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望みを持つ者たち

 私、ミリシアはアレクとレイともに学院の法へと向かった。

 魔族が襲撃してから四日経った今日、訓練を始めることとなった。訓練とは言っても午後からの開始だ。もちろん、学院生はまだ疲れが取れていないだろうから彼らにとってハードな訓練は行わないつもりだ。

 私たちが出発するときにエレインたちもどこかへと向かう準備をしていた。少しだけ彼のことが心配になるが、また天界に攫われるということもないはずだ。私たちの世界では彼が一番強いと私は思っている。だから、私はこうして気にせず学院に向かうことができている。


「ミリシア、今日の訓練内容なんだけど……」


 そう言ってアレクが昨日のうちに考えてくれた訓練内容について話してくれた。

 大まかな内容は体幹のトレーニングであった。レイは筋力トレーニングを追加しようと言っていたが、まだ身体の疲労も溜まっているだろうからそれは断った。

 学院に着くまでの間は特に変わりもなく商店街は賑わっていた。正午過ぎのこの時間帯は特に賑わっている。当然なのだが、以前の魔族侵攻の話は既に広まっているようで魔族に関する話題がところどころから聞こえてくる。

 まぁ夜にあのような強烈な光が天を照らしたのだから誰もが関心を持つことだろう。それに、聞こえてくる話題からは聖騎士団が全て解決したと言うことで広まっているようだ。別にそれに関しては全く問題はない。むしろ好都合だ。

 聖騎士団が強いということが噂として広まることは国の信頼にも関わってくるからだ。


「……へっ、理屈ではわかっていても納得はなかなか出来ねぇことだな」

「仕方ないわよ。場合によっては無能を演じる必要だってあるのよ」


 私たちは正式な聖騎士団というわけではない。理由としては実年齢が聖騎士団の入団基準に満たしていないからだ。そういったところも踏まえてアレイシアは私たちに新たな部隊として名乗ることを許可したのだろう。

 ただ、その新たな部隊”小さき盾”というのは民間に広まっている情報ではないために今はこうして聖騎士団に花を持たせる方が世間体がいいということだ。


「そうだね。部隊として存在はしているけどまだ知られていないからね」

「仕方ねぇってことかよ」


 レイは納得していないようだけど、ここは下手に出る必要がある。しかし、言い換えれば徐々に名声などを上げていけば何も問題はないということだ。ゆっくりと上げていけばもっと堂々としていられるのだろう。


 それから商店街を抜けて学院へと到着する。

 正門にはすでにルカが待っていてくれたようですでに生徒たちは基礎訓練に行っているそうだ。


「先日は大活躍だったな」

「ええ、それもこれもあなたたち大騎士が時間を稼いでくれていたおかげよ」

「ふっ、私はただ力を振るっただけのこと。君たちとハーエルが魔族の大半を倒したのは事実だ」

「確かに僕たちは魔族を大量に倒した。でも、僕たちが来るまでの間前線を維持してくれたのも事実だと思うけどね」


 アレクはそう言ってルカにそういった。

 彼の言うように彼女ももちろん頑張ってくれたのだ。それは認めなければいけない事実だろう。


「そこまで言われると返す言葉もないな。それより生徒たちはかなりやる気に満ちているそうだ。基礎訓練からして表情が違っていたからな」

「なら筋トレでも……」

「だめよ。訓練内容は変えないからね」


 レイの並外れた体力と肉体には常に驚かされてばかりだが、それを生徒にも強要するのはどうかとおもう。

 もちろん、中には筋力トレーニングが得意な人もいるのかもしれないが、それでも疲労は無自覚にも体を蝕んでくる。そういった点を考慮しても今はそういった体を酷使するような訓練は避けるべきだろう。


「それでは、奥の中庭で生徒たちが待っている」


 それからルカに案内されるように中庭へと向かっていく。

 以前であれば、正門を潜ったところで訓練の声が聞こえてくることはないのだが、今回はなぜか生徒たちの声が聞こえてくる。

 先ほど彼女が言っていたように本当にやる気に満ちているのだろう。

 そして、中庭に入る直前、窓から生徒たちの様子を覗いてみることにした。


「本当にしっかりしているわね」

「そうだね。太刀筋でわかるよ」


 アレクも感心するのは無理もない。以前とは比べものにならないほどに生徒たちは訓練に身が入っている。これであれば着実に上達するのは間違いないことだろう。


「さてと、じゃ指導の方初めて行こっか」

「おうよっ」


 私はそう言って中庭へと入っていく。

 すると、生徒たちは私たちの方を見ると尊敬の目で見つめてくる。確かに彼らからすれば、私たちは英雄のような存在なのかもしれない。


「お待たせ、訓練は捗っているみたいね」

「「はいっ」」


 生徒たちはそう返事をする。

 彼らを見ると額に汗をかいている様子はない。基礎訓練とはいっても剣を振り続ければ、体力は消耗する。

 しかし、そういった心配はいらないようだ。このまま前回の続きである体幹トレーニングを続けても大丈夫だろう。


「それじゃ、今日の訓練なのだけど……」


 そう訓練内容を伝えようとした途端、この中庭にある違和感を覚えた。中庭の周囲に配置されている花が少しだけ変わっているような気がする。


「ルカ、中庭の花は変わったの?」


 私は生徒へと連絡を後にしてその違和感をルカに聞いてみることにした。すると、彼女は首を振ってそれを否定した。


「いや、そういった話は聞いていないが?」

「……妙ね」

「ミリシアっ」


 そう言ってアレクが私を突き飛ばした。


「っ!」


 そして次の瞬間、大きな槍が私の頭上から音を立てずに落下してきた。


「これは……」

「中庭から離れてっ」


 私は生徒たちに中庭から出るように伝えた。

 その言葉をすぐに理解したのか生徒たちはすぐに中庭から出て学院の建物の中へと避難した。


「全く、一撃で仕留めるつもりでしたが……」


 そう言って男の声が聞こえると槍は瞬時に移動した。

 その移動した先にはレイと同じぐらいの大きな体格の男性がいた。さらに学院の屋上からも何人かの人が飛び降りてきた。


「っ! バグドール流の連中かっ」


 すると、彼女は灼熱に燃える聖剣を取り出した。しかしながら、彼女は以前の戦いでかなりの力を使ってしまったために全力を引き出すことができないそうだ。

 それにこんな場所で全力を出してしまっては学院が崩壊してしまうことだろう。

 それよりもバグドール流の連中とはどういうことだろうか。私たちを殺そうとする組織なのか?


「くっ、僕たちを殺そうとしているみたいだね」

「あ? 上等じゃねぇか。相手を殺そうとしてるってことは殺される勇気があるってことだよなっ」

「バグドール流は棒術で有名だが、奇襲に特化した戦術を使うことでもよく知られている。もちろん、暗殺も得意としている」


 レイが剣を引き抜いて構えるとルカがそう言って忠告した。

 確かに先程の槍の攻撃といい、中庭を取り囲むように出現することといいかなり奇襲に手慣れている様子ではある。厄介な相手を敵に回してしまったようだ。


「奇襲がどうしたっていうんだ? 俺らは四人いるんだぜ」

「ふむ、自分がどういった状況にいるのか知らないようですね……」

「だったら今すぐに殺してみろよっ」


 そうレイが怒りを示した直後、男の持っていた大きな槍が消えた。


「っ! ふざけてんのかっ!」


 当然ながら、消えた槍はレイの頭上高くに瞬間的に移動した。

 おそらくはユウナの魔剣に近い能力を持っているのかもしれない。しかし、それだとしたら、男はあの場所から移動しなくても攻撃できるということだ。

 数人で取り囲む必要はないはず。


「オラッ!」


 レイは落下してくる大きな槍を軽くいなしてその攻撃を防いだ瞬間、周囲を取り囲んでいた男たちが一斉に攻撃を開始してきた。

 さらに、地面に突き刺さった槍はまた一瞬にしてレイの頭上に現れた。

 地上でも戦い、頭上からも槍を落としていく。

 そういった戦い方なのだろうか。


「ミリシアっ、相手の槍は一本だけではないっ」

「え?」


 レイの頭上にも、私の頭上にも、アレクもルカの頭上にもその大きな槍が展開されていた。


「これが我々バグドール流槍術の戦い方ですよ」

「ふっ、歴史の負け犬がどうしてこんな真似をしている?」


 ルカは冷静に大槍使いの男にそう問いかけた。


「歴史の負け犬……。負け犬だが、議会の忠誠は今も絶えず貫いているつもりですがね」

「ふざけたことだな」


 そう言ってルカは聖剣の能力を使うことをやめ、純粋に剣技だけで戦うようだ。当然ながら、彼女に今は能力を使えるほどの力はまだないのだろう。

 私たちも彼女の体力が無くなる前にこの奇襲部隊を対処する必要があるだろう。

 そう思った私は剣を勢いよく引き抜いた。

こんにちは、結坂有です。


バグドール流棒術と槍術。二つは似て非なる戦い方をするそうですね。

エレインたちに攻撃を仕掛けてきた人たちはどうやらバグドール流の人たちなのでしょうか。そして、彼らを裏で操る黒幕は一体誰なのでしょうか。気になりますね。


それでは、次回もお楽しみに。



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

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