表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
282/675

薄い奇襲、浅い考え

 大槍が私の頭上へと展開されている。もちろん、アレクやレイ、少し離れた場所に立っているルカの情報にあるようで、それらが落下してきてはまた頭上へと瞬間的に移動を開始する。

 槍がかなりの速度で落下してくるため、一瞬でも気を緩めてしまえば頭頂部から槍が突き刺さることだろう。しかししばらく戦っているとそこまで苦労することではない。少しだけ意識を変えるだけですぐにでも対処は可能であったのだ。


「なぜだ……。この状況でなぜ、ルカを守りながら戦えるのですかっ?」

「私たちの周囲を取り囲むように攻撃してくる六人に目が行きそうになるけれどね。そこまで難しいことじゃないのよ」

「どういう、ことですか?」

「答えは単純だよ。もう一人いると考えれば問題ないんだ」


 アレクがそう説明した。

 地上にいる六人と空から攻撃してくるもう一人の存在がいると意識するだけでもかなり戦いやすくなる。

 まぁ普通であれば、誰も思いつかないかもしれないけれど私たちは見えない敵と戦う訓練を何度も何度も繰り返してきた。この程度の奇襲では私たちは倒せない。


「……ですが、音速を超える展開速度にはついていけないでしょうっ」


 すると、槍の展開速度が上がり始めた。確かにかなりの速度ではあるが、速度が上がった程度では私を含め、小さき盾は動じることはない。

 しかし、少し離れたところにいるルカが心配だ。

 当然ながら、彼女の実力は非常に高いが、これほどの速度ではいずれ彼女も限界が来ることだろう。

 そうなれば、彼らを殺してしまいかねない。


「レイ、斬らないと約束してくれるなら本気で行っていいわよ」

「あ? そんなんでいいのかよ。だったら早く言えよっ」


 そう言って彼は魔剣を振り上げた。

 魔剣を振り上げるだけで空気が震え、流れも変わり始める。


「行くぜ?」


 そして、剣を振り下げた。

 その強烈な一撃はバグドール流である刺客たちの聖剣を一斉に破壊し始めた。棒術使いである彼らの棒は木っ端微塵に砕けるとともに衝撃波が伝わってくる。


「その程度かっ」


 聖剣を破壊された男はレイの力強い蹴りによって吹き飛ばされ、もう一人の男も魔剣の柄頭を腹部に叩き込まれた。


「アレクっ、そっちは大丈夫か?」

「問題ないよ」


 アレクに飛びかかってきた男は三人、それでも彼は冷静に対処する。

 流れるような剣捌きで三人の連携技を軽くいなしていくと聖剣の能力で力を増幅させ、一瞬にして彼らの武器を破壊していく。

 そして、私の方にも二人が突撃してくる。


「はっ」


 私は分散の能力をうまく使い、彼らの強烈な突きを無力化すると一気に二人の急所へと蹴りを加えるとすぐに意識を失った。


「くっ……。まさかここまでとはっ」

「悪いけどな、俺たちはそんな柔な訓練を受けてきたわけじゃねぇんだ」

「それで、あなたたちは誰から雇われたの? まさか自分で全て実行したわけでもないでしょう」


 レイと私とで槍使いの男を問い詰める。しかし、まだ彼は戦いを続けようとしているようだ。


「……このわたくしが答えるわけがないですよっ」


 そう言って男は槍を複数本展開すると強烈な速度で私たちへと飛ばしてきた。


「遠距離からうざってぇんだよっ!」


 レイは自分の魔剣を高速に回転させると高速に飛んでくる分裂した槍を全て弾き返したのだ。

 キャリィンッキャリィンっと心地よい音を響かせながら弾き返された槍は男の四肢を突き刺して固定した。もちろん、装備の隙間を狙ったもので彼自身に怪我はない。


「これで私たちが強いってのは理解したわよね? で、誰があなたに命令したのかしら」

「こう見えてもミリシアの拷問は地獄だぜ」


 レイはそうハッタリを含めた言葉を続ける。まぁ私にそのような拷問の才があるわけでもないため彼の言葉は嘘になるのだが、それでも先程の私たちの動きを目の当たりにしたこの男はその言葉を信じるしかないだろう。


「……」

「話すの? 話さないの?」


 そう私とレイとで彼を追い詰めるのだが、時間稼ぎのつもりか全く話そうとはしない。実際に拷問されるまでは口を割らないといった心構えのようだ。


「先生っ、問題が……」

「来るなっ」


 すると、一人の生徒が中庭へと走り込んできた。


「ひっ」


 槍使いの男の顔が引きつると同時に何かが弾けるような音が聞こえた。


 パシュン!


 そして、次の瞬間、生徒の首からゆっくりと血が流れるとそのまま胴体から斬り離された。


「っ!」

「なっ、てめぇ何しやがった!」

「ミリシアっ! レイっ! そこを離れろ!」


 背後からルカがそう叫ぶ。それにいち早く反応して私たちは一気に男から距離を取ると、男の体が無惨にも透明な何かに切り刻まれ、無数の切り傷から大量の血液が流れる始める。

 ふと、横へと目を向けると先ほどまで倒れていた男たちの首筋には一筋の鋭い切り傷が入っていた。

 どういうわけか、彼らは私たちの知らない何者かに暗殺されてしまったようだ。

 そして、その敵は目に見えない。


「何が起こってんだ?」

「先程の花壇がなくなっているね」


 アレクがそう指摘した。

 確かに中庭の四隅に飾られていた花壇がなくなっていた。最初から植えられている花の種類が変わっていることから違和感を覚えていたのだが、まさかあの中に誰かが隠れていたというのだろうか。

 にしても私たちに気づかれないであのような攻撃ができるというのは聞いたことがない。


「くっ、でしゃばるのもいい加減にしろ」


 すると、ルカがそうつぶやいた。


「え?」


 彼女は誰もいない場所へと目を向けている。誰かがいるというのだろうか。


「僕はただ自分の利益になることだけをしただけだよ。何も怒る必要はないんじゃないかな?」


 誰もいないはずの場所から子供のような幼い声が聞こえてきた。


「それに、動いていないのが悪いんだよ? 動いていないからああやって首を取られるんだ」

「エルラトラムには不干渉だと言っていたが、それはどうなっている?」

「なんのことだかわからないなぁ」


 子供の声の持ち主がそういうとルカは怒りに満ちて怒鳴り始めた。


「私たちの敵は魔族だと共通認識したはずだ。こんなふざけたことをしておいて四大騎士が許すとでも思うか」

「あれ? 言ったよね? 君たちに僕は倒せないし、僕も君たちを倒せない。不干渉だと言ったのは確かだね。でも、干渉してきたのはそっちだよ」

「寝ぼけているのか?」

「さぁどっちだろうね?」


 子供の声の持ち主がそう言うと空気の流れが変わった。

 まさか、透明な誰かがいるということのようだ。それも大騎士に匹敵するほどの強力な聖剣使いなのだろう。

 厄介な相手ではあるが、もし彼が本気を出したとなれば簡単に誰かを暗殺することができるはずだ。


「ルカ、さっきのは?」

「ふっ、君たちには関係のない話だ。今日の授業はもう終わりだ。そして、今後の学院での訓練もしばらくは休みとする」


 いつも余裕そうな表情をしているルカが真剣な眼差しで私を見つめる。

 どうやら緊急事態だということは間違いないようだ。


「あ? 教え子が一人殺されたんだぞ。黙ってられねぇだろうが」

「レイ、私たちは何も知らないの。こういったことは知っている人が対応するべきよ」

「……クソがっ」


 なんとか彼は推し止まってくれた。

 これ以上は私たちが知らない分野になってくることだ。ただ、私たちとて完全に無視できる問題でもない。

 いずれはこの問題に決着をつけなければいけないのだが、それはまだ後の話になりそうだ。


「わかったわ。でも、連絡はしてくれるかしら?」

「ああ、この問題は議会にも報告するわけだからな。とりあえず、緊急の氏族会議を開くことにする」


 氏族監督官が議会を裏切るような事件が発覚してから氏族会議は開かれなかったのだが、緊急事態にはそういった監督官がいない状態でも会議ができるそうだ。


「ええ、それでお願いするわ」


 それから議会の人たちが学院の中庭へと入ってきて現場検証などが行われた。

こんにちは、結坂有です。


色々と物語が広がってきました。襲ってきた透明な人物の正体とは何なのでしょうか。

思い返してみれば、エルラトラムの対外関係は不自然でしたよね。


それでは次回もお楽しみに。



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

Twitterではここで紹介しない情報やたまに呟きなども発信していますので、フォローお願いします。

Twitter→@YuisakaYu

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ