衝動に駆られる
僕、アドリスは第一防壁を包囲していた魔族を聖騎士団のみんなで殲滅していった。
当然ながら殲滅できたのは大いに小さき盾のみんなだ。
伝令からあのアレクやミリシアたちは小さき盾として正式な部隊に所属することになったと聞いた。確かに彼らならそれほどの実力があっても十分なのだが、周囲の評判はそこまで良くはないそうだ。
僕は彼らのことをよく知っているため、今回の件も彼ら小さき盾の功績が大きいと議会に報告するつもりだったが、僕以外の副隊長を含めた部下たちは自分たちが全て解決したと言い張りたいようだ。
もちろん僕は反対した。しかし、ミリシアとアレクはそれでも構わないと言った。自分たちの評判がよりも聖騎士団としての威厳を守ることを優先した結果なのだそうだ。
朝日が登った瞬間、突如として魔族の数が少なくなった。
おそらく理由については四大騎士の一人であるハーエルが強く力を放ったからだろうと推測した。
魔族が朝日に弱いという事実はない。
四大騎士の人たちがハーエルに力を温存させていたというのは後から他の大騎士の人たちから聞いた。僕はそう判断したのだがハーエル自身は認めようとしなかった。
まぁ認めなくとも事実として魔族が減った。報告書にはそう書くことにした。
理由としては曖昧なのはわかっているとはいえ、そうする方が都合がいいのだから仕方ない。
「アドリス団長っ」
第一防壁の支部で僕が報告書を書いていると一人の兵士が話しかけてきた。
「どうしたんだい?」
「一つ報告があるのですが、いいですか」
「ああ、大丈夫だよ」
すると、兵士の一人が泥だらけになった書類を机の上に並べた。
「戦場を清掃している時にこのような手紙が泥の中から出てきたのです」
「手紙?」
ひどく泥が付着しており手紙の全てが読める状態ではないのだが、ある程度は読める。
内容としてはエレインを含む小さき盾の暗殺を促すものだった。
「これはどこから出たのかな?」
「門を出て三〇〇メートルほど離れた場所です」
ということは門から近いということだろうか。第一防壁で小さき盾たちが戦うことになったのは生徒たちを守るためだったとのことだ。
普通に考えれば小さき盾がこの第一防壁に来るということは誰も予想していなかったはずだ。つまりは以前からこのような暗殺を支持した手紙があったということだろうか。
それにこの泥の付着具合から察するに昨日よりずっと前から埋まっていたようにも思える。
そして、何よりも紙の繊維の中まで泥が浸透している。第一防壁の中に入る前に地面などの状況も僕は見ていた。紙がこのような状況になるほどの状態ではなかったのだ。
色々と謎は残るものの小さき盾やエレインに何か被害があったという話は聞いていない。今のところすぐに行動に出る必要はないが、警戒が必要なのは言うまでもないだろう。
彼らを狙う人間は議会が変わった今でも多いと聞く。
謎多き人たちではあるとはいえ、敵ではない。それに今までも魔族から僕たちを守ってくれているのだ。もう少しは信用してもいいような気もする。
ただ、それでも信用しない人は一定数いるのだろうか。
「アドリス隊長、これは極秘裏で小さき盾の暗殺命令が出ているということですよね」
「……そうかもしれないね」
「本当に彼らを信じてもいいのですか?」
「少なくとも僕は彼ら小さき盾を信用してるよ。実際にこの目で彼らを見てきたからね」
彼らがどのように魔族と戦っているのか、どれほどの強さを持っているのかを僕は知っている。詳しく知っているからこそこうして信用できるのだ。
聖騎士団に囚われた時も内心あり得ないことだと思っていたが、何か裏があると思いあの時に僕は彼らに牢屋の鍵を渡した。
うまく逃げ切って無事に事態を収拾したように思えた。
「……敵、という可能性はないのですね?」
すると、兵士は僕から何かを確認するようにそう質問してきた。
僕は小さく頷いてそれを肯定すると兵士の一人は納得したような表情をして自分の持ち場へと戻っていった。
上辺だけでは納得したように振る舞っていても本心まではわからない。僕はあの兵士の顔を忘れないよう目に焼き付けることにした。
◆◆◆
私、ミーナは病室から外の朝日を眺めていた。
深夜に病院内で休んでいた私は警報の音で目が覚めた。
リハビリという名の訓練に励んでいいたためにかなり疲れていたのだが、あまりにも大きな警報が静寂な病室にも轟いたのだ。
その後すぐに緊急事態ということですぐに病院内にもアナウンスが入った。とは言っても具体的に何が起きているのかという詳細までは連絡されなかったのだ。
しかし、どのようなことが起きているのか私には理解できた。魔族が攻め込んできたのだろう。
警報が鳴ってから五時間ほど経ったのだが、魔族は倒したのだろうか。
そういった不安が色々と残るが、廊下の方へと目をやると看護師の人たちが普通に働き始めている。おそらくはどうにか対処することができたのかもしれない。
自覚したくない事実なのだが、今の私は入院中で何かができるということはない。
「ミーナさん、よく眠れましたか?」
すると、一人の看護師が病室へと入ってきた。
「昨日の警報のせいで眠れなかったわ」
「そうですよね。急でしたからね」
彼女はそう言いながら私のデータをメモしていく。すでに怪我は完治しているとはいえ、何か不測の事態が起きるかもしれない。そういったことからカインの治療が終わった後も体を調べられている。
「私はいつ、退院できるの」
「そうですね……。筋肉量がまだかなり低い状態ですので、もう少しリハビリが必要かもしれないです」
「訓練なら家でもできるわ。それに学院生でしっかりとした訓練場も使えるから大丈夫だと思うけれど」
「何かが起きてからだと遅いのでもうしばらく入院しないといけないです」
そう言われてしまってはどうすることもできない。
確かに何かが起きてからでは遅いのだ。
私はまた小さくため息を吐いた。この生活があと数週間続くと思うと少し憂鬱な気分になってしまうものだ。
こんにちは、結坂有です。
またしても更新が遅れてしまいました。
次回のご案内ですが、明日の朝と夕方に二本投稿したいと思います。
それでは次回もお楽しみに。
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