嫌われ者の最強たち
俺、エレインは目をつんざくような光に包まれた後、エルラトラム国の防壁の外へと転送された。
周囲に魔の気配がないことから安全な場所だと思われるのだが、わざわざ外という場所ではなくてもいい気がする。なんなら俺が住んでいる家でも良かったはずだ。
「……それにしてはなんか変よね」
するとカインがそういった。
確かに魔族がよくいる場所だとは思うのだが、周囲には大量の魔族の死体が転がっていた。
「エレインっ」
そんなことを話していると奥の方から一人の女性が走ってきた。彼女以外にも何人かの人がいる。
「セシルか」
そう走ってきた彼女は目に涙を溜めていた。
「……大きくなった?」
「やっぱり変わったように見えるか」
アンドレイアの能力で歳までも加速してしまった俺の体はどうやら他人からすれば大きく変化したように見えるのだろうか。
自分の体ながら、実感がないのが段々と怖くなってくる。
「服、のせいなのかしら」
奥からはミリシアやアレクたちだ。
「エレイン、やっぱり自力で戻ってきたのね」
「へっ、こいつがそう簡単に死ぬわけがねぇだろ」
「それにしても、体格が違うように見えるね。体がしっかりと大人になっているって言うのかな」
確かにアレクの言うように俺の体は大人になっているのだろう。
「……まぁ体自身は五年経ったようだからな」
「え? じゃ二〇歳ってこと?」
「ああ、実感は全くないがな」
「だったら俺らよりも上ってことか?」
「僕たちはまだ一九歳だからね」
小さき盾となった彼らは年齢を偽って年齢を変えているが、俺の場合は実際に体が二〇歳になっている。その点で言えば、確かに俺の方が成長しているのだろう。
「二〇歳……」
俺の言葉を聞いてセシルが俯き始めた。
「どうかしたか?」
「遠い存在になったなと思っただけよ」
彼女にとって俺はパートナーだった。そんな俺が急に成長してしまったとなれば驚くのも普通のことなのかもしれないな。
ただ、そうとは言っても俺は彼女のことを同級生だと思っている。
「別に年齢は気にするほどのことでもないからな」
「そう、なのかもしれないわね」
あまり納得していない様子ではあるのだが、彼女は小さく頷いた。
そんなことを話しているとリーリアが急に警戒し始めた。
「エレイン様、嫌な視線を感じます」
「嫌な視線?」
「はい。何か、殺意のような視線です」
彼女がそういうとアレクは周囲を警戒し始めた。
正直なところ、今の俺はかなりの貧血状態だ。脳に十分な血液が回っていないということは理解している。
完全に平衡感覚を失ってしまっているようで、こうして真っ直ぐ立っているだけでもふらふらと頭が揺れるような感覚がある。
そんな状態でまともに周囲の状況を全て把握することはできない。
幸いにもここには優秀な仲間がいる。大抵のことは対処できると思うのだが……。
「エレインっ!」
そう言ってアレクが俺の方へと走ってくる。
彼は義肢の方の腕を構えて矢のようなものを弾き落とした。
「大丈夫かい?」
「ああ、助かった」
俺の後方から、それも距離の離れた場所から放たれたその矢は形状から察するに吹き矢のようなものだろう。
ただ、吹き矢で数キロも先の標的を狙うのは無理がある。一体どういった方法でここまで飛ばしてきたのだろうか。
「おい! 出てこいよ! 俺がぶっ殺してやるからよっ」
「ちょっと、レイ。誰も死んでないし怪我もしてないから殺すのは良くないわ」
「あ? 仲間が攻撃されてんだから別にいいだろ」
レイはかなり怒っている様子だ。
仲間意識の高い彼にとってこのような暗殺行為は許されるようなものではないのかもしれないな。
「レイ、怒る気持ちもわかるが、今は周囲を警戒してくれないか。今の俺は重度の貧血状態だからな」
「ちょっと待って、血液って回復していないの?」
カインがそう質問してくるが、今はそれに答えている場合ではない。
朝日が出て明るくはなっているが、周囲には俺たち以外に誰もいない。少なくとも目に見える範囲には敵がいないということ。
そんな見えない敵と戦うのは神経を使う。
俺は目を伏せて軽く頷く程度に収めた。すると、レイが大きく舌打ちをして見えない敵に怒りを示した。
「ちっ、ふざけんなよっ。誰がこんな卑怯なことしやがんだよっ」
「とりあえず、ここだと危険だわ。防壁の中に行きましょう」
ミリシアがそういうとアレクとレイは大人しく剣を納めた。
「エレイン様、走れますか?」
「血液の量がまだ少なすぎるからな。走るのは少し……」
俺がそんなことを言っているとレイが俺を持ち上げた。
「へっ、体はデカくなっても子供のままかよ」
「病人を労ることを覚えたらどうだ?」
「知るかよっ」
俺を抱えた状態でレイは全速力で走り抜ける。
他の人も必死に追いかけてくるが、彼の速度には追いつけないようでたった数分でかなり距離が離れてしまった。
そして、そのまま防壁の中に到着すると兵士たちで溢れかえっていた。
俺がここに来る前に何か魔族との戦いがあったのだろうか。
「まだこんなに人がいるのかよっ」
「仕方ないことだ。見たところ怪我人もかなりいるようだからな」
「お前も怪我人だろ」
「怪我は完治しているのだが?」
俺がそう言うとレイはふっと鼻で鳴らすと一人の兵士が俺の近くへとゆっくり近づいてきた。
「なんかようかよ」
レイがそう対応するが、明らかにその兵士の目は殺意に満ちている。
「エレイン、あんたが来てからこの国が危機的状況に何度も陥った。これもあんたのせいなんだろ?」
「あ? なんか関係あんのかよ」
「あんたら小さき盾も不自然だ。あんたらができてすぐにこんなことが起きるなんておかしい」
次第に周囲の兵士たちも疑惑の目を向けてくる。
一部の兵士たちは俺たちの正体を知っているようだが、大多数は知らないのだろう。
とは言ってもすぐに攻撃を仕掛けてくる気配がないことから先ほど吹き矢を放ったのはこの兵士たちではないようだ。
「ふざけんなよ。てめぇらが……」
「それ以上はいいだろ。別に信頼なんてものは最初からあってないようなものだからな」
「……確かにそうだけどな」
そんな会話をしていると防壁の方から他の仲間たちも集まってきた。
「レイ、少しは私たちのことも考えて欲しいのだけど?」
「怪我人運んでんだ。これぐらい普通だろ」
「もう一度言うが怪我は完治している。そこまで急ぐ必要はないからな」
人一倍仲間意識の高いレイは俺のために全速力で防壁の中へと運んでくれた。
もちろんそれはいいことなのだが、それが裏目に出てしまっているといった状況だろう。
「そういえばブラドはどこにいるの?」
「確かに見当たらないね」
「ブラドさんならもう帰った。あんたらも帰ってくれ」
「俺たちも全力で戦ったんだからよ。治療ぐらいは受けてもいいだろ」
レイがそういうとその兵士は強く彼を押した。
「あ? なにすんだよ」
「丈夫な体してるから大丈夫だろ?」
「てめぇ、ふざけてんなら……」
「レイ、もういいよ」
そう言ってアレクが間に入った。
「悪いね。僕たちも魔族の戦闘でかなり疲れているから先に帰らせてもらうよ」
「ああ、さっさと帰ってくれ」
そう吐き捨てるように兵士が言った。
まるで俺たちのことを仲間だとは思っていないかのような言いようだ。
だが、彼らのことも理解できないわけではない。どこからきたわからない人が急に議会直轄の部隊になるのだ。怪しまない方がおかしい。
「っんだよ、あいつはよっ」
「別にいいんだ。僕たちは小さき盾、小さい存在で戦わなければいけないんだ」
アレクがそう言う。
確かに彼の言う通りだ。俺たちには信頼というものがない。当然ながら忌み嫌われるのも仕方のないことだ。
「それでも変だわ。こんなに頑張ってるのに……」
セシルがそういうが大多数の人間は俺たちがどういった存在なのかを知らないからな。
「嫌われる存在だとしても私たちには居場所があるわ。生きれる場所があるだけで十分よ」
「……それって寂しくない?」
「まぁそうだけどね」
カインがそう小さくつぶやくとミリシアは笑顔でそう答えた。
まぁすぐにこの状況が変わるということはないからな。今は耐える時だということだ。
「私は生徒のところへ向かうわ。一緒に第二防壁の方まで付いていきたいところだけどね」
しばらく歩いていると生徒たちが集まっている場所を見つけた。
セシルは生徒たちの応援部隊としてここに来たようで生徒たちと合流しなければいけないのだろう。
「別に構わない。心配をかけたな」
「いいのよ。こうして無事に戻ってきたんだから。じゃまた家にお邪魔するね」
「ああ」
俺がそう返事をするとセシルは生徒たちの方へと向かった。
「エレイン様、お体の方は大丈夫ですか?」
「ただの貧血だ。ふらつきはあるが、剣は持てる」
「戦いなら俺たちに任せろって、今は体を休めろ」
それから第二防壁までの間、どのようなことがあったのかを詳しく聞くことにした。
こんにちは、結坂有です。
更新が二日も遅れてしまい申し訳ございません。
特に体調不良ではありませんので、ご安心を…
大多数の兵士たちに嫌われながらも自らの居場所を守るために全力で戦う彼ら。その努力や覚悟もいつか報われる日が来るといいですね。
そして、エレインを攻撃した人は誰なのでしょうか。
いつの時代も最強を嫌う人は多いようですね。
それでは次回もお楽しみに。
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