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戦いが始まる

 翌日の朝、やはり危惧していたことが起きてしまった。


 どうやら魔族はここの防衛が手薄だと思ったのか、陣形を整えて突撃を開始してきたようだ。

 先日突撃してきた魔族は様子見の先行隊だったらしく、全滅させられたことから偵察を送っのだろうな。

 思慮していたつもりなのだが、当然セシルは応援を呼びぼうと言っている。


「いくらなんでも陣形を組んで突撃されたら、ひとたまりもないわよ」


 俺は地面に耳を当てて、陣形を確認することにした。

 この国の技術は非常に発展しているようで、大規模な部隊であればレーダーで探知することができるそうだ。

 しかし、陣形の形まではわからない。

 だから俺は耳を当てて形を確認することにした。


「エレイン様、一体何をしているのですか」

「少し待て」


 すると、リーリアとセシルは不思議そうに俺を見つめている。

 まぁ無駄に音を出さないだけましか。


「……三列の横陣か」

「え、音を聞いただけでわかるものなの?」

「音の方向や時間差、地理状況などからある程度は推測できる」


 リーリアもセシルも驚いた表情をしていた。

 この平原では横陣か斜線陣と言ったものが多いだろう。


 そして、相手が三人ほどとわかっている相手は横陣で完全に畳み掛けることを目的としている。

 戦略的な考えで言えば、確かに間違いないのだが瓦解しやすいと言える。

 一点突破型に弱いという点だ。


「でも三列って相当多いよね」

「はい。この拠点は一度捨てるべきではないでしょうか」

「どんな陣形も瓦解すれば、機能しない。リーリアは急いで応援を呼ぶように連絡してくれ」


 すると、リーリアが首を傾げた。


「エレイン様、一体何をなさるつもりですか」

「横陣の弱点である一点集中攻撃を行う。陣形が崩れたら十分に時間稼ぎになるだろう」

「危険です。エレイン様の命が……」

「大丈夫だ。この程度の規模で俺は死なない」


 俺はリーリアの発言を止めるように言う。

 今はそのようなことを考えている場合ではない。とは言っても彼女が心配するのは普通のことだ。

 彼女の横にいるセシルも俺が何を言っているのかわからないと言った表情をしている。


「さっきから聞いているけど、相手は何十体もいる予想よ。そんな相手に勝てるの?」

「負けると言う想定ができないぐらいにはな」

「……あなた、一体何者なの。っ!!」


 門の外壁が投石によって攻撃される。

 壁には大きなヒビが入り、あと数回でも投げ込まれれば破壊は免れないだろうな。

 直径二メートルを超える岩がいくつも壁に()り込んでいる。

 まだかなりの距離があるのに、この規模の岩を投げ飛ばせるとはな。


「この大きさでは斬ることはできないな」

「当たり前でしょ。私はどうしたらいいの?」

「俺についてこい」


 俺の発言を聞いたセシルは息をのんだ。

 恐怖を抱いているのだろう。

 魔族に突撃すると言う考えは彼女には考えられなかった。

 そして、まだ彼女は魔族に対して何もわかっていない。理解していないから出る恐怖心はそう簡単に拭えはしない。


「俺を信用できないのなら、リーリアの護衛を頼めるか」


 俺がそう言うと、セシルは固く目を閉じる。

 しばらく何かを考えた後に口を開いた。


「……私は副団長の娘、ここで撤退などしないわ」


 そうはっきりと彼女は宣言した。


「俺の背後にいれば絶対に安全だ」

「わかったわ」

「リーリア、門を閉じろ。応援を頼んだ」

「はい。エレイン様にあまり負担をかけないよう早急にお呼びいたします」


 リーリアはそう言って急いで門の内側へと入り、一礼をしてから駆け出した。

 彼女が全速力で走っているところを見たことはなかったのだが、かなり速いな。軽い双剣とは言え、足元に装着している。

 普通なら邪魔で走りにくいだろう。


 リーリアが駆け出してから数十秒後、砂塵が見え始める。

 魔族がもう走ればすぐだ。


「あの砂塵に突撃する。なるべく速度は落とすが、かなり速いぞ」

「ええ、付いていくわ」


 突撃する場所を正確に見定める。

 風は吹いていない。砂塵の発生を見るに、右側が薄いと見れる。


「……行くぞ」


 俺はその右側に走り込む。


「速っ!」


 そう言いつつもセシルはべったりと俺の背後に張り付いている。

 砂塵の中に入る。

 相手は見えないが、魔族の力強い心音は聞こえる。

 その音で方向を確認し、目視できる相手から斬りかかる。


「ブガアア!!」


 疾走中に引き抜いたのはイレイラだ。

 この高速な剣撃は魔族でも把握できない。そして何よりも切れ味が断トツだ。

 アンドレイアの”加速”と言う能力と、イレイラの無質量の剣が為せる音速を超える剣撃は、どのような武器や装備でもまるで紙でも切っているかのように簡単に斬り裂いてしまう。


 セシルはその俺の剣撃を目を見開いて驚愕している。自分の繰り出せる剣速よりもはるかに速いのだから。

 だが、俺はこの程度など本気でもなんでもない。ただの肩慣らしに過ぎないのだ。


「ふっ!」


 俺が剣を振るたびにピュンッと聴き心地の良い音が響く。それと同時に魔族の腕は枯れ枝のごとく斬り落とされ、魔族の集団は俺の動きに全く追いつけていないようだ。


 それにしても数が思っていたよりも多いな。

 まぁ誤差の範囲内ではあるが、セシルは全く剣を振るえていない。

 俺と同じ速度とまではいかないが、かなり素早い剣撃なのだ。

 しかし今の彼女は半分放心状態、このままでは危険だ。


「セシル! もう少し前に進む」

「っ!……わかったわ」


 俺の声で意識を取り戻したのか大きく頷いて俺の背中に張り付く。

 そして、目に映ったのは先ほどの魔族よりも一回り大きい体を持っている。

 イレイラでは守りながら戦うのは無理だな。

 俺は鞘に納めてアンドレイアを引き抜いた。この剣はイレイラのように繊細な剣撃ではなく豪快で大胆な剣撃が特徴だ。

 全く別の扱い方をしなければいけない。


「グオオオ!」


 俺の強力な斬撃を受け止めた魔族は悶えている。

 一瞬にして魔族の腕はへし折られているのだからな。

 すると、一番奥から投石が投げ込まれる。

 俺らのことはどうでもよく、壁の破壊を第一に考えているようだな。だが、その作戦は全く意味がない。


 力のなくなった腕を垂らし、膝を突いた魔族の頭部を斬り離す。中に浮いた頭部を剣の腹で打ちつけ、投石に当てる。

 魔族の頭蓋は岩よりも硬い。だから、簡単に岩をも砕けるのだ。


「なんて力なの……」


 まさかここで球技の技が活かせるとは思ってもいなかったがな。

 この技を教えてくれたあいつらには感謝しかない。


「ゴガアアア!!」


 俺の周囲を取り囲むように集まってくる。

 あの頃と比べれば可愛いものだが、今回はセシルもいる。

 少し本気を出さなければ、セシルの命が危ないな。


「サートリンデ流奥義……大蛇の構え」


 すると、セシルが大きな剣であるベルベモルトを頭上に、そして地面と平行に構える。

 あれがセシルの守りの構えか。

 わざと胴体を見せることで攻撃を誘っている。そして、彼女の高速な剣撃はそれを防ぐだけの十分な速度を持っている。


 キャィィン!


 耳に響く甲高い金属音を鳴らし、魔族の攻撃を一瞬にして防ぐ。

 速いな。

 その瞬間、魔族の腕が捻られ武器を落としてしまう。

 突きをうまく使った防衛法か。あれでは関節が捻れて武器を落としてしまうのだろう。


「はっ!」


 そして、セシルは瞬時に体を回し、その回転力を使って強烈な一撃を魔族の腹部に与える。


「バアアア!」


 低い声を上げながら、腹部を手で押さえながら崩れていく。

 彼女の剣の動きを魔族の相手をしながら見ていたのだが、相手の構えを崩しに行くとき以外では常に剣は地面に平行だ。

 剣の水平移動を意識しているのだろうな。

 魔族を斬った今でも剣は平行、次なる攻撃に移行しやすいはず。


 振り下ろした剣はどうしても持ち上げる必要がある。斬り上げなどもできるのだが、それでは簡単に防がれてしまう。

 技の連続性を生み出すにはなるべく水平に斬ることで可能となる。

 しかし、その分威力は少ない。人間の構造上、横方向への力は弱くなってしまうからだ。


「グルアアッ」

「せいっ!」


 左方向から戦斧で攻撃してくる魔族にもその構えの意識によって簡単に防ぐ。

 そして、またもや防御に連続した斬撃で簡単に斬り伏せてしまう。


「どこ見てる!」


 正面にいる魔族が俺に呼びかけてきた。

 よそ見をしているわけではないのだがな。

 相手は長剣、力に任せて振り下ろしてくる。

 普通に防いで倒すのもいいのだが、挑発してきた相手だ。少し遊んでやるか。


「なっ!」


 速い振り下ろしだったが、俺にとっては遅い。

 僅かだが確かに体を捻ることで残像を残す。そして、その振り下ろされた剣を躱す。

 地面を叩きつける直前に剣を止めたのは上出来ではあるものの、隙が大きい。


「ふっ!」


 俺はアンドレイアでその浮かんでいるだけの剣先を絡めて横方向へと飛ばす。

 飛ばした先では魔族の心臓を貫いている。


「なぜだ……」

「練度不足だ」


 武器のない相手を斬り倒すのは容易だ。

 俺はそのまま頭部を斬り落とした。


 一瞬の出来事のために理解はできなかっただろうな。

 人間でも魔族や動物でも筋肉があるものなら力が入る時と抜ける時がある。

 その抜ける時を狙えば、簡単に剣を落とすことも弾くこともできるのだ。


 この数分で第一列、第二列は瓦解した。魔族の侵攻は防げたと言える。

 そして、二〇体を俺が撃破し、セシルは四体撃破している。

 初めての突撃にしては上出来だ。


 このまま第三列まで突っ切るとしようか。

こんにちは、結坂有です。


激しい戦闘がものの数分で繰り広げられていますね。

そして、念のために増援を呼びにいったリーリアは無事に呼びに行けたのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに。

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