終焉の鐘
俺、エレインはリーリアと山頂へと向かっていた。
禍々しい光を放っているその山頂は登る足を重くしていく。目的地に近づくにつれ負の力が俺たちを蝕んできているのだろう。
さらに俺たちを邪魔するように魔族が襲いかかってくる。
別にそこまで強いわけではないが、数がとてつもなく多い。いくら弱いからといっても数で押し込まれてはどうすることもできないからな。その辺りも注意しながら上の方へと進んでいく必要がある。
「ガァ!」
遠くの方から魔族の咆哮が聞こえてくる。
近くにいる魔族とはまた違った声だ。
「エレイン様、何か来ますね」
「そうだな」
魔族の大部分が城の方へと向かっているとはいえ、自陣の防衛を疎かにするほど魔族も馬鹿ではない。
重要拠点に近づくものを排除しようと何者かが動いているということだろう。
ドゴォン!
地滑りのような音とともに左右から魔族がなだれ込んでくる。
「まだこんなにも残っていたんだな」
「どうしますか?」
「突破するしかないな。まだいけるか?」
「大丈夫です」
この数ならリーリアを守りながら進むこともできる。このまま突き進むか。
俺はイレイラを構えて走り出す。
「ふっ」
目の前の邪魔な魔族は全て斬り倒し、左右から俺たちを攻撃してくる魔族をリーリアが担当する。
周囲には数百体もの魔族が存在していることだろう。それでも勢いは収まる気配はない。
まぁ魔族側の本陣なのだ。そう簡単に突破させてはくれないようだ。
とは言ってもイレイラの”追加”という能力とクロノスの”減速”という能力を組み合わせれば数はそこまで問題ではない。
言うなればリーリアの体力が持つかどうかだ。まぁその辺りは後で考えるとするか。
◆◆◆
私、ミリシアは第一防壁で魔族と戦っていた。
私の周りにはアレクもレイもいる。それにセシルや学院で私たちが教えていた生徒たちも何人かいる。
そこまで確かに魔族の数は多いが、そこまで苦労することでもない。ほとんどの大型の魔族はレイが担当している。
私たちは比較的小さい普通の魔族を担当することにしている。確かに大型を生徒たちが相手するのはかなり難しいところがあるからだ。
「ミリシア、流石にこの数を生徒たちにやらせるのは厳しそうだね」
「ええ、私たちが来なければ今頃全滅していたかもしれないわね」
彼の言う通りでこの数をまだ戦闘能力の低い生徒たちに任せるのは間違っている。
間違っているのだが、それでもやらなければいけない状態だということは確かだ。聖騎士団の本隊がいればもっと楽に敵と戦うことができたのかもしれない。
「だめだっ。第二防壁まで後退しよう!」
そんなことを話していると一人の兵士がそう提案してきた。
「どうして?」
「魔族の数はまだまだ増え続ける。君たちが来てくれたおかげでだいぶ戦況は回復したけど、それも時間の問題だ」
「確かにそうだね。でも今この状況で第二防壁まで行くのは危険だよ」
するとアレクが兵士にそう言った。
彼の言うようにこの状況で第二防壁まで後退するのは今よりももっと死傷者が増える可能性があるからだ。
第一防壁の内側では手足を失った兵士が何人かいると聞いている。そんな状況で後退できるわけがない。撤退に遅れた兵士たちは魔族に囲まれて殺されてしまうことだろう。
「だが、いずれは数で押し負けてしまうんだぞ」
「気にする必要はないよ。この程度の数で僕たちは負けない」
「それに聖騎士団が戻ってくる可能性に賭ける方がよっぽど効率的だからね」
今、私たちが戦っている状況で聖騎士団の本隊が戻ってきたらかなり戦況が変わることだろう。
大型の魔族を私たちが倒し、小さい魔族を聖騎士団や生徒たちに任せれば間違いなく全滅させることができる。
「そんな可能性の低いことにかけてられないんだっ」
「この俺がいてもか?」
そう兵士が叫ぶと一人の男が呟くように言った。
「ぶ、ブラド団長?」
「今はもう団長ではない。だが、まぁこの状況ではそっちの方がしっくり来るがな」
すると、ブラドはそう言って魔剣へと手を添えた。
そして黒い影のような物体がブラドから無数に解き放たれると魔族を一斉に攻撃し始めた。
もちろん、それら影の攻撃は魔族に全く通用していないように見えるが明らかに怯み始めている。
彼の分身に聖なる力は宿っていないが、攻撃を仕掛けてくる相手が多くなれば魔族とて対処が難しくなるのだ。
「増殖する剣術……」
「驚いている場合ではないわよ。分身で動きを止めている間に魔族を倒していかないと」
私はそう言って兵士の背中を叩くと分身の相手をしている魔族へと攻撃を開始した。
分身は捨て身の攻撃で魔族へと突撃していく。それを魔族は斬り倒していくのだが、次々と仕掛けてくる分身の攻撃はかなり面倒なことだろう。
「オラァ!」
レイの雄叫びとともに巨大な魔族が吹き飛ばされていく。
彼の魔剣の能力である”超過”はとんでもない能力であると誰もが見てもわかることだろう。
そしてそれを使いこなすレイは力だけでなく技術もしっかりと持っているというこ十でもある。
そんなことを考えていると、カランッカランッと鐘のような音が鳴り始めた。
「この音は何?」
「わからないね」
私とアレクは今まで聞いたことのない音だ。鐘のような音ではあるのだが、それが一体何を意味しているのかはわからない。
「聖騎士団が来たな」
「え? そうなの?」
「ああ、この鐘の音は進軍するときに使うものだ。それが今あの山の奥から聞こえてきているということは魔族を挟み込もうとしているみたいだな」
第一防壁で戦う私たちから魔族を挟むような形で聖騎士団本隊がいるということらしい。
「それだったら僕たちは前へと進むだけだね」
「ええ、この戦いを終わらせよ!」
心地の良い鐘の音に導かれるように私たちは魔族の群れへと突撃していった。
◆◆◆
俺、エレインは山頂付近へと到着していた。
無数の魔族の群れを突破するのはなかなか骨が折れるが、聖剣の力もあってここまで来れた。
「エレイン様、あれが邪神ですか?」
「そうみたいだな」
リーリアが指さした方を向いてみると巨大な結晶のようなものが鎮座していた。
今は休止中なのか周囲から魔族が沸いているようには見えない。
「魔族が産生される前に壊すか」
「はい」
俺はイレイラを納めると魔剣の方を引き抜いた。
じっと構え、俺は結晶の方へと走り込む。
カシャンッ!
魔剣が結晶の中心を捉えると一斉にヒビが全体へと広がった。
それと同時に決勝の光が弱まって負の力が消えていく。
「……これで終わりなのか?」
なんともあっけない終わり方に違和感を覚えていると後ろからリーリアが走ってくる。
「っ!」
「エレイン様っ!」
リーリアが俺の方へと手を伸ばしている。
改めて結晶の方へと見ると、中から人のような影がこちらへと向かってきていた。
バリンッ!
結晶が砕け散ると中から美しい女性が飛び出してきた。
そして、その腕には輝くナイフのようなものを持っている。
「はっ」
リーリアは俺の腕を引っ張り後ろへと下がらせるとその女性は大きく空を斬った。
「よく気付いたわね」
「私の魔剣が反応しましたから」
「へぇ、変わった能力を持っているのね」
「……邪神ヒューハデリックなのか?」
俺は彼女の正体について尋ねると彼女は小さく頷いた。
「そうよ。私が邪神。私を殺しにきたのよね?」
「これ以上魔族を増やすのはやめてくれたら殺す必要はないのだがな」
「悪いけれど、私自身で制御できないのよ。だからその手で私を殺してくれる?」
本当に殺して欲しいと思っているのだろう。
彼女の目には感情というものが失われている。光もなく、ただ虚無を見続けているようなそんな様子だ。
「わかった。ただ、一つ聞きたいことがあるんだが……」
「何?」
「ここで殺したとして下界に住む魔族はどうなる?」
「下界については私は無干渉。邪神と呼ばれているけれど、そんな非道なことはしないわ」
魔族が神と言っていることとは無関係ということなのだろうか。
少し気になることではあるのだが、この天界での時間もある。
結局のところ謎が深まっただけと言うことか。
「でも気になることがあるとすれば、神を喰らった魔族が何体かいなくなっているわ」
「つまりどういうことだ?」
「もしかしたら、下界に降りて悪さをしているのかもしれないわね」
「……助かった。かなり貴重な情報だ」
「ええ、私もやっと呪いから解放されるのだからお互い様よ」
正直言うと俺がここに来る必要があったのだろうか。今考えると剣神ほどの実力者なら一人でもここに来ることができたはずだ。
裏のことはよくわからないが、自分ではない別の人に任せたいと思ったのかもしれないな。
邪神の先程の動き、剣神の動きと似ていた。過去に何か繋がりでもあったのだろう。
俺は魔剣を構え、力を込める。
『時は枷になりて……』
クロノスの言葉とともに魔剣に埋め込まれた歯車が停止する。
それと同時に俺は剣を振り下ろした。
クロノスの能力がこの邪神の時間を止めることで不死の呪いすら封殺する。止まった時間の中では呪いなど無意味だからだ。
そして、彼女は声に出さずに何かを呟いて光の中へと消えていった。
こんにちは、結坂有です。
この回にてこの章は終わりとなり、次章からはまた違った形で物語が進んでいきます。
次章以降も激しい戦闘シーンがありますので、これからもよろしくお願いします。
それでは次回もお楽しみに。
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