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思惑と前兆

 魔族の死体はすぐに蒸気が立ち上り、消えていく。

 人間や動物とは違って、すぐに腐敗して骨だけになる。

 魔族の骨は多くはあらゆる装飾品の素材に使われることがあり、聖剣の製造にも使われる。

 魔族の骨を回収した俺たちは門のそばにある警備室に入ることにした。


「十五体って本当だったんだ」

「ああ、音でわからなかったか」

「エレイン様、普通はあの距離の足音を聞き取れません。それに十五体以上の足音も正確に把握できないですよ」


 リーリアがセシルの言葉を補足するように話す。

 なるほど、少し集中すれば普通はできると思うのだが、違ったようだな。


「そうなのか」

「……その反応だけで強いってことはわかったわ」


 どうやら今まで疑っていたセシルは今回の件で少し見直してくれたようだ。

 それでもまだ警戒心が解けていないのか、俺の行動を細かく注視してくる。


「それにしてもこんな危ない場所によく配属させたものだ」

「そうよね。私たちが着いた途端に攻撃が始まったんだからね」


 計画的にも思える展開に俺やセシル、リーリアは驚いていたのだ。


「もしかするとですが、ブラド団長に反対する勢力の仕業かもしれませんね」


 リーリアがそう仮説を立てた。

 聖騎士団の中でも派閥と言ったものがあるのだろうか。

 今まで議会だけが敵だと考えていたが、彼女の言い分だとそうでもないようだな。


「その辺りは話して大丈夫なのか」

「ええ、セシルにも関係あることだと思いますし」

「私にも?」


 セシルは意外そうな顔をして、そう言った。

 当然、俺たちだけの会話だと思っていたのだろうな。


「セシルのお父様は副団長でした。副団長と今のブラド団長は共に戦っていた存在です。彼らは議会と独立した騎士団にしたいと議会から少し外れた存在を作り始めました」

「うん、それが今の聖騎士団だと言っていたわ」


 俺も学院での歴史の授業で軽くは教わっていた。

 ブラド団長が議会から独立した全く新しい魔族に対する部隊、それが聖騎士団と呼ばれる存在になった。

 もともとエルラトラム聖騎士団と呼ばれていたほどだ。当然、議会が所有しているものだった。


「その中でもまだ議会の管轄に入る方がいいのではないかと、議会の考えや意向に沿って行動する派閥がいるものまた事実。ブラド団長もその人たちから地位を狙われているのです」

「……もしかして、まだ副団長の地位に誰もいないのはそのせいなの?」


 普通、誰かがいなくなれば、その地位を埋めるために次の階級のものを引き上げることがあるのだが、副団長の座にはまだ誰もいない。

 だから、ブラド団長は副団長の分まで仕事を引き受けているため、多忙なのである。


「ええ、ブラド団長が自分で仕事を引き受けてでもその座を奪われることを阻止しているのです」

「それが、本当だとして……何であんたのメイドがそんなこと知っているのよ」


 少し考えたセシルは俺を睨むように顔を向けた。


「リーリアは元聖騎士団だ」

「え、そうなの?」

「はい。そうでございます」


 元聖騎士団と言うのは別に隠すことでも何でもないからな。

 その点は教えてやっても大丈夫だろう。


「それで魔族を見ても冷静でいれたのね」

「今はメイドですけど、現役時代は五体斬りを達成したこともありますよ」


 アレイシアは十体斬りだったな。

 十体で女性としては最高と言われるぐらいだから、当然五体だとしても優秀な成績と言えよう。


「そんなにもお強い方だったのね。あんたのメイド、すごいわね」


 セシルはリーリアに対しても関心の目を向けた。

 まぁ一位に目を付けられた時点で詮索されるとはわかっていたからな。

 ここである程度情報を渡しても大丈夫だろう。

 アレイシアもリーリアも信用しているようだしな。


「セシルも十体斬りを目指しているのか?」

「ええ、まずは十体斬り、その次は聖騎士団最高記録の一二八体斬りを目指すわ」


 一気に飛躍しているように思えるのだが、彼女の実力であればそれぐらいできても不思議ではないはずだ。

 彼女の潜在能力はかなり高い。

 もし、俺のあの施設であの訓練を受けていれば……今はそんなことを考えている場合ではないだろうな。


「本当にやり遂げそうだ」

「エレインなんかに負けないからね」


 そうセシルは胸を張っていった。

 本当のことを言ってやってもいいのだが、彼女が言葉を失うかもしれないからな。何があっても千体斬りのことは言わない方がいいだろう。


「ああ、期待しているよ」

「何、その上から目線」

「俺は記録など気にしてないからな」

「そうでしょうね、だって簡単に十体斬りを達成したからね」


 セシルはムッとした表情でそう言った。

 少し怒らせてしまったようだが、これぐらいなら逆にやる気に繋がったはずだ。


「エレイン様はこの程度の魔族であれば、余裕なのですよ」

「なら、どうして学院で実力を……っ!!」


 俺はセシルの口を押さえて、リーリアにも静かにするように指示した。


「……」


 微かにだが、カリッカリッと言った音が外から聞こえる。

 足音にしては軽すぎる、空気の流れも変わっていないな。これはおそらくだが、上位の魔族だろうな。

 俺たちが倒した魔族は実体を持っていた種類で、中には実体すら持っていない魔族もいるようだ。

 いわゆる幽霊のようなものだ。そう言った存在も聖剣や魔剣で倒すことはできるとのことだ。


「一体何なのよ」

「おそらく偵察だろう」

「ゴースト型の魔族ですね」


 リーリアがそう言うとセシルが口を押さえて、驚いた。


「ゴースト型って、上位の魔族でしょ。何で私たちのところに来るわけ?」

「わからないが、こればかりは応援を呼んだ方が良さそうだな」


 実体を持っていない魔族は視覚の他に、聴覚や触覚にも反応が薄い。

 あまり相手にしたくないのだが、対策が全くないと言うわけではないからな。


「ええ、そうね。特に光系統の能力を持った聖剣が欲しいところね」


 光系統の能力を持った聖剣はゴースト型に特化していると言える。しかし、その分扱いが難しいようだ。


「リーリア、一応周りの部隊にも連絡を入れてみてくれ。応援が可能なのか聞いて欲しい」

「はい。私が無線で連絡してみます」


 そう言って、リーリアは部屋にある無線を使って連絡を試みる。




 しばらく無線で話していたリーリアだが、表情はよくないままであった。


「申し訳ございません。エレイン様。どこも警戒態勢に入っているようで、応援は呼べそうにないそうです」


 なるほど、他の拠点でもゴースト型が出現しているのかもしれないな。

 それか、また別の指示があるのか。


「応援が来ないのでは仕方ないな」

「私たちで何とかするしかないわね」


 セシルも仕方ないと肩を落とした。


 上位の魔族、一体何を考えているのだろうか。

 今日はこれ以上何もなかったが、明日にはどのような攻撃が起きるのかを考えながら、俺たちはこの部屋で寝ることにしたのであった。

こんにちは、結坂有です。


議会側の聖騎士団による思惑なのか、エレインたちはどうやら他の部隊から離れた場所に配属されてしまったようです。

そして、上位の魔族による偵察もあったようです。

最終日はどのような戦闘になるのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに。


Twitterの方でもこの作品についての情報を発信していこうと思っていますので、フォローなどしてくれると嬉しいです。

Twitter→@YuisakaYu

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