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未決の隠蔽

 私、ナリアは議会の警備を正午になった今も続けていた。

 今朝、私は遠回しで一度家に帰ろうとユウナに言ったのだけど、彼女は「まだやれますよ?」と真顔で返されたので仕方なく残っていた。

 自分だけ変えることもできたのだが、彼女と一緒に生活していると言動に不安を覚えることがある。ミリシアたちならその辺りもしっかりと理解してくれているけど、ここの警備隊の人たちはそうではない。

 ユウナの発言が何か問題にならないように私がしっかりしておかないといけないだろう。

 もちろん、彼女は優秀でとてつもなく強いのは理解している。ただ、彼女のその度が過ぎる天然さは人とコミュニケーションを取るには向いていないのかもしれない。


「ナリアさん、疲れましたか?」

「疲れてはいないけど、シャワーは浴びたいわ」


 昨日の晩からずっとシャワーを浴びていないわけだ。流石に汗などを流したい気分だ。


「うーん、じゃ私も向かいます」

「その方がいいわね」


 どうやら彼女も体を流す分には私と同じだったようだ。

 それから警備員の休憩室へと向かう。

 すると、そこには私たち以外にも何人かの警備員がいた。ここは女子更衣室ということで女性しかいないのだけど、その多くが元議会軍出身とかなりの実力者だ。


「失礼します」


 ユウナは丁寧な一礼をして彼女たちを横切っていく。

 私もそれに続いてユウナの後を付いていくのだけど、よくもこう堂々としていられるなと思う。

 もちろん、ユウナ自身がとても強いからそこまで堂々としているのだろうか。

 いや、おそらくそうではないと思う。


「ほんと、あの人って何者なの?」

「いきなりやってきてここの警備をするとか言ってきたけど、よくわからないわね」

「どこの出身かも教えないし、流派すら不明なんて信用に欠けるわ」


 悪口ではないにしろ、私たちに対してはあまり良いイメージを持っていないようだ。確かに昨晩急にここに配属されたわけでほとんど前もって連絡があったということはない。

 しかし、流派がないということはそこまで問題なのだろうか。

 どこの流派だろうと弱い人は弱いし、強い人は強い。どこの流派だとかは特に何の指標にもなっていないような気がする。


「ユウナ、大丈夫?」

「え? 何のことですか?」


 本当に理解しているのかどうかわからないが、特に彼女たちの発言に関しては問題視していない様子だ。

 一体どこまでメンタルが強いのだろう。

 そのまま更衣室の奥に向かい、シャワー室へと入る。

 シャワー室はタイル張りの広い部屋にシャワーヘッドが並べられただけの簡易的な作りだ。一応仕切りのようなものがあるが、異性の人が入るような場所ではないため薄い板一枚といった作りだ。

 一応換気をするためなのか、各仕切りの上部に通気口のようなものが設置されている。


「私はここを使います」


 すると、ユウナは入ってすぐ右手のところへと入った。

 私はその正面のところを使うことにした。

 仕切りの中へと入るとシャワーヘッドとその下には石鹸が置かれているだけであった。当然だが、家のようにいい香りのするようなものでもなく泡立ちの良いものではない。汚れを落とすだけのただの石鹸だ。

 私は入って武器である棒を横に設置されている台の上に置いて服を脱いだ。

 そして、ヘッドからお湯を出して体を流す。

 湯が私の体に付いた汗や汚れなどを落としていく。


「ナリアさん」


 石鹸を手に取り、体を洗おうとするとユウナが話しかけてきた。


「何?」

「私たちはそこまで有名ではないですよね?」

「あの様子からそのようね。一応、家名は授かっているんだけど……」

「本当にそれって必要なことなのでしょうか。私が育った場所はそのような家名などはなく、みんな平等な立場で訓練を受けていました」


 どうやら先程の会話をユウナは聞いていたようだ。

 彼女は一時期ではあるが、エレインとともにどこかで訓練を受けていたということは聞いたことがある。その時の話だろうか。


「そうなのね」

「今までどこの生まれだとか、どんな訓練を受けてきたかとか聞かれたことはなかったのです。だから、あのような話にどう対処すればいいのかわからないです」


 その言葉を聞いて私は確信した。

 彼女はメンタルが強いというわけではない。そもそもそのようなことに意味はないということを自然とわかっていたのだろう。

 でも、悩みの一つであるということは確かなようで、今は誰も使っていないこの場所で打ち明けたようだ。


「正直、私もよくわからないのよね。出身や流派で実力を推し測るのは間違っているけれど、それを否定することもできないわけだし……」

「私はエレイン様やミリシアさんのように強くはありません。どうしたらいいのでしょう」


 それは彼女自身の素直な悩みであった。

 もちろん、彼女だけの悩みではなく私にも関係していることだ。このまま議会の警備を続けるのだとしたら解決しない訳にはいかない。


「今すぐには解決できないかもしれないわね。ユウナはどうしたいの?」

「……」


 そう聞き返してみるが、返事がない。


「ユウナ?」


 私は体に付いた泡を丁寧に洗い流して振り返ってみた。


「っ!」


 真っ白なタイルと壁が真っ赤に染まっていた。なんの物音もせず、ただ血が流れていただけであった。

 何がどうなったのかはわからないが、私は咄嗟に体をタオルで隠して武器を手に取った。

 扉を開いて周囲を確認してみるも誰もいない。


「……うぅ…」


 大量の鮮血がシャワー室の床を染めているが、まだユウナは息があるようだ。


「ユウナっ」


 私はすぐに彼女の仕切りの中へと入って容体を確認する。

 彼女の胴体に上から下にかけて鋭い裂傷ができていた。そこから今も脈打つように血が流れ続けている。


「ちょ、何があったの!」


 私の声に反応してか、更衣室にいた先程の女性たちが入ってくる。

 長い裂傷を完全には止血することができないが、タオルなどで女性たちが押さえつけてくれる。


「わ、わからない……。でも急に……」

「とりあえず、医務室に運ぶわよっ」


 すると、女性たちは近くに置かれていたタオルなどで担架を作ると丁寧に運び出してくれた。

 私は何もできずにいた。


「ほら、血を洗い流して」


 一人の女性がお湯をかけてくれた。


「え?」

「かなりの出血量だけど、すぐに治療すれば大丈夫だから。そんな血塗れだとあのユウナって子もびっくりするわ」


 その女性は優しく私にそう言い聞かせてくれた。


「ショックだろうけど、大丈夫っ」


 彼女はそう言いながら、私の体を洗い流してくれた。

こんにちは、結坂有です。


大変遅くなってしまいました…

ですが、忙しい時期も通り過ぎましたので次回からは更新も安定すると思いますっ


今回は少しサスペンスな展開でしたが、これからももう少し続くと思います。


それでは次回もお楽しみに。



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

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