながらそういった。
「なんだ?」
「新しく作られた”剣聖”という称号、使えないかな」
彼女の顎に手をやりながらそう呟くように言った。
こんにちは、結坂有です。
今回は少しシリアスな展開で、今後重要な情報もかなり多く盛り込んでいました。
そして、予告みたいになりますが次回はお色気シーンのある軽い展開となる予定ですので楽しみにしていただけると嬉しいです。
それでは次回もお楽しみに。
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