口封じの犠牲
俺、ブラドは議会の地下牢に先ほどアレイシアに対して殺意を向けた不届き者を連れてきたところだ。
地下牢には二人拘束されている。まだフィレスは戻ってきていないようだが、彼女がいなくともそこまで問題ではない。
ただ、バグドール流宗家であるベルゼはあまり口を割らないようで生半可な脅しでは簡単に情報を吐くようなことはしない。しかし、アレイシアに殺意を向けた男は感情的にも不安定だったからな。すぐに口を割ることだろう。
「……」
「議会側の人間だからと俺を甘く見るなよ」
俺はそういうと影の分身を数体出現させた。
そして、分身たちに彼の両手足を引っ張るよう命令する。
「っ!」
「このまま手足を引き抜くことだってできるんだが、どうする?」
「なっ! そんなことで自白させるなんて違法だっ」
確かに議会の人間がそんなことをすれば、違法となる。
しかし、俺は議会の人間というわけではない。議長に仕事を与えられただけの存在だ。
「悪いが、俺は公務員でもないからな。多少違法な取り調べをしたところで問題はない」
「ふ、ふざけるなよ」
少しだけ力を入れるように指示すると、男の関節がミシッと鈍い音が鳴り始める。当然ながら、彼は軍で訓練を受けているというわけではなく普通の一般人だ。軽く引っ張るだけで関節が外れそうになることだろう。
「うがぁ!」
「話す気になったか?』
「痛いっ!」
俺の言葉をまるで聞いていない様子で彼は叫び始めた。
この深い地下牢でいくら叫んだところで誰も気づくことはない。大声を上げても地上には声が届かないわけだからな。
「話す気になったのかっ?」
俺もその叫び声に負けないよう大声で彼に問いかける。
しかし、それでも彼は痛みで話せる状況ではないようだ。この程度の痛みでまともに話せなくなるとは思っていなかったが、仕方ない。
ここは一旦解放する方がいいだろう。
「っ! ……こんなことが許されると思っているのか?」
「ああ、もちろんな」
「もしこれが議会にでもバレれば……」
「さっきも言ったが、俺は議会の人間でもないからな」
そう言ってみるのだが、彼は聞く耳を持っていないようだ。
「どう考えても違法な取り調べだっ」
「そうだと言っているだろ。さっさと話せば楽になる」
「……俺は何も言わないからなっ」
「そうか。残念だ」
俺はそう言って再び分身に男を引っ張るよう指示した。
すると、男は怖がる表情をしてまた叫び始める。
その様子を見ているベルゼは目を逸らしていた。
「ベルゼ、同じようにされたいか?」
「この老ぼれの体、そのように引っ張ればすぐにでもちぎれてしまうわい」
「ふむ、そうすぐにちぎれるような腕をしているとは思えないがな」
明らかにベルゼの腕は手足を引っ張られている男のそれとは比べ物にならないほどに隆々としている。
無論、彼にはこのような方法で口が割れるとは思っていないのだがな。
「どちらにしろ、わしは何も喋れん」
「それはどういう意味だ?」
「話をしたくとも話せないってことじゃよ」
どういう意味なのかは知らないが、ベルゼはそういった。
話せないという事情でもあるのだろうか。少なくともこの議会の地下牢を知っているのは議会でも知っている人は少ない。ここにいる限りは安全だと思うのだがな。
「ここは安全だ。話せると思うが?」
「お前はまだ何も分かっていないようじゃな。まぁそのうちわかることだが……」
男がそう言った途端、ベルゼの首から血がゆっくりと流れ始めるとボトっと彼の頭が石床に転がった。
「っ!」
「ひぃっ!」
何が起きたのかはわからないが、俺は聖剣を引き抜いて周囲を警戒した。
しかし、俺とそこの男以外に人の気配がしない。
「お前、何か知っているのか?」
俺は男に話をするが、男は怯えてばかりで何も話せない状況であった。
まぁ一般人の彼がこのような死体を見るのは慣れていないはずだからな。無理もないか。
「殺されるっ……。殺されるっ」
「くっ、精霊か何かかっ」
俺は聖剣に力を込めると聖なる光が地下牢を照らした。
だが、それでも何者かが現れることはなかった。一体どういうことだろうか。
「……」
すると、俺は妙な気配を感じた。
振り返り、男の様子を見ると彼は腹部を鋭利な刃物で斬り裂かれていた。
「何が起きているんだ」
この一分にも満たない時間の中で、それに俺にはなんの気配を感じさせずにどうやって彼らを殺したというのだろうか。
俺の知っている聖剣の能力ではこのようなことを起こすことができない。しかしながら、魔剣だとしたらどうだろうか。
魔剣の能力は聖剣の力を凌駕している。
実際に俺の持っている一振りの魔剣も分身を大量に作り出せるのだからな。
「ブラドさん、何があったのですか?」
「何者かに殺された」
ちょうど、俺が事態を整理し終えた頃にフィレスがやってきた。
「……これは剣で斬られたにしては不自然ですね」
すると、フィレスはろうそくを床に置いて死体を調査し始める。
確かに普通であれば、このような状態にするのは普通の剣では不可能だ。
「そうかもしれないな。とは言っても不可能なことではない」
「聖剣の力、ですか?」
「どのような聖剣の能力でも無音で何かを斬ることはできないはずだ。おそらくは魔剣の仕業だろうな」
それにしても不自然なことはいくつもある。
聖剣の能力である聖光を放ったとしても精霊が現れることはなかったからだ。もし、それで姿が現れたとすれば、もう一振りの剣で封じることはできたはずだ。
「……堕精霊か何かですか?」
「いや、これは明らかに人間だ。俺たちの知らない誰かだろう」
「口封じのために殺された、ですか」
「この様子だとそう考えるのが自然だな」
ベルゼはともかく、下っ端であろうこの男までも殺される理由はあったのだろうか。まぁ情報を一切残さないという意味では正解なのかもしれないがな。
「とりあえずは、また情報を集めるところからだな」
「そうですね。調べてきた資料です」
そう言って彼女は腰の鞄から資料を取り出した。
それからその資料を地下の本部で調べることにした。怪しい人は何人もいたが、どれも確実な情報となるようなものではなかった。
こんにちは、結坂有です。
まだまだ戦闘シーンは続く予定です。
これからの展開も少し複雑になっていきます。
それでは次回もお楽しみに。
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