突破するための手段
俺はリーリアと共に山の方へと走っていた。
光の速度で移動しながら魔族を斬り倒していく剣神に守られながら進んでいく。
「エレイン様、山の方は魔族が少ないようです」
「ああ、これなら俺たちだけでもたどり着けそうだ」
山の麓に着くと周囲にまだ魔族が数十体ほど残っているものの、魔族の本隊は突破できたようだ。
突破できたのはいい。しかし、これからどう山頂まで行くのかが問題だ。
ほとんどの魔族が本隊として城壁へと攻撃しているようだが、それでもかなりの数がこの山に潜んでいることは間違いない。
「エレイン、山頂へは自分たちでいけるな」
剣神がそう聞いてくる。
彼にはこれから城壁の方へと戻って防衛を続けてほしいところだ。
カインの修復もいつまで保つかわからない以上、いち早く剣神には戻った方がいいだろう。
「大丈夫だ」
「ふっ、では頼んだ」
そう言って剣神は一度だけ強烈な力を放って周囲にいる魔族を一掃してから戻っていった。
「これから登るのですね」
比較的低い山とはいえ、魔族が多くいる状態だ。
危険な場所であることは言うまでもないが、ここまで来た以上引き返すことはできない。
「ああ、無理な速度では登らないから安心しろ」
「……足手まといになっていませんか?」
「少なからず魔族の攻撃で歩みが遅くなるからな。何も気にするほどのことでもない」
「わかりました」
リーリアはよく何かを機にすることが多いのだが、それらはしっかりと説明すれば引き摺ることはない。
非常に強い精神力があるからこその芸当だろう。
それから俺たちは山頂へと警戒を緩めずに進んでいく。
目を閉じ、周囲の状況を調べてみるが魔族の数はかなりいる。
しかし、すぐに俺たちを襲ってくることはないようだ。とは言っても油断できる状況ではないのは確かだ。
ここはすでに敵陣の中なのだ。いつ魔族が俺たちを攻撃してくるのかわからない。
「エレイン様、この辺りは魔族がいないのですか?」
「いや、姿をうまく隠しているようだな。罠にでもはめようとしているのかもしれない」
「罠……。大丈夫なのですか?」
「どのような罠なのかは引っかかってみないとわからない。気にするだけ無駄だろう」
「……エレイン様の言う通りですね。私は信じていますから」
彼女は俺に対して全幅の信頼を置いている。
だからこそ俺も彼女を信頼できるのだ。
カシュンッ!
何かが引っ掛かるような音が聞こえた。
「なんの音でしょう」
リーリアがそのような反応をするということは彼女は何もしていないということだ。俺も特に違和感などなかった。
つまりは魔族が引き起こした音なのかもしれない。
「ガァギャア!」
一体の魔族が俺へと斬りかかってくる。
ゴースト型が多いと聞いていたが、実体のある魔族も多いようだ。
「ふっ」
俺はイレイラで襲いかかってきた魔族を斬り倒すとそれを皮切りに複数の魔族が姿を表した。
前後左右からはもちろん、上方からも攻撃を仕掛けてくる。
「リーリア、自分の前だけに集中しろ。あとは俺が倒す」
「はい」
すると、リーリアは双剣を引き抜いて戦闘態勢を取る。
軽く百体以上は俺たちに攻め込んできているようだが、その程度の数では全くの無意味だ。
それに魔族の能力も下界にいる魔族と比べてかなり弱いからな。何も怖がる必要はない。
「はっ!」
彼女の剣技は双剣に特化した技だ。
流れるような剣捌きは本能でしか動けない魔族に対しては有効的だろう。そして何よりも相手の動きがわかりやすいということは魔剣の能力を使い放題ということでもある。
彼女の持っている魔剣の能力は相手の精神分析だ。相手の心を深く読み取り動きを予測することができる。つまりは正面で戦っている以上彼女はほぼ無敵ということだ。
ゴースト型の魔族は文字通り幽霊ということで足音などは全くない。
しかし、確かにそこに存在しているため空気の流れなどで動きを察知することができる。それに幽霊だからと全く目に見えないというわけでもないからな。
数としてはかなり多いが、知能の持っていない天界の魔族はただ訓練用の人形とほとんど変わりはしない。
百体だろうが、千体だろうが聖剣がある限り戦うことができる。
「リーリア、疲れたらすぐに下がってもいいからな」
「わかりました。ですが、まだ戦えますっ」
「そうか。ならもう少し速く進む」
「はいっ」
魔剣の”加速”という能力は使えないが、それでもかなりの速度で走り抜けていく。
リーリアの実力に合わせて速度を調整しているとはいえ、普通であればここまで登り切るのはそう簡単なものではないはずだ。
彼女の実力も俺の知らないところで強くなっているということだろう。
◆◆◆
私、セシルは驚愕していた。
目の前で繰り広げられる魔族の圧倒的な破壊に足が少しだけすくんでしまっていたのだ。
それでも剣を振り続けなければいけない。数的にも力的にも不利なのはわかっている。それでもこの国を守るために戦う剣士なのだ。
諦めるわけにはいかない。
そう決心して剣を握り直すと強烈な爆音が鳴り響き、砂塵と血飛沫が舞い上がる。
「え?」
「オラァ!」
目の前に現れたのはレイであった。
どうして彼がここにいるのだろうか。彼の所属している小さき盾は第二防壁を担当するはずだ。
「突っ立ってねぇで戦え!」
レイの言葉に再び意識を魔族へと集中する。
先程の砂塵でかなりの魔族を倒したが、それでも周囲にはまだ大勢の魔族がいる。
「来やがったな! 魔族ども!」
彼はそういうと彼を挟み込むように魔族が迫ってくる。
「はっ」
私は咄嗟に駆け出して彼を守るように剣を振った。
「ここの奴らは任せても大丈夫か?」
「ええ、私以外にもまだ生徒がいるからね」
「へっ、だったら俺はあのゴーレム型ってのを崩しに行ってくるからよ」
そう言って彼は剣を肩に乗せて駆け出した。
まさかとは思うが、私の視線の奥にいるゴーレム型の壁へと攻撃するのだろうか。
無茶だと思いつつも彼ならできるのだろうという確信もある。
エレインが簡単にゴーレム型を倒したのを私は知っている。そのような事実があるのなら小さき盾も簡単にやってのけることだろう。
ズゥゴォン!
強烈な音とともにゴーレム型の壁が崩れ始める。
走ってから一分すら絶っていないのにだ。
「……嘘、でしょ」
魔族の数にも驚愕ものだが、小さき盾の実力の高さも尋常ではない。
こんなのが人間というのが信じられないぐらいだ。
「セシル、腕が止まっているわよ」
すると、私の背後からミリシアが声をかけてきた。
どうやらここに来たのはレイだけではないようで、ミリシアやアレクも来ていた。
「なんでここにいるの?」
「生徒たちを放っておけないからね」
「……よくわからないけれど、一緒に戦うってことでいいのね?」
「そうね。ここに集まっているのは魔族の本隊だろうから」
確かに彼女の言うようにここには大量の魔族が集まっている。これほどの数がいるのだから本隊なのだろう。
「ええ。流石にあなたたちほど力はないけれど、全力で頑張るわ」
「うん、私たちも全力でフォローするからね」
そう言ってミリシアは高速な剣技で魔族を圧倒していく。アレクの方は非常に素早い動きと連続的な剣技で次々に斬り倒していき、レイはその剛腕で魔族を薙ぎ倒していく。
彼らがここに来ただけで一気に戦況が変わっていくのだ。
どうしたらそんな力を得ることができるのだろう。そんな疑問が脳裏を過るが、今は魔族の攻撃をなんとしても阻止しなければいけない。
私はそれ以降、無心で剣を振り続けた。
戻ってくるかもしれないエレインのためにもここで私が倒れるわけにはいかないのだから。
こんにちは、結坂有です。
あともう少しだけ戦闘シーンが続きます。
これからの展開が気になるところですが、白熱する戦闘も楽しんでいただけると幸いです。
それでは次回もお楽しみに。
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