正しき道のため
俺、エレインはベルゼを拘束して警備隊の人たちに彼を引き渡した。当然ながら、彼の持っていた聖剣は一時的に俺たちが預かることになった。
俺の言葉に考えるところがあったのか、武器に宿っている精霊は何も反応せず聖なる力すら感じられない。持ち主ではないのだが、今はナリアに持たせることにした。
もともと彼女が持っていた棒は俺がボロボロにしてしまったからな。
そして、ナリアの案内でユウナの様子も確認した。かなりの出血量であったが命に別状はなく、容体は安定しているとのことだった。数日ほど安静にしていれば、話すことができるそうだ。
それから、俺たちはミーナの病室へと向かった。
そこではカインはミーナを守るように立ってくれていた。もちろんだが、カインの聖剣は攻撃に特化したものではない。とは言っても彼女自身、ある程度戦闘の心得があるようで、普通に戦うことができるそうだ。
まぁ今回の敵は魔族ではなく人間だからな。彼女でも問題なく戦うことができるだろう。
「エレイン、大丈夫だったの?」
「ああ、厄介な相手ではあったが、そこまで問題ではない」
相手が聖剣使い、そして遠距離からの攻撃に特化した戦術をとってきたのは面倒であった。
もし、あの状況で俺が無理に近づいて攻撃でもすれば、後ろにいたセシルやリーリアに攻撃が向かっていたことだろう。それに近くには薬品庫があり、劇薬の印の書かれた扉がいくつもあった。そういった場所へとあの圧縮された強烈な攻撃が加われば色々と問題が起きることだろう。
もちろん、俺が能力を使って相手を無力化することもできたのだが、あの状況でそれをするのは最善とはいえない。
俺があのベルゼよりも強いということも示しつつ、相手を無力化するのはそう簡単なことではなかったがな。彼の持っていた聖剣に宿っている精霊が良い判断をしてくれたことには感謝しなければいけないことだ。
「そう、それでその人は?」
ミーナはそう言って俺の後ろに立っていたナリアの方を向いた。
「初めてだったな。彼女は近隣で保護された女性だ」
「……国の外でってことかしら?」
「そうだな。どういった状況で暮らしていたのか詳しく知らないが、棒術を心得ているようだ」
俺がナリアのことについて説明するが、ミーナは特に気にする素振りを見せなかった。
まぁミーナにとってはあまり関係のないもののようだからな。
「棒術、この国ではほとんど見かけないわね」
「そうなのか?」
「聖剣のほとんどは刃を持った武器よ。棒の得意とする打撃よりも斬撃の方が魔族に有効的だからね」
確かに棒術の攻撃は打撃を主体としたものだ。連続的に攻撃を繰り返す必要があるが、斬撃であれば強力で致命的な一撃で十分だ。両者を比べてみて、どちらが強いかは言うまでもない。
「でも、さっきのバグドール棒術は有名ね。古くからある武術なのだけど、最近はどういった活動をしているのかは知らなかったわ」
すると、セシルがそう言い始めた。
俺たちを攻撃してきたのはバグドール棒術の使い手であるベルゼだ。どうやら剣術が主体となってからは特に目立ったことをしていないのだろうな。
「攻撃してきた人がその流派だったの?」
「ええ、とんでもない技術を持っていたのだけど……」
「エレイン様が一瞬で仕留めていましたね」
セシルとリーリアは何かを誇るかのように自慢げに話した。
別に大した技術を使ったわけではないのだがな。それに聖剣の能力が使えないといった不測の事態でもあった。本当の実力同士で戦ったわけではない。
すると、ミーナは小さく息を吐いた。
「……大きくなった上に強くもなったってわけなの?」
「いいえ、強くなったわけではありません」
「もともとが強いからね」
どういうわけか、俺のことを過大評価しているような気もする。
「確かに俺は強いのかもしれないが、あの程度の棒術であればアレクでも対応できたと思うがな」
「それはあなたたちが強過ぎるからでしょ?」
言われてみれば、アレクやミリシアのレベルに達する人はこの国にいるとは思えないな。あの高度剣術学院の生徒たちを見ればわかるが、あまりにも実戦経験が少ない。実戦を通して育ってきた彼らとは比べ物にならないのは事実だ。
「セシルの言う通りよ。もう少し周りのレベルも考えて欲しいものだわ。エレインと訓練した時から変わってないのね」
「もしかして、目隠しの訓練とか?」
「そうよ。セシルもやったことがあるのかしら」
「感覚を掴めなんて言われたけど、正直よくわかってないのよね」
セシルは思い出すようにそう呟いた。
体に感覚が染み込んでいなくてもある程度は理解していることだろう。実際に彼女は学院時代にそれができていたのだからな。
ミーナももちろんだが、できていた。
「わかるわ。急に言われて理解なんてできないのよ」
「そうそう、だからエレインは自分が強いってことを自覚してよね」
セシルはそう言って人差し指を立てた。
まぁ学院生の人たちよりかは強いとは思っている。しかし、俺よりも強い人がどこかにいるのかもしれない。
実際に天界で剣神と勝負した時に負けたのだからな。何か聖剣の能力などで畳み掛けられては俺とて対処が難しいこともあるだろう。
とは言ってもそんなことを今ここで言ったとしても意味はないがな。
「そう考えるよう頑張ってみる」
俺はそう答えるとミーナとセシルは大きく頷いた。
それほどにあの訓練が印象に残ってしまったのだろうか。印象に残ったのであれば俺としてもあの訓練をして良かったと言えるか。
「それにしてもエレインってどうしてそんなに強いの?」
すると、カインがふとそう質問してきた。
「どういうことだ?」
「だって、普通に訓練を受けていただけでそこまで強くなるのはありえないわ」
「普通に訓練を幼い頃からずっとしていただけなんだがな」
「……きっと、医学を超えた別次元の話なのかもしれないわね」
彼女は医学的知識を持っていると言っていた。そんな彼女が普通ではないと言うのであれば、おそらく俺やアレクたちは普通ではないのだろうな。
まぁここで深くは追及しないようで、彼女は口を閉ざした。
「それよりも、さっき話してた続きってなに?」
そういえば、ミーナに話そうとしていた時に襲撃を受けたな。
今冷静になって考えてみると別に言う必要のないことだ。
「相談ぐらいならいつでも聞くと言いたかっただけだ」
本当は剣術の指導をしてもいいと言いたかったのだが、彼女ならきっと自らの剣術や感覚を取り戻すことだろう。
時間はかかるかもしれない。それでも自分で開拓して手に入れた技術や経験は他には変えられないものになるはずだ。
「じゃ困ったら連絡してもいいのね?」
「ああ、問題ない」
俺がそう答えるとミーナは少し嬉しそうな表情をした。
おそらくここを退院したらすぐにでも家に来そうな予感がするが、まぁ問題ないことだろう。
機会が良ければ、ミリシアやアレクとも訓練をともにすればまた新たな技術も学べることだしな。
「エレイン様、称号のことは話さなくて大丈夫なのですか?」
「称号?」
「そうだな。言い忘れていたが、”剣聖”という称号を議会から授かった」
「知らないところでとんでもない称号を獲得していたのね」
すると、ミーナはそう言ってまた深くため息を吐いた。
「成り行きでそうなっただけで、特に俺としては何もしていないのだがな」
「何もしていなかったら称号なんてもらえないでしょ?」
「確かにそうだな」
そう言われてしまっては何も反論できない。
「まぁ何があったのかは知らないけれど、これからどうするわけ?」
「まだ未定だが、平和のために頑張ると言ったところだろうか」
「……エレインらしいわね」
そう言って彼女は一瞬ムッとした表情をして俺から視線を逸らした。
どういった感情が彼女をそうさせているのかはわからないが、嫌な思いをしたわけではないそうだ。
ともあれ、これから俺がやるべきことは決まっている。
人類のために魔族を全滅させること、そして平和のために尽力することだ。俺やアレク、ミリシア、レイを育てあげ、高い技術を与えてくれた。そして、俺たちを帝国の全勢力を使って独立させてくれたのだ。
その恩返しというわけではないが、俺は人類のために全てを捧げる必要があるだろう。
こんにちは、結坂有です。
二日も更新が滞ってしまい、申し訳ございません。
次回からは安定して更新できると思いますので、これからもご愛読のほどよろしくお願いします。
無事にベルゼという人物を無力化することに成功したわけですけども、本当にベルゼがユウナを攻撃したというのでしょうか。
よくよく考えてみれば、怪しい人がまだいますね。
それでは次回もお楽しみに。
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