募る復讐心
俺、エレインは夕食を食べ終え、風呂を済ましていた。
セシルやカインも俺の出たすぐに風呂に向かったのが気がかりだったのだが、そんなことよりもアレイシアの帰りが遅いの気になる。
「エレイン様、どうかなされましたか?」
「アレイシアの帰りが遅いと思ってな」
「……確かにもうすぐ八時を過ぎますね」
普通であれば、もう帰ってきているはずなのだが今日も遅いのだろうか。
思い返してみれば、ナリアもまだ帰ってきていない様子だからな。それにしても嫌な予感がするのは気のせいではないはずだ。
「どうなされるのですか?」
「議会に向かおうと思ってな」
「そうなのですね。私が確認してきますので、エレイン様は休憩してください」
「別に疲れているわけではないからな。一緒に向かう」
魔族侵攻から数日も休憩しているわけだ。体に溜まっている疲労もかなり取れている。
それに帰りが遅いと言うだけで何か重大な事件に巻き込まれているというわけではないだろう。ただ、嫌な予感がするのが気になるのだがな。
「わかりました。他の人も連れて行くつもりですか?」
確実に戦闘が起きないというわけでもないからな。もし議会が何者かに襲撃されているようなことであれば、俺一人では全て対処することはできないのかもしれない。
かといって全員で議会に行くのは何もなかった時に迷惑になるだろう。そう考えれば、一人でも十分な戦力になるレイやアレクのどちらかを連れて行くのがいいか。
「……アレクを連れて行く。ミリシアとレイはこの家で待機してもらうことにする」
それから俺は地下部屋へと向かい、小さき盾である彼らに事情を話すとすぐにアレクは服を着替え始めた。
「エレインが僕に相談とはね。てっきり前回みたいにレイを連れて行くと思ったよ」
「レイでも良かったのだがな。暴れた時に収拾がつかなくなるからな」
「へっ、俺だって馬鹿じゃねぇんだからいいだろ?」
「確かにレイは言動だけが欠点だから、マイナスなイメージを持たれるかもしれないしね」
ミリシアはレイの方を見ながらそういった。
その件については彼もよく理解しているようだが、性格はそう簡単に変わることはない。
「あ? 議会の連中が頭かてぇだけだろ」
「それが仕事だから仕方ないのよ」
ミリシアがそう返すと彼は「どんな仕事だよ」とため息まじりにそう呟いた。
彼女の言うように議会の人は役職上、そういった態度を取る必要のある人たちだからな。市民からの印象も悪くなるためレイのような粗暴な人を容認するようなことは避けたいはずだ。
「じゃ、行こうか」
すると、着替え終えたアレクがそう言って個室から出てきた。
「ああ」
「……私たちはどうすればいいの?」
「何もないとは思うが、この家を守っていてほしい」
「防衛を任されてたってわけね」
俺はそれに軽く頷いて肯定すると、レイが急に立ち上がりいきいきと剣を腰に携えた。
「へっ、この家は俺に任せとけ」
そう言ってくれる彼は非常に頼もしい。
彼であれば、二人揃って今風呂に入っているセシルとカインも守ってくれることだろう。
それから俺とアレクは議会の方へと向かった。
道中は妙な気配がなかったものの、商店街の雰囲気がいつもと違った感じがした。
そして、その商店街を抜けたと同時に強烈な雷鳴が天を轟かした。
「嵐かな?」
「いや、あれはハーエルの技だな。一度だけ見たことがある」
「大聖剣というものかい?」
「そうらしいな。一振りで自然災害を引き起こすことができると言われているらしい」
雷雲があるわけでもないのにも関わらず天に稲妻が走るというのは間違いなくハーエルが誰かと戦っているということだろう。
それに心なしか肌寒くもある。大騎士であるティリアの能力が発動しているのだろうか。どちらにしろ、大騎士たちが何者かと戦っているのには間違いない。
「エレイン、どうするのかな?」
「……異常事態なのには変わりないが、今は議会の方に向かう」
「うん。そうだね」
そして、少し急足で議会の方へと向かうとまだ何事も起きていないようで、門の前には少し退屈そうに警備をしている人がいた。
アレクの持っている小さき盾の紋章をその警備員の人に見せるとさっと敬礼をしてすぐに門を開けてくれた。
小さき盾の評判は議会やそれに関わる人たちから高く支持されているということがわかる。しかし、末端で戦っている兵士たちには彼らがどのような存在なのかはまだ理解されていないようだ。
「議会に入るのは簡単だけどね。防壁付近にいる人からはあまりよく思われていないんだ」
そのことに関してはアレクが一番理解していることだろう。俺が天界に連れて行かれた時にちょうど魔族侵攻があったそうだからな。その時はかなり苦労したはずだ。
「まぁ評判はそう簡単には上がらない。地道に成果を上げ続けるしかないだろう」
「うん。そうだね」
薄暗くなった議会の中は少しだけ肌寒い。
とは言っても普通に仕事をしている人がいるということは何も起きていないということだろうか。
「エレイン様、特に変わった様子はございませんね」
「……そうだな」
一通り議会の中を見てみるが、視界の中に怪しい人はいない。
だが、視界にいないだけでどこかに誰かが潜んでいるということもあるからな。油断はできないと言った状況だ。
「とりあえず、議長室に向かうか」
「はい」
議会の廊下は夜のため薄暗い。人が多くいる場所は明るいのだが全く人のいないところは真っ暗で月明かりすら届かないところもあるようだ。
そういった場所に誰かが潜んでいれば、簡単には発見されることはないだろう。
そんなことを考えながら俺たちは議長室へと向かった。
「アレイシア様、リーリアです」
議長室の前に着くとリーリアはそう言って扉をノックした。
「え? ど、どうしたの?」
すると、少し取り乱した様子でアレイシアが返事をした。
「私が開けますので、大丈夫です」
「えっと、エレインも来てるのかしら?」
「はい。小さき盾のアレクさんも一緒しています」
「どういうこと?」
「アレイシア様、お体を拭いてください」
中で何が起きているのかはわからないが、しばらくするとユレイナが扉を開けてくれた。
「お待たせしました。何か用事でしょうか?」
「アレイシアの帰りが遅いと思ってな」
「……誠に申し訳ないのですが、まだ仕事が終わりそうにありません」
「そうか。なら俺たちもここにいても大丈夫か?」
仕事が終わっていないのなら仕方ない。何もないとは思うが、ここに俺たちがいても問題はないだろう。
「それはもちろん大丈夫なのですが……」
「僕も大丈夫だよ。今日中に帰れるとは思っていないからね」
「わかりました」
そう言ってユレイナは議長室の中へと入れてくれた。
議長室に入るとすぐに衣が擦れるような音が聞こえた。そして、俺たちの椅子を用意してくれるとすぐにユレイナが奥の部屋へと向かっていった。
「え、エレインよね? ちょっと待っててね」
「アレイシア様、そんなはしたない格好ではいけません」
「あ、ユレイナ? 身内なんだからいいでしょ?」
「そうですが、一応来客です」
ユレイナがそう言いながらカーテンの奥へと入っていった。
どうやらアレイシアの体を拭いていたところなのだろう。一日中仕事をしていたようでまともにシャワーを浴びていなかったのかもしれないな。
そして、しばらくするとアレイシアは身だしなみを整えて議長席へと座った。
「……えっと、帰りが遅いからここに来たのよね?」
「ああ、それもあるのだが、嫌な予感がしてな」
「アレイシア様、やはり危険なのかもしれませんね」
「そ、そうだけど……」
なんの話なのだろうか。話を聞いていないためよくわからないが、何か危険なことをしようとしているのは間違いないようだ。
「なんの話だ?」
「えっと、簡単に言うとヴェルガー大陸のある国と揉めててね。それを解決しようと思ってたところなの」
そう言って彼女は机の上にある書類を指さした。
何かを条件に問題を解決しようとしていたのだろう。しかし、それが危険とはどういうことなのだろうか。
「解決策を提示しようとしているのなら問題ないのではないかな?」
そのことをアレクが質問すると、アレイシアは少し気まずい表情をした。
「随分昔のことになるのだけど、私たちが謝罪したところで向こうは許してくれなさそうなのよね」
よくは知らないのだが、何か外交上のトラブルでもあったようだ。
「まぁその解決策なんだけど……」
アレイシアがその書類を取り出した読み上げようとする。
チャリン
すると、彼女の後ろの窓にヒビが入った。
その刹那、俺は二人の気配を感じ取った。
「アレクっ」
俺はそうアレクに指示する。彼もどうやら危険な気配を感じ取ったのかすぐにアレイシアとユレイナを守りに走った。
「……っ!」
そして、窓が完全に割られるとアレクの義肢から強烈な火花が飛び散る。
「かかったねっ」
そう言って彼は見えない何者かを義肢ではないもう片方の腕で捉えるとそのまま床へと叩きつけた。
ガシャンッ!
議長室の扉が大柄な男に蹴破られる。
しかし、俺はすでに彼の存在に気付いていたためにすぐに対処することができた。
「なっ!」
「奇襲のつもりだろうが、俺たちには無意味だ」
そう言って俺はその大柄な男を背負い投げすると一瞬で彼は気を失った。
こんにちは、結坂有です。
エレインとアレクの最強タッグですね。
これからも彼らの活躍には目が離せません。
そして、レイとミリシアの関係もなかなかに面白そうです。
それでは次回もお楽しみに。
評価やブクマもしてくれると嬉しいです。
Twitterではここで紹介しない情報やたまに呟きなども発信していますので、フォローお願いします。
Twitter→@YuisakaYu




