大騎士なる存在
私、ルカは学院で生徒たちを帰宅させた後、すぐに氏族らに連絡を取った。議会にも学院で起きたことを報告し終えることにはすでに日が暮れていたが、これから緊急会議を行うのだ。
氏族会議で使われるいつもの場所ではなく、今回はハーエルの屋敷で行うことにした。まぁ理由としてはティリアが彼の家にいるということだ。
何かの手違いでハーエルが彼女の屋敷を土地ごと粉砕してしまったからな。当然ながら、彼女の住む場所を提供するのは普通のことだろう。
そして、ティリアの屋敷で保護していたカインは今はエレインの住んでいるフラドレッド系列の屋敷に住んでいるようだ。カインに関しては居場所さえ把握していればあとは自由にしてもらって構わないのだがな。
「ルカ、今日はなんのようなの」
ハーエルの屋敷の手前でちょうどマフィがやってきた。
「ああ、緊急で連絡しなければいけないと思ってな」
「……もしかしてヤツが来たの?」
「そんなところだ。とりあえず、中に入るぞ」
私はそう言ってハーエルの屋敷の門をくぐった。
ハーエルの門の中は彼の性格からは考えられないほどに整理されていたのだが、横に目をやるとティリアの屋敷に住んでいるメイドの人たちが掃除をしていた。
どうやらティリアがこの屋敷に来てから色々と変わってきているようだ。
「別に掃除なんてしなくていいからよ。てめぇらは自主練してろっ」
「……私たちにとって掃除も訓練の一つですので」
ティリアとハーエルの性格の違いがここでも現れているようだ。
「へっ、好きにしてろっ」
そう言って彼は大部屋の方へと向かっていった。少し距離が離れていたために私たちには気付かなかったのだろう。
「ハーエルの性格が悪い意味で目立っているわね」
「ふっ、彼はいつもそうだろう?」
「そうだけどね」
マフィもハーエルのあの性格に関しては呆れ始めているようだ。
まぁそれでも彼は実力者だからな。私たちとしても認めざるを得ないのだ。
それからハーエルの入っていった大部屋のところへと向かい、中に入るとそこには面倒そうに椅子に座っているハーエルと紅茶を飲んでいるティリアがいた。
「急に連絡があるってどういうことだ?」
「緊急で会議をしなければいけないことが起きてな」
「ルカのことだから本当に緊急なようね」
ティリアはそう言ってカップを机に置いた。
確かにこの件に関しては私の部下であるメイドたちを使っても解決できるようなことではないからな。
当然ながら、何も知らない小さき盾も正直言って今回の件は対処できないことだろう。
「まぁな。同じ大聖剣をもつ者でしか今回の件は解決できないはずだ」
「まさかとは思うが、ヴェルガー大陸の連中か?」
こうした件には敏感なハーエルがそう言った。
「ああ、奴らがこの国に潜入しているようだ」
「……それは本当なの?」
「間違いないな。実際にシェイドとは話できた」
あの”透過”の能力を持った男はシェイドという人物だ。
声からしてやつなのには変わりないのだがな。とりあえず、あいつだけは敵対したくない。普通に戦うのはもはや不可能だからな。
「あ? あいつ、まだ生きてやがったのかよ」
「そうみたいだな」
「待って、シェイドだけならいいのだけど、”呪撃”の人とかもいるのかしら?」
マフィはそう言って別の存在も警戒し始めた。
遅延型の攻撃を仕掛けることのできる呪撃の能力は魔族に対してではなく人間に対して効果のあるものだ。
発動条件さえ揃えばあとは斬り殺されるだけなのだ。当然だが、そのような奴とは敵対したくないと思うのは誰もが思うはずだ。
バグドールの連中が彼らに狙われたのは不運だったのかもしれないな。
「いるかもしれないな」
「……もしかしたらこの場所にいたりとかして?」
「いや、私の能力でも反応はないからな。ここにはいない」
「そう、それならいいわ」
この部屋に入る直前に熱波を使って確認してみたのだが、反応はなかった。
透過の能力を持つシェイドといえど、全てを均等に熱することのできる私の能力の前では無意味だからな。
「それでもよ。これからどうするんだ? 俺としては全面戦争でもいいと思っているが……」
「ハーエル、それは議会の許可がないとできないわ。それに聖騎士団にどう説明する気なの?」
「理解のある聖騎士だったらいいがな。エレインの件といい、あの団体は信用できない」
流石に全面戦争を仕掛けるほどの力は今のエルラトラムにない。防衛する兵士がかなり少ない上に聖騎士団もかつてブラドが団長だった頃と比べて弱くなっているのは誰もが知っていることだろう。
とは言っても、国民からすると最強の部隊だという認識は変わっていないのだがな。
何も知らぬ方が幸せとはこのことを言うのだろうな。
「……聖騎士団を信用していないの?」
「ふっ、お前の妙な噂を鵜呑みにするような連中だからな。信用するに値しない」
「大騎士の情報は誰でも信用する、と思う」
確かにマフィの言うように私たちの称号からすれば信じたくなる情報なのかもしれないが、何でもかんでも鵜呑みにするのは間違っている。
肩書きだけで判断しているようなものだ。
「まぁどちらにしろ、そんな噂を流したティリアが一番の問題だがな。今は身内同士で争っている場合ではない」
「あら、賢明な判断ね」
いつまでも上から目線の彼女には多少苛立ちを覚えるが、今はどうでもいいことだ。
「きゃっ!」
そんなことを話していると外から先ほど掃除をしていたメイドの叫び声が聞こえてきた。
「っ! なに?」
「クソがっ。来やがったなっ」
そう言ってハーエルは聖剣を引き抜いて大部屋を出た。
私とマフィも剣を顕現させて外に出る。
すると、壁に叩きつけられて気を失ったメイドがいた。
「この妙な力……。てめぇ、シェイドだなっ!」
「ふーん、透過状態でも僕のことがわかるんだね」
「あ? ふざけてんのかっ!」
そう言ってハーエルは剣を振り上げて走り始めた。
「逃げれると思うなよっ」
電撃が綺麗に整地された地面を抉り焦がすと、強烈な衝撃波が轟く。
「いつも思うけど、君の電撃は怖いね。流石に透過の能力でも無理そうだ」
「誰に向かって喧嘩を売ってるのか、自覚しろよ」
ハーエルの苛立ちはシェイドの言葉で頂点に達した。
今のハーエルを止めることはできないだろう。それなら彼に便乗して私たちもシェイドを倒すことにしよう。
「マフィ、力は戻っているのか?」
「もちろん」
「なら、挟み込むように戦うか」
「うん」
そう彼女に耳打ちするとすぐに私は走り始めた。
もちろん、強力な力を使ってこの場にいるシェイドを制圧することはできないが、今はハーエルとマフィもいる。
「はっ」
マフィは旋風を巻き起こすと瞬時に透明なシェイドへと攻撃を始めた。
透過という能力は全てを完全に透過するというわけではない。存在している以上、抵抗があるのだからな。
そんなちょっとした変化を感じながらシェイドと戦わなければいけないのだ。しかし、それでも完全に彼を制圧するにはまだ物足りない。
「ティリアっ」
マフィがそういうと急激に気温が下がり、地面が氷結し始める。もちろんティリアは私たちには効力がないように調整してくれている。
「凍てつけっ」
そう言ってティリアが剣を地面に突き刺すと一瞬にして地面が凍る。
「え? ティリアまで……」
絶対零度のこの氷はいくら透過の能力でも逃れることはできない。
「想定外だったかっ!」
シェイドの見えない足が凍り始める。その凍った足を目印にハーエルが強烈な速度で攻撃を仕掛ける。
そして、強烈な雷撃が天を轟かした。
こんにちは、結坂有です。
やはり四大騎士の戦いは異次元ですね。
小さき盾やエレインのように剣技で戦うような人たちではないようです。
それでは次回もお楽しみに。
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