第一波、襲来
聖騎士団の男に連れられて向かった先はどうやら作戦本部のようだ。
「この先で説明がある。お前たちにも耳に入れておいて欲しい」
「ああ」
「はい」
そう言ってテントの中に入ると、そこには指揮官と思われる人が地図を指して説明していた。
「おお、応援の人か」
「はい。セシル・サートリンデです」
「あの副団長のか。そして、横にいるのがエレインとそのメイドだな」
「よろしく頼む」
横にいたリーリアも一礼する。
指揮官は俺の方を向くと同時に鋭い目を向けた。
「噂は聞いているよ。お前たちには早速任務を与えることにする」
「応援と聞いていたのですが……」
すると、指揮官はセシルの目を見て話す。
「聖騎士団はかなりの人材を攻撃部隊に配属した。防衛に回っている聖騎士団はほんの一握り。だから聖騎士団に匹敵する人でもいいから人材が欲しいと思って応援を頼んだんだ」
「補充要員だということか」
「言い方を変えればな……だが、安心しろ。お前たちに任せる区域は魔族が攻めてくる可能性の一番低い場所を担当させる」
そう言って地図にピンを立てる。
どうやらその場所はこの場所から一番離れたところで、平原が一望できる拠点のようだ。
まさか、ここが攻撃されにくい場所だと本気で思っているのだろうか。
少し疑問が残るが、指揮官の命令だ。ここは大人しく聞いておいた方が良さそうだ。
「……地図を見てみたのですが、周りに配置している部隊がいないように思えるのですけど」
「ああ、もちろんだ」
「どうしてですか」
「先ほど言ったがその場所は攻撃される可能性が低い。だからその場所を守る配置にはしていない」
「ですが、この配置では防衛に穴が空いているように思えます」
先ほどまで静かに聞いていたリーリアが指摘をする。
その鋭い指摘に指揮官は言葉に詰まる。
俺が口を出さなくても彼女は指摘してくれるようだ。
「私の考えた作戦に文句があるのか」
「文句ではありません。これでは……」
「では、さっさと配置につけ」
有無を言わさずに指揮官はセシルに言い放った。
いきなり態度を変えたな。
彼は一体何を考えているのだろうな。まさかまだ学生である俺たちを死地に送りつけることはしないと考えていたが、これでは危険極まりないではないか。
このことは後でブラド団長に伝えるべきだな。
指揮官に指を刺され、テントを後にする俺たちはその指示された場所に向かうのであった。
その道中でリーリアが話しかけてくる。
「エレイン様、厄介なことになりましたね」
「そうだな。あの場所は狙われたらすぐに突破されそうな場所だ」
リーリアが頷いてみせる。
彼女は公正騎士ではあるものの、こう言った戦術的な知識や機転は効くようだ。
まぁ以前は聖騎士としてアレイシアと一緒に訓練をしていた仲だったわけだからな。当然と言えば当然か。
「とは言っても俺たちは命令を受ける側だ。上に文句を言える立場ではない」
「……確かにそうです」
応援に来ただけであって、俺たちは聖騎士団でも何でもない。
だから、現場の指示に忠実に守らなければいけないのは当たり前だろう。
ただ、俺ができることをするだけだ。
「エレイン。本当に大丈夫なのかしら」
「何がだ」
すると、セシルが口を開いた。
「その、私たちだけで魔族を防げるのかということよ」
「お前が弱音とは珍しい」
「よ、弱音じゃないけど……本当に三人だけで守り切れるのかなって」
ふむ、場所は平原だったな。
魔族が広く分布して突撃して来てしまっては、守り抜くことは難しいだろう。
「そのことについては現場についてから考えるとしよう」
「ええ、ここで考えていても仕方ないからね」
そう作戦を思案しながら、俺たちは指示された場所へと向かった。
指示された場所は広い平原であったが、門が設置されており平原から国内に侵入できるのはこの門だけであった。
「なるほど、この門の前で戦うことができれば守り抜くことはできそうだ」
「ですが、魔族が集中すると思われます」
「どれほどの数が来るかわからないが、大丈夫だろう」
そんなことを言っているとセシルが横から口を出して来た。
「ちょっと、魔族と戦ったことあるの?」
「急にどうした」
「私の父は最強の聖騎士だった。それでも百の魔族に討ち倒されたのよ」
百か、それでも多い方なのだろうな。
千体以上の魔族と戦って生き残ったということはセシルにはまだ話さないでおこうか。
議会と繋がっていないという保証はまだないわけだからな。
ただ、ブラド団長やアレイシアが信用しているあたりからその線は薄いと考えられるがな。
「百体もの軍勢がここに来るとは考えられない。魔族だって馬鹿ではないからな。自陣が攻撃されているとなれば、そちらの加勢に向かうだろう」
「そうだけど、私たちはまだ学生なのよ。そこのメイドはよくわからないけれど」
「安心しろ、俺のメイドはかなり強い」
俺がそういうとリーリアは頬を赤くして、顔を背けた。
「それなら心強いのだけど……っ!!」
セシルの立っているところに投石が来た。
人の頭ほどの岩が高速で飛んできた。
それを俺がイレイラで切り落とし、セシルを守った。
「リーリア、門を閉めてくれ」
「はい。では、ご武運を……」
リーリアはそう言って門の方へと向かった。
彼女にはもしここが突破された時に門の内側で戦ってもらう予定だ。
だが、彼女は待っているだけになるだろうがな。
「ちょっと、その心強い人が下がって行ったのだけど!」
「ああ、セシルは門の前を守れ」
「もしかして、もう攻撃を仕掛けて来たのかしら」
「そうだろうな」
俺は目を閉じ、音や空気の流れに集中する。
そう言った聴覚や触覚などのから得られる情報も多いからな。
平原の奥から足音、十五体の魔族。空気の流れからかなり大柄だろう。
持っている武器は大剣、戦斧、そして棍棒か。
「敵は十五体。重量級の武器を装備している」
「え? 目がいいのね」
「視認したわけではない。気をつけろよ」
「……じゃどうやって確認したのよ」
そうセシルは小声でそう呟いた。
すると、奥から魔族が走ってくる。
ドンドンッと重い足音を立てて、こちらに向かってくるのだ。
「あれが、魔族」
「大丈夫か」
「ええ、大丈夫よ」
そう言ってセシルは二本の聖剣を引き抜いた。
細く長さのあるグランデバリウスを右手に正眼の構え、そしてもう一つの太い剣であるベルベモルトを左手に上段の構えを取る。
典型的な構えだ。
それに対して俺は右手にアンドレイア、左手にイレイラだ。イレイラは逆手にして持っている。
「逆手、なのね」
「場合によって変えている」
「そうなのね」
「俺は先攻する。やりきれなかった魔族を対処してくれ」
そう言って俺は駆け出す。
「エレイン! それは危険よ!」
後ろでセシルが叫んでいるが、そんなことなど関係ない。
今するべきことはこの門を守ること、セシルには言わなかったが投石を専門としている魔族がいるようだからな。
俺が先攻することでセシルが動きやすい状況を作ることにした。
「ふっ!」
俺は先頭を歩いている魔族の足元に滑り込み、奥に進んでいく。
アンドレイアの加速を使ったために魔族は少し反応が遅れる。
「があっ!!」
魔族が叫ぶが俺はすでにそこを離れている。
奥に待っているのは大きな岩を持った魔族だ。
俺が目視すると、その魔族は俺に向かって岩を投げつけてくる。
それを俺は空中で身を捻って躱す。
空中でする理由としては速度を失いたくなかったからだ。
そして、もう片方で投げつけられてくる岩は避けようがない。ここは右手のアンドレイアで破壊する。
ガジリィィンっと心地よい金属音を響かせながら、俺は投げつけて来た魔族へと斬りかかる。
「ブガァアア!!」
「遠距離系の敵を排除、残りを相手しよう」
斬りつけた魔族の頭部は空中を舞っている。そして、それが地面に落ちる頃には俺の周りに十体の魔族が取り囲んでいた。
「ふざけやがって!」
背後から戦斧で斬りつけて来た。それを俺はアンドレイアで防ぐ。
……重いな。
一年以上こうして戦ったことがなかったからな。やはり筋力は衰えているのだろうか。
「殺せ!」
無防備となった前方から三体の魔族が突撃してくる。
やはりこいつらは単細胞のようだな。
「グギャアア!」
イレイラを亜音速で振り回し、背後にいる魔族を含め、四体の腹部を斬りつける。
ピュンっと刃鳴りを立てて、一瞬にして魔族の体が二つに分かれる。
「あと六体か」
俺は残りの魔族を斬り倒すために走り出す。
アンドレイアの能力である”加速”で一瞬にして六体分の魔族の上半身が宙に飛んだ。
『どうじゃ、わしの力は……まともに使ったのはこれが初めてじゃろ』
右手の剣からはそう言った言葉が聞こえる。
どうやら彼女が語りかけて来ているようだ。
「なかなか使い勝手の良い能力だ」
『そうじゃろ、そうじゃろ』
そう彼女は得意げに話した。
さて、セシルの方へとそのまま前進を続けた魔族はどうなっているだろうな。
俺は後ろへと後退した。
「せいっ!」
そんな掛け声とともに、高速な剣撃で魔族を武器ごと真っ二つにする。
あの剣撃では正面から相手にするのは危険だろうな。
すでに彼女は魔族を二体倒しているようで、これで三体目だ。
「っ!!」
セシルの背後から最後の魔族が飛びかかってくる。
彼女はその攻撃に対して反応が少し遅れた。この一秒にも満たない遅れは致命的だ。
「がああ!」
しかし、飛びかかって来た魔族はそのままセシルの前へと倒れ込んだ。
「大丈夫ですか」
「あ、ありがとう。助かったわ」
どうやらリーリアが助けてくれたようだ。
その時の彼女の剣の筋は黄色く光っていた。
おそらくはセシルのことをまだ警戒しているのだろうな。
さすがにセシル一人に対して魔族四人の相手はまだ難しかったようだ。
「どうやらこの攻撃は何とか防げたようだな」
「ええ、ちょっと危なかったけど……その前にエレイン、先に行き過ぎよ」
「そうか」
「当たり前でしょ。固まっている相手に突っ込むとかどう言う神経してるのよ」
そう言うとセシルはムッとした表情で俺を睨んだ。
「全く同感です」
「リーリアもか……」
どうやらリーリアも同じ意見を持っていたようで、セシルと並んでムッとした表情を向けてくる。
できるだけ苦労させないように立ち回ったつもりなのだが、まぁこうなるのも仕方のないことなのだろうな。
そうして、俺たちは魔族の最初の奇襲を乗り越えたのであった。
こんにちは、結坂有です。
何と配属いきなり魔族の襲撃がありました。
エレインの素早い対応力でその奇襲から門を守り抜くことができましたが、一体指揮官は何を考えているのでしょうか。
それでは次回もお楽しみに。




