予想していない場所にて
俺、ブラドは議会の警備隊の使っているシャワー室を調べていた。
ここでユウナが殺されかけたというのは不思議でならなかった。
予想される犯人は女子更衣室にいた警備隊、もしくは通気口に入れる大きさの魔族かのどちらかだろう。あの通気口はとてもじゃないが、人間が入れる大きさではないからな。
それに通気口からユウナを狙うとなれば、何らかの音がするはずだ。正面にいたナリアが気づかないはずがない。
「ブラドさん、やはり犯人は女子更衣室にいた人たちなのですか?」
一人の女性警備隊の人が聞いてきた。確か彼女はナリアの横にいた女性だ。
「そうだろうな。魔族に殺されたというわけでもないらしいからな」
「……ですが、怪しい人は誰もいませんでしたよ?」
「それも聞いているが、他にあのような傷を負わせるようなことができないからな」
もちろん、女子更衣室から入ってきたとして一瞬であのような攻撃を行うのは難しいからな。
「まぁ聖剣の能力で遠距離を倒すことができるからな。そのことも視野に入れることにするか」
「わかりました」
この女性もおそらくはユウナのことを心配しているのだろう。確かにシャワー室は警備隊が一番無防備になる瞬間だ。そのほかの時間ではほとんど鎧や防具を付けていることが多い。その時間を狙われた場合はユウナのように重傷を負うからな。
俺としてもこの事態を軽く捉えるようなことはしない。なぜならこのことは絶対に議会の誰かが指示して行っていることに違いないからだ。
エレインや小さき盾に対して意図的に危害を加えるということはこの国の防衛力を下げるということ、すなわち反逆罪に当たるということだ。
「今のところはなんとも言えないが、すぐに調査を開始するとしよう」
「はい、ありがとうございます」
すると、彼女は武器を携えて警備の仕事へと向かった。
それからしばらくシャワー室を調べたのだが、特に怪しいところはなくそのまま女子更衣室を後にした。
そして、議会地下にある諜報部隊の本部へと戻る。
「……フィレスか?」
扉を開けると、そこに立っていたのはフィレスであった。
確か第一防壁から第二防壁へと戻ってくる途中で得体の知れない魔族の奇襲を受けたと聞いていた。
それからは第二防壁付近に設置されている医療施設で治療を受けていた。
その彼女が無事に回復してここに戻ってきたのだろう。
「ただいま、戻りました」
「そうか。怪我の方は大丈夫なのか?」
「はい。しっかりと治療を受けたので問題ありません」
元々は議会軍の医療施設だ。それに医師は優秀な聖剣使いとのこと、そうなれば治療は完璧だろう。
「早速調べなければいけないことがあるのだが……」
「女子更衣室での騒ぎですか?」
「ああ、気づいていたのか」
「ここに来る途中、女性警備員の人たちが話していたのを聞きました」
まぁここまで大きなことが起きれば誰でも話はするか。
とりあえずはアレイシアにこの話をしなければいけないな。
「そうか。それなら話は早い。調査を手伝ってほしい」
「わかりました」
それからすぐに調査を始めた。アレイシアに報告するのはある程度調査が終わってからでいいだろう。
「まず、フィレスには女子更衣室周辺に怪しい人物がいないか監視カメラなどで調べて欲しい。俺は別のところを調査する」
「はい。直ちに調査します」
そう言って彼女は本部を後にした。
議会にはいろんな場所に監視カメラのようなものがいくつもある。
もちろん、数はそこまで多くはないのだが、主要な場所は全て監視されているため情報を得るには一番手っ取り早いのだ。
俺はというと別の方面から探ることにした。
地下から出ると一人の男が警備員によって連行されてきた。
「その男はなんだ?」
「ブラドさん、この男は隣の医療施設で暴れていた人ですよ」
「どういうことだ?」
「ユウナを攻撃した犯人だと言っていました」
顔を袋で覆われているため誰なのかはわからないが、この男がユウナに危害を加えたというのだろうか。
俺はその男の袋を剥がした。
「バグドール流棒術宗家のベルゼか」
「……」
「ユウナを攻撃したそうだが、本当か?」
「今更嘘は言わぬ。わしが全てやった」
彼はまっすぐな目でそう言った。
おそらく彼が攻撃したのは間違いないだろう。しかし、彼だけがこの騒動を起こしたとは思えない。
まだ他にも彼の共犯やもしくは黒幕がいるはずだ。
「そうか。とりあえず、地下の牢屋へと連れて行け」
「はっ」
俺がそう言うと警備員の人はそのまま議会の地下牢へと連行していった。
以前、事務室の地下に続く階段から牢屋を発見した。それからは議会にあだなす者を一時的に収容する場所として使われている。
彼もそこに一時的に収容しておく方がいいだろう。
それから俺はアレイシアのいる議長室へと向かった。
ノックして議長室へと入るとそこには書類処理をしていた。
「ブラド?」
「ああ、さっきではないのだが、一時間ほど前にユウナが襲われた」
「え?」
「重傷ではあるが、問題はないそうだ」
そういうと彼女はほっと胸を撫で下ろし、横にいたユレイナも止まっていた手を動かし始めた。
「誰がやったかだが、おそらくは議会の誰かだろうな」
「まだ議員に裏切り者がいるの?」
「いや、議員かどうかはわからない」
それなりに地位のある奴の指示なのだろうが、黒幕の特定までは難しいか。とは言っても俺がどこまで調査をすれば、見つかるのかはわからない。
「そうですね。相手が身近な人だったりすれば見つかりませんからね……」
ユレイナの言う通りだろう。
議会にいる人なんてものは何人もいる。職員や議員だけでなく、何かの書類申請でやってくる国民だっているからな。
その全てを探すのは当然ながら不可能だ。
かといって身近な人と条件を絞ったとしても変わりはないだろう。
「ああ、俺たちの方でも調査は続けるが、アレイシアも注意してほしい」
「……そうね。気をつけるわ」
すると、扉がノックされた。
「入っていいわ」
アレイシアがそういうと扉が開いた。
彼女は俺に向かって口に指を当てて、しゃべらないようにと合図をした。
「アレイシア様」
「どうしたのかしら?」
扉を開けて入ってきたのは議員の一人ではなく、元議会軍などに情報を伝達する職員だそうだ。
「……この手紙が第一防壁の周辺で見つかったそうです」
その男は俺の方へと一瞬だけみた。
俺の顔を確認したのか、彼はそのまま机の上に泥だらけの手紙を置いた。
「これは?」
「わかりません。ですが、誰かが小さき盾を暗殺しようとしているのは確かなようですね」
そう淡々と話しているが、彼はなぜか俺の方へと意識を向けている。普通はアレイシアに向かって意識するはずなのだがな。
「……ありがとう。私たちの方でも調査をしてみるわ」
「わかりました。よろしくお願いします」
彼は終始、俺に対して注意を向けていた。
「一ついいか?」
「っ!」
「怖がる必要はない。ただ、気になったことがあってな」
「な、なんですか?」
「どうして俺に注意を向けているんだ?」
「え?」
アレイシアは気づいていなかったようだが、常に色んな人から狙われていた俺からすればすぐにわかる。
間違いなく彼は何かを隠している。
「……くそっ」
少し威圧するかのように俺は彼に視線を送った。
その程度のことで取り乱すとはな。まぁ戦場に立ったことのない人からすれば、誰もがそうなるか。
「ちょっと、何よ?」
「お前が、お前がいけないんだ!」
そう言って彼はアレイシアへとナイフを突き立てた。
当然ながら、彼女は足が不自由で咄嗟には避けることができない。
「はっ」
すると、横に立っていたユレイナが彼の攻撃をいなして、一瞬にして無力化した。
「……ユレイナ、助かったわ」
「いいえ、これも私の勤めですから」
「それよりも、この人はどうしたのかしら……」
「わからないが、牢屋に連れて行く。あとは俺たちに任せてほしい」
「ええ、全部任せるわ」
そう言ってアレイシアは俺に任せてくれた。
俺に全てを任せるということは俺のやり方でやってもいいということでもある。俺のやり方で黒幕を炙り出すとするか。
こんにちは、結坂有です。
やはり怪しい人はたくさんいるようですね。そういえば、泥だらけの手紙は以前にも出てきましたね。
一体、裏でどんな人が糸を引いているのでしょうか。気になりますね。
それでは次回もお楽しみに。
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