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剣聖は平和を望む

 天界から下界に戻ってきて四日経った。

 俺はいつものように目を覚ますとリーリアが朝食を作ってくれていた。

 アレイシアはまだ議会での仕事が終わっていないようで朝食を食べずに議会の方へと向かった。とはいっても議会の中でしっかりと食事をしているため問題はないはずだ。

 下界に戻ってから色々とあったのだが、一番大きな出来事といえば議会で剣聖の称号を与えられたことだ。

 まだ貧血気味であったために非常に疲れたのだが、この剣聖としての称号を与えられたことで聖騎士団と同等の立場を手に入れたことは確かだ。

 命の危険がなかったからよかったものの何かの試練があると言われればどうするべきか考えていたからな。まぁそのようなことは一切なく、終始アレイシアが大喜びしていただけであった。


 あとは小さき盾たちに何かの事情聴取が行われたそうだが、ミリシアやアレクがいるため何も問題はなかったそうだ。

 第一防壁に許可なく向かったことに対してミリシアが生徒の身を守るのは教師としての仕事だと言って議会の追及を抑えた。

 議会側も問題を大きくしたくはなかったそうで反論することなくすぐに帰ったのだがな。

 まぁそんな大したこともなく過ぎた四日間ではあった。


「エレイン様、朝食の準備ができました」

「ああ、ありがとう」


 俺はそう言ってリビングの方へと向かうと当然のようにカインとセシルが机に座っていた。

 彼女たちはこの家に住み込んでしまっていると言っていい状況だ。部屋はいくつもあるため問題はないのだが、一体いつまでここにいるつもりなのだろうか。

 セシルは学院が再開するまではずっと居続けるそうだ。ただカインに関しては謎だ。


「……二人ともいつまでいるつもりだ?」

「私が学院が始まるまでよ」

「私は……ティリアの屋敷が復旧するまでかな」


 正直言ってあの屋敷が復旧するのは一ヶ月や二ヶ月でどうにかなる問題ではなさそうだ。屋敷の八割が全壊している上に巨大な穴まで開いてしまっているのだ。そんな状態では順調に復旧が進むとは考えられない。聖剣の力があったとしても難しいだろう。


「本当にいつまでもここにいるつもりなんだな」


 俺はカインに向かってそう言った。


「だって私の居場所なんて最初からないもんだしね」

「詳しいことはよく知らないが、その聖剣を扱えるということでティリアの屋敷に住んでいたのか?」

「だいたいそんなところね。力としては強力ではないけれど怪我を一瞬で完治できるこの聖剣は一般人には秘密にするべきだから」


 確かに人体だけでなく壁すら瞬時に修復することができるその能力は非常に強力だ。攻撃力といった意味では弱いのかもしれないが、持久戦においてはかなり価値の高い能力だ。


「カインの言うように公に出回っていい能力ではないな」

「でしょ? だから大騎士の屋敷とか議長の家とかは都合がいいってわけ」

「……わかった」


 そこまで言われてしまっては俺としても反論することができない。ティリアの屋敷があの状況である以上、戻る場所がないのもまた事実だ。

 ここに来ていることはティリアも容認しているとのことだろうから何も問題はない。


「そういえば、セシル。学院の寮はどうなっているんだ?」

「そうね。ほとんどの生徒は回復していつも通りの生活ができているそうだけど、一部の生徒はまだリハビリが必要って感じね」

「重傷を負った人も少なからずいたからな」

「……ミーナって人は知ってる?」


 すると、カインがいきなりミーナという名を口にした。


「ああ、知っているが?」

「私、彼女を治療したんだけどまだ寮に戻れていないの?」

「確かまだ戻っていなかったと思うわ」


 カインの治療が完璧に行われたのであればすぐにでも退院してそうなものだ。それでもリハビリなどが必要ということは本人がまだ感覚を取り戻せていないということなのだろうか。


「あの巨大な剣を扱うのだからな。一度失った感覚はそう簡単には取り戻せないだろう」

「……じゃどうするの?」

「しばらくは様子を見るべきだな。俺自身、ミーナの剣術のことをよく知らない。下手に手助けするのはよくない」


 グレイス流剣術は非常に独特なものだ。そんな剣術を俺の勝手な解釈でミーナと訓練を共にするのは少し危険ではある。

 どうしても感覚が取り戻せない場合は俺が手助けする必要があるのかもしれないが、今は様子をみるべきだろう。


「一度機能を失った神経は修復できたとしてもすぐに慣れるものでもないからね」

「それだったら仕方ないのかもしれないわ」


 セシルは少しだけ何かを考えたが、それ以上は何も言わなかった。

 それからリーリアが朝食を運んできて食事を取ることにした。


   ◆◆◆


 正午を過ぎた頃、私、アレイシアは議会で会議をしていた。

 朝食を軽く食べて必要な書類にサインをしてその他報告なども聞いたのだが、まだ終わっていない仕事があった。

 それはエレインのこれからの仕事についてだった。


「剣聖の称号を得たエレインの役割についてなのだけど……」


 会議室で私はそう切り出した。

 正直なところエレインの役職なんて与えたくないのが本音だ。

 しかし、称号を与えて聖騎士団と同等の地位を与えてしまった以上何かを成し遂げないわけにもいかない。


「聖騎士団とは別に平和のために戦う騎士はどうかしら」


 これは私の意見ではなく、エレイン自身の意見だ。

 平和のために世界を旅するということは学院に入る前から知っていたことだ。本当なら正式な手順で聖騎士団に入団する予定だったのだが、色々とあってそれができなくなった。

 幸いにも私は議長という立場を利用して剣聖という称号を作ったのはいいものの、彼がこれからどういった活動を私たちが許すべきなのかは決定していないのだ。


「魔族の殲滅にだけ特化した方がいいのでは? 世界平和なんて不可能なことを彼一人ができるとは思えない」

「だが、彼の聖剣の力は絶大だ」

「今の彼は世界のことをよく知らないのではないか? 彼にとっては少し荷が重過ぎる気もする」


 私の言葉を皮切りに議員の人たちが議論を始めた。

 エレインの力はとてつもなく強力なのだけど、それでも万能というわけではない。もし世界中の悪い組織が彼に対して攻撃を仕掛けた場合、魔族と人間に挟まれる構図となってしまう。

 そんな状況では命はないに等しい。でも、それは普通だった場合だ。


「でも、彼ならきっと大丈夫よ」

「アレイシア議長、その根拠はどこにあるのだ?」

「魔族千体斬りを達成した人間は過去を含め誰も達成したことのない偉業よ。まだ力を解放できていない聖剣で千体以上の魔族を倒すことができるのは彼だけなの」

「それがエレインが世界に勝てる理由か?」


 正直なところ千体斬りを実際に私は見たことはない。状況証拠から見てそう判断されたのだが、どれもこれも曖昧なことばかりだ。

 それでもただ一つ言えることは神すら倒すことのできる人がそう簡単に死ぬようなことはないということだ。


「私が剣聖という称号を作ったのには意味があるの。信じてもらえないかもしれないけれど、彼は神を倒したと言っていたわ」

「それが嘘ということはないのか?」

「嘘ではないわ。行方不明になって戻ってきた時の彼の体は確かに成長していた。それに彼の装備していた服や防具は人間の技で作られたものではない」


 それらの証拠は鍛冶屋の人たちや研究機関などから証言も証拠も得ている。

 彼の持っている装備は人間の作れるものではないのだ。


「そのようなものを持っているということは神と戦った証ではないかしら」

「……」

「ユレイナ、資料をお願い」

「わかりました」


 そう言って彼女は資料を配り始めた。

 配布されたその資料には彼の急激な体の成長、防具の異質性を第三者の研究機関が詳細に調査した結果が書かれていた。

 これらの情報があれば彼がどのような存在なのかは一目でわかるだろう。


「……確かにこれが事実なのだとしたら彼は無敵なのかもしれないな」

「いや、どう考えても異常だ。こんなデタラメな情報があるはずがないっ」

「この資料は聖騎士団直轄の研究機関だ。信じるに値する情報ではないのか?」


 それから議論は続き、無事に剣聖の役職が与えられた。


”世界の均衡を維持し、人類の平和と繁栄のために戦う剣士”


 それが彼に与えられた役職。

 決まったことに対して私は嬉しいのではあるのだが、それと同時に不安や寂しさが増していくのであった。

こんにちは、結坂有です。


朝の更新ですが、次回は夕方に更新される予定です。


こうして剣聖として役職を得ることとなったエレインなのですが、これからの活躍が楽しみですね。

そして、ミーナや他の学院生はどうなって行くのでしょうか。気になりますね。


それでは次回もお楽しみに。



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