倒せない存在
私、ミリシアはレイともに家の警備を強めることにした。
とは言っても特に何かをするというわけではないのだけどね。
エレインがアレクを連れて階段を上がって行った直後、私とレイはすぐに装備を整えて地上に上がった。
「なぁ、ミリシア」
地上に上がるとすぐにレイが私に話しかけてきた。
「何?」
「セシルとカインって今風呂に入ってるって言ってたな?」
「ええ、そうだったと思うわ」
すると、レイは急に難しい表情をした。
「だったら誰か俺たちを監視してる奴がいるようだな」
「どういうこと?」
「気配は薄いがな。悪意を持った誰かがいるのは確かだぜ」
そう言ってレイは堂々とリビングの椅子へと座った。
誰かがいるというのならすぐに対処した方が良いと思うのだけど、私は気配に鈍感なためどうすることもできない。今はレイの行動を倣うべきだろう。
「何か考えがあるわけ?」
「あ? ねぇよそんなもん」
私も彼の横に座ってそう聞いてみるが、レイはあっさりとそれを否定した。
そうきっぱりと否定されては私としても返す言葉がない。
しかし、彼は天井などを気にかけるような仕草をしていることから、上方向に何者かがいるということだろうか。
彼も敵に悟られないようにうまく立ち回っているとは思うけど、それは深読みし過ぎだろうか。
「あれ、エレインは?」
しばらくすると風呂場の方からセシルとカインが戻ってきたようだ。
「少し急用があって議会の方へと向かってるわ」
「すぐに戻ってくるかしら」
「多分戻ってくると思うけど?」
私はそういうとセシルは少しだけため息をついた。
「一言言ってくれればいいのに……」
「すぐ戻ってくるからそこまで気にしなくてもいいわよ」
そう言ってセシルも椅子に座った。
「それで? どうしてミリシアとレイがいるの?」
ここは正直に警備をしていると答えた方がいいのだろうか。
セシルはいつも通りに動いてくれると思うが、カインの実力がどこまでなのかはわからない。
聖剣の能力を考えると戦いに慣れていると言った様子ではないからだ。
「ちょっと気分……」
「エレインに言われて警備してんだよ」
私の言葉を遮るようにレイが腕を組みながらそういった。
「警備?」
すると、カインが彼の言葉に反応する。
「警備って言ったら警備なんだよ」
「……嫌な予感がするってエレインが言ってたから警備をしているだけよ。気にしなくていいわ」
私が正直に言うと二人は気構えるのをやめた。確かに私たちが警備をしていると言われれば、誰でも身構えるものだ。
すると、玄関の扉をノックする音が聞こえた。
「レイ、私が見てくるわ」
「ああ」
私はそう言って玄関の方へと向かった。
二人は安心しているようではあるが、セシルの方は聖剣へと手を伸ばしていた。
それから玄関の方へと向かい、扉に空けられている覗き窓から外の様子を確認する。
玄関の外に立っていたのはレイを保護してくれたフィレスが立っていた。私はそれ以外に誰もいないことを確認するとすぐに扉を開けた。
「何かあったの?」
「少し連絡したいことがありまして……。エレインはいますか?」
どこかよそよそしい雰囲気を醸し出しながら、フィレスはそう話しかけてきた。
「えっと……連絡だったら私から伝えておくけれど?」
「直接お伝えしたいことなのです」
「じゃ、家に上がる?」
「え?」
フィレスの言動には不自然さを覚えるのだが、見たところ彼女の外見は特に変わっている様子はない。誰かが変装しているというわけではなさそうだ。流石に骨格まで変えることはできないだろう。
「いいから、レイもいるわよ」
「……」
彼女は少し気まずそうにして家に上がり込んだ。
そして、リビングの方へと向かうとすぐにレイが反応した。
「フィレスか?」
「え、あ……うん」
私も彼女とはそこまで親しくはないのだけど、いつもと様子がおかしいというのはすぐにわかった。
「あ? なんかあったのか?」
「いや、ちがうの」
「本当にフィレスなのか?」
すると、レイは彼女を疑い始めた。
確かにここまで不自然だと誰でも疑いたくなるものだ。それにレイですらその違和感を覚えているのだから間違いないだろう。
「ち、違うの。私だから」
「体はそうかもしれねぇがな。言葉遣いが全然違う」
「私はただ……」
「ミリシア、扉を閉めろ」
「ええ」
レイは私にそう指示した。
私は言われたように扉を閉めると彼は聖剣を引き抜いた。
「え?」
「殺されたくねぇならそのふざけた変装を解くんだな」
「ちょっと待ってよっ」
フィレスはそう必死な形相でレイに訴えるのだが、それでも彼は止まる気配はない。
「セシル、カイン。そこを離れた方がいいわ」
「そ、そうみたいね」
そう言って椅子から立ち上がってレイから離れさせる。
彼の表情を見る限りかなり怒っているようだ。あのようになれば、正直言って私たちでも止めれるかわからない。
「てめぇ、命の恩人に何をした?」
「わ、私は私よっ」
「ふざけてんのかっ!」
その怒りに満ちた怒号をフィレスに変装した人に浴びせたと同時にリビングの横に置かれている食器が震える。
「っ! は、早く!」
すると、その人は急にしゃがみこんでそう叫んだ。
「なっ、こいつっ!」
それと同時に天井から三人の男が現れた。
「二人は下がってて。私たちが対処するから」
そう言って二人を下がらせるとそのまま私は攻撃態勢に入った。しかし、私が一歩前に出た時にはすでに決着がついていたのだ。
天井から降りかかってきた相手の三人はレイの強烈な斬り上げによって武器を破壊されてしまったのだ。
そして、男たちが地面に着地すると同時にレイの蹴りが三人を襲い、一瞬にして制圧したのであった。
「うそっ!」
「嘘じゃねぇよ。この程度の奇襲で俺たちが負けると思ってんのか?」
「え? だって普通だったら……」
「悪いけれど、私たちに普通は通用しないの。それにフィレスに変装したのが悪かったわね」
私がそう言うと彼女は観念したかのように膝を突いた。
すると、光が彼女を包み込むとフィレスの変装が解けた。
「……ごめんなさい。まさか、知人だったとは思わなくて」
「それで? 何が目的だ?」
「私たちはただ、暗殺を命令されただけだし」
彼女はめんどくさそうに呟く。
もしかすると、彼女は軍の人間ではないのだろうか。
「命令?」
「そうよ。それに私は軍の人間じゃないし、死ぬぐらいなら大人しく捕まってあげる」
「あ? どういうことだ?」
「変装の能力が買われただけよ。元々簡単な仕事って言われたから受けただけなのに……」
つまりは彼女の聖剣の能力が買われただけで元々このような軍の仕事をするつもりはなかったのだろう。
「でも、聖剣を持っているってことはそういうことでしょ?」
すると、セシルが私たちの前にでてそう質問した。
確かに言われてみれば、聖剣を持っている時点で何らかの組織に所属しているはずだ。
「これは父の剣よ。私は何も訓練してないし」
「そう、なら信じてみるわ」
「……信じるの?」
「ええ、そうよ。別にあなた一人で何かができるわけでもないしね」
とりあえず、今は彼女を捕まえるようなことはしない。でも、実際にレイを攻撃しようとした男三人はしっかりと拘束するのだけどね。
「敵国の人間をそう簡単に信じていいわけ?」
「敵国?」
「……あなたたちこそ、軍の人間じゃないの?」
「悪いけど、そうじゃないのよ」
私がそう言うと彼女はきょとんとした顔をした。
「なんでもいいけどよ。名前は何て言うんだ?」
「……レリスよ」
そう言って彼女は自己紹介をした。
こんにちは、結坂有です。
先日は更新できずに申し訳ございません。
これからまた戦闘が多くなると思います。
そして、今回登場したレリスなのですが、どういった人なのでしょうか。
普通の人なのだとしても軍に仕事を受けるというのは不自然な話ですよね。
それでは次回もお楽しみに。
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