天界での全面衝突
鍛治の神トーレスが自らの力を使い果たして俺のために武具を作ってくれた。おそらくだが、彼は俺の実力と武具の差に気付いていたのだろう。
いつの段階からかはわからない。それでも彼は俺のために、人間のために力を使ってくれたのだ。神々の期待を裏切るわけにはいかない。
「エレイン様、本当によくお似合いです」
廊下を歩いているとリーリアが俺の服装を細かくチェックするかのようにジロジロと見つめてくる。
確かに新しい服装で、新しい装備をしているから気になるのはよくわかるのだがそこまで見られると俺としても気恥ずかしい。
「……そこまで気になるのか?」
「はいっ、エレイン様にぴったりのデザインですよ」
「そうなのか」
正直、俺にはそういったことには疎いからな。
まぁ神であるトーレスが俺に似合わないものを作るわけがない。それに歩いているだけでわかるのだが、この服や装備の通気性が非常に良い。どういう構造になのか内側が蒸れないように工夫されているのだろう。
防具類は動きにくい上に熱気がこもってしまう。とてもじゃないが快適とは言えないからな。
そのため軽装を好む剣士も少なくはない。聖騎士団でも鎧を身に付ける人と付けない人がいたぐらいだ。
「エレイン? その服はどうしたの?」
気恥ずかしい気持ちで廊下を歩いているとどうやらカインが起きてきたようだ。
正確な時刻はわからないが、感覚では正午前だろう。
「作ってもらったんだ」
「え? 神に?」
「そうだな。無理をして作ったものらしいからな。使わないわけにもいかないだろう」
「……神にも認められるってエレインは一体何者なのよ」
「それに関しては俺も謎だ」
確かに彼女の言うように俺が何者なのか全く見当がつかない。
しかし、一つ考えられることは俺が本当に剣神トレドゲーテの血を受け継いでいるということなのかもしれない。
ただ、それも何百年も遺伝を繰り返していれば血が薄まっていくはずだ。
まぁ結局のところよくわからないことばかりなのだがな。
そんなことを話していると、地震のような揺れが起きた。
ドンッドンッと揺れと同調するように音が鳴り始める。
「な、なに?」
「わからないな。急ごうか」
「はいっ」
「わかったわ」
先ほど剣神がいた場所に向かうと複数の神が窓の外を眺めていた。
外で何か起きているのだろうか。
俺は急いで近くの窓へと駆け寄り、みんなの見ている方角へと視線を向けた。
「エレイン様、壁にヒビが入っていますっ」
「魔族が本格的に攻め込んできたということだな」
「ちょっと、大丈夫なの?」
何百年も新設当時の状態を維持してきた強固な壁にヒビが入っているのだ。そして、それも強烈な力で攻撃されていると見ていい。
状態を考えれば壁に穴が開くのはあと一時間もないはずだ。
「モレグ様の建てた壁にヒビが……」
「邪神の奴、どこまで我々を攻撃すれば気が済むんだ」
「騒ぐな。まだ崩壊が決まったわけではないだろ」
神々が話し合いを始めた。
正直なところ話し合っている場合ではない。あの壁を攻撃しているであろう魔族をすぐに排除しなければいけない。
「リーリア、戦えるか」
「はい。エレイン様についていきます」
俺は軽く腕を回して装備の調子を確かめるとこの部屋から出ようとする。
「そこの人間、どこに行くつもりだ」
「魔族が壁を攻撃している。そいつを排除しに向かうところだ」
「……人間二人がなんの戦力になるというのだ」
「少なくともここで話し合っているだけでは何も解決しないからな」
今、こうして神と話している間にも音は次第に大きく、重くなっていく。
かなりの力があの壁を攻撃しているのは明確だ。
「エレイン、私も行くわ」
すると、カインが俺のところへと駆け寄ってきた。
彼女の持っている剣は確かに聖剣ではあるが、攻撃に特化したものではない。
「戦えるのか?」
「戦わないわ。でもあの壁を修復することはできるかもしれない」
治癒の能力は生物以外にも使えるというのだろうか。
もし修復ができるとしたら今後優位に働くことになる。
「わかった。無理そうならすぐに城へと戻れ」
「ええ」
「本当に行くのじゃな?」
すると、窓の外を眺めていた一人の老人が俺の方へと振り返りそう言った。
「ああ、このままでは本当に全滅してしまいそうだからな」
「思う存分力を奮ってきなさい。わしらはここでお主の健闘を見守るとしよう」
「あの人間に何を期待しているのだ。デハルト」
「神の言うことは所詮神の言うこと、お主は自分を信じなさい」
デハルトという神はそう俺に伝えるとまた窓の外を眺めた。
俺はその言葉を深く受け止めて部屋を飛び出した。
背後からリーリアとカインも走ってくる。
魔族を滅ぼし、争いを無くすと誓ったのだ。それに天界も下界も関係ない。
どこであろうと俺は俺自身の目的を果たすまでだからな。
城壁の近くへと近づくと音は次第に強力になっていく。
すでに剣神は到着していたようで、これから城壁の外へと向かおうとしていた。
「エレイン、来たのか」
「ああ、この様子だと壁が崩壊していくと思ってな」
「そうだな。しばらく見ていたが攻撃が収まる気配もない」
このままでは本当に城壁が破壊されてしまうことだろう。
壁の近くには破片がいくつも散らかっており、崩壊までそこまで時間がないといった状況だ。
「カイン、あの大きな亀裂を直せそうか?」
「ええ、やってみるわっ」
そう言ってカインは刃のない聖剣を振り回し、光のベールを編み出す。
「はっ」
そして、その光のベールは巨大なものになってヒビを覆い隠した。
うっすらと見える内側は神聖な力のようなもので修復が始まっている。
「さすがは治癒神の力だな」
「……どういうこと?」
「気にするな。エレインは城壁に上がって俺の援護を頼む」
そう言って剣神は光の速度で移動を開始した。
「リーリア、城壁に上がろう」
「はいっ」
城壁の上へと上がるとすでに下では剣神と魔族が戦っていた。
彼は光の線となって魔族の群れへと突撃していく。
そして、光の速度で繰り出される剣技に一般的な魔族はなす術もなく蹴散らされていく。
「剣の神、本当にすごいですね」
「そうだな。だが、あのままでも魔族を全滅させることはできない」
無限に湧いて出る魔族は彼の力で全滅させることは不可能だ。神の力とて有限なのだからな。
「そうですね……。エレイン様、あれは一体なんでしょうか」
リーリアは奥の方へと指さした。
その方角へと視線を向けると巨大な岩の塊のようなものが飛んできていた。
俺は咄嗟に聖剣イレイラへと手を伸ばし素早く抜刀する。
「ふっ」
大きく空を斬り裂くとその剣撃は聖剣の能力によって飛んでくる巨石を打ち砕く。
一体どこから取り出してきたのかはわからないが、おそらくはあの巨石が壁を攻撃していたのだろう。
「ガァア!」
遠くの方から魔族の咆哮が轟く。
今まで聞いたことのないその強烈な咆哮はとてつもない大きさの魔族であった。
ゴーレム型とは比べ物にならないほど巨大なその魔族は一般的な魔族を物ともせず俺たちのいる城壁へと突進してくる。
「エレイン様、どうなさいますか?」
「流石にあれと戦うのは難しいか」
人間の何十倍も大きいあの魔族はとてもじゃないが、剣技だけで戦うことはできない。
『ご主人様、私を信じてください。あの巨体を封じてみせます』
クロノスがそういうと魔剣に埋め込まれた歯車の動きが停止した。
それと同時に巨体の魔族の動きが鈍くなり始める。
「……リーリア、あの魔族へと突撃する。ついてくるかは任せる」
「どこにでもついていくおつもりですっ」
リーリアの言葉は本気のようだ。
「それなら俺から離れるな」
「はいっ」
俺はリーリアを抱えるとそのまま城壁から飛び降りた。
彼女は一瞬顔を赤くしたが、すぐに目を閉じ落下の衝撃に耐えようと俺にしがみ付く。
城壁から飛び降りるとすぐに光の線が俺の周囲を走り、魔族を蹴散らしていく。
「エレイン、雑魚の相手は任せろ。お前はそのまま邪神の元へと走れ」
「ああ、その前にあの巨大な魔族をどうにかしないとな」
「何、雑魚は俺が相手をすると言った。あのようなデカブツ程度俺の敵ではない」
神の力を持つ彼からすればそこまでの相手ではないのだろうな。
集中するべき相手を絞れるのはありがたい。
『ご主人様、ご迷惑だったでしょうか』
「いや、そのままあの魔族の動きを止めてくれ」
『わかりました』
剣神が戦ってくれるのなら確かに必要のなかったことかもしれないが、少しでも手助けになるのならそれで十分だろう。
リーリアを下ろすと、俺は聖剣イレイラを引き抜いて走り出す。
それと同時に光の線が飛び交い、リーリアも俺から離れないように駆け出す。
やるべきことはもう決まっている。
カインが壁を修復してくれてはいるが、魔族の攻撃で今も崩壊が始まりそうだ。
壁が崩壊するまでの数時間のうちに俺は邪神を倒して魔族の無限増殖を止めさせる。あとは剣神が残りの魔族を殲滅してくれるはずだ。
こんにちは、結坂有です。
天界でも全面戦争になりました。
エレインや剣神の戦いは無事に成功するのでしょうか。気になることばかりですが、これからの展開が面白そうです。
それでは次回もお楽しみに。
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